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INTERVIEW

2021.05.06

緒方恵美×草野華余子、“芝居をしない”“歌わない”のがプロの技である理由――アルバム『劇薬 -Dramatic Medicine-』スペシャル対談

緒方恵美×草野華余子、“芝居をしない”“歌わない”のがプロの技である理由――アルバム『劇薬 -Dramatic Medicine-』スペシャル対談

モノづくりをキメるポイントは“3回目”

――この「祈り」はゲーム「時計仕掛けのアポカリプス」のEDテーマとのことですが、その内容に即した形でオーダーをされたのでしょうか?

緒方 いえ。実はこの曲のタイアップは後から決まったことだったんです。エンディングのお話自体は先にそのゲームのプロデューサーから伺っていて、当初は別の方に依頼をする予定だった。でもその打ち合わせの数日後に草野さんから届いた「祈り」のデモがまさにそのオーダーにドンピシャでした。もちろん草野さんはその打ち合わせをご存知ありませんし、そういうオーダーもしていません。そこで草野さんに「この曲をエンディングに使わせてもらえないでしょうか」と、私の方からご連絡を差し上げて、皆さんのご協力のもと、実現したという形です。

草野 その際に緒方さんご本人が「草野さんが当初イメージされていたのとは異なる形で申し訳ありません」と、わざわざメッセージをくださりまして、それにも感動しました。私としては緒方さんが歌ってくださるという前提で書いたものなので、どんな形でお化粧されてもいいんです。最初の打ち合わせで、緒方さんが表には決して出さない葛藤をお話しされていて、そこで私が感じたことがメロディに乗ればいいなと。

――そこで感じた部分というのは言葉にできますか?

草野 例えるならば、「その瞬間ごとに死にそうなくらいまで自分を追い詰めてライブをする」といった感じでしょうか。それは私もステージに立つ人間として感じるところですし、緒方さんもきっとそう思っていらっしゃるのだろうと、お話をする中でシンパシーを覚えたところでありました。仕上がりを聴かせていただくと、生命力よりも思っていた以上にその裏に隠れた切ない感情が届く楽曲になったと思いました。

――この曲はどの楽器で作られましたか?

草野 ピアノです。これは「セーラームーン」シリーズのキャラソンが背景にあります。「セーラームーン」のキャラソンは、ストリングスが入っていたりして、ほとんどの曲にクラシックの要素があるんです。私は子供の頃から緒方さんが歌ってこられたアニメ作品のキャラクターソングを、ほとんど聴いていて、打ち合わせの際にも「セーラーウラヌスの曲(「風になりたい」)や(『幽☆遊☆白書』の)蔵馬と飛影のデュエット曲(「WILD WIND ~野性の風のように~」)がすごく好きでした」とお話させていただきました。そのなかで、改めて私はあの頃のアニソンやキャラソンにすごい影響を受けていたんだなと思い起こしました。だから、ずっと好きで聴いていた緒方さんに楽曲提供をするのであればその要素を込めつつ、硬派だけれども柔らかいところもあるご本人の女性性を出そうと思い、ピアノで作っていきました。

緒方 この曲、ホントに良い曲なんですけど、歌うと難しいんですよ(笑)。テンポの速さとか音の飛び方とか、それにニュアンスをつけようと思うと難しくて大変でした。

草野 囁くようなAメロの入りからサビで張り上げるところまで、ダイナミクスの差があったのが印象的で嬉しかったです。私は楽曲の中で、高低差やストーリーの緩急など、メロディにストーリーを作っていきます。単色の音ではなくグラデーションとして、喜びや悲しみ、生/死の比率といった死生観をメロディに込めます。言葉にすると伝えづらいのですが、明確に作りたい像があってその比率をどうするかが重要なんです。トップライン(歌メロ)は歌謡曲的でありつつ、ビート感は洋楽を意識して16の裏を取っています。

――草野さんは作曲の時点でアレンジをどのあたりまで想像して提出するのでしょう?

草野 今回はビートが大事な曲だったので、ドラムは16分やハットのハネ感までしっかり入れていました。それを編曲でさらにブラッシュアップしてもらっています。ベースは「これぐらい弾いてほしい」というガイドを入れて、あとは鍵盤かギターで、そこに絶対入れてほしいSE・音色があれば軽く添えるくらい。今回で言えば、デモを聴いていただいた際に打ち合わせでお話した内容が見えてくることが大事だったので、それがある程度分かるように作りました。編曲の古川貴浩さんとは何回も組ませていただいているので、どこまで作ればどのように受け取ってくれるかも想像がつきやすかったこともあります。

――歌詞については「時計仕掛けのアポカリプス」の内容が色濃く出て、この内容になっているのでしょうか?

緒方 「時計仕掛けのアポカリプス」は乙女ゲームなのですが、結構ハードな内容で、仲良くなった男性が一度みんな死んでしまうバッドエンドがあって、その宿命から今度は彼らを死なせないようにするストーリーなんです。その作品でかかる曲なので、大切な人が亡くなってしまった直後のヒロインというイメージでした。人の亡くなり方には色んな形があるし、本当に大事な人だと拒絶するというか、「これはお別れなのか?」と受け止められないことがきっとあると思うんですよね。私自身が経験したことも踏まえ、ヒロインの子もきっとこんな感じだったのかなと思って書いてみました。

――レコーディングはいかがでしたか? 難しかったと先ほどおっしゃっていましたが。

緒方 1回目はAメロの雰囲気を引きずったままのテンションでサビまでいったところ、あっさりしすぎてしまいました。2回目は頭から裏拍をきちんと全部刻みながらやってみたのですが、これは強すぎる。3回目は一巡して全部入れたうえで自由にやってみたら、このテイクで決まりました。

――草野さんはお聴きになって、緒方さんの“良さ”や“らしさ”を、どんなところに感じられましたか?

草野 Aメロ・Bメロは呟くうに表現されていて、それを3テイクの間に崩してくださったと聞いて感動しました。私はプロデュース案件でデビューから間もない方を担当することがあるのですが、歌い慣れていない人ほど“歌っちゃう”んですよ。これは曲を書くうえでも同じで、慣れない人ほど“メロディを書いちゃう”。そうすると、意図的な何かが入るからまったく気持ちのいいものにならない。私も輪郭が出ないように気をつけていることであります。難しいですね……この辺りなんて伝えたらいいですかね?

緒方 音楽の話だけで例えるのはちょっと難しいので、芝居の話に転換して持論を述べさせていただくと、「プロの役者というのは芝居をしない」んです。

――どういうことでしょうか?

緒方 みんな芝居が上手なんですよ。社会生活を行なっているすべての人って、日々“演技”しながら生きているじゃないですか。本音を駄々流ししながらいる人なんてほとんどいない。一方で、本音っぽく喋っていても近くにいると演技していることが見えたりすることもあるでしょう? そうやって皆が演技したり見抜いたり、見透かされたりし合っているのが現実の社会。なので、人は基本的に「私ってこういう演技をしているよ。上手でしょう?」っていう演技が嫌いなんです。人が人を好きになるときは、本音がチラッと見えるとき。いつも強がっている人がちょっとだけ見せた脆さだったり、難しい顔をした人がちょっとだけ口元を緩めて笑った瞬間に、「この人のこと好きかも」って思いがち。だからこそ、プロの役者に求められるのは「自分が見せたい演技」を見せるのではなく、スッと自分を“開いて”本音の部分を垣間見せること。それこそがプロの役者にしかできないことで、お客さんはそこを見て心を開き、物語に入って行ってくれる。

――その考えは歌についても同じように。

緒方 歌の場合はリズムやピッチといった、輪郭としてキチンと置かなければいけない部分が芝居より少し多いんですけども、その中にありつつなるべく“開きたい”と思っています。さっきのお話で出たメロディを“歌っちゃう”というのは、「私の歌は上手でしょ?」というのが伝わってくるような歌。お芝居でもそうですけど、新人の頃はそれをどうしたらいいかわからないんですよね。で、年配になればなったでまた、“慣れ”とか“癖”が顔を出す。

草野 メロディにも書き“癖”ってありますね。

緒方 もちろん、音楽で言えば、この感じの音の並びがきて、こういうコードがきたらいい的な理屈が体の中に入っているからこそなんでしょうけど。歌でも芝居でもそういう癖が付きがちですが、それをグッと堪えて剥がしていくように心がけています。中学2年生の頃のような、社会が見えてるけど心はまだ白くて、色々なものに反応して行けるような部分を残したい。

草野 今のお話で言うと、演奏や歌のレベルとアタックの興奮度ってクロスしていくんですよね。つまり、技術は上がっていく一方で瞬発力は下がっていく。その中間地点を狙えると最高なんです。私も3本目くらいがちょうどいいですね。まずやってみて、2回目はちょっと頭で考えすぎて、3回目でそれを無くしていく。これはライブでもそう。1本目でミスって、そこからアップデートさせて、最後に体の中に入っているみたいなことは、色んなものに当てはまることだと思います。

緒方 芝居でもライブでも、ツアーでもそうですよね。初日は結構緊張していて、そこからアップデートさせていく。ただ千秋楽は「もうこれで終わりだ~!」って、テンションが上がりすぎるので、大体その直前ぐらいが最高になっちゃうんだけど(笑)。

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