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INTERVIEW

2022.05.06

【インタビュー】4年ぶりのオリジナルアルバム『Cipher』の制作を通して振り返った自分たちの歴史――。結成10年目を迎えたfhánaのメンバー4人が現在の想いを語る。

【インタビュー】4年ぶりのオリジナルアルバム『Cipher』の制作を通して振り返った自分たちの歴史――。結成10年目を迎えたfhánaのメンバー4人が現在の想いを語る。

fhánaが待望のニューアルバム『Cipher』を完成させた。実に4年ぶりのオリジナルアルバムとなる本作は、全2章仕立て、約75分に及ぶ大作に。「愛のシュプリーム!」「僕をみつけて」「星をあつめて」といった近年のアニメタイアップ曲はもちろん、彼らの原点の1つである「Cipher」の新録バージョン、今の時代の空気感を反映した新曲「Zero」など全17曲を収録している。結成10年目を迎えた彼らがアルバム制作を通して、改めて見つめた自分たちの歴史、そしてここから始まる新たな物語に迫る。

“原点回帰”を掲げたニューアルバムのタイトルが『Cipher』の理由

――今年1月に“リスアニ!LIVE 2022”にご出演いただいた際、佐藤さんがMCで、今回のニューアルバムは“原点回帰”を意識した作品になるとおっしゃっていましたが、実際にふたを開けたらアルバムタイトルが『Cipher』で驚きました。「Cipher」と言えば、佐藤さんがfhánaの結成前夜、2011年1月にFLEET名義でニコニコ動画にて公開したボカロ楽曲じゃないですか。

佐藤純一 そうですね。実は“リスアニ!LIVE 2022”のときには、まだそこまで明確には見えていなくて。fhánaは今年で10年目ということもあって、「ここで1周してまた新たな気持ちで頑張ろう」みたいなイメージで“原点回帰”と言っていたんです。で、それとは別で1月に東京と大阪でBillboard Liveツアー(“fhána Love Supreme! Tour 2021-2022”)をやったのですが、そこでtowanaがなんの気なしに「Cipher」を歌いたいと言ったので、セトリに入れたんですね。そしたらリハでも本番でも、すごくパワーのある楽曲だなと感じて。

towana 「Cipher」はfhánaの曲ではないけど、以前からライブでたまにカバーしていて。歌詞もメロも好きで、歌っていて気持ちいい曲だから、今回、久しぶりの有観客ツアーで歌いたいなと思ったんです。

佐藤 しかも「Cipher」は、fhánaの曲の歌詞をずっと書いてくれている林(英樹)くんに初めて(作詞を)お願いした曲でもあるし、それをこの10年目にリ・クリエイトするのは、アルバムのコンセプトにもぴったりだと思って。それでtowanaのボーカルとメンバーの演奏で、再録しようと思ったのが、今回のアルバムタイトルにしたきっかけですね。東京公演が1月15日、大阪公演が1月29日だったんですけど、大阪のライブ前日に前乗りしたホテルの部屋に集まって、今回のアルバムのテーマをみんなと話しました。

kevin mitsunaga そもそも「Cipher」はファンの方から音源化を求められていたことは知っていたので、きっと今回のアルバムに収録されることで喜んでくれる人は多いんじゃないかと思いますし、昔から追ってくれているファンの人はきっとびっくりしたんじゃないかと思います。

yuxuki waga 俺も「Cipher」は(fhánaのレパートリーの)全楽曲の中でも1、2位を争うくらい好きで。ライブでは最近ずっとイヤモニをしているんですけど、「Cipher」のときは外して(ギターを)弾いてました。

kevin 思い返せば、2011年5月に佐藤さんから声をかけてもらってfhánaを結成したときも、「Cipher」のイメージが頭の中にチラついていた気がするんですよね。もちろんそのほかにも好きなFLEETの曲はたくさんあるんですけど。

――まさにfhánaの原点を象徴するような楽曲でもあったわけですね。今回のアルバムには「Cipher.」という曲名で、1曲目に収録されていますが、再録するにあたってどんなことを考えましたか?

yuxuki めっちゃ好きな曲だから、正直あまり変化を付けたくなくて。それこそ、この間、バンプ(BUMP OF CHICKEN)が「天体観測」の2022年バージョン(「天体観測(2022 Rerecording Version)」)を発表したんですけど、それが原曲と(アレンジが)ほぼ同じで、「こういうことだよな」と思ったんですよね。その意味では「Cipher」も印象に残るフレーズが多かったり、あのギターソロがあってこその曲だと思ってるから、好きだからこそそれらは絶対に変えないでおこうっていう。

――たしかにサウンドは原曲を踏襲していますが、歌詞は一部変更されていますね。

佐藤 もちろん原曲の歌詞もすごく好きなんですけど、改めてアルバムに収録する観点から歌詞をみたら、やはり2010年前後くらいの世界観の歌詞だなというのがあって。なので林くんに、2022年の世界に合う歌詞にアップデートをお願いしました。とはいえ、必要最小限の変更で今の時代の空気感とfhánaにフィットさせた感じですね。林くんには「時代にフィットさせるのも大事だけど、fhánaが10年歩んできた歴史みたいなところも踏まえてほしい」という話をして。「Cipher」は10年経って何に出会ったのかを軸にしてもらいました。そこは僕の中には答えがあるんですけど、曲を聴いてみんなに感じてほしいところです。

――それぞれの解釈に委ねると。ただ、原曲の歌詞はボカロ曲として制作されたこともあり、割と狭い範囲のことが描かれているように感じましたが、今回は“部屋”という歌詞が“砂漠”に置き換えられるなど、個人のことから全体への広がりが感じられるように思いました。

佐藤 なかでも“加速”という言葉が2020年以降の世界を表しているなと思っていて。それと“砂漠”という言葉は「World Atlas」(2018年発表の3rdアルバム『World Atlas』の表題曲)にも出てくるんですけど、直近だと「Ethos Choir caravan feat. fhánamily」というファンからコーラス音源を募集して作った楽曲は、みんなで集まって砂漠を旅していく風景が頭の中に浮かんで生まれたアイデアだったんです(今回のアルバムには「Choir Caravan with fhánamily」「Ethos」の2曲を続けて収録)。砂漠には“過酷な現実”や“何もない空間”というイメージが強いですけど、その中にもオアシスがあったりだとか文明が生まれたりするので、そういう比喩でもありますね。

――towanaさんは改めてこの曲を歌うにあたり、原曲と比べてアプローチや感情の乗せ方に変化をつけたのでしょうか。

towana ライブで何度も歌ってきた曲なので、最初にカバーした頃は元がボーカロイドの曲なのでどう抑揚をつけるべきか難しかった部分もあったんですけど、今はもう完全に自分のものになっている感覚があって。なので歌詞が変わったことで戸惑いというか慣れなさもありましたけど、こっちのほうが今の時代にもfhánaにも合っているし、スケールが大きくなったんですよね。そういう変化は感じられると思います。

愛は風の中に! 新曲「Air」が教えてくれる最高の瞬間

――また、今回のアルバムは前半を“Act 1”、後半を“Act 2”として、全体を2つに区切っているところも特徴です。これにはどのような狙いが?

佐藤 今回は4年ぶりのアルバムで、今までアルバムに収録できていなかった曲がかなり溜まっていて、そこに新曲もプラスすると単純に長くなるし、そのまま曲を並べるだけというのはあまり納得いかないなと感じていて。で、僕らは2019年の1月に中野サンプラザホールで5周年ライブ(“fhána 5th Anniversary SPECIAL LIVE”)を開催したんですけど、それは3部構成だったんですね。それと同じように章立てにして分けると、物語性が出ていいなと思ったのが大きな理由です。あと、今の時代は配信がメインで曲単位で音楽を聴くことが多いので、アルバムを作るときはCDがメインだった時代よりもさらに曲順を考え抜いたものにしないと意味がないと思っていて。それで“Act 1”と“Act 2”で流れを変える構成にしました。

――個人的な印象として、“Act 1”は「愛のシュプリーム!」をはじめバラエティ豊かな楽曲が並んでいますが、“Act 2”はよりシリアスな流れを感じさせて、ある種、世界がコロナ禍に見舞われた2020年以前と以降の転換点、それによるバンドの流れの変節のようなものが表現されているようにも感じました。

佐藤 たしかに“Act 2”のほうがシリアスな流れになるよう意識しました。ただ、バンドの変節というよりも、今回のアルバムにはコロナ前の2019年に作った曲からアフターコロナの曲たちも入るので、時代をまたがったドキュメンタリーチックな作品になると思っていたんですね。そこに「Cipher.」を持ってくることで、時代のドキュメントだけでなく、10年目を迎えたfhánaのバンド自体のドキュメントも加わる。そんな気持ちで制作を進めていたら、世界情勢に大きな変化が起こって。アルバムの最後、17曲目に収録した「Zero」という曲は2月末以降に制作したもので、コロナ禍の状況からさらに世界が緊迫感に包まれて、目に見えて変わっていってしまったことを受けて生まれた曲なんです。今回のアルバムは、1度発売延期になったんですけど、それがなければ「Zero」はなかったかもしれない。その意味でもドキュメント性が強い作品かもしれないですね。

――まさにリアルタイムを切り取った作品でもあると。“Act 1”に収録の新曲「Air」はホーンやストリングスも交えた16ビートの都会的なフュージョンナンバーですが、こちらはどんなコンセプトで制作したのでしょうか。

佐藤 アルバムのコンセプトを担う曲は「Cipher.」ですけど、同時に2021年のfhánaを象徴するのは間違いなく「愛のシュプリーム!」だったと思うんですよ。となると、あのサウンド感をアップデートしたような曲も必要だなと思っていて。なので「愛のシュプリーム!」や「GIVE ME LOVE (fhána Rainy Flow Ver.)」の流れの延長線上で、より洗練させて音楽的にも攻めた曲を作ろうとしたのが「Air」です。サウンド的には、ブラックミュージックのリズムで、ブラスとストリングスが入っていて、ギターカッティングが目立つ曲調、要はアシッドジャズっぽい感じですね。ただ、楽しいだけではない切なさも入れたくて。Aメロもマイナー調だし、サビの後半も切なさを感じさせるコード進行にしています。

yuxuki 自分も往年のアシッドジャズっぽい感じのギターのニュアンスを入れようと思って。色々試したら上手くハマって、なかなか狙った通りに録れました。

佐藤 この曲、仮タイトルが「ジャミロクワイ曲」でしたからね(笑)。実は「GIVE ME LOVE (fhána Rainy Flow Ver.)」を作ったときにkevinが入れた音を部分的にリサイクルして使ったりもしていて。ライブでやると楽しそうですね。

――間奏でtowanaさんの声が何重にも重なって、1つひとつの言葉が何を言っているのか識別できなくなる部分も、インパクトがあります。

佐藤 あそこは楽器を全部レコーディングし終わったあとに、まだ何かがない気がして、最後の最後に足しました。カオスな感じにしたいイメージは最初からあったんですよ。それでtowanaの書いた歌詞の切なさや透明感をより際立たせるために、その歌詞を色んなニュアンスで何回か朗読してもらって編集しました。最後は「気づくのを待っている」という言葉が重なるんですけど、自分でも『(新世紀)新世紀エヴァンゲリオン』っぽいなと思っていて(苦笑)。あと、fhánaが結成して間もない頃、ライブの登場SEとして「リトルバスターズ!」のリミックス音源(「tonica」)を使っていたことがあって。

kevinyuxuki あー、あったあった!

佐藤 それは作中のセリフがワーッと流れて、最後に「これからは強く生きると」というセリフだけがはっきりと聴こえる作りで。そのイメージもあって、こういう展開にしてみました。fhánaの始まりのきっかけは「CLANNAD」でしたし、(「リトルバスターズ!」は)同じKey作品ですから。

――しかもこの曲のタイトルは「Air」で(笑)。これも原点に繋がるわけですね。あと、今のお話にもありましたけど、towanaさんの歌詞もすごくいいんですよね。

佐藤 林くんの歌詞が文学的だとすると、towanaの書く歌詞は自分で歌うからこその言葉の響きの良さがあるので、この曲では作詞をお願いしました。内容に関しては「2022年のfhánaの10年の歩みを踏まえて、towanaさんなりに表現してください」という話だけして。

towana このアルバムには「Ethos」「Pathos」や「僕を見つけて」みたいに割と重いテーマを描いた曲が多いので、「Air」は曲調的にも軽く聴けるもの、あまり意味を持たない歌詞にしようというところから始まっていて。最初はここまでアップテンポの曲の歌詞を書くのは初めてだし、必然的に言葉の量も多くなるので、何をどう書くかすごく悩んだんですけど、カフェでドリンクを注文したときに、カップにメッセージが書いてあるときがあるじゃないですか。そこに「Love is in the air」と書かれていたのを見たときに、素敵な言葉だなと思って。そこから書くことができました。仕上がりには結構満足しています。

――サビの“Love is どこにあるのか”というフレーズの答えが、その「Love is in the air」という言葉に集約されているわけですね。

佐藤 最後の“愛はほらこの風の中”というフレーズがいいなと思っていて。これはtowanaが言っていたんですけど、このあいだ、久々に有観客のワンマンライブをやったときの空気感が、本当に愛に満ちた空間だったんです。その感じがこの曲には出ていると思いますね。

次ページ:激動する時代と世界の変化を受けて生まれた「Zero」

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