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INTERVIEW

2021.10.01

【インタビュー】増田俊樹が見つけた自らの音楽的ルーツとは――。2ndアルバム『origin』の制作過程に迫る。

【インタビュー】増田俊樹が見つけた自らの音楽的ルーツとは――。2ndアルバム『origin』の制作過程に迫る。

声優として幅広く活躍する増田俊樹が、ニューアルバム『origin』を完成させた。2019年3月に1st EP『This One』でCDデビュー、2020年1月に1stアルバム『Diver』をリリースし、自身の音楽性の幅を広げてきた彼が、その先に見つけたのが、自らの音楽的ルーツとなる“ロック”。改めて原点に立ち返り、新たな制作チームと共に作り上げられた10曲の新曲は、こんな時代だからこそ鳴らされるべき、“今”を感じさせる音楽だ。増田俊樹はこの作品にどのように取り組んだのか。その心の内に迫る。

自身の音楽にとって“必要なもの”、目指したい“ロック”の方向性

――今回のニューアルバム『origin』は、前作の1stアルバム『Diver』以来、約1年半ぶりの音楽作品になります。制作はいつ頃から進めていたのでしょうか?

増田俊樹 僕のところに最初にお話がきたのが(2021年の)年明けくらいで、そこから徐々に方向性の打ち合わせをさせていただきました。制作期間は半年強くらいで、余裕をもって作ることができました。

――打ち合わせの際に、増田さんからはどのようなお話をされましたか?

増田 1st EP、1stアルバムの制作を通して、僕の中で“必要なもの”と“不必要なもの”が見えてきたので、まずはそれをしっかりと言葉にしてチームに共有するところから始めました。

――そのご自身にとっての“必要なもの”というのは?

増田 1つは“ロック”を引き続き提示していきたいということ。今回のタイミングで楽曲の制作チームが一新されたのですが、“ロック”にも色々あって一括りにはできないので、改めて僕がどんな音楽ジャンルを好きか、自分が目指したいロックの方向性を様々な言葉を用いて共有していきました。それと僕自身、デビューした頃と比べて見えているものに変化がありまして、よりリスナーのことを意識した作品を作りたい気持ちが強くなっているので、そういった思いを作品に落とし込むことができれば、と考えていました。

――それは言い換えると、自分のやりたいことよりも、リスナーが望んでいるであろうものを優先する気持ちが強まってきた、ということでしょうか?

増田 そうだと思います。僕は基本的に、自分たちの作ったものを好きに楽しんでくれればいい、というスタンスで活動をしていたのですが、音楽としての“増田俊樹”に関しては、今までほかのジャンルで応援してきてくれた方が、引き続き音楽活動も応援しようとしてくれていることが多くて。なのでアルバムの全曲ではないにせよ、リスナーの顔をどこかで意識したうえで楽曲を作ることができたらいいなと思いました。

――それは、これまでの音楽活動に対するリスナーの反応を踏まえた変化ですか?

増田 いえ、お客さんの反応というよりも、単純に僕の中での仕事の仕方の変化というのが大きいですね。30歳を越えたことで、「もう30代だしな」という意識が、活動するうえでの1つの意識として芽生えてきて。やっぱり20代の頃のように、ただ一生懸命に頑張っているだけではダメだと思いますし、簡単に言うと、自分の視野が広がったんだと思います。良いものというのは、僕ら出演者だけでなく、スタッフの皆さん、お客さん、色んな方がいてこそできるものですから。

――なるほど。少し話を戻して、増田さんが目指す“ロック”について、もう少し詳しくお話を聞かせてください。今作は今まで以上にギターサウンドが前面に出ていますが、増田さんは「風にふかれて」(1st EP『This One』のリード曲)のMVやライブでギターを弾くなど、以前からギターへの思い入れが強い印象があります。

増田 単純にサウンド感が好きなんでしょうね。特徴的なギターリフのある楽曲のほうが耳に残りますし、それって誰の曲かというイメージを置き去りにできる一面もあると思うんですよ。「ああ、このリフってあの曲だよね」みたいに、楽曲単体のイメージが強くなる。僕はそういった楽曲を好む傾向があるので、ギターサウンドにプラスして、印象的なギターリフがある曲だと嬉しいという話はしました。まあ、それを簡単に作ることができたら、苦労はしないのですが(笑)。

――ちなみにどんな音楽を聴いてギターロックが好きになったのですか?

増田 平成10年代や2000年代前半に台頭したバンド、僕が所属しているトイズファクトリーであればBUMP OF CHICKENさん。あとはASIAN KUNG-FU GENERATIONさんとかですかね。その時代は、世の中的にもインディーズブームみたいなものがあったり、バンドサウンドが盛り上がっていた時期だと思うんです。その当時のリフ感が僕の中ではすごく耳に残っていて。J-ROCKとして確立されたものを受けて作られたバンドサウンド感、邦楽感もあるけど、どこか世界を意識した、自分たちからジャンルを発信していくような時代の曲が好きなんだと思います。

『origin』というタイトルに込めた願い、「hikari」が指し示すもの

――今回のニューアルバムのタイトル『origin』は、増田さんご自身が名付けたそうですね。

増田 直訳すると“原点”という意味の言葉ですが、僕の中では今回、“再誕”や“リスタート”をイメージさせるようなタイトルを付けたくて。今の時代、自分が生まれ変わらなくてはいけないぐらいの変化が起こって、この時代の流れに置いていかれるようならば、すべてにおいてとり残されてしまうと思うんですよ。僕も1stアルバムを出したあと、世界の情勢が変わって、元々予定していたライブが延期・中止になってしまいましたが、今の状況は、ここ半年や1年で済むような話ではないじゃないですか。であれば、今の環境に対して悲観的になるのではなく、その状態からもう一度生まれ変わる、二度目の人生を始めるくらいのメッセージを込めたほうがいいかなと。

――もう一度始まりに立ち返る、その意味での“原点”というわけですね。

増田 それにプラスして、そもそも僕としても、自分にとって音楽というのはまだまだわからないことだらけで、自分が何をしたいのか、まだ見えきっていないんですね。今は色々な巡り合わせで音楽をリスナーの皆さんに届ける機会をいただけていますが。だからこそ、今回も、僕にとってのルーツ、いつか「あの1枚が僕にとっての始まりでした」と言えるような作品になってほしい、そういうちょっとした祈りも込めて、『origin』というタイトルに辿り着きました。

――『origin』という言葉1つの中にも色んな思いが込められていると。

増田 それと今回、音楽制作のスタッフが一新されたなかで、僕が個人的に音楽というものにほんの少し向き合い始めたときのスタッフ陣とまたご一緒することができたので、その意味でも“原点”を感じさせる面白いご縁があって。僕らにとって、リスナーにとって、すべてにおいて、ここがまた始まりになればいいなと思いますね。

――その“原点”を感じさせるご縁というのは、もしかしてMax Boys(ラジオ番組「細谷佳正・増田俊樹の全力男子」でMCを務めた細谷と増田によるユニット)のことでしょうか? 今回のアルバムのリード曲「hikari」を提供した青葉祐五さんは、以前にMax Boysの楽曲を書かれていたようですが。

増田 そうですね。青葉さんだけでなく、ディレクターさんも含めて当時の楽曲制作の中心にいた方たちで。あれから数年を経て、当時お世話になった方たちとまた組むことができて、「何か面白いことができるんじゃないか」という期待感のなかで始めたら、自分としてもすごくやりやすく制作を進めていただきました。本当に偶然が重なったご縁だったのですが。

――リード曲「hikari」は爽快かつスケール感のあるギターロックで、先ほどのお話を踏まえると、“新しい僕の「今」をはじめよう”といった歌詞には、コロナ禍の状況における“リスタート”への想いがこもっているようにも感じました。

増田 これはアルバム制作の初期の段階に作られた楽曲ですね。それこそ先ほどお話したギターリフやロック感のあるサウンド、あとはリスナーの方に届いたときに、また明日以降も前向きに生きていけるような楽曲を作りたい、という話をしたうえで出てきたもので、アルバムタイトルを決める前からあった曲なので、多分青葉さんも、そこまで“リスタート”を意識してはいなかったと思います。ただ、僕も今回の『origin』に関しては「hikari」から受けた印象がとても強くて、逆に「hikari」のおかげで僕らの目指したい方向性、2ndアルバムのイメージ像が見えたところがありますね。

――その一方で「妄想メリーゴーランド」は、どこかささくれた雰囲気を感じさせるシャープなロックナンバー。この曲を提供している希瀬(SETSUNA SPIRAL)さんは、1st EP『This One』の全曲を手がけるなど、増田さんの音楽活動には欠かせない方になっていますね。

増田 僕がこの曲で目指したかったのは、アングラ感を感じさせるサウンドで、希瀬さんはそういったジャンルが得意だと感じていましたし、希瀬さんの作る楽曲は僕の価値観と合うことを感じていたので、今回も作るにあたって希瀬さんらしさを残していただきつつ、癖のあるロックサウンドということでお願いしました。今回のアルバムにはほかにそういったジャンルはありませんでしたし、ハマるんじゃないかと思いまして。歌詞については希瀬さんに完全にお任せした感じですね。

――金管楽器の入ったソウル調の朗らかなポップチューン「Life goes on」からは、流れていく時間の中で人生をしなやかに見つめ直すような雰囲気があって、増田さんの歌声からも、30代を迎えた今だからこそ歌えるリラックス感が感じられました。

増田 この曲はディレクターサイドでアルバム全体のバランスを考えて作ってくださったのですが、特に歌詞にこだわったということで、自分も受け取っていいものができたと思いました。ただ単純に“今”の話をするのではなく、“過去”と“未来”を照らすことで“今”の自分をたしかめるような内容になっていて、直接的じゃないからこその視点の変化がすごくいいなと。それはきっと、人生の先輩でもあるディレクターさんが通ってきた「30代はこんな感じだったかもしれないな」という気持ちもあるかもしれないし、30歳を歩いている今現在の僕が、どうしようもなくふらふらした気持ちを感じているからこそ生まれてきた、このアルバムで一番人間らしい曲になっている気がします。

――この楽曲の前に置かれたノスタルジックなギターポップ「日常」や、切なくも温かなミディアムナンバー「Orange」では、恋愛を含めた対人関係だとか出会いや別れのようなものが描かれていて、全体的に聴き手が身近に感じられるシチュエーションの楽曲が多いですよね。

増田 表現するうえで、“増田俊樹”というコンテンツを通して、人間の本性を暴くみたいなことを描くのは止めようという話はしていて。そういうのはほかの方がやっていますし、僕らはもうちょっと楽に楽しめる、だけどただ楽しいだけじゃない楽曲にしたくて。あとは人生観みたいなものを歌ってしまうと、僕のことを描いた曲みたいになってしまうので、そうならないように意識して作ってもらいました。

――あくまで聴き手が自分ごととして重ねられるものを目指したと。

増田 そうですね。僕が思うベストは、曲たちがリスナーのものになることなので。

次ページ:「今を越えて」の先に見えてきた“増田俊樹の音楽”が始まる予感

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