【インタビュー】期せずして一致したヒトリエの試みと作品の世界観――ニューアルバム『PHARMACY』をリリースするヒトリエが描く新たな音楽とは?

バレエに密かな憧れを持って生きてきた少年・村尾潤平は、同じクラスに転校してきた五代都と出会い、本気で男子バレエに取り組むことになっていく。ジョージ朝倉が描くその青春譚が『呪術廻戦」や『ユーリ!!! On ICE』などを手がけるMAPPAによってアニメ化。煌めきの物語のEDテーマ「風、花」が話題沸騰中のヒトリエが、その「風、花」、さらにアニメ『86-エイティシックス-』のOPテーマ「3分29秒」などを収録したアルバム『PHARMACY』をリリースする。今回、本作についてメンバー3人に話を聞いた。

期せずしてシンクロしたヒトリエと『ダンス・ダンス・ダンスール』

――前作『REAMP』から1年4ヵ月ぶりのニューアルバムが完成。シングル「3分29秒」は、そのアルバムの前に出来た曲で、道標のような存在だったと以前のインタビューでお話をされていました。今回、その「3分29秒」を収録するアルバムとなると、『REAMP』を経て今回はどんなものにしたいと思われましたか?

シノダ もう1回『REAMP』を作っても仕方がないなと思いましたし、あのアルバムのようなものはもう作れないだろうという気持ちもあって。『REAMP』を作ってツアーに出て、それから「ステレオジュブナイル」「風、花」を作っていくなかで、自分の中の制作形態が安定していくような感覚があったんです。『REAMP』はとにかく精神を切り詰めて制作したこともあり、今回はその真逆に、限りなくリラックスした状態でアルバムを作ってみようということを軸にしていました。

――制作当初、「風、花」は出来上がっていた?

シノダ アルバムを制作しようか、というときにはもうありました。

――この曲は『ダンス・ダンス・ダンスール』(以下、『ダンスール』)の話があって生まれた曲なのですか?

ゆーまお アニメの話が上がる前にはデモが出来上がっていたのですが、修正も何も必要ないくらい作品にハマったんです。バチッとハマったことでリリースまで進みました。前回タイアップさせてもらったアニメは『86-エイティシックス-』でしたけど、ああいう世界観の作品とヒトリエがコラボレーションするのは理解できる枠だと思いますが、『ダンスール』とヒトリエのタッグというのは意外だったんじゃないかなって思います。

シノダ ファンのみんなは、びっくらこいたと思うよ。

ゆーまお うん。実際そうだったと思うし、楽曲に対しても驚きを感じてもらえたんじゃないかっていう確信があります。なぜこのような曲を作ったかというと、今後新しい提案をするときのために作ろうということで手がけた曲だったんです。まずはどんな曲を書いていこうかっていう話をしていたときにシノダから「ポップソングを書いてくれ」ってざっくりと言われて。リファレンスはもちろんあったんです。こういう人のこんな感じの曲をヒトリエが作ろうとするならどんなふうに発展していくか、みたいなものがあって。それを平たくしたのが「ポップソングを書いてくれ」というオーダーになり、たしかに面白そうだからやってみようと思って出来たのが「風、花」。ヒトリエにポップソングを落とし込めた感じはあったので、それならこれをどう使おうかなと思ってもいたんです。今後ヒトリエとしてこの曲はどういう立ち位置で、どんな存在になるのかなと思っていたところで選んでいただいたので、ヒトリエの幅を広げる1曲になっていると彼(シノダ)から最近よく聞きます。ターニングポイントとなる1曲になりましたね。

――「ポップソングを作ろう」というのは、そもそもどういったところから始まったのでしょうか。

シノダ 『REAMP』は、僕の歌詞の方向性や世の中のムードも暗い時期に制作していたこともあって、そのムードに合わせた曲作りをしなくちゃいけないのかもなと思いながら作ったアルバムだったんです。ただ、そういうムードばかりでもいられんな、と。きっとこの作風を続けてはバンドが停滞するであろうという考えに至ったんです。明るい曲を作れそうなのがゆーまおだったので、「1つポップなものでも書いてみたらどうかな」と提案した次第です。

――今のヒトリエの振り幅というか、音楽観を広げる、開拓する1曲ですよね。

ゆーまお 作家が増えたので、そういうことができるようになったというのが主観としての感想ではあります。

シノダ バンドってこれくらい広がるものでもあるとは思っていたので、狭い作風だからこその良さも世の中にはあると思うんですが、そもそも僕自身にそういった概念がなくて。三者三様に良い曲を書くので、これは色んなことをやったほうが良いバンドになっていくなと思いました。

――イガラシさんとしては、音色などはいかがでしたか?

イガラシ 最も印象的でもあるイントロの音などはゆーまおがこだわっていたので、そこを大々的に押していく曲であることが新しかったですね。印象自体も。

楽曲からのイメージがアニメ制作陣と“繋がった”感動

――実際にアニメのエンディグ映像をご覧になってどのようなことを感じましたか?

ゆーまお さすがですよね。自分が曲を作っているときには絵のイメ-ジはないのですが、それでもエンディングになるということで想像していたものとイメージが合致していたんですよ。この曲からこういう絵が浮かんだんだ、ということに対して単純に感動しました。オープニングとちょっと違うのは、エンディングテーマなので、説明くさくしなくてもいいことですよね。アニメの紹介をしなくてもいいから単純にこの曲がアニメ制作をされる方にイメージさせたものがあの絵だったのなら、コラージュの感じや選んでいる色についても俺が作った曲は相手にこういう色やデザインを想起させたんだ、ということが可視化された感じが嬉しかったです。すごく良い映像だなと思いました。

シノダ 感無量だよね。

ゆーまお もうそれしか言えない。感動しかない。

――ご自身としても挑戦的な1曲だったんですものね。

ゆーまお そうなんです。挑戦的というか「これくらいやっちゃうけどいいのかい?」という感じはありました。

シノダ 「やっちゃえ、やっちゃえ」でしたね。

――シノダさんはこの曲がゆーまおさんから届いたときにはどのような印象があったのでしょうか。

シノダ 僕のオーダーした感じとは違うテイストのものがきたなと思いました。だから最初は逆に「この曲はどういう方向にしたらいいのだろう」と質問してしまいました(笑)。どう進めたらいいのか、と。

ゆーまお そうそう。わからなそうだったよね。

シノダ でも、結果的に『REAMP』を作っていたときのような温度感で制作をしていたけれど、こういう曲に落とし込めたので、やってみるものだなと思いました。

――これまでにない音色や印象の楽曲が届いたときには作詞についてはどんな刺激がありましたか?

シノダ これまでとは違う引き出しは開きましたね。ぱっと聴くと明るい曲ではあるんですけど、どこか切なげな部分もあるので。これまでも『REAMP』では喪失感とか別れみたいなものも書いてきていたんですけど、別れという視点1つにしてもネガティヴやポジティヴがあるというか。違う視点で書いてみよう、という想いに駆られましたね。

――『ダンスール』のエンディングが決まったということでしたが、決まったときにはどのような想いがありましたか?

シノダ マジかよ!って(笑)。

ゆーまお 『ダンスール』の、って言われたときに「えっ?」ってなったよね。

シノダ ジョージ朝倉の?って

ゆーまお これまでとは全然違うアプローチをすることが発信されるんだ、という実感はあったよね。「風、花」自体がそもそも『ダンスール』との縁となった1曲なんですが、そのシングルのカップリング「undo」もイメージとしては『ダンスール』に近いと思っていて。

シノダ 言ってしまえば「風、花」か「undo」かってことで選んでもらったんです。

ゆーまお それで「風、花」をシングルにするとなったときにむしろ『ダンスール』のシングルを作りたいよねって話になって。ヒトリエが『ダンスール』のシングルを作った、というメッセージソング集的な1枚に仕上げました。

シノダ 『ダンスール』を読み込んで作ったのが「undo」だったんです。

――その『ダンスール』についてはどのような印象がありますか?

イガラシ 元々マンガを読んでいたので、決まったときにはすごく大きなことになったなと感じました。表現していることがすごく美しいものですし、ゆーまお的には自分の持っていた曲のビジョンと映像とがシンクロしていた部分があったと言っていましたが、映像からのフィードバックとしてこの曲にさらに作品の持つ美しさを付与してもらったなと思っています。

シノダ すごくシャープな視点であらゆる物事を見ている作品だなと思っています。人間の気持ちの些細な部分や、振り返れば青春時代にあったような、10代の液体のような感情がたゆたってくるような部分も逃さないっていう洞察力があるからこそ、あれだけ繊細な、バレエのシーンも描けるんだなって思うと、すごいマンガだな、と改めて感じますね。

ゆーまお とにもかくにもダンスのコマを見るためのマンガである、という印象が強いです。セリフもなく、ダンスシーンのみであんなにワクワクさせられるのが印象的です。結構、絵も色っぽい。画力というか、表現力に圧倒されるんです。「これ、良いマンガだ」と思う場面が圧倒的にダンスシーンに詰め込まれている感じがします。

シノダ ガツンときますよね。

ゆーまお それが動画になったときにどうなるんだろうって思っていたんです。もっとキラキラするのかな、とか期待を込めながらアニメ放映を待っていました。

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