2019年5月にシングル「約束のOverture」でメジャーデビュー。アーティストとしてのスタートを切った声優・土岐隼一。その後、クリスマスコンセプトシングル「Party Jacker」を発売し、アーティストとして精力的に活動を展開してきた。そんな土岐の久々のリリースは初のミニアルバム『True Gazer』。そこにあるのは土岐の心象風景として流れてきた“ルーツミュージック”。幼い頃から意識せずとも触れ続けてきた60年代~70年代サウンドにインスパイアされて制作された楽曲の数々から、彼の心の奥が見えてくる。流れているとついウキウキしてしまう、そんな空気を継承した、2020年版「土岐隼一流オールディーズ」が堪能できる今作について話を聞いた。
――デビューから1年とちょっと。アーティストとして活動してきた日々はどんな時間でしたか?
土岐隼一 去年の年末に「1年どうだったか」と聞かれたときに、「すごく密度の濃い1年だった」みたいなことをいろんなところでお話ししましたが、その密度の濃さが未だに続いているという感覚かもしれません。アーティスト活動について言えば。今までにやったことのないことをすごくたくさんやらせてもらいました。一人でMVを撮ったり、歌をうたったり、パフォーマンスしたり、いろんなところにお呼びいただいてお話をしたり。それこそ出演しているゲ-ムやアニメなどの作品に紐づいたところでお話をさせていただいたことはたくさんあったんですけれど、こんなにも自分のことを見つめて自分自身のことをお話しすることはアーティスト活動をしていなければなかなかなかったことなので、自分というものへの価値観がまたいろいろと変わった1年かなと思います。
――キャラクターソングもいろいろと歌ってこられてきた土岐さんが、この期間は同時に“土岐隼一”としての歌も届けてこられた。ご自身の音楽とは。どのようなものだと感じられましたか?
土岐 やっぱりいろいろな意味で色が濃いのかなと思います。僕個人の趣味として、ひと癖もふた癖もある曲の方が好みなんですね。そんな自分の好みも反映されている楽曲だな、と感じます。王道のものにプラスして、例えば「約束のOverture」だったらフォルクローレ調だったり、「Party Jacker」もビックバンドでのスィング調だったり。今回リリースするミニアルバムに収録した曲でいえば、最近の音楽のトレンドも取り入れていますが、どこか懐かしさのある70年代音楽の雰囲気の、独特な色のついた楽曲になったなと思います。僕自身、今まで歌ってきた楽曲が大好きなので、そういった楽曲が土岐隼一の音楽のカラーなのかなって思います。
――でもキャラソンでタイプも様々な楽曲を歌ってこられると「こういう曲も歌いたいな」「こんな雰囲気もいいな」という欲も出てきそうですよね。
土岐 普段から僕は一つのジャンルの音楽が好き、ということではなく、わりと幅広く聴いているんです。このアーティストの曲ならこの曲が好き、この作品の曲はこれが好き、というように。いろいろなところをいいとこ取りして楽しんでいるところがあるので、歌いたくないものはないなと特に最近は強く思っているんです。キャラソンとしていろんなタイプの楽曲を歌わせていただいていますが、その中でも「こういう曲って普段は聴かないな」という楽曲との出会いもあるんです。それこそ『Paradox Live』というコンテンツの悪漢奴等の楽曲なんて、嫌いではないけれど歌ったことのないタイプの曲。だけど歌ってみるとこれが案外楽しくて、皆さんからも「すごくかっこいい!」というお声をいただきもしました。そういう経緯もあって、様々なタイプの曲を歌ってもいいんだろうなぁって思ったんです。僕は食わず嫌いをせず、「これをやってみない?」と言われれば「やりまーす!」って元気に応えちゃうような人間なので、今後もなんでもトライしていきたいです。
――キャラクターとして歌うのと、土岐隼一として歌うこと。そこに違いはありますか?
土岐 全然違うなって思います。技術的なものはもちろん違いはありますが、どちらが難しいかということではなく、表現の出てくる場所が違いますね。キャラクターソングだと、そのキャラクターがどういう気持ちでこの歌をうたっているのだろう、というものが間接的なフィルターとしてあるので。アーティストとして歌に向き合うときには、よりダイレクトに僕自身が投影される。だからこそ最初はソワソワしました。どう歌うことが正解なのか、どうしたらみんながかっこいいと思ってくれるんだろう、ということを「約束のOverture」のときにはすごく考えていたんですが、今はそこまで深くは気にしなくなりました。
――そんな中、ミニアルバム『True Gazer』が完成しました。作品の制作への経緯と、ご自身の中でどのようなテーマで作っていこうと思われたのかを教えてください。
土岐 このアルバムのコンセプトを決めようとスタッフと集まったのが今年の始めだったのですが、その時点でいろいろなアイディアが出てきていたんです。J-POPっぽい感じで、とか。ハードめなロックでクールな感じを出したい、とか。いろいろなパターンがお話の中では出ていたのですが、僕が昔の洋楽が好きだということをディレクターさんが記憶していてくれて、「今回は土岐さんの心象風景にある音楽と、今のトレンドの楽曲の雰囲気をミックスさせてみましょう」と着地させてくださったんです。今の人たちにも伝わるけれどちょっと懐かしさのある楽曲にしましょう、ということで大きなテーマが決まりました。僕たちの世代は、(仲村)宗悟くんとか西山(宏太朗)くんとか、音楽活動をされている役者さんも多いですし、それはすごく素敵なことだと思ってもいるんです。いつかレーベルを超えて共演できたらいいね、なんて話もしたりして。その中で、それぞれその人らしい音楽性を出して活動していけたらいいなって思えたんです。そこで、僕の個性ってなんだろう、と考えて。たくさん好きな音楽はあるけれど、ちょっと昔の雰囲気は僕にしか出せないカラーなのかなと思い至ったときに、その個性を深めて広げて作ることで一風変わったアルバムにはなるかもしれないけれど、僕らしいものになるんじゃないかと感じたんです。そこで、そういうミクスチャーの楽曲でいきましょうとなりました。
――60年代~70年代ミュージックのどういったところに魅力を感じていらしたのでしょうか。
土岐 人生の中で最も耳に入ってきた音楽なんです。僕の30年の人生の中でも、多分、子供の頃がいちばん音楽をたくさん聴いていた時期ではないかと思っていて。しかもそれは父親をはじめ家族の影響がとても強いんです。僕の家族は出かけるとき車で移動することが多かったんですが、車中で流れていた音楽は100%洋楽だったんです。サーモン&ガーファンクルとかママス&パパスとかイーグルス、ビートルズ……物心つく前から自然と耳に入ってきて、親が自営業でやっていたお店で学校帰りに宿題をしていると店内のBGMとして聴こえてきたり、学校が終わって家に帰れば夕飯のあとに父親が趣味でギターを弾きながら歌っていたのも聴いていたり。ことあるごとに耳にしていたのは洋楽だったんです。だから、高校になってようやく日本の音楽に出会っていったんです。スキマスイッチさんやポルノグラフィティさんを好きになっていろいろと聴くようになったのはそこからです。そう考えれば、人生の中でどんな音楽を聴いてきたかを円グラフにすることが出来たら、そのほとんどの部分が洋楽なんじゃないかと思うくらいなんです。当たり前のように洋楽に触れる子供時代を過ごしていたからこそ、魅力云々ではなく、もはや生活の中に当たり前にあるものでした。
――オールディーズを念頭に置いての制作となった今作ですが、歌詞の多くはRUCCAさんが書かれています。「こうしたい」というようなお話はされたのでしょうか。
土岐 世の中の状況的にも直接お会いすることはなかなかできなかったのですが、曲が出来上がると、その曲をどういう歌詞にしたいかをスタッフさんと僕とですり合わせて、それをRUCCAさんへとお渡しすると素敵な歌詞が出来上がってくるんです。それをいただきつつ「ここはもうちょっとこうしたいです」とまたイメージのすり合わせをしながら進めていきました。楽曲も含めて、イメージを体現するまでに長く時間を要したアルバムだなぁ、と今となっては思います。
――長かった?
土岐 楽曲の雰囲気をどうしようか、という話し合いやすり合わせをしていた期間が3ヵ月くらいありました。イメージを体現することに時間をしっかり使ってくださったので、歌収録についてはあっという間でしたね。ただ世界観については本当に時間を掛けて作ってくださったので、歌うことはスムーズに進みましたね。
――時間を掛けて作ったという今作は非常にバラエティに富んだ収録曲で構成されています。聴いていると気持ちが明るくなる印象のある1枚だなと感じます。
土岐 それもコンセプトの一つとしてあったんです。僕のルーツミュージックを題材とした作品を作ろうとなって、次に「その中でもどんな曲にしていこうか」という話になったときが、3月くらいだったんですね。もう日本がいろんなことがままならない状況になっていて、やりたいことが出来ないような時期で。多分ここからどんどん我慢しなければいけない状況になっていくだろうことが見えていたので、このアルバムに関してだけはもう、どこまでも明るい、底抜けに楽しさを伝えられる作品にしたいと伝えたんです。このアルバムを聴くと、なにも考えずとも明るくなれるような曲をたくさん入れたい、という想いのもとで楽曲を制作させていただきました。だから、このアルバムから元気を受け取ってくれる方がたくさんいてくださったら嬉しいなって思います。
――せっかくなので収録曲を解説していただきたいと思います!まずは「True Gazer」を。
土岐 最初に収録することが決まって、さらには表題曲にしようとなった曲です。この曲に関しては具体的なオーダーをしていまして。今までお届けしてきた僕の楽曲は全部、イントロがある曲ばかりだったんです。スィングからはじまる「Party Jacker」に、フォルクローレの世界が広がっていく「約束のOverture」と、イントロで曲のイメージを膨らませていって僕の歌が続いていくスタイルの曲が多かったんですが、1曲くらい僕の歌から入る曲があったらいいなぁって思ったんです。”頭サビ”と呼ばれる楽曲があれば、ライブでも盛り上がれて楽しいんだろうなってことはアルバムの制作に入る前からなんとなく思っていたんです。その僕の想いと、聴いたみんなが明るくなれる楽曲、というコンセプトが合致するなと思いお願いしました。僕の想いを汲みながら本当にこだわりを持って作っていただいた表題曲で。実は歌詞についても、最初の1ワード目からこだわっていて。収録する3日前くらいまで最初のところは別の歌詞だったんです。最終稿としていただいたときにもとてもいい歌詞だと思ったんですが、表題曲であり、僕の第一声から始まる歌でもあったので、せっかくだから1ワード目ですべてを表現できる歌詞にできないでしょうか、とRUCCAさんにご相談して。そうしたらすぐに「これでどうでしょう」といただいた歌詞は冒頭が“衝動のまま”となっていて。この言葉だけで楽曲の意味が伝わると思うんです。自分の心の赴くままに全力で楽しもうぜ!と表現してくださって。僕自身もテンションをあげて収録に臨むことができました。
――続いて「Adolescence」はいかがでしたか?
土岐 曲をいただいてすぐに気にいったのと同時に青春感を感じたんです。でも僕にとってはもう青春と呼ばれる時代は過ぎている。それなら今、青春の中にいる世代の子たちへ向けてのメッセージソングにしたい、とお願いした結果の歌詞になっています。若い頃の無茶って大人になると笑い話になりますよね。「あの頃、こんなバカをしていたよね」って。でもいざ当事者となると、大人は笑っているけれど「こっちは笑ってなんていられないんだよ」ってことがすごくたくさんあったと思うんです。親や先輩に相談しても笑って済まされるようなこと。その頃にしかできない経験は大人になると楽しかった思い出として残るものだから、その一瞬を存分に楽しんで!という僕の想いが歌詞の言葉に詰まっています。
――そして「Mr.Innocence」です。なんとこちらは歌詞が英語!
土岐 僕の好きだったイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」をオマージュした曲です。往年の名曲ですが、その曲と現代の楽曲とがシンクロしたナンバーになりました。最初は日本語の歌詞だったんですが、「この曲なら英語詞の方がいいね」というスタッフの鶴の一声でRUCCAさんの歌詞を英語にして歌わせていただきました。子供の頃は洋楽を聴いていて、英語であることはわかるけど言葉として意味はわかっていなかったんですよね。でも当時から英語の言葉が楽器の一つとなって楽曲の中に入り込んでいて、それも含めて一つの曲になっていると感じるんです。この歌詞もいろいろな情景は浮かぶけれど、そこまで大きなメッセージ性を宿しているわけではないんです。でもその音の流れが気持ち良さに、という子供時代に洋楽を聴いていた頃のことを思い出しました。
――4曲目は「明日の在処」です。
土岐 作っているときに「こういう曲もほしいな」って思ってオーダーしました。僕はレッド・ツェッペリンの「天国への階段」という曲が大好きで、つま弾かれるギターから始まって音色が増えていきながら壮大な雰囲気で終わる、そんな曲がほしくて作っていただきました。楽曲をいただいて、本当にこの曲が大好きになってしまって。レコーディングの前段階のプリプロのときに言葉の一つひとつにニュアンスを込めて歌ったら重々しくなってしまったんです。だからこそこの曲については日本語を崩すように、生まれて初めてルーズに歌ってみようと挑戦させてもらいました。歌い方も、やってみたいと思う表現に挑戦できて、すごく嬉しかったです。
――そしてこのミニアルバムの最後を飾る「KEY」です。
土岐 みんなに元気を届けたい、明るく楽しく聴いてほしい、というテーマのあるミニアルバムなので、最初と最後には明るい楽曲を収録しようと思っていたので、出会ったときから「この曲を歌いたい」と思わせてもらった1曲です。最初を飾っている「True Gazer」と共に語気が強い言葉でメッセージ性も強い歌詞ですが、楽曲の煌めきがあるからこそ強すぎずに響くんです。そこが素敵だなと思っています。
――今の時代性というか、こういった世界情勢の中だからこそ出てきた言葉なような印象があります。
土岐 正直、この作品を作っていく中でどんどん世界の雰囲気がいい方向にいっていないような感覚があったからこそ、今の状況でも楽しめることだってあるんだよって伝えたかった。ただ下を向いているだけじゃなく、前を向いたら見える景色もあるよって歌で届けたかったんです。生きているとそんな場面ってたくさんある。僕にはそういう信念があって。やってみたら意外と楽しいものだよって思うことが多いんです。そういう想いをこの曲に乗せられたらなって思っていたので、そんな想いも受け取ってもらえたら嬉しいです。
――そのミニアルバム『True Gazer』が完成した今。この作品からどんな土岐隼一が伝わると思いますか?
土岐 『約束のOverture』も『Party Jacker』も僕の大好きな音楽ですが、今回の『True Gazer』も同じくらい僕の心象風景にある楽曲たちになるので、また新しい「僕の好きなもの」を披露できた、すごくいい機会だったと思います。
――そんな『True Gazer』ですが、先日配信で開催されたバースデーイベントの中で表題曲「True Gazer」のMVが披露されていました。非常に楽しそうな土岐さんの姿が散りばめられたMVですが、撮影はいかがでしたか?
土岐 クラシックなミニクーパーをお借りしての撮影だったのですが、あの車、マニュアル車だったので、運転するのも最初はすごく怖かったんです(笑)。路上教習的なことを駐車場でしました。朝の時間帯だったのでそれほど車はいなかったんですが、エンストしないか心配で緊張しました。でも乗っていくうちに段々楽しめる余裕も出てきました。
――ミニアルバムの良さが伝わるMVでした。そのミニアルバム『True Gazer』を引っ提げてのリリースイベントも楽しみですが、9月26日開催の“LisOeuf♪ Party 2020”へのご出演が決定しました。ぜひ意気込みをお願いします。
土岐 出演メンバーを見れば、僕としてはただただ楽しいメンバーです。豊永さんがいて、宗悟もいて。はじめましてになると緊張して縮こまってしまうタイプなのですが、普段からご一緒させていただいている皆様と共演させていただけるので、僕も全力で楽しみたいと思っています。そこで感じている、僕の「楽しい!」を見ているみんなにも伝えられるように全力で頑張ります!
――では最後に『True Gazer』を楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いします。
土岐 デビューしてからこんなにすぐにミニアルバムまでリリースさせてもらえるなんて思ってもみなかったですが、発売を迎えられて嬉しく思っています。今までにない土岐隼一のイメージに繋がる楽曲が詰まった、色の濃いアルバムになっていますが、これもまた僕の大好きな音楽観として皆様み受け入れていただけたらなと思っております。僕の大好きが詰まった『True Gazer』をよろしくお願い致します。
INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち
●リリース情報
土岐隼一1stミニアルバム
『True Gazer』
9月16日発売
【初回限定盤(CD+DVD)】
品番:PCCG.01937
価格:¥2,900+税
仕様:三方背ケース、特製ブックレット、豪華フォトブック他
<DVD>
「True Gazer」Music Video、「True Gazer」 Jacket Making
【通常盤(CD ONLY)】
品番:PCCG.01938
価格:¥2,000+税
仕様:特製ブックレット
【きゃにめ限定盤】
品番:SCCG.00054
価格:¥3,200+税
仕様:三方背ケース、特製ブックレット、豪華フォトブック他
<DVD>
「True Gazer」Music Video、「True Gazer」 Jacket &Music Video Making
※仕様、特典などは予告なく変更になる場合がございます。
<CD>
1. True Gazer
作詞:RUCCA 作曲:本多友紀(Arte Refact) 編曲:脇眞富(Arte Refact)
2. Adolescence
作詞:RUCCA 作曲/編曲:原田篤(Arte Refact)
3. Mr. Innocence
作詞:RUCCA,三谷秀甫 作曲/編曲:三谷秀甫
4. 明日の在処
作詞:RUCCA 作曲/編曲:加藤冴人
5. KEY
作詞:RUCCA 作曲/編曲:森本 練
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