悠木 碧が語る「異世界転生作品」の魅力とは?アニメ『スライム倒して300年』OPテーマ「ぐだふわエブリデー」インタビュー

人気声優の悠木 碧が4月より放送開始される『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』の主演とOPテーマ「ぐだふわエブリデー」を務める。今作も個性的仕上がったこの楽曲とアーティスト活動、そして「異世界転生作品」についての思いを、役者としてアーティストとして、たっぷりと語っていただいた。

「また真面目にふざけてしまった……」

――このたびTVアニメが放送される『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』にはドラマCDの頃からアズサ・アイザワ役を務められています。作品の魅力はどんなところにあると考えますか?

悠木 碧 ドラマCDの頃からポジティブになれる要素がいっぱい入った作品だなと思っていました。アズサは基本的にノリが良い子ですし、彼女自身もポジティブに生きようとしていて、「力を抜いて生きることは間違ってないよ」ということを、意識的にではなく周りの女の子たちに啓蒙している姿が印象的でした。ドラマCDのときはギャグパートが多かったのですが、このTVアニメではシリアスなシーンが描かれていて、肩の力を抜いて生きるの難しい人たちに向けて、日々の幸せを見つけやすくするやり方を示してくれています。

――悠木さんは肩の力入りがちですか?

悠木 場合によるかなぁ~? 私は基本的には走っているほうが楽なタイプなので、その意味ではアズサと真逆なのですが、彼女の言っていることも一理あると思うし、他人に優しくできる生き方なのかもなと思います。

――役者は役を通じて様々な価値観を自分の中に落とし込むことができるんですね。

悠木 そうですね。色々な人の視点で世界を見ていくので、たとえ自分の考えと異なったとしても、一度その価値観で見ることはとても勉強になりますし、演じてみるとなるほどと思うことも多いですし。アズサからも色々なことを勉強させてもらっていると思います。

――役柄としてはどんなふうに作っていきました?

悠木 「異世界転生作品」の王道として、主人公だけは現実世界的な人物で、そのほかの登場人物はキャラクタライズされているという特徴があり、この作品のアズサでも生っぽさとドラマCDでもあったギャグのバランスを考えて演じていきました。あとは、アニメの中では、アズサは可愛い一方でいわゆる男前なところも出てくるので、ジェンダーレスな魅力が出せたらと思って演じていました。

――我々の世界の現実を知る主人公と、ファンタジー世界に生きるキャラクターたちでリアリティのレベルに違いが現れますが、それは役者としては難しいですか?

悠木 むしろ、リアリティのレベルに違いがあるほうが、異世界に転生してきた感じが出ると思います。我々の現実側に生きていたアズサの感覚でいうと、異世界のキャラクターたちには大変なことが色々あって、その子たちに寄り添うことがコミュニケーションになり、それがこの作品の魅力だと思います。分かりやすくギャグのパートだったり、可愛くするところだけはキャラクタライズしたお芝居をすることはありましたが、そこ以外はアズサの中で無理のない範囲で自然体に演じ、そこまでほかのキャラクターとは差分を感じませんでした。

――先ほど、可愛い一方で男前と感じられた、とありましたが、どんなところからそれを感じましたか?

悠木 アズサはルックス的には金髪の可愛いお姉さんという感じなのですが、母性を爆発させているタイプなんです。それもみんなが想像しがちな、おっとりママというよりは、「よしよし、みんな私の娘だからな!」というビッグ・ママ感があって、それがすごく良いんですよね。何せこの世界で300年も生きていて、娘それぞれに愛情を平等にかけているところが、男前と言われる部分かなと思います。今日び、「男前」という言い方も良くないんでしょうね。アズサにはアズサの良さがあるし、その器の大きさを表現する上で性別は関係ない。彼女は愛情深い人物だし、自分の幸福をキープしながら他人に分け与えてあげることができる、本当に優しい人物なんだろうなと思いました。

――そしてOPテーマ「ぐだふわエブリデー」も担当されています。歌詞を読んだときにこの作品にぴったりだと感じました。

悠木 私もめちゃくちゃ可愛いなと思いました。OSTER projectさんにはこれまで何度も歌詞を書いていただいているのですが、リズムが良いだけではなく言葉遊びも面白いんです。わかりやすいところで言うと“健康で文化的な最高限度のユートピア”とか、若干社会派なところも含め最高ですね。自分の生活の最高値を目指すのは良いことだと思うしその仕組みを含め、ぐだぐだ生きることを肯定することが許される世の中になったし、みんな許されたいと思っているんだろうなと伝わってきます。“余裕しゃくしゃく杓子もネコも”も、また違う可愛さが合って、こうした言葉を古臭くなく遊んでいる感じがお洒落。“食う 寝る あと何だっけ? あーあー聞こえないです”の、誤魔化し方なんて最高!(笑)。作詞のプロとして尊敬するのはもちろんですが、言葉遊びがとっても巧みな方なんですよね。

――悠木さんと遣り取りを経てこの歌詞を作り上げたのかと思いました。

悠木 いえ、もうこのままいただきました。私のこと理解しすぎでしょー(笑)。本当に素敵ですし、私も作詞させてもらうことあるのですが、こういう歌詞を書いてみたいなと思いました。憧れる言葉遊びですね。技術があってこそできるふざけ方が詰まっている。本当にプロだと思います。“クラクラしちゃうこのクライシス ラクラクに変える そんな逆転劇”なんて、音としても楽しいですし、意味も途中から逆転させてしまう面白さもあるし、“海千山千 抜かりありません”は韻の踏み方含めて、様式美もしっかり残されているのが、言葉を扱う職業の人間としてはすごく嬉しいポイントです。

――曲についての印象はいかがでしたか?

悠木 「おっしゃれ~」と。それに乗せつつ語りも入っていて、とっても可愛いなと思いました。この作品のオープニング曲として合いそうだし、女の子がたくさん出てきて、おしゃれにシュールに画が動いてくれそうだなというイメージが湧いた曲でした。おしゃれなジャズの方向もありつつ、アニソンとしての良さもある。最近はジャンル分けができない曲が次々と生まれていますが、そのうちのひとつだなと思いながら聴いた覚えがあります。

――冒頭のナレーション部分から驚かされる楽曲ですが、ここはどのぐらい自由度があったんですか?

悠木 尺的なことで言うと、いただいたときから仮歌の方がナレーションも入れてくれていました。楽曲全体にフランス語のようなスウィングを出していこうという話になり、それに合わせた風味をナレーション箇所でも出しています。最初、制作サイドの方はこの曲を元気な感じで歌うイメージを持たれていて、私もそうしようかなと一瞬考えたのですが、これをそのまま真面目に元気に歌ってしまうとキャラソンらしさが強く出てしまうかなと思ったし、それにこれはアズサの視点かというとそうでもないかなと思ったりもしたので、この曲には別の主人公が見えた方が良いという話になり、フランス語風になりました。私はフランス語喋れないのですが、意味が分からなくても音として楽しむことはできるし、それは日本語でも同じで、耳にしたときの気持ちよさや楽しさって、絶対にあるなと思って。リスナーの方は必ずしも歌詞カードを読みながら聴くとは限らないので、なんとなく聴いても楽しいと思えるのはとても重要なポイント。とくにこの曲のテーマは「フワッと暮らしてね」なので、リスニング環境的な意味でもそこに寄り添えたらなと思いました。「よくわからないけど、耳がくすぐったい」みたいな。歌詞でも遊んでいただいていますし、音の意味でも私の表現を乗せられたらと思いました。

――声色についてはどのように考えられましたか?

悠木 フワッと、半分寝かかってるみたいな感じになったらいいなと思いました。この曲の主人公は何かを訴えたくて歌ってるわけではないので、サボりたいと思わせる声にしようと考えました。アズサはけっこうしっかりしていて、私の地声に近い感じでと言われていましたので、そこは明確に分けています。この曲の主人公は語尾が全部投げっぱなしみたいな感じになればいいなと思って作っていって、この声の形になりました。

――こんなに力抜いた悠木さんの声は初めて聴きました。

悠木 そうですよね(笑)。腹筋を使ったら負けだと思って。我々は腹から声出してナンボの世界ですから、その難しさたるや(笑)。全身の筋肉をなるべく使わずに、なんなら喉すら使わずにベッドで寝ていたい感じを出すという。それも表現のひとつとしてアリだなと思って歌っていて、結果出来上がった音源を聴いたら可愛い感じになって良かったです。レコーディングも最初の元気に歌ったパターンと、腹筋を使わずに歌ったパターンを録って、「ぐだふわ」感があるのはやはりこっちですよねと、方針が決まってからはさほどテイクは重ねませんでした。こういうのってやっぱりインスピレーションですから、最初に出たものが結果的に一番良くて、ツルッと通しで歌う感じでした。

――このぐだふわっとした声から、マンガ表現でいう口がふわふわっと呆けた感じが思い浮かびました。

悠木 わかります、そういうイメージ(笑)。この曲の主人公が起き上がっているさまが一切思い浮かばない感じで、寝言みたいなイメージになったらいいなと思いました。これも、すっごく真面目に協議して作ったんですよ? 「このほうがいわゆる、“ぐだふわ”という言葉に近いのではないか」みたいな打ち合わせをして、いろんな項目を検討し見識を集めた結果、「また真面目にふざけてしまった……」と(笑)。私もここまで色々な歌をうたわせてもらってきましたが、また新たな楽曲が生まれた感覚があります。このアプローチができたときに、すごく私らしいなと思いました。今までの自分にはないチャレンジをしたいという意識は常にあって、そのとき良いなと思ったことを色々とトライするので、まったく想定していないものが出来上がったりすることも含めて、そこが私っぽいなと思いました。先ほどの寝言っぽさも、チームの中から「たとえばですが、寝言みたいに歌うのはどうでしょう?」という話が出て、それを採用したんです。そういう提案ができるのも私たちらしさだなと思います。

――最初におっしゃっていた、「基本的には走っていたい」という言葉と、新たなアプローチを思いついたら試したいというお話は通じるものがあるなと思いました。

悠木 やっぱり、トライして失敗するよりもしなかった後悔のほうが大きいと思うんです。失敗は失敗としてひとつの答えが出るけれども、しなかったら何も答えが出ないで終わってしまいますから。でも、この曲では火傷してまでルートを無理やり選択する必要はありませんよっていうことを提示しています(笑)。

――「ぐだふわエブリデー」はミュージックビデオもとても個性的です。切り抜き画像をコマ撮りしたような映像になっていますが、撮影模様を教えてください。

悠木 絵本っぽくしてくださいとお願いしていたので、それをこういうコントのような感じで、スローで動くという演出にしてくださったのが、とても面白かったです。撮影は「お散歩してください」、「魔法をかけてください」、「右側にひしゃくを出してください」みたいに細かい指示をいただいて、短い動作を撮影して動画の間のコマを抜くことで、こうした演出に仕上がっています。ガイコツマイクも私から提案させていただいて、こういうちょっと毒っけのある可愛い塩梅がやっぱり好きだなと思いながら観させていただきました。デザインもとても可愛くて味をしめました。とても気に入っているので、またどこかでこの手法を使おうと思っています(笑)。

――MVとジャケットで使用されている衣装についての感想をお聞かせください。

悠木 本編との繋がりという意味で、魔女成分もあったほうがアズサの要素を拾ってあげられたらいいなと思って、魔女だけれどもおばあちゃん方向ではないという意味で、おしゃれなオトナ魔女みたいな感じでとお願いをしました。重要なのはファンタジックにしすぎないこと。半分コスチューム感みたいな感じがあるほうが絵も描きやすいし、ファンの方も喜ぶだろうし私もそういうデザインが好きなので、この人がここで生活してる感じが微妙にある感じでお願いをしました。作っていただいた方もそれに応えてくれて、不思議な花やアクセサリーを付けてくれて世界観を出してくれて、私もとてもグッときました。

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