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INTERVIEW

2022.05.17

【インタビュー】EXiNA、自らの名前をタイトルに冠した『SHiENA』に詰め込んだ自身の音楽的ルーツ・90年代洋楽ロックを語る

【インタビュー】EXiNA、自らの名前をタイトルに冠した『SHiENA』に詰め込んだ自身の音楽的ルーツ・90年代洋楽ロックを語る

西沢幸奏によるソロプロジェクト、EXiNAの1stアルバム『SHiENA』が完成した。2019年よりEXiNA名義での活動を開始し、それまでのイメージを覆すようなアグレッシブなサウンドを展開してきた彼女。だが、今回のアルバムでは彼女の音楽的ルーツの1つである、90年代の洋楽ロックを軸に据えつつ、自らの好きなものに今まで以上に真っ直ぐに向き合うことで、これまでの活動の歩みのすべてを包括しつつ、絶対的な進化を感じさせる1枚となった。自らの名前をタイトルに冠した『SHiENA』を通して、彼女が見つけた自分自身の音楽とは何だったのか。

「EXiNA」であり「西沢幸奏」である彼女が表現したかった音楽

――今回の新作『SHiENA』は、EXiNA名義としては待望の初アルバムになります。制作を行うにあたり、ご自身の中ではどんな構想がありましたか?

EXiNA 私は今25歳なのですが、自分の25年間を凝縮したようなアルバムにしたいなあ、というところから考えていきました。私の中には「西沢幸奏」だったときの自分もいるし、「EXiNA」になってからの自分もいるし、その2つの間にもグラデーションのようなものがあって、色んな自分が存在しているんですよね。もちろん(「西沢幸奏」と「EXiNA」を)分けて考えている人もいると思うんですけど、それも含めて全部が私なんだよ、ということを表現したくて。

――名義の差にこだわるのではなく、自分自身の音楽を表現したかったと。

EXiNA 正直、色々と模索してきたんですけど、それもひっくるめて私なんだよなあと、ここまできて思えてきたんです。だから今回はあえて、EXiNA名義のアルバムだけど『SHiENA(しえな)』というタイトルにして、1曲目の「MONOLOGUE」も“How are you? I’m Shiena.”と自己紹介から始める形にしました。

――今までの試行錯誤を含めて、それが自分だと前向きに捉えられるようになったのには、何かきっかけがあったのですか?

EXiNA 一番大きかったのは、今回のアルバムにも収録しているシングル曲「ENDiNG MiRAGE」を制作したときに、アルバムのサウンドプロデュースもしてくれているDaiki(Kasho)さんと出会ったことです。「ENDiNG MiRAGE」のときに、私の好きな90年代の洋楽ロックっぽいことをやってみようという話になって。それでギターをレコーディングしたり、自分をどんどんさらけ出していくうちに、「ああ、今すごく音楽してる感じがする!」と思ったんですよ。

――不安や悩みも忘れて、心から楽しみながら音楽制作することができたと。

EXiNA 心の底から良いものが出来たと思ったし、「これこそが私の一番やりたいことだったのかも」と思えて。で、私は元々、自分の意見を言いづらい性格なんですけど、チームの人たちもそのことを理解してくれているから、私が本当にやりたいと思っていることをやってほしいという空気を作ってくれて(苦笑)。なので今回のアルバムはビジュアルも含めて、自分の好きなことしか詰め込んでいないアルバムになりました。私の成長の証です。

――今回のアルバムを聴いたとき、それこそ先ほど話題にあがった「ENDiNG MiRAGE」に連なる90年代の洋楽ロック、特にグランジやオルタナティブロックの匂いをすごく感じたんですよね。

EXiNA え~、そこは追求していた部分なので嬉しい! 周りのスタッフさんは90年代を生きてきた方ばかりで、97年生まれの私のほうが逆に90年代を知らないんですけど、私の中にも好きな「90年代っぽさ」のイメージがあって。チームのみんなと「ここをこうしたらもっと90年代っぽい!」ってウへウヘ言いながら作っていきました(笑)。

――今作にはフー・ファイターズ「Monkey Wrench」のカバーも収録されていますが、西沢さんは以前からフー・ファイターズ好きを公言されていましたよね。

EXiNA 自分のやっている曲とは関係なく、自分が好きで聴く曲は90年代の洋楽バンドが多くて。邦楽だとASIAN KUNG-FU GENERATIONが大好きなんですけど、要はギターの音が好きなんですよね。「今日はあのギターの音が聴きたいからマリリン・マンソンを聴こう」みたいな感じで、その日に聴く曲を決めるんですよ。フー・ファイターズも、ギターの音がすごく生っぽくて、本当にそこにあるような感じが大好きで。なので今回のアルバムも「今日はあのギターの音を聴きたいからこれを聴く!」みたいに、自分でも選んでしまうような作品にしたつもりです。

グランジ~オルタナティブロックへの憧れが生んだ強烈な個性

――ここからはアルバム収録の新曲についてお話を聞いていきます。1曲目の「MONOLOGUE」は自己紹介的な語りの入った、アコギメインの小品。

EXiNA 私はアマチュアの頃から、曲を作るときはほぼアコギを使うんですけど、この曲もそのノリで自分のお部屋で録ったデモを、そのままレコーディングスタジオで再現しました。曲が出来た段階でメロディに迷って、色々試していくうちに「ここにセリフを入れたら、ドラマチックじゃない?」と思って。なおかつアルバムの1曲目でもあるので、この作品にどんな想いが詰まっているかを聴いてくれる人に感じてもらいたくて、最初にメッセージを置いてみました。

――しかもすべて英語で語られていて。今作には英語の歌詞も多いですが、英語で表現することに関して、ご自身の中でこだわりはあるのですか?

EXiNA 多分自分が洋楽をよく聴くというのもあると思うんですけど、不思議なもので、曲を聴くと、英語で書いたほうがいいなと思っちゃうんですよね。自分のやりたい音楽は英語で表現したほうが合ってるなあと思っていて。で、今回、英語と日本語のどちらの良さも味わってほしくて書いたのが、5曲目の「MY KEYS」の歌詞なんです。この曲は、1番と2番、それぞれ英語と日本語で同じ内容のことを歌っているんですよ。

――なるほど。アルバムの収録順でいくと、2曲目はオルタナ魂全開のロックチューン「DONUT」。ワイルドでかっこいい曲ですが、Fワードに自主規制のピー音が被さった瞬間、これは攻めすぎだなと爆笑してしまいました(笑)。

EXiNA やったー!(笑)。この歌詞を書いたときに、ここは絶対にピー音にしようと思って、Daikiさんに提案したら「そうですよね!」って食い気味に賛同してくれて。まあレーベル的にも、ピー音にしないと無理だろうなと思っていたんですけど(笑)。

――こういう曲、久々に聴いたので嬉しかったです(笑)。この曲も西沢さんが自分で作曲していますが、どんなイメージで制作したのでしょうか?

EXiNA 作ってる最中は頭の中で「もし自分がカート・コバーンやデイヴ・グロールだったら」みたいな感じで、カートが自分に憑依しているイメージでリフを考えて。なのでギターのフレーズだけでも私の好きなものが垣間見える曲になりました。でも、私自身のポップな要素がどうしても入ってきてしまって。最初はそのバランスが「どうかな?」と思ったんですよ。サビも思っていたよりもかわいい感じになってしまって……。

――いや、それがいいなと思ったんですけど。

EXiNA えっ、ありがとうございます(笑)。私も最終的にはそう思っていて。歌詞もメロディに引っ張られて少し明るい感じにしたかったので、ポップな感じにしたら、それがいい塩梅になったので、面白い曲になりました。

――サビの“SOS SOS SOS Let me taste more”というキャッチーなフレーズも耳を惹きますが、全体としても自らをドーナツに見立ててアピールするようなかわいらしい内容になっていて。

EXiNA この曲は今言っていただいたみたいに、気持ちにぽっかりと穴が開いた人、それぞれ大変なものを抱えているみんなをドーナツに例えているんですけど、それと同時に「ライブに来たときくらいは甘いものを食べていいよ」「ご褒美を自分にあげていいよ!」みたいなメッセージも込めていて。Bメロの“Down the stairs Open the heavy door”という歌詞は、ライブハウスの階段を下って重い扉を開くときのイメージですし、ライブのことを考えて書いた部分も多いですね。ギターも全部自分でレコーディングしたので、そこも含めて聴いてほしいです!

――3曲目の「KAiJiN」もオルタナロック系のサウンドですが、リズムがシャッフル系で、2番にはラップ風のフレーズがあったりと、面白い曲になっています。

EXiNA この曲の何が面白いって、私のマネージャーの糸賀(徹)さんが書いた曲なんですよ。それが一番の爆笑ポイントであり(笑)、私からするとエモいポイントでもありますね。糸賀さんもライブのことを考えて作ってくれたんだと思うんですけど、私もライブのことを考えて歌詞を書いたので、早くライブでやりたい曲です。

――歌詞は自分を怪人に例える少し自虐的な部分もありつつ、そういう生き方を肯定するようなポジティブさを感じました。

EXiNA この歌詞は、私が小さい頃に感じていた疎外感みたいなものがテーマになっていて。自分が当たり前だと思っていたことをやると、笑われたりすることが多かったんですよね。その当時はただただ不思議で「なんで君たちはそんなふうに反応するの?」と思っていたんですけど、そのときの自分を怪人に例えて「悲しい化け物」みたいなイメージで書きました。ただそこにいるだけなのに、後ろ指を差されてしまう対象。なので歌詞に“フランケン”や“青鬼”を入れてみました。

――“カートみたく燃え尽きてしまいたくなるよ”というフレーズもありますよね。カートが遺書に記した言葉、“It’s better to burn out Than to fade away. fade away(消えていくより燃え尽きたい)”という、ニール・ヤング「Hey Hey, My My」の歌詞から引用した有名な一節のオマージュになっていて。

EXiNA こんなことを言っていいのかわからないですけど、なんてかっこいい結末なんだろうと思ってしまって。もったいないし、愚かな決断だなとは思うんです。でも、それが本当に儚くて、美しいとまで思わせてくるのが……もう彼自体がアート作品のような生き様なので、つい歌詞に入れたくなりました。

――カートは27歳で燃え尽きましたけど、西沢さんは27歳で燃え尽きたらダメですよ。

EXiNA ですよね! 私はデイヴ・グロール信者なので、おばあちゃんになってもステージに立ち続けたい派です(笑)。

――安心しました(笑)。続く「BYE BYE」はまた趣きが変わって、マイナー調のメランコリックな雰囲気の楽曲です。

EXiNA これはDaikiさんが作曲した曲ですが、デモを聴いたときに、ドラマを観ているような感覚になったんですよね。なので私の人生のドラマチックな部分を歌詞にしようと。私ももう25歳なので、恋愛もちょっとはしてきたんですけど、その少ない経験の中から凝縮して歌詞を書きました。出会いと別れの歌ですね。

――ご自身の経験が反映されている曲だったんですね。

EXiNA これは私の考え方なんですけど、恋愛に限らず、出会いがあるときは絶対に別れがあると思っていて。何かが始まるときには何かが終わる。だからこの曲では「悲しい別れ」というよりも、今までの出来事に対して「ありがとう、バイバイ」という気持ちを描いているんですね。今までの中途半端で子供だった自分、許せないあなたにバイバイ、みたいな(笑)。

――なるほど。楽曲の最後に入っている「バイバイ」という声には、どこか穏やかな雰囲気があったので、きっと気持ちに整理を付けたうえでの「バイバイ」なんだろうなと思いました。

EXiNA あそこは温かい余韻で終わらせたかったんです。(歌詞にある)“I’ll bury myself”って「自分を葬る」という意味なんですけど、最後の部分は暖かい光に包まれながら、今までの自分に別れを告げている感じですね。そしてこれからの素敵な人生によろしくっていう。

――5曲目の「MY KEYS」は先ほどお話されていたように、英語詞と日本語詞で表現された楽曲。この曲もサウンドはグランジ寄りのアグレッシブなギターサウンド中心です。

EXiNA この曲も私が自分で頭のリフやソロ部分のギターを弾いていて。だから粗さがすごいんですけど、その粗さが逆に「えっ何これ?」っていう曲になったと思います。自分でも完成したものを聴いたときに、つい笑っちゃったので(笑)。

――めちゃかっこよかったです。ギターソロも、とにかく勢いに任せて弾いてやれ!感がすごくて。

EXiNA はい(笑)。私はニルヴァーナのライブ映像、カート・コバーンがステージの上で寝っ転がって弾いてるギターソロのイメージを頭の中に思い浮かべて弾きました。半分意識を失ってるみたいな(笑)。

――なおかつ、先ほどの「DONUT」と同様、骨太な部分と同時にキャッチーな要素も入っていて。個人的にはコートニー・ラヴ率いるホールを思い出したりもしました。

EXiNA おっ、私もホールは好きです! 私は武骨なものが好きなんですけど、やっぱり私が女の子ということもあるのか、無骨になり過ぎないところがあって。ただ、全体的にキャッチーな感じに仕上げられたので、良かったなと思っています。

――曲名が「MY KEYS」ということで、歌詞的には“自分自身の鍵”というか、自分の本質について歌ったものなのかなと。

EXiNA はい。車のキーに例えている部分もあるんですけど、私はデビューしてから7年くらいが経ったなかで、色んな人の意見を聞いてきたんですけど、昔はその中から「選ぶ」ということが難しくて、めまいがするような日々を送っていた感覚があったんです。今なら色んな意見も自分の中で整理することができるんですけど、昔は「どれが正しいの!?」っていう感じになっちゃって。それで全部の意見に従っているうちに、自分が壊れちゃうみたいな経験があったんですけど、この曲はそのときのことを歌詞にしています。

――そして6曲目、フー・ファイターズの代表曲をカバーした「MONKEY WRENCH」。以前に「The Pretender」をライブでカバーしていましたが、やはりフー・ファイターズの楽曲はご自身の歩みをアルバムにまとめるうえで欠かせないものだったわけですね。

EXiNA 私はフー・ファイターズのカバーができるだけで死ぬほど嬉しかったので、とにかく失礼が無いようにしっかりとカバーしようと思っていたんですけど、Daikiさんや周りのスタッフさんは「もうデイヴ・グロールを怒らせるくらいの勢いでやってやりましょう!」っていう感じで(笑)。だから今回のピアノのデモが上がってきたときに、「これは本当に面白いかもしれない!」と思って。気づいたらイギリスの風景が見えていたので(笑)。

――そう、メロトロンみたいな音も入っていて、完全にブリティッシュロック風のアレンジなんですよね。このアレンジは本当に意表を突かれました。

EXiNA 私はリスペクトの意味をはき違えていたなと思って。リスペクトしているからこそ、(原曲を)そのままカバーするのではなく、私にしかできない「Monkey Wrench」をやるべきだと思って。デイヴが歌う「Monkey Wrench」を超えることは絶対にできないので、今回は全然違うアプローチのEXiNAバージョンを見せてやろうと。レコーディングのときも、海外の超大きいフェスを思い浮かべながら歌いました。

――今年の3月、フー・ファイターズのドラマー、テイラー・ホーキンスが急逝したので、もしかしたら追悼の意味合いもあるのかなと思ったのですが。

EXiNA (テイラーが)亡くなったのはこの曲を録ったあとだったので、結果的にこのタイミングでカバーすることに、より意味が生まれてしまった感じではあるんですけど、遅かれ早かれカバーしたいと思っていたので。これからも気持ちを込めて歌っていきたいなと思います。

次ページ:「西沢幸奏」が歌い続けてきた理由、そして新たなスタート地点

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