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INTERVIEW

2021.07.23

「今まで積み重ねてきたものを改めて形にしたくて」――。水瀬いのり、記念すべき10枚目のニューシングル「HELLO HORIZON」リリースインタビュー

「今まで積み重ねてきたものを改めて形にしたくて」――。水瀬いのり、記念すべき10枚目のニューシングル「HELLO HORIZON」リリースインタビュー

水瀬いのりの記念すべき10枚目となるニューシングル「HELLO HORIZON」は、自身もヒロインのリーシア・エルフリーデン役で出演するTVアニメ『現実主義勇者の王国再建記』(以下、『現国』)のOPテーマ。これまでにも彼女に数々の名曲を提供してきた岩里祐穂×白戸佑輔のタッグだからこそ実現した、アーティスト・水瀬いのりとしての新たな地平を切り拓いた力強い楽曲に仕上がっている。カップリングを含め充実の3曲を収めた本作について、話を聞いた。

「HELLO HORIZON」を通じて伝える“ありのままの自分”

――今回の新曲「HELLO HORIZON」は、水瀬さんにとっては「ココロソマリ」以来のアニメタイアップ曲になります。「ココロソマリ」はご自身で作詞されたこともありコンペで楽曲を選んだという話でしたが、今回はどのように制作を進めましたか?

水瀬いのり 今回は10枚目の節目となるシングルなので、今まで積み重ねてきたものを改めて形にしたくて、新しい出会いを求めるコンペではなく、自分のこれまでの成長や活動を楽曲面で支えてくださってきた作家さんに指名でお願いさせていただきました。作曲・編曲は信頼している白戸佑輔さんに書き下ろしてもらった楽曲になります。

――白戸さんは「ピュアフレーム」や「Lucky Clover」を詞曲含めて担当されたほか、「アイマイモコ」や「ココロソマリ」といったシングル曲の編曲も手がけていて、水瀬さんの活動には欠かせない方ですね。

水瀬 白戸さんは、その場にいるだけで誰かを癒してくれるような愛されキャラの方で、レコーディングのディレクションでも歌い手の気持ちを汲み取ってくださる、個人的には優しさや温かいものをすごく感じる方なんです。フランクに話してくださる、いい意味で普通の気さくなお兄さんで、普段は自然体な雰囲気なのですが、楽曲を作ると天才型の人だと勝手に思っています。

――その白戸さんに楽曲を書いてもらうにあたり、水瀬さんサイドからはどのようなリクエストをしたのでしょうか?

水瀬 今回はアニメのOPテーマを務めるということで、アニメに寄り添いつつ、一筋縄ではいかない曲になったらいいなという話をしていました。『現国(現実主義勇者の王国再建記)』は現代日本にいる青年がある日突然異世界に召喚されるお話なので、自分がいた世界が変わってしまったようなドキドキ感や底知れぬ不安みたいなものがイントロで表現されています。そして、個人的にサビではそれまでの流れから予想を裏切るような曲にしたかったので、そのことを白戸さんにあらかじめお伝えして作っていただきました。その後一度上がってきた楽曲をブラッシュアップしていくなかで、白戸さんにサビのパターンを追加でいくつか作っていただいたんです。でも、私は最初のバージョンを聴いたときの好きという感覚が忘れられなくて、結局自分の気持ちに正直に選ばせていただきました。流れるようにサビに入るところがすごく気に入っています。

――今おっしゃっていただいた「一筋縄ではいかない曲」という意味では、勇ましくもどこか不穏なイントロ部分からまさにそんな印象を受けました。

水瀬 「これから何が起こるんだろう?」というドキドキ感がありますよね。今後ライブで披露するときには、きっと自分でもイントロが始まった瞬間に背筋がシュッとなると思います(笑)。

――そしてこの曲を作詞したのは岩里祐穂さん。水瀬さんとはこれまで「BLUE COMPASS」「TRUST IN ETERNITY」「僕らは今」でご一緒してきた方です。

水瀬 自分の中では(アニメの)タイアップ曲を歌うことに毎回難しさを感じています。キャラクターソングのように登場人物の感情に寄りすぎてしまってはいけないけど、どこかに作品を思い出すようなワードや作品らしさを散りばめたいとも思っていて、そのバランスがいつも難しい部分なんです。そんな中で、岩里さんが書いてくださる歌詞はそのバランスが絶妙という印象があって。今回の『現国』は異世界ものでファンタジー色のある作品ではありますが、主人公のソーマ(・カズヤ)が現代知識を用いて内政を改革していく、“現実主義”という自分の中にもすんなり入りやすい作品テーマでもあったので、どんな歌詞になるのかすごく楽しみでした。

――実際に上がってきた歌詞を読んだときの印象はいかがでしたか?

水瀬 温かいもので包まれたような気持ちになりました。自分自身がこれまで、自分だけでなく相手がいてこそ頑張れるというような、人と人との繋がりから生まれる温かいものを感じられたり、「一緒に進んで行こう」というメッセージが込められた曲に励まされてきましたし、自分もそういう曲を歌いたいので、この歌詞もすごく心に刺さって。特に「こんな自分でも何かを変えられるかもしれない」と感じさせるところが、絶対的ではないけど自分の中にあるもので前に進んでいくソーマと自分にすごく重なりました。“ただありのままを許せたんだ”というのは強い人だからこそ言える言葉だと思いますし、それを歌詞に載せてくれた岩里さんにはすごく感謝しています。

――水瀬さんもアーティスト活動でライブを重ねていくなかで、ありのままの自分を表現していいことに気づいたと以前の取材でおっしゃっていましたが、その気持ちはこの歌詞ともリンクしますか?

水瀬 そうですね。岩里さんは私のライブも観に来てくださっていて、私の言動や人柄も大切にしながら歌詞を書いてくださるので、毎回、お手紙をいただくみたいな感じで、私自身を見透かされているような言葉が並んでいるんです。ご本人はすごく明るくて気さくな方なのですが、きっと真実や本質を見抜く力がすごいんだと思います。岩里さんの前では嘘はつけないです(笑)。

――加えて「HELLO HORIZON」のサビの一節“ハローイエス 見たことないあの地平を目指す”に象徴的なメッセージ性は、同じく岩里さんが作詞した「BLUE COMPASS」にも通じる部分があるように感じました。

水瀬 どちらも旅立ちの曲といいますか、何かを求めて新しい一歩を踏み出すような、それも大きな一歩ではなくて着実に一歩踏み出すことに意味があることを歌った曲なので、そこは自分ともすごくリンクします。私も傷ついてしまうときもありますが、そういうのをなるべく隠したくない気持ちが根本にあって。自分のお仕事はある種、皆さんに希望や元気を与えるお仕事だと考えていますが、リアルに伝えるからこそ歌えるものもたくさんあると思うので、ときには弱音を吐いたり苦しいこともあることを、皆さんにも共有できたらと思うんです。だからこそ岩里さんの楽曲に限らず、ダメなときはダメって言えるような楽曲があることは私にとっても支えになっています。

――あと、Dメロの歌詞も岩里さんらしさを感じたところでして。「TRUST IN ETERNITY」の歌詞に“どこかに祈りの詩があるなら”とありましたが、今回も“懸命に生き抜くひとつひとつの祈りの連なりは やがて輝くから”となっていて。

水瀬 そうなんです、岩里さんはよく、私の名前(“祈り(=いのり)”)を入れてくださるんですよね。初めて自分の名前を歌詞に入れていただいたのは「Innocent flower」だったんですけど、最初の頃は自分で“いのり”というワードを歌うことに気恥ずかしさがあって。でも、ファンの皆さんはいつも喜んでくださっていて、特にライブで私がそのフレーズを歌うとき、みんなが目の前で熱くなっている感じが伝わるので、「これが自分の名前を歌う特権なんだな」って思うようになりました。やっぱりその瞬間だけはちょっとかっこつけちゃいます(笑)。

――水瀬さんは『現国』のアニメにリーシア・エルフリーデン役で出演されていますが、その役柄や作品の世界観と繋がりを感じた部分はありますか?

水瀬 2サビの“見ようとしなければ何も見えない”というフレーズは、リーシアの感情とリンクしているように感じました。リーシアは自分の国の食料難や経済難についてソーマから教えてもらったときに、王族なのに国のことをわかっていなかった自分に失望するのですが、作品のそういう部分ともリンクしましたし、「見ようとしなければ何も見えないけど、見ようと思えば何かが見えてくる」というのは、私自身も大切にしていきたいテーマだと思いました。

――レコーディングではどんなことを意識して歌いましたか?

水瀬 掴めそうで掴めない感じがこの楽曲の持ち味だと思うのですが、それを私は歌で掴まないといけないのがすごく難しくて。Aメロの割とキーが低い部分は、少し希望を失いかけているような印象があって、そこからBメロでサビに向けてスパっと切り替えて、サビはすごく爽やかに展開するというアプローチの変化が必要だったので、この楽曲はAメロ、Bメロ、サビを分けて録ったんです。ある種、憑依しないと楽曲の世界観に負けてしまうぐらいの異彩を放つ1曲になったので、ライブに向けてまだまだ向き合って、自分に落とし込んでいきたいです。

――「HELLO HORIZON」のMVは、水瀬さんが大自然に囲まれたロケーションで歌う、地平線が感じられるようなスケール感の映像ですね。

水瀬 静岡の高原で撮影したのですが、富士山が近すぎて逆にハリボテにすら見える感じでびっくりしました(笑)。その日の天気予報は雨で、現場では雨は降らずとも曇っていたので、雲の隙間から太陽が出た瞬間を狙って撮影していたんです。でも、後半のドローンを使ったダイナミックなシーンの撮影のときに、タイミングを合わせたかのように雲が一気に晴れて。過去のMVの中でもこの作品がトップかなと思うぐらいキリッとした表情から、後半にかけてだんだん笑顔が増えていく演出にもなっているので、凛々しさと柔らかさのギャップの振り幅も見ていただけると思います。

――撮影場所的にも大変さがあったのでは?

水瀬 このMVの撮影に向けて、人生で初めてワークマンに行きました(笑)。草原なので朝露や水滴がすごくて、普通の靴だと足元が濡れてしまうということで、色んな靴屋さんでいい長靴を探したのですが、最終的にはやっぱりワークマンの手を借りることにして。最近は見た目もすごくかわいいものが増えているとのことだったので、メイクさんやスタイリストさんと一緒に買い物に行って、流行りのワークマン女子になってきました(笑)。

次ページ:“涙の意味”と“小さな幸せ”――水瀬いのりが大切にしたいもの

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