愛美のニューアルバム『AIMI SOUND』は、声優・アーティストとしての彼女の“これまで”と“これから”が集約された1枚と言えるかもしれない。上松範康(Elements Garden)、大石昌良、すぅ(SILENT SIREN)、DECO*27、nano.RIPEら縁の深い豪華作家陣とともに作り上げた楽曲には、彼女の軌跡が感じられると同時に今の愛美が表現したいものがしっかりと刻まれており、それを紡ぐ歌声にも多彩なだけではない芯が備わっている。愛美サウンド、その現時点での集大成と未来への可能性が詰まった本作に、愛美本人へのインタビューで迫る。
――昨年4月にシングル「ReSTARTING!!」でアーティスト活動を再開してから、久々のアニメタイアップやワンマンライブなど充実の日々を送ってきたわけですが、改めて音楽活動に対する気持ちに変化はありますか?
愛美 さらに前向きになりました!「ReSTARTING!!」のときは受け入れてもらえるか不安もありましたが、新曲を発表するたびにファンの皆さんが喜んでくれますし、ファンの人が求めている「愛美」と、私が向かおうとしているアーティスト像は、幸せなことに似ているんじゃないかと感じていて。なので今回のアルバムの反応が良ければ、愛美のやりたい音楽は間違っていないという自信が持てるのかなと思っています。
――そのファンの求めている「愛美」と一致するアーティスト像、自分がやっていきたいことを具体的に言葉にするならば?
愛美 再スタート前から「キャラクターソングももちろん大好きだけど、愛美本人としての歌が聴きたい」という声をたくさんいただいていたので、やっぱり「自分の声で歌う」というのは大事にしたいですし、でもそこに捉われ過ぎることなく、愛美としての歌を進化させていきたくて。これからも色んな愛美を表現できたらと思いますし、『AIMI SOUND』はまさにそんなアルバムになりました。
――『AIMI SOUND』、とても潔いタイトルですが、アルバムを制作するにあたってどんな作品にしたいと思いましたか。
愛美 1曲1曲を最高のものにしたい気持ちが強いので、全曲がA面だと思って作りました。全曲神曲です!
――妥協は一切したくなかったと。
愛美 もしかしたら「この先、また(アーティスト活動が)できなくなるかもしれない」という気持ちが、どこかにあるのかも。だから全力で作りましたし、みんなが絶対に欲しくなるようなアルバムにしたかったんです。
――その気持ちは、本作に参加している作家陣の豪華さからもひしひしと伝わってきます。上松範康(Elements Garden)さん、大石昌良さん、DECO*27さん、nano.RIPEのきみコさんと佐々木淳さん、SILENT SIRENのすぅさん……。
愛美 私もまさかこんなに豪華な方々に参加していただけるとは思わず、驚きでした!これまでの声優や歌手活動で出会ってきた人たちのご縁も含めて、今の愛美の音楽・サウンドだと思っていますし、再スタート後初めてのアルバムなので特別なものにしたくて、私から名前を挙げてお願いさせていただいたのですが、皆さん快諾してくださって。まさかこんなに夢のようなことが叶うとは思わなかったですし、私自身にとっても宝物みたいなアルバムになりました。
――ここからはアルバム収録の新曲について詳しく聞いていきます。まずはnano.RIPEのお二人が提供した「スターリア」について。愛美さんとnano.RIPEといえば、愛美さんが「アイドルマスター ミリオンライブ!」で演じるキャラクター・ジュリアのキャラソンは主にお二人が手がけてきました。
愛美 nano.RIPEさんとは「アイドルマスター」がきっかけで仲良くさせていただいていて。「アイドルマスター」のライブのたびにきみコさんと淳さんにギターレッスンをしていただいたり、nano.RIPEさんがメジャーデビュー10周年のアルバム(『月に棲む星のうた ~nano. RIPE 10th Anniversary Best~』)を出すときに「スピカ」という曲でコラボもさせていただいたんです。そんな愛美をよく知っているお二人だからこその、愛美の弱いところも強さに変えてくれるような、まるで見守ってくれるような、とても温かい曲になりました。この曲を聴いていると「愛美ちゃんならどこまでもいけるよ」と応援されているようで、お二人からプレゼントをいただいたような気持ちです。
――スケール感のあるギターロックですが、楽曲を書いていただくにあたって、愛美さんからは何かリクエストをしたのでしょうか。
愛美 「宇宙を感じるような、ちょっとスペーシーなサウンド」というお願いをしたら、自分の想像を超えたものが上がってきました!「愛美ちゃんのミックスボイスが魅力的なので、ミックスボイスが活きるメロディにしました」というメッセージも添えてくださって。歌詞も愛美自身のことを書いていただきつつ、私のことを見守ってきたファンの方が聴いたら泣いちゃうような内容になっていて、さすがのお二人だと思いました。
――ジュリアは星がトレードマークになっていて、キャラソンもすべて星をモチーフにしているので、その意味でもこの「スターリア」はグッとくるものになっていますね。
愛美 そこは私とnano.RIPEさんの関係として切り離せないところで、ジュリアという女の子の存在は常にそばにいるし、私自身もジュリアと出会って、(「アイドルマスター」のライブで)ギターを弾いたことによって、さらにお仕事が広がったので、その原点にあたる部分をすごく大事にしてくださりました。でも、「ジュリアのキャラソンとは違って、愛美ちゃんのために書いた曲だよ」と言ってくださって。そもそも「星」というのは、ジュリアだけでなく、nano.RIPEさんと愛美にも共通するイメージだと思っていたので、この曲をいただいたときは本当に嬉しかったです。
――しかもこの曲がアルバムの1曲目に置かれているのも熱くて。
愛美 ですよね!もう、この1曲目が流れた瞬間、神アルバム確定です(笑)。
――2曲目の「≒」は、SIRENT SILEN(以下、サイサイ)のすぅさんが作詞、クボナオキさんが作編曲を担当。サイサイとは「BanG Dream!(バンドリ!)」のPoppin’Partyでコラボ、2020年にはサイサイの楽曲「Up To You feat. 愛美 from Poppin’Party」にもフィーチャリングで参加していました。
愛美 そうなんです。「Up To You」で呼んでいただいたことがすごく嬉しかったので、今回は絶対にすぅちゃんにお願いしたいなと思っていました。すぅちゃんとはプライベートでも仲良くさせてもらっているんですけど、性格や考え方がすごく似ているんですよ。ギターボーカルというポジションも一緒だし、バンド活動の苦労も深いところまで理解してくれるので、今も一緒にご飯に行ってお互いに悩みを共有する同志みたいな存在で。すぅちゃんにはすごく心を救われているし、すぅちゃんが頑張っているから私も頑張ろうって思える。厳密には違う立場だけど、似ている2人という意味合いでの「≒」。どこにいてもお互いを感じているし、どんな道を選んだとしても応援してるよ、という想いがこの曲には表れています。
――そのお互い違う場所で頑張り合う2人の絆、お互いへのエールというのは、この楽曲から強く感じたポイントで。まるですぅさんから愛美さんへのラブレターですよね。
愛美 私もそう思っています(笑)。逆に私もこの曲を歌うときは、すぅちゃんへのラブレターと思って歌うんだろうなと思っていて。でもすぅちゃんは、私たちの関係性だけでなく、ファンの人と愛美の関係も感じられる歌詞にしたいと言ってくれたので、皆さんには自由に解釈して聴いてほしいですね。SIRENT SILENさんは今、活動休止中ですけど、また一緒に歌えたらいいなと思っていて……そのときにはこの曲も一緒に歌いたいですけど、2人とも号泣して歌えなくなるかもしれない(笑)。明るいけれど泣ける曲になりました。
――青春感があるんですよね、楽曲自体に。
愛美 SIRENT SILENさんといえば青春のイメージが強いので、なおきゃん(クボナオキ)さんには「明るいガールズロックなサウンド」というオファーをさせていただいて。
――愛美さんの歌い方も、このアルバムのなかで一番キラキラしている印象です。
愛美 「≒」はなおきゃんさんがディレクションしてくださったんですが、「Up To You」は低めのロックでかっこいい系の声音だったので、今回は私のまた違った良さを見せたいと言ってくださったんです。とても嬉しかったですし、愛美のキラキラした表情を引きだしてくれました!
――続く3曲目は、大石昌良さんが書き下ろしたブラス入りのファンキーな楽曲「かかった魔法はアマノジャク」。大石さんとはライブや番組など色んな場所でご一緒されてますが、楽曲提供を受けるのは初めてですよね。
愛美 私自身、大石さんがアニソン業界で活躍する前から、Sound Schedule(大石がフロントマンを務めるバンド)の音楽が好きで、昔から憧れの存在だったんです。もう尊敬するがあまり、お仕事でご一緒したときもなかなか上手く話せないくらいで。そんななか、大石さんは「こんなに共演しているのに全然仲良くなれないなあ」と思っていたらしく……(苦笑)。
――そうだったんですね。
愛美 そうやって尊敬する人の前で緊張してしまって好きな気持ちを前面に出せない性格や、流行ってるものにハマりたくないみたいなアマノジャクな愛美の性格を、素敵な恋愛ソングに落とし込んでいただいたのがこの曲です。私の兄もSound Scheduleが好きなので、この曲を家族に自慢したいです(笑)。
――おっしゃっていただいた通り、自分から素直に好きと言えない女の子のアマノジャクな乙女心が表現されていて、すごくかわいい曲ですよね。
愛美 この曲はアルバムの中でもラストのほうにレコーディングしたんですけど、それまで「不完全ドリーマー」や「ドレス」みたいなかっこいい系の曲が多かったので、かわいらしい愛美も入れてみようということになりまして。かわいいセリフも入っているんですけど、ここは大石さんの仮歌バージョンのほうがかわいかったので、もし大石さんがまた仮歌アルバム(オーイシマサヨシ名義による自身の提供曲のセルフカバーアルバムシリーズ)をリリースすることがあれば、ぜひ「かかった魔法はアマノジャク」も入れてほしいです(笑)。
――愛美さんのセリフの言い方もかわいかったです。最後の“「アマノジャク!」”のところも、ちょっとぶっきらぼうな感じが逆にツンデレっぽいといいますか。
愛美 そこはこだわったところで、この歌は全体を通してちょっとふてくされてるんですよね。「歌でも素直じゃないんかい!」っていう面白い曲になりました(笑)。私は色んな活動を通して光の面も闇の面も皆さんにお見せしているんですけど、たまに自分でも自分のことがわからなくなるくらい、感情が迷子になりやすいんですよ。その中間地点というか、よくわからない状態の愛美が具現化された曲だと思います。
――でも、この曲を聴いて、こういう女の子になら振り回されてもいいかなと思うくらいにはかわいかったですよ。
愛美 本当ですか?でも、歌詞に“怒ってるわけじゃないの”ってありますけど、私もよく怒っているわけじゃないのに勘違いされることがあるんですよ。低血圧で朝は目があまり開いていなかったり口数が少なかったりするので、多分それが不機嫌に見えるんだと思うんですけど……なので、実際に身近にいると、感情が計りしれなくて困惑するかもしれない(笑)。ファンの皆さんは、ちょっと2次元だと思って聴いていただけたらちょうどいいと思います。
――5曲目の「フリクホリカ」はアコギと打ち込みのビートを軸としたややメロウなナンバー。今までの愛美さんにはあまりなかったタイプの曲調です。
愛美 ザ・バンドサウンドとはまた違った感じで。「ReSTARTING!!」のコンペのときから「いい曲だなあ」と思って、ずっと温めていたんですけど、いざ今回のアルバムでチャレンジして歌ってみたら、愛美の歌声にもハマったのですごく嬉しかったです。音符の数が多かったので、歌詞でも色々と遊ぶことができて。
――この曲は愛美さんが自分で作詞していますものね。内容的には、比喩表現が多いので色んな解釈ができますが、SNSに振り回される側の気持ちが描かれているのかなと。
愛美 そうです!SNSに自分の闇を吐露すると構ってもらえるけど、それは危険な甘い蜜だよねっていう、SNS中毒的なことを描いた曲なんです。やってはいけないとわかっているけどやってしまう。そういうことを“禁断の果実”に比喩していて、SNSという限られたダンスホールの中でなら“悲劇のヒロイン”気分で踊れるよっていう。
――「フリクホリカ」というタイトルも「フリック中毒」という意味ですよね。
愛美 SNSって色んな人の目に触れるものだから、ポジティブな使い方をしたほうがいいって言うじゃないですか。でも、わかってはいるけど、たまに「誰かにこの気持ちわかってほしい」みたいなこともあるはずで。私もそういう、どこにも吐き出す場所がない気持ちはすごくわかるので、それを歌詞にしてみました。
――プラスして、SNSを見てどうしても自分と他人と比べてしまったり、評価を求めてしまう気持ち、それに対する自己嫌悪みたいな感情も描かれているように感じました。
愛美 どのコミュニティでも、世界中のどこに行っても、そういう悩みはありますよね、きっと。私も比べないようになれたらすごい楽なんだろうな……って、この曲の歌詞でも書いてますね(笑)。でも、こうやって自分の気持ちを歌詞に落とし込むことによって、どんどん楽に生きられるようになっている気がします。
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