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INTERVIEW

2022.03.01

【スペシャル対談】熊田茜音、1stアルバム『世界が晴れたら』リリース! 収録曲「drizzling」の作詞・作曲を手がけたZAQとともに本楽曲の制作エピソードやアルバムへ込めた想いを語る

【スペシャル対談】熊田茜音、1stアルバム『世界が晴れたら』リリース! 収録曲「drizzling」の作詞・作曲を手がけたZAQとともに本楽曲の制作エピソードやアルバムへ込めた想いを語る

2020年のデビュー以来、“共感系声優アーティスト”として活躍する熊田茜音が、待望の1stアルバム『世界が晴れたら』を完成させた。「Sunny Sunny Girl◎」「Brand new diary」「まほうのかぜ」「ココロハヤル」などのアニメタイアップ曲を含む全11曲を収録した本作。そのなかでもひと際シリアスな表情を見せるピアノロック「drizzling」の作詞・作曲を手がけたのが、熊田とは今作で初顔合わせとなったZAQだ。ランティスのレーベルメイトでもある2人が、とある“共感”をきっかけに生まれた本楽曲の制作エピソードを中心に、今の想いを語り合う。

キーワードは「もやもや」!2人の気持ちがシンクロするまで

――お二人は今回の楽曲提供の前から面識はあったのですか?

熊田茜音 面識はほぼなかったです。以前にランティスの新年会でご挨拶させていただいたくらいで。

ZAQ 『スーパーカブ』というアニメでニアミスはしていたんですけどね。熊田さんはOP主題歌(「まほうのかぜ」)を歌ってらっしゃっていて、私はEDテーマ(「春への伝言」)の作詞をしたり、劇伴も担当していましたいたので。

熊田 実は、私はデビュー当時から、「いつかZAQさんに楽曲を書いていただけたら……」とずっと言い続けていたので、今回スタッフの方からお話を聞いたときは、プレゼントをもらえたような気持ちで、すごく嬉しかったです。

――熊田さんはZAQさんのどんなところに惹かれて、楽曲を書いてほしかったのですか?

熊田 私は学生の頃からZAQさんの楽曲を聴いて、勇気をもらっていたんです。ステージで歌っているときのかっこよさはもちろん、MCでお話されているときの飾らない雰囲気も素敵で、人としても惹かれる部分がすごくあって。なので自分がランティスからデビューすることが決まったとき、「ZAQさんと一緒のレーベルだ!」って嬉しくなりました。

ZAQ こんなに褒めていただいて、素晴らしい後輩です(笑)。私も茜音ちゃんの話は色んな方から聞いていたので、いつか関わらせてもらえたらと思っていたんです。色んなジャンルの楽曲を歌っているイメージがあったし、声優さんでもあるので、きっと色んなキャラクターを描ける子なんだろうなと思って。

ZAQ

――そして今回、熊田さんの念願が叶ってZAQさんに楽曲を書いてもらうことになったわけですが、熊田さん側からはどんなオーダーをされたのでしょうか。

熊田 最初にお時間をいただいて、直接お会いして1時間くらいお話をさせていただいたんですけど、そのときに「私、すごくもやもやしているんです」ということをZAQさんにお伝えしたんです。私はアーティストデビューとコロナの時期が被ってしまって、ずっと人前でライブをできないことがすごく悔しくて。最初は落ち込んでいたんですけど、だんだん「ライブができないのはこういう世の中だからしょうがないじゃん」って、ある意味開き直ってしまったんですね。でも、それは自分に言い訳しているだけだということに気づいて。とはいえ、自分の中で解決策が見つかったわけではなく、正解もわからない。そういうもやもやした気持ちを曲にしてほしいんです、というわけのわからないお話をさせていただいて(苦笑)。

――なかなか複雑なお願いですね(笑)。

熊田 そのときにZAQさんが「わかるよ、私もライブができなくてもちろん悔しいし」って、すごく共感してくださったんです。ZAQさんのように、今までファンの皆さんと積み重ねてきた時間があったうえでライブができない悔しさもあるし、私のように人前でライブをした経験がほぼない悔しさもある。そういうベクトルの違いがあるなかでも、私の気持ちに共感してくださって、私にはまだまだ知れる楽しさがあると教えていただけたことが、すごく心に残っています。

ZAQ 私の今の心境とこんなにもシンクロする感情を、打ち合わせの場で吐き出してくれたことが、すごく嬉しかったんですよね。私は見た目が強そうな感じなので(笑)、初めましての方とお話するときは結構身構えられたりすることが多いんですけど、茜音ちゃんは自分の等身大の感情や環境を素直に話してくれたし、アーティストとして迷っている部分も含めて、ちゃんと自分の言葉で伝えてくれたんです。だから私としても共感性が尋常じゃなく高くなって。今回の曲は自分自身のことも書いたし、ここは茜音ちゃんとシンクロするだろうなという部分もわかって、すごく書きやすかったです。

熊田 きっとZAQさんの共感する力が強いから、私の心の中を読んでくださったと思うんです。だって私、最初のお話のときも共感しづらいことしか言っていないんですよ。自分からZAQさんに曲を書いてほしいとお願いしておきながら、「なんかもやもやしてて……」みたいなことしか言えなくて(苦笑)。でも、ZAQさんが本当にわかってくださってることが伝わってきて、その瞬間に自分は1人じゃないと思えて嬉しくなりました。

熊田茜音

――直接お話をすることで、ZAQさんにも熊田さんの人となりが伝わったんでしょうね。

ZAQ 出会って5分くらいで伝わりました(笑)。最初の挨拶はしっかりしているんですけど、いざ話始めると「えっと……」ってなるんですよね。多分自分の中にはあるけど、それを言葉にして出すのが大変なのかなって。でも、ほっとけないというか、愛される性格だと思うんですよね。(ほかの楽曲の)歌詞を見ただけでも、みんなこの子のことをほっとけないんだろうなと思いました。

熊田 私は本当に周りの方に恵まれていて。それこそZAQさんも、お会いしたら怖い方という可能性もあったわけじゃないですか。

ZAQ 私はこう見えても怖いぞー(笑)。

熊田 いえいえ(笑)。私、好きな人には、会いたい反面ちょっと怖くて。ZAQさんもそのうちのお一人だったんですよ。「カーストルーム」をはじめ色んな曲をずっと聴いていて、憧れの存在だったので、この近さで会うのにはちょっと勇気が必要だったんです。でも、実際にお話しすると、私の言葉足らずの部分も一緒に考えて理解してくださって……お会いしてより大好きになりました。

霧雨とその先の晴れ間を願う「drizzling」に込められた様々な想い

――ZAQさんは今回の楽曲「drizzling」について、どんな部分を足掛かりに制作を進めていったのでしょうか。

ZAQ まず、タイトルから決めました。打ち合わせで「もやもや」というキーワードをいただいたので、もやっとした感じのタイトルにしようということで、「霧雨(=drizzling)」に決めて。霧雨の中をドライブする女の子、みたいなイメージの歌。私はタイトルが決まるとそのあともスルッと出てくるタイプなので、歌詞はとても早かったですね。実は自分もそのとき、現状にもやもやしていたんですよ。アーティストとしての活動をどうしていけばいいのかわからない、みたいな。だから茜音ちゃんにも通じるし、私にも通じる、聴いてくれるみんなにも通じるだろう言葉を選んでいきました。

熊田 1つ聞きたかったのですが、“メリーポピンズは残響となって”という歌詞は、どういう意味で書いたんですか?レコーディングでは私なりに解釈して歌ったんですけど。

ZAQ メリー・ポピンズ(映画「メリー・ポピンズ」の主人公)ってすごく明るい性格なんですけど、それすらも残響になってしまうということは、全然ポップじゃない、くっきりしていない世界ということです。ずっと鳴っていたはずの音、輝かしくて鮮やかだった世界が終わってしまって、余韻になっている時期、というイメージですね。

熊田 そういえば私、そんなお話しました!

――どんな話をしたのですか?

熊田 私の妹が、今年大学受験の年でして、大学見学に付き添いで一緒に行ったんですけど、(コロナ禍の影響で)構内には入れなくて、外観しか見られなかったんですよ。でも外観だけ見ても何もわからないじゃないですか。本当なら外の世界に向けて希望に溢れている時期のはずなのに、今の世代の子たちはそういうことしかできないことを思うと辛くなってしまって……っていうお話をしたんですけど、それがまさかこの歌詞になるなんて!

ZAQ 私もここは結構好きですね。言葉としてもフックになるし、しかもこの部分はトラックも静かになって、歌声もシリアスなんですよね。それとメリー・ポピンズの組み合わせが面白いなと思っていて。

――熊田さんがこの曲を受け取ったときの感想はいかがでしたか?

熊田 一言で表すなら最高でした!自分のもやもやを言葉にしてくださっていましたし、曲も「うわー、ZAQさんだ!」となりつつも、ちょっとした狂気や温かみが混在していて、そのカオスな感じが私のもやもやと重なりました。特に歌詞の“多種多様と共存してく 正しさが錯綜してく中で”の部分は、私が常日頃から思っていることと重なって。私、人に対して「(自分のことを)わかってもらわなくていいよ」と思ってしまうことがあるんです。でも、人のことは大好きだし、色んな尊敬できる人が身の周りにいて。これはアルバム全体を通しての話なのですが、私は今まで自分のことを大切にしてくれる人のことが好きだったんですけど、気づいたら大切にしたい人が増えていて、その気持ちの方が大切だし、(アーティスト活動の)原動力になるのかな?と思うようになったんです。歌詞のラストの“じゅうぶん息を吸ったら 未来が動き始めてる”もZAQさんから希望をいただけたように感じて、全部の言葉が自分の中で引っかかるし、何かを考えるきっかけになる歌詞だと感じました。

ZAQ 霧雨が晴れたら、ようやくみんなの前でパフォーマンスできるっていう、希望の歌にしたかったので。だから、アルバムタイトルが『世界が晴れたら』と知ったときは、すごく良いなと思いました。今回の歌詞は、自分自身がいったい何者なのか悩んでいる状態を“霧雨”と表現しているんですけど、そういうまだ道の途中、何ならまだ始まってもいない状況を、茜音ちゃんの等身大のサイズ感に落とし込めたらと思って書きましたね。

熊田 “子供みたいにさ 泣けるといいな”もすごく好きな歌詞です。最近、母方のおばあちゃんの足が急に悪くなって、介護が必要になったんです。それでお母さんが軸となって支えなくてはいけない状況になったんですけど、お母さんは自分の母親がそういう状況になって辛い気持ちを抱えながらも、やらなくてはいけないことをちゃんとやっていて。きっと私なら「誰か助けて」と泣き喚くところを、大人と呼ばれる人たちは責任をもってこなす。大人は素直に泣いたり、自分探しの旅に出ることが難しいんだろうなって感じていた時期だったので、この言葉はすごく「歌いたい」って思いました。

ZAQ コロナのこともそうですけど、もやもやしている時期はみんな我慢しちゃうんですよ。きっとその我慢ができる人が大人なんだと思うんですけど、そういう人が子供みたいに泣けるといいなっていう。茜音ちゃんのことだけだとクローズドな楽曲になってしまうので、リスナーに届けるという意味で共感性を持たせたかったんです。

――その意味では、ある種の優しさや包容力も感じられる歌詞になっていますね。

熊田 本当にそうだと思います。ZAQさんは私ともすごく気さくにお話してくださるし、さっき私に言ってくださったみたいに、自分が悩んでいることもかっこつけずに話してくださるんです。私はかっこつけたがりで(笑)、自分のことをかっこよく見せたいんですけど、ZAQさんはかっこ悪いところも見せたうえでそれがかっこよくて。それはかっこつけているというよりは、生き様そのものがかっこいいから、全部見せてもかっこいいんだと思うんです。

ZAQ べた褒めやん、嬉しい!(笑)やっぱり生き様がリアルじゃないとかっこよくないんですよ。私はヒップホップな姉さんを目指しているので(笑)。

――「drizzling」の熊田さんの歌声からは、いつも以上に意志の強さが感じられましたが、レコーディングはいかがでしたか?

熊田 今までは元気で明るく爽やかな方向性を基調にしていたのですが、今回は楽曲の内容も相まって、いつもより大人っぽいアプローチで歌ってみました。ちょっとクールな部分を意識した新しい歌い方に挑戦したんですけど珍しく、最初に歌ったときにディレクターさんから「このままの方向性でいいね」と言ってもらえました!

ZAQ 1サビの“すぐに会えるさ”の歌い方が大好きなんですよ。“えー”と伸ばすところにすごく感情が出ているように聴こえて。それと“しわくちゃなドレスで出かけてみようか 曇天に微笑い踊りたいんだ”の部分。まだ完全な私ではないけど、外に出て自分というものを表現したい、そのしたいん“だ”の言い方がすごく良くて。そのあとの“ランララン”と歌う部分は、3拍子で踊っている様子を間奏として描いたんですけど、そこで場面がフッと切り替わって別のキャラクターが見えて、そのあとにまた熊田茜音に戻る組み立て方が上手だなって思いましたね。

熊田 嬉しい!“ランララン”のところは何声か重ねているんですけど、1つは少し幼い声、小さい頃のキラキラしていた自分を思い出している歌い方にしていて。それと今のありのままの声、ちょっと大人っぽさを交えることで違和感を出すようにしました。ここはかわいらしいけど少し狂気を感じさせるメロディだったので、フックにしたいなと思ったんです。

ZAQ この部分はデモもトイピアノにして、子供っぽく表現してもらえたらいいなと思っていたので、伝わっていて嬉しいです。今回は編成としてはシンプルだけどピアノが躍る曲というイメージだったので、アレンジは岸田(勇気)さんに初めてお願いしました。ZAQと言えばピアノなので、ピアノに特化したミュージシャン、しかもライブでも演奏して活きたピアノを弾ける方ということで、私から岸田さんを指名させていただいて。だからこの曲、ピアノがめっちゃ躍ってるんですよね。

熊田 私もピアノロックは大好きなので嬉しいです!楽器のレコーディングも見学させてもらったんですけど、岸田さんもとても気合いが入っていて、ディレクションも「もっとがむしゃらでもいいよ!」という感じで、私も見ていてワクワクしちゃいました。

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