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2021.10.08

【ライブレポート】病める時も、健やかなる時も共に。“THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 10th ANNIVERSARY M@GICAL WONDERLAND TOUR!!! MerryMaerchen Land” 福岡公演DAY1レポート

【ライブレポート】病める時も、健やかなる時も共に。“THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 10th ANNIVERSARY M@GICAL WONDERLAND TOUR!!! MerryMaerchen Land” 福岡公演DAY1レポート

「アイドルマスター シンデレラガールズ」のライブイベント“THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 10th ANNIVERSARY M@GICAL WONDERLAND TOUR!!! MerryMaerchen Land” DAY1が2021年10月2日、福岡県・西日本総合展示場新館にて開催された。

同公演には関裕美役の会沢紗弥、辻野あかり役の梅澤めぐ、黒埼ちとせ役の佐倉薫、 宮本フレデリカ役の髙野麻美、椎名法子役の都丸ちよ、遊佐こずえ役の花谷麻妃、棟方愛海役の藤本彩花、佐久間まゆ役の牧野由依、佐々木千枝役の今井麻夏、 白坂小梅役の桜咲千依、橘ありす役の佐藤亜美菜、森久保乃々役の高橋花林、川島瑞樹役の東山奈央、久川颯役の長江里加、北条加蓮役の渕上舞、相葉夕美役の木村珠莉、赤城みりあ役の黒沢ともよ、依田芳乃役の高田憂希、久川凪役の立花日菜、龍崎薫役の春瀬なつみ、喜多日菜子役の深川芹亜が出演した。

今回のライブは、「アイドルマスター シンデレラガールズ」の10周年を祝う特別な全国ツアー。9月4日~5日に予定されていた愛知公演が開催延期になったことから、本公演が開幕公演となった。開演前にはスクリーンにアシスタントの千川ちひろが登場し、前説と諸注意を行なった。アイドルひとりひとりがおとぎ話のお姫様として、みなさんをめくるめく夢の世界へとお連れします」という今回の公演コンセプトを示す言葉が印象に残った。

開幕映像で大宇宙から地球の一点にカメラがフォーカスすると、探検家風の衣装に身を包んだダンサーたちが登場。大冒険の果てに魔法の王国“メリーメルヘンランド”に辿り着く物語を無声のミュージカル仕立てのパフォーマンスで見せてくれた。

ここで会場に雷鳴が轟き、ちょっと不穏でユーモラスなサウンドが会場に満ちる。ゆったりと幕が上がると、ピンクと白を基調にしたキュートな衣装“ピクシー・ケープ”に身を包んだアイドルたちが登場。ライブオープニングナンバーは「かぼちゃ姫」だ。

歌い出しはセンターステージの階段に腰掛けた桜咲千依、高橋花林、都丸ちよ、立花日菜、会沢紗弥の5人が担当。この5人はゲーム「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」のイベント内で同曲を歌唱したオリジナルメンバーだ。ここからステージの各所にアイドルたちが登場して歌い継いでいったのだが、「シンデレラガールズ」の全員曲で一部のメンバーが先行して歌いだす見せ方は珍しいかもしれない。高橋は最初の曲で幕越しに客席のライトを感じて、観客の存在に感動したそうだ。

ここで、東山奈央が座長的に音頭を取っての開幕の挨拶が行なわれた。初の有観客ライブで初めましての挨拶をした梅澤めぐの林檎のふたばのような髪型の再現具合がすごい。メンバーからの最初の挨拶を挟んで、出演者全員がくるりと回って新衣装“ピクシー・ケープ”を披露すると、いよいよライブ本編へ。

開幕を告げたのは会沢紗弥、梅澤めぐ、桜咲千依、佐倉薫、立花日菜、都丸ちよ、長江里加による「Starry-Go-Round」。スクリーンには壮大なメリーゴーランドが映し出され、全国を回るツアーのはじまりを星のメリーゴーランドに託した。レーザーが会場の壁面に光の馬を描き出したりと、ゴージャスでメジャー感のある立ち上がりだ。歌い終えた長江は、この曲の楽しさをテーマパークに行ったようだと表現した。。

ソロのトップバッターは東山奈央の「Angel Breeze」から。イントロではダンサーを従えたシンクロダンスをキレよく見せた。思わず聴き惚れてしまうほど安定して美しい歌声を響かせた東山は、福岡への挨拶代わりに指でハートを作ってみせる。以前からの清涼な空気はそのままに、少しキュートさを増したように感じるパフォーマンスだ。おなじみの“わかるわ”のフレーズでは、語りかけるように深い大人の一言を披露。なんと2ndライブ以来だというソロでの披露だが、東山のこれまでの歌唱者、表現者としての進化が、そのまま川島瑞樹の力になっていることを感じるステージだった(※実際は2017年の“THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 5thLIVE TOUR Serendipity Parade!!!” 宮城公演で披露あり)。ラストはマイクに乗せずにありがとうを呟いているように見えた。

続いては牧野由依の「マイ・スイート・ハネムーン」。この実力者ふたりをさらっと並べられるあたりが「シンデレラガールズ」の層の厚さを感じる。“ピクシー・ケープ”は本公演の共通衣装だが、ピンクが誰より似合う牧野とまゆが身につけるとまるで彼女のためにあつらえたようにぴったりと来る。

左手にマイクを持つと、右手を背中の後ろに隠して笑顔の歌唱。その分右手小指の赤いリボンをふるう振付が一段と際立つ。ステージを歩みながら時にささやくように、“愛を確かめましょう”のフレーズでは輝かしく高らかに。技巧を凝らしながらも、内側からにじみでるようなキュートさ、可憐さがあふれる。静かに、叙情的に歌う“あなたとフルムーン半分同士”からはじまるフレーズでは、歌声と視線の彼方に美しい月が見えるような表現の広がりを感じた。ラスト、ゆったりとした決めポーズと共に最高の笑顔を浮かべた牧野を拍手の雨が包む。牧野由依と佐久間まゆの技術と想いの粋を込めたようなステージだった。

桜咲千依の「小さな恋の密室事件」。前曲とのギャップの大きさにひっくり返りそうだが、アウトロと拍手の余韻に重ねるような間の詰め方は2曲のギャップをあえて強調する意図を感じる。ピクシー・ケープの上に吸血鬼めいたオーバーサイズのマントを羽織ると、それだけで会場は白坂小梅の世界。薄暗い照明とマント、何より桜咲自身がまとう空気がステージのカラーをガラリと変えた。旋律がダークで攻撃的なものにかわると、会場のライトも一斉に真紅に染まる。この曲では間奏のささやくようなウィスパーフレーズも印象的だが、観客の発声がない会場ではこれまでにないほど会場の隅々まで音の粒が染みていった。ラストのノイズサウンドの中に響く少女の笑い声もくっきりとクリアで、いつも以上に世界に入りこむことができた。

「Blooming Days」は梅澤めぐ、髙野麻美、都丸ちよの組み合わせ。センターの梅澤が花咲くような笑顔を見せる。りんご色にきらきらと輝く窓を背景に歌い踊る姿はまさにシンデレラだ。髙野の弾けるような笑顔の華やかさ。都丸のピンク色の髪と水玉のリボンの組み合わせはビジュアルでも椎名法子を再現するこだわりを感じる。キュートさをあふれさせながらも、落ちサビではそれぞれの想いを感じさせながらまっすぐに歌う歌唱が印象的だった。

本公演のMCでは10周年記念ライブならではの企画として、トークテーマと話す人物を配信視聴者のアンケートで決めるトークが行なわれた。テーマは「あのライブ名場面」「あの曲の想い出」「★あの人の一言」「忘れられないあの出来事」、話すのは「可愛い、あの3人」「クールな、あの3人」「★個性的な、あの2人」「ちびっこな、あの3人」という選択肢だ。

個性的なあの(アイドルを演じる)2人とは、高橋花林と桜咲千依。高橋は速水奏役の飯田友子との初対面で奏が好きだと伝えたところ、飯田と高橋の誕生日が同じであることを伝えられて嬉しかったエピソードを披露。実は会沢紗弥も同じ経験をしていたそうで、他のキャストの誕生日まで細かく把握している飯田の株が上がっていた。桜咲はライブ終了後にるるきゃん(城ヶ崎美嘉役の佳村はるか)挨拶を褒められると、ありがとうがんばりますという気持ちになると語っていた。

続くブロックは立花日菜の「14平米にスーベニア」からスタート。ふたつめの“いぇーい”の矢印が下に向く気の抜けた感じが早くも会場に凪ワールドを広げていく。しかしイントロで会場を見渡してにこっと笑ってピースをする姿は、まさに黙っていれば美少女で久川凪を体現した感じだ。スクリーンにはまんぼうを食べる謎の猫や、家と猫を掛け合わせたような生物が次々と映し出されていく。ゆったりとした不思議な世界観と眩しい笑顔のギャップ。夕暮れのパートではガラリとエモーショナルな表情を見せたりと、多彩な変化に翻弄されるようなステージだった。ステージを振り返った立花は泣いてしまいそうな表情で、今日のステージが自分の全てであることと、これからも凪として頑張る意志を語っていた。

「ギュっとMilky Way」は深川芹亜と牧野由依のユニット・ドリームアウェイがオリジナルメンバーで披露。上手と下手の両サイドに別れ、それぞれが主役のソロステージがふたつあるようなスタートだ。

ステージの印象はとにかくかわいい! の一言で、深川はかわいいの特訓をしてきたとのことだ。深川の“頑張れるような気がするの”のフレーズの振り絞るように頑張ってる感じは、見ている側も頑張れ! と応援したくなる迫真の表現だった。アウトロでは横に並んだふたりが優雅な舞から手のひらを合わせる(近づける)動きがあったのだが、深川はMCでラストふれたいけれどふれられないもどかしさを語っており、次こそふれあいたいと語ると牧野も嬉しそうにと同意していた。

佐藤亜美菜は「to you for me」を披露。ステージのバルコニーから語りかけるように優しく訥々と歌いかける。抑えめのトーンで歌う中で、“全部わかってるつもりで”のフレーズに込めた強い感情にぐっと引き寄せられる。まっすぐにカメラの向こうのあなたに向けて感謝を届け、“あのね、あのね”の語りかけに強い意志と祈りをこめる。佐藤とありすのソロでは涙の記憶も多いが、今日の彼女は揺れない強い芯を感じさせる。ステージを振り返った佐藤は、初披露で涙ぐんでしまったぶん、プロデューサーさんを安心させたいことがテーマだったと振り返る。ステージに込めようとする想いや意味が、表現を通してしっかりと伝わってくるという点で彼女には特別なものがある。

「つぼみ」は木村珠莉、黒沢ともよ、高田憂希、東山奈央の組み合わせで披露。美しい高音の響き合いがなんとも見事だ。歌詞に寄り添った感情を込めた高音の歌唱……と言葉にすれば同じなのに、表現は四者四様でこれほど違いがあるのかと驚かされるほどだ。木村の優しく包みこむような表現。東山の音域の広さが目立つのびやかさ。繊細な感情を表現させれば黒沢の独壇場だ。高田が夢を指先に宿し空に放つ仕草は芳乃を身に宿したかのよう。それぞれに表現の文法が違うのに、その歌声が美しく溶け合っていくのがとても心地よい。

「つぼみ」のオリジナルメンバーである木村は、相葉夕美として初めて歌った楽曲をライブでようやく披露できた喜びと、みんなのハーモニーの心地よさが緊張を忘れさせた体験を語っていた。

ここで「Heart Voice」の輝かしいイントロが流れて驚いた人も多いのではないだろうか。同曲は2015年に放送されたTVアニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ」で「CANDY ISLAND with 輿水幸子」が歌唱した楽曲であり、今回のライブの出演者とは関わりが薄い楽曲だからだ。今回の歌唱メンバーは梅澤めぐ、佐倉薫、花谷麻妃、藤本彩花。コンセプトは新しい世代のアイドルによる、TVアニメというかつての大きな節目の追体験だ(ろう)。

歌い出しからそれぞれの個性をぎゅっと込めた歌唱が続く。どちらかといえばキュートさ、幼さの色が強い中で、佐倉の大人っぽい少しビターな歌唱がアクセントとして抜群に効いている。佐倉は引率の先生の気分だと語っていたが、そういえば佐倉が担当していたのは原曲で先輩として加わった幸子のパートだった。ステージを振り返った花谷は4人がすごく緊張していた分、観客の心に届いていてほしいと願いを伝えた。

MCコーナーでは先ほどに続き、お題と解答者を配信視聴者が決めるトークが行なわれた。今回選ばれたお題は「忘れられないあの出来事」で、解答者は「小学生の、あの2人」こと佐藤亜美菜と黒沢ともよだ。

黒沢は、以前会場近くのあるあるCityで「シンデレラガールズ」のイベントがあった時に、空港への集合時間に目が覚めた大遅刻のエピソードを披露。他のメンバーが福岡を経由する中、黒沢は直接北九州空港に飛んだ結果一番早くついたというオチを含めた起承転結が完璧なトークだった。この話に、あるあるCityとゆかりの深い高田憂希がすかさず乗っかっていくのも楽しい。

佐藤亜美菜は、事務所の先輩で市原仁奈役の“久野ちゃんさん”こと久野美咲とのエピソードを披露。ふたりだけの楽屋で緊張していたところ、久野がインスタントのお味噌汁を作って、緊張した時は温かい味噌汁が落ち着くと、塩分の大切さを教えてくれたエピソードを披露。彼女の優しさのおかげでコミュニケーションもライブもうまくいったという神エピソードだった。

「パステルピンクな恋」は会沢紗弥、髙野麻美、花谷麻妃のキュートチームが披露。淡いピンクと白で構成された今日の衣装にもぴったりな楽曲だ。それぞれの笑顔と可憐な仕草が印象的で、会沢の晴れやかな笑顔は少し自信を持って成長した関裕美像を感じさせる。花谷が表現するこずえの幼いキュートさは花の妖精のようだ。センターの髙野麻美はキュート全振りで、フレデリカのかわいさ、澄ましていればとびっきりの美少女という一面を表現しているようだった。会沢はこれまで取材などで歌いたい曲として「パステルピンクな恋」を挙げており、念願が叶ったステージだった。

「Love∞Destiny」は今井麻夏、高橋花林、長江里加、渕上舞のクールチームが披露。元々は渕上と牧野のダブルフロント曲を“あえて”構成を変えてくる編成で、クールアイドルの新しい一面を引き出す楽曲として新生した印象だ。長江の歌いだしの少し過剰な節回しは大人の楽曲で颯が背伸びした感じがよく出ていたし、今井はイントロの時点からダンスと動きの表現力が一際目を引くほど仕上がっている。そしてなんと言っても妖しい微笑みを浮かべた高橋演じる森久保の大人の表現! 面白いのはオリジナルメンバーの渕上もパートを変えて、よりパワフルな新しい表現に挑戦していたことだ。今井にとってはずっと歌いたい念願曲だったそうで、高橋はそんな今井にダンスを教えてもらったとのことだ。

属性チーム三連のラストは、高田憂希、立花日菜、春瀬なつみのパッションチームによる「Halloween ♥ Code」。スクリーンに映し出されたアイドルイラストを背に立った3人のシルエットの頭には不思議な突起が。猫耳猫ポーズの妖しいシルエットで驚かせた時点で勝ちと言ってもいいぐらいの名演出だ。ライトが明転すると、揃いの黒猫耳姿が気絶するほどかわいい! 高田演じる芳乃は猫のあやかしめいた感じが不思議なぐらい似合う出で立ち。センターの春瀬は笑顔が弾けて、猫耳とひまわりの髪飾りが自然に同居している。立花は少しいたずらっぽくもまっすぐにかわいさを表現していて、これも普段と味付けの違うキュート曲ならではだろう。ワルツ調の間奏で順番にくるくると回るふたりの指揮をとるような春瀬の楽しそうな姿や、アウトロの黒猫ダンスも印象的だった。

都丸ちよは「プライスレス ドーナッCyu♡」を披露。甘い歌声とリズミカルでキュートなダンスによる“カワイイ”の洪水のようなパフォーマンスだ。間奏ではダンサーと一体になったダンスが小気味良い。スクリーンにはいろとりどりのドーナツが舞う中、ステージの表現が何より甘い。「召し上がれ」とほっぺに○を作ってはにかむキメまで含め、本当に完成度の高いスイーツパッケージだった。この曲は有観客ライブでは初披露。振り返った都丸はプロデューサーの顔とピンクのライトを見ながら歌えたことの喜びと安心感を、本当に嬉しそうにかみしめていた。

藤本彩花は「オヤマトペ♪」を初披露。棟方愛海が愛するふかふかでふわふわなお山に登る心弾む感じを楽しくハッピーに表現した。タイトルは曲中に散りばめたオノマトペと“オヤマ”を掛けた言葉だが、衝突する、体当りする、といった意味のスペイン語「トペ」のニュアンスも入っているのではないだろうか。オヤマの大きさに貴賤はないとこぶしを利かせて歌う姿はまさに棟方“師匠”。コミックソングになってしまいそうなところを、正調のキュートさで中和してアイドルソングに着地させる唯一無二の表現だった。MCでは客席のプロデューサーが手やライトで山を作ってくれたことに感激する藤本に、観客もにこにこしてしまうような優しい時間が流れていた。

黒沢と春瀬がハイファイの時間を告げながら駆けこんでくるのは「ハイファイ☆デイズ」の時間だ。今回は今井麻夏、木村珠莉、黒沢ともよ、佐藤亜美菜、高田憂希、髙野麻美、高橋花林、東山奈央、春瀬なつみ、深川芹亜、渕上舞、牧野由依という大編成で、原曲の小学生のイメージに大人のお姉さんたちを意図的に加えていった感じだ。渕上や木村のちょっと大人な感じや、高田のしっとりと弾ける感じなど、様々なニュアンスを込めつつみんなで楽しむ感じがいい。ハイファイの小学生チームの中に佐藤がありすとして参加しているのも注目したい。MCで春瀬がたくさんのお姉さんと一緒に歌うのは初めてであることを伝えると、渕上は普段のイメージとは違う楽曲への挑戦にどうしようと悩んで、佐藤にアドバイスを求めたことを語っていた。

ライブ終盤戦の一曲目は、「シンデレラガールズ」屈指の物語性を誇る「もりのくにから」。歌うのはもちろん高橋花林だ。初披露の頃はきょろきょろと落ち着きのない様子(の森久保を演技で表現していた!)が印象的だったが、今回は伏し目がちではあるけれど、まっすぐに立って歌う姿、お日様やお月様に向けて柔らかに微笑む姿からたしかな成長が感じられる。曲中で表現される喜怒哀楽、感情の振り幅が強化されていて、指先を高速でつんつんと突き合わせる動きの激しさに思わず笑ってしまった。

自嘲的だったりおどおどしてる面は今もあるのに、印象ががらりと変わっているのはおだやかで強い微笑みがともにあるからだろう。かつて勇気とともに森を出た森久保は広い世界に旅立って、たくさんの宝物と一緒に自信を手に入れたのだろうと感じられた。壮大なミュージカルのようにステージを締めくくった高橋は、最高の笑顔で最後まで“読んで”くれた感謝を呟いた。

渕上舞は「薄荷 -ハッカ-」を披露。原曲アレンジでの披露は5年ぶりだろうか。ピアノの美しい旋律とともに、優しく雄大であたたかな歌声が会場を満たしていく。サビに向けてオケが壮大な広がりを見せると、渕上の歌声もさらに豊かに力強さを増していった。観客はサイリウムを振る動きすらも控えめに歌声に聴き入っている様子で、ライブというよりはコンサートのような時間だ。元々歌唱力では圧倒的な渕上だが、今回は眼差しに込めるニュアンスや小さな表情のひとつひとつに繊細な表現を込めているのが印象に残った。

佐倉薫は「Beat of the Night」を初披露。かつて病弱だった少女がプロデューサへと出会いシンデレラガールにまでなった加蓮から、病弱であるがゆえに今に輝きを求めるちとせのソロという並びには意図と文脈を感じる。

佐倉の高潔でどこか切実な歌声には不思議な力がある。それが一番感じられるのが頭サビの歌い上げで、一聴して麻枝准作曲とわかる独特の音の世界にぴったりの歌声で寄り添っていく。スクリーンには真っ赤なバラのステンドグラスが咲き誇る。曲調と歌詞の変化によって薔薇の花園は夜の雨に包まれ、サビではふたたび真紅に燃え上がる。昼と夜の世界を渡る表現の変化が見事だ。感情の高まりと声の震えも力に変えるように、最後まで力強く、美しく歌いきった。

「THE VILLAIN’S NIGHT」は会沢紗弥、木村珠莉、黒沢ともよ、髙野麻美が歌唱。オリジナルメンバー5人中4人が揃っての初披露だ。あと一人のメンバー、櫻井桃華をイメージした薔薇のコサージュを揃って身につけているのが泣かせる気遣いだ。スクリーンではハロウィンライクな映像が独特の世界を作り出す。ゆらりと歌っていた髙野が妖しい色合いの照明に照らされて豹変する表現が印象的だ。繊細な少女がモンスターに豹変する意外性と面白さを体現していたのが会沢で、歌声の意外な力強さに驚いた。黒沢はミュージカル的な見せ方の奥に、新しい表現に楽しそうに挑戦する赤城みりあ、というペルソナがきちんと見えるところが非凡というしかない。木村が妖しく流麗な表現の中で時折見せる“牙”は、相葉夕美という少女の中にこんな表現もあったのだと教えてくれた。モンスター系楽曲ならではのダンサーの圧倒的なパフォーマンスもステージのエンターテイメント強度を高めていたように思う。

「Fascinate」は桜咲千依、長江里加、深川芹亜が披露。ユニット・VelvetRoseの曲だけに意外な組み合わせだが、「THE VILLAIN’S NIGHT」からはじまる3曲の楽曲の流れを見ると、そこに桜咲千依(白坂小梅)がいることはむしろ自然に感じられる。原曲メンバーの縛りに囚われすぎず、組み合わせによる新しい魅力を発見していくのは本公演のひとつのテーマかもしれない。深川と長江が感情の高まりを全身で表現していくのに対して、センターの桜咲の表現がどこか静かで雄大な対比が面白い。ラストの“貴方ノ幸セ 私ノ幸セ”のフレーズは、桜咲が呟くように歌うことでこの世ならざる声のように響いていた。

ヴァイオリンのめまぐるしく不穏な音が響き渡る。三部作の締めは「Hungry Bambi」、原曲メンバーから今井麻夏、佐藤亜美菜、花谷麻妃、春瀬なつみ、藤本彩花の5人が参加した。この曲は小学生アイドルたちの新しい一面にフォーカスした楽曲で、春瀬が見せる凛とした表情にははっとしたし、今井の“もう子供じゃないよ”や佐藤の“食べ頃でしょ青い実は”のフレーズにはとてつもないインパクトがあった。福岡公演はメンバーとして小学生アイドルの存在感が強い公演だったが、今回のセットリストでは前段に「ハイファイ☆デイズ」があったことで、「Hungry Bambi」は裏「ハイファイ☆デイズ」的な役回りで強い印象を残していた。

そして、公演本編を締めくくるラストナンバーが「Shine!!」だと誰が予想しただろうか。TVアニメの主題歌は、放送から時間がたつとどうしても出番が減るものだ。しかし10周年のアニバーサリーを祝うライブで、新たな世代が歴史上の一大イベントを追体験するというコンセプトで考えた場合、この曲の“新たなヒカリに会いに行こう”というフレーズがバシッとハマる。「Star!!」ではなく「Shine!!」でなければならなかった理由だろう。間奏では東山が、プロデューサーたちがメリーメルヘンランドを楽しめたかを笑顔で問いかけていた。

手拍子のアンコールが続く中、スクリーンには12時を示す時計の文字盤が映し出される。声なき声援に応えて時計の針が12時1分を打って、アンコールはスタート。「シンデレラガールズ」のこれまでのライブの軌跡を振り返るスペシャル映像が流された。ファーストライブのアンフィシアターでの初々しい姿、辿り着いたドームライブ、たくさんの笑顔と涙。観客に思い出ボムを放つような珠玉の映像の数々は、10周年というアニバーサリーにふさわしいクオリティだった。

これからの展開を紹介する業務連絡では、ソーシャルゲーム版「シンデレラガールズ」に西園寺琴歌がボイス付きで近日登場することや、「デレステ」に龍崎薫が歌う「ひまわりマークをさがせ!」が実装される知らせに大きな拍手が起こっていた。そして、1月に開催される沖縄公演の出演者がついに発表された。

再び幕が上がると、ステージには新衣装“シンデレラ・コレクション”に身を包んだアイドルたちの姿が。共通衣装でありながら、袖口や襟元、スカートの一部などに各アイドルをイメージしたカラーリングと意匠のワンポイントが入って同じ衣装はひとつもないように見える。そして歌うは新曲、「EVERLASTING」! “シンデレラは試練を乗り越えて星を目指した”という言い回しひとつで森由里子さんの詞だとわかるのが作品が積み重ねたものを感じる。印象的だったのが間奏で、「お願い!シンデレラ」をはじめとした歴代の「シンデレラガールズ」楽曲の数々の旋律を取り込んでいる。要素が複雑すぎて一聴ではとても全貌を把握しきれないほどだ。歴史をリスペクトしながら永遠を誓う、10年のその先に向けた決意の歌だった。

ラストの挨拶では、有観客開催で会場のプロデューサーさんにやっと会えた、という言葉がたくさん聞かれた。都丸ちよが会場に、そして配信に向けて何度もありがとうございますと心を込めて繰り返していたのが印象的。立花日菜が想いが高まって言葉に詰まりそうになるたびに、長江里加に視線で助けを求めるのが姉妹役の絆を感じる。牧野由依がシンデレラガールズの10周年と、アイドルたちとプロデューサーの絆にふれながら、まゆとプロデューサーの関係を“病める時も、健やかなる時もずっと一緒に歩んで行って”と形容した言葉が、このタイミングだからこそ強く胸に残った。

ライブを締めくくるラストナンバーはもちろん、「お願い!シンデレラ」。10周年ムービーでの演者同士のふれあいを見ているとコンタクトを控えているのが少し寂しいが、それすらもいつか、この時ならではの光景として思い出される時が来るのだろう。“もう一回!”の声は、今回のライブを牽引した東山が高らかに叫んだ。10周年を祝い、その先に進むツアーのはじまりの終わりを、「シンデレラガールズ」の原点の楽曲が輝かしく飾っていた。

Text by 中里キリ

THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 10th ANNIVERSARY M@GICAL WONDERLAND TOUR!!! MerryMaerchen Land DAY1
2021.10.2.福岡県・西日本総合展示場新館

<セットリスト>
M01:かぼちゃ姫(THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS)
M02:Starry-Go-Round(会沢紗弥、梅澤めぐ、桜咲千依、佐倉薫、立花日菜、都丸ちよ、長江里加)
M03:Angel Breeze(東山奈央)
M04:マイ・スイート・ハネムーン(牧野由依)
M05:小さな恋の密室事件(桜咲千依)
M06:Blooming Days(梅澤めぐ、髙野麻美、都丸ちよ)
M07:14平米にスーベニア(立花日菜)
M08:ギュっとMilky Way(深川芹亜、牧野由依)
M09:to you for me(佐藤亜美菜)
M10:つぼみ(木村珠莉、黒沢ともよ、高田憂希、東山奈央)
M11:Heart Voice(梅澤めぐ、佐倉薫、花谷麻妃、藤本彩花)
M12:パステルピンクな恋(会沢紗弥、髙野麻美、花谷麻妃)
M13:Love∞Destiny(今井麻夏、高橋花林、長江里加、渕上舞)
M14:Halloween ♥ Code(高田憂希、立花日菜、春瀬なつみ)
M15:プライスレス ドーナッCyu♡(都丸ちよ)
M16:オヤマトペ♪(藤本彩花)
M17:ハイファイ☆デイズ(今井麻夏、木村珠莉、黒沢ともよ、佐藤亜美菜、高田憂希、髙野麻美、高橋花林、東山奈央、春瀬なつみ、深川芹亜、渕上舞、牧野由依)
M18:もりのくにから(高橋花林)
M19:薄荷 -ハッカ-(渕上舞)
M20:Beat of the Night(佐倉薫)
M21:THE VILLAIN’S NIGHT(会沢紗弥、木村珠莉、黒沢ともよ、髙野麻美)
M22:Fascinate(桜咲千依、長江里加、深川芹亜)
M23:Hungry Bambi(今井麻夏、佐藤亜美菜、花谷麻妃、春瀬なつみ、藤本彩花)
M24:Shine!! (Long Intro Ver.)(THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS)
-ENCORE-
EC1:EVERLASTING(THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS)
EC2:お願い!シンデレラ(THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS)

©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

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