アーティスト活動10周年を迎えた鹿乃が、みずからの活動の集大成盤としてアルバム『yuafen』が完成した。「yuafen」とは、「縁、ゆかり。運命の糸で繋がれた仲。」という意味を持つ。資料には、「ある一人の主人公の女の子(鹿乃であり鹿乃ではない)が「縁」の積み重ねで生きてきた・生きている人生を物語のように描く」と記されていた。その真相を、彼女の言葉を通して紐解こう。
──鹿乃さんは今年の1月6日で活動10周年を迎えました。最近、ご自身でも「10周年を振り返る」機会が増えているとお聞きしました。
鹿乃 いろいろと振り返りながら……。普通は10年活動を続けていると貫祿がつけば、後輩を……みたいな印象があるのかもしれないですけど、でも10年って、10歳ということですよね。10歳なら、まだまだわがままを言える年齢と思ったので、今は「浮かんだ想いを実践するためにも、いろいろわがままを言ってチャレンジをしていこう」という気持ちでもいます。
――鹿乃さんのように、10年経っても「こうしていきたい」願望がいろいろと生まれては膨らんでゆく姿勢って素敵だなと思います。
鹿乃 10年経ってもまだまだ自分自身を音楽で表現しきれてないなという想いが強くあるように、いろいろ出来るとも思っています。じつは昨年、事務所の方に「辞めようと思ってる」という話もしたくらい、先のことについてあれこれ悩む時期があって。きっかけは、「これから先、わたしは何を目標に歌っていけば良いんだろう」という、目標や目的が見えなくなったことからでした。たとえ求めたいほどの結果を導き出せなくても、物事がうまくいかなくても、嫌なことがあっても、それでも頑張ってこれたのって、わたしのために尽くしてくれる人たちへの「恩を返したい」気持ちが強くあったからなんです。そうやって進んできたなか、ある目的をやり遂げたあとに、この先どうしたら良いのかがわからなくなっちゃって……。
――気持ちの矛先の向け方が見えなくなってしまったんですね。
鹿乃 そうなんです。それと同時に、自分の不甲斐なさに腹立つことも多かったんです。それこそ、わたしが今活動をしているメジャーって、けっして遊び場じゃない。結果や成果を通して、いろんな人たちを支えてゆく責任の一端をわたしも担っているわけじゃないですか。だからこそ、自分のふがいなさに腹が立つことがすごく多くって……。その不甲斐なさから、「自分は何のために歌っているんだろう?」といろいろ悩んだりして、10周年を前に「辞めようかな」と思ったのですが……歌って、わたし自身が好きでやっていることだからこそ辞めたくない気持ちが強いし、「もし辞めるんだったらわがままの限りを尽くしてからにしよう」という気持ちにもなっていました。それこそ、今まで「いい子」にしてきたんだから、これからはわがままになってもいいから、自分のやりたい音楽をやるだけやってみよう。やらずに後悔するよりは、やって後悔するなり満足したほうがいいなと思って。そこから、「祝10周年鹿乃わがまま化計画」を始めようと思いました。
――─鹿乃さんの音楽や表現に惹かれた人たちがどんどん増えたからこそ、メジャーからオフォーもかかり、今の形になったわけですよね。実際、今でも国内はもちろん、中国を中心にアジアでは莫大な支持を広げ続けています。なのに、自分の未来に影を覚えてしまうことも鹿乃さん自身の中にはあったんだ。
鹿乃 そうなんです。いちばんは、まわりへではなく自分自身に対しての不満。「今のままで本当にいいのかな」「なんとなく『いい曲だね』『好きだな』と思ってもらえるのではなく、自分が本気で伝えたいものをちゃんと伝えられる歌手にならないと駄目だな」と思って。わたしはまだまだ自分のことを「歌手」だとは思えなくて。誰かの希望になれたときに、初めて歌手になれるとも思っています。
――そこは、今でも十分達成しているんじゃないですか?
鹿乃 わたし自身は、まだまだそこには到達出来ていないなと思ってて……。だから今は、歌手になるのがわたしの夢です。
――鹿乃さん自身、自分の心と向き合いながら歌を綴ることも多いのでしょうか?
鹿乃 そうですね。とくに今回のアルバム『yuanfen』は、「もしかしたらこれで最期かも」という想いと、「それでも音楽を続けていきたい」気持ちを交錯しながら作った作品。歌詞も泥臭かったりするように、想いの強い作品ですからね。
――まさにアルバム『yuanfen』は、自分自身と向き合った作品なんですね。
鹿乃 そうなんです。「これから先も音楽を続ける」と決めたときに、「今までのような何となくふんわりした状態で音楽活動を続けても、10年は続かない」と思って。そこから、「自分のやりたい目標をちゃんと掲げよう」と思いました。目標が無いまま走り続けるのって、わたし自身はすごく怖いこと。なんとなくで続けてしまうと、作曲家の方やスタッフさん、応援してくれる方々にも申し訳なさがすごくあって……。
――アルバムのタイトルに『yuanfen』と名付けたように、最新アルバムは「縁」を軸にして制作を始めたわけですけど。それは自分以外の人たちはもちろん、ご自身に向けてという意味もあったのでしょうか?
鹿乃 ありましたね。自分にも向けてるし、聞いてくれてる人たちにも向けています。普通なら、相手に弱い部分を見せるのって怖いじゃないですか。野生では、弱ってるところを見せられたら殺されるように、これまではその恐怖を本能的に隠し持っていたんですけど。アルバム『yuanfen』では、それさえも乗り越えて表現出来たなと思っています。
――鹿乃さん自身、コンプレックスをプラスのバネに変えていく性格なんですね。
鹿乃 そうですね。コンプレックスをコンプレックスのままにしておくなら、どうせ苦しむなら、その苦しみさえプラスに変えて音楽へ表現したほうがいいなと思っています。
――アルバム『yuanfen』には、いろんな「あなた」が登場します。それが誰なのかが気になったんですよね。良ければ収録した全楽曲の解説をお願い出来ますか。1曲目は、MVも制作した「午前0時の無力な神様」になります。
鹿乃 ファンから見たらアーティストは神様に見えれば、アーティスト側から見たらお客さまは神様のように尊い存在のように、お互いがお互いを特別視しあっている関係なんですね。同時に、お互いが同じ一人の人間として頑張りあっている。どちらの視点からの歌なのかは、聴いた方一人ひとりにお任せしますけど。「午前0時の無力な神様」は、ちっちゃな世界で頑張っている神様が神様に話しかけているイメージで歌詞を書きました。わたしの視点から語るなら、「みんなへのお手紙としてこの歌や、このアルバムを作りました」という意味でも記しています。
――2曲目は、夢を追い求める人にエールを送る「光れ」になります。
鹿乃 才能があるないの話って何処の世界でもあると思うんですけど。歌の世界で才能があるかと言われたら、自分は「ない」と思ってて。でも、「才能がない中でも頑張りたい」というか、「それでも歌が好きだから続けたい」と思ったときに生まれたのが「光れ」になります。ちょっと泥臭い歌ですけど。タイトルも自分へ向けて「光れ」という意味で付けています。
――3曲目は「yours」になりますが、中に出てくる「あなた」が誰なのかも気になりました。
鹿乃 「yours」は、テーマが「腐れ縁」。この歌を普通に聴くと、「恋人にはなれないけど、友達以上」みたいな関係なのかなって捉えられるんですけど。自分の視点から語るなら、「いっつもわたしのことを「好き」と言ってくれてるけど、たくさんいるアーティストの中の一人としてだよね」「「好き」の一番に、わたしはなれないんだね」「きっと、「わたしだけ好きでいて欲しい」と言ったら困っちゃうよね」という想いを歌詞に詰め込みました。
――4曲目に付けた「KILIG」というタイトル。この言葉には、どんな意味が?
鹿乃 「KILIG」は、「お腹の中で蝶が舞っているようなロマンチックな気持ち」という意味を持つフィリピンの言葉。「KILIG」では初恋というか、本当の恋をしたときの堪らない気持ちを歌にしています。わたし自身は、「音楽に恋してます」と解釈をして歌詞を書きました。中へ季節を表すSeptemberという歌詞を記したのも、「この音楽が欲しい」気持ちになり、初めて自分でお金を溜めて買ったCDが9月だったことからなのも伝えておきます。
――5曲目の「聞いて」は、ファンに向けた言葉ですか?
鹿乃 自分自身であり、ファンへ向けての想いを記しています。歌声の印象もあるのか、鹿乃自身にも綺麗なイメージを持たれることが多いんですけど。ぜんぜんそんなんじゃなくて、みんなと同じように…。むしろ、みんなよりも深く悩んでいるかも知れないという想いや、「あなた」は「わたし」であり「わたし」は「あなた」であるように同じなんだよということを、ファンに向けてストレートに書きました。
――続いては、ドラマの一場面を切り取ったようロマンチックな「漫ろ雨」にあります。
鹿乃 「漫ろ雨」は誰かしら対照がいるわけではないのですが、でも、相手をイメージして歌詞を書いています。何かをしなければ何も、誰とも繋がらない。何かをしたら、それが良縁なのか悪縁なのかはわからないけど、でも何かが変わっていくよという「縁が生まれる瞬間」を描けたらと思って書きました。聴きながら、映画のワンシーンのように感じていただけたら嬉しいです。
――「おかえり」は、愛犬に向けての歌ですよね。
鹿乃 そうです。わたしと同じようにペットを飼っている方はもちろん、家族もそうですけど、「ただいま」「お帰り」って言える関係っすごく素敵だなと思ってて。それを「犬とわたし」という関係の中へ書きました。この歌は、わたしの亡くなった愛犬へ向けて送った曲です。
――痛い言葉を詰め込み、激しい表情で伝えた「罰と罰」は、聴いてて嬉しい衝撃でした。
鹿乃 優しい表情を持った「おかえり」の後に、激しい「罰と罰」が来る並びもすごいですよね。「罰と罰」は「悪縁」をテーマに書いています。「悪縁」って、すべては「嫉妬」や「執着」など必要以上の期待から生まれてしまうもの。そういう縁に巻き込まれると自分もどんどん良くない方向へ行ってしまうからこそ、なんとかしてそういうものを切ろうとしている感情を書きました。
――本編最期は「エンディングノート」になります。
鹿乃 アルバム用に楽曲を作ってくださった田中秀和さんから、楽曲を作るうえであらかじめ、「1曲目から9曲目まで、それぞれこういう意図を持って、こういう曲を作ります」という想いをテキストベースでいただきました。本編最後となる9曲目には、「エンディングへ向かっていくけど、終わりたくない気持ちを表現したいと思ってます」と書かれていたことから、そこからイメージを膨らませ始めたときに、「わたしにとってのエンディングとは、わたしが音楽を辞めるとき。そのときが鹿乃として死ぬときだな」と思いました。そこから遺言ではないですけど、ファンの人たちなどわたしのことを好きでいてくれた人たちへ向けた歌として歌詞を書きました。エンディングノート自体、「自分が亡くなったあとに見てね」というのを生きているうちから用意するもののように、わたしも、鹿乃を辞める前から書いて用意をしました。
――10周年を迎える時期にアルバム『yuanfen』を作りあげたことで、鹿乃さん自身の中でも大きな手応えをつかめたんじゃないですか?
鹿乃 大きいですね、このアルバムが出来なかったら本当にアーティスト活動を辞めていたんじゃないかなと思っています。むしろこのアルバムが、今後の自分の支えになっていくような。アルバム「yuanfen」を作ったことが自信に繋がるじゃないですけど、「出来る」と言える希望を手に出来た作品になっています。
――これからも鹿乃さんの中には、歌ってゆく気持ちはずっとあり続けるものですよね。
鹿乃 ありますね。今回のアルバム制作を通して、今まで鹿乃という存在を形作ってくださったファンやスタッフの方々の大切さを思い返し、初心に戻れたというか。それと、「もういいや、わがまま言おう」「「駄目だ」と言われたら「駄目じゃないです」と言えばいいや」と気持ちが吹っ切れたのも大きかったかもしれないです。
――「いい子」の顔を取り外したことで、鹿乃さん自身がさらに無邪気になれたような?
鹿乃 歌に、より人間味が出た感じがします。「もうここまで出しちゃったんだから」と吹っ切れた感じがしています。だからこそ今は、自分がやりたい音楽をやらせていただける環境をもらえる限りは、わがままな自分を出しながらやっていこうと思っています。
――10周年にまつわる活動はいつまで続くのでしょうか?
鹿乃 1月6日が活動記念日なんですけど。来年の1月6日までは事あるごとに「10周年」と言い続けようかなと思っています。その先駆けとして出したのが、このアルバム『yuanfen』だと受け止めてください。今は、バーチャルな身体も出来たように、それを活かした活動もネットを軸にしていけたらなと思っています。
――最期に、完成したアルバム『yuanfen』、今の鹿乃さんにとってどんな1枚になったのか改めて聞かせてください。
鹿乃 自分にとって本当に特別というか……うまくいかないなと思ったとき、このアルバムを聴くことで「大丈夫、わたし音楽出来たじゃん」と希望を持てる、これからの道標的なアルバムになったと思います。
Interview & Text By 長澤智典
●生配信日時
2020年3月29日 19:00~(日本時間)/18:00~(北京時間)
INSPIX LIVE:24コイン
ニコニコ動画 ネットチケット販売価格(税込価格):2,000ニコニコポイント(2,000円)
※視聴URL、ネットチケット販売URLは別途鹿乃公式HPにて公開いたします。
bilibili動画 ネットチケット販売価格:100元
※視聴URL、ネットチケット販売URLは別途鹿乃公式HPにて公開いたします。
●リリース情報
鹿乃 NEW ALBUM
『yuanfen』
発売中
【初回限定盤】
品番:TECI-1675
価格:¥3,818+税
<DVD>
ミュージックビデオ「午前0時の無力な神様」
【通常盤】
品番:TECI-1676
価格:¥3,000+税
<CD>
01.午前0時の無力な神様
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:Aire
02.光れ
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:Nor
03.yours
作詞:鹿乃 作曲・編曲:田中秀和(MONACA)
04.KILIG
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:ハヤシベトモノリ
05.聴いて
作詞:鹿乃 作曲・編曲:田中秀和(MONACA)
06.漫ろ雨
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:曽我淳一
07.おかえり
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:Oliver Good(MONACA)
08.罰と罰
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:佐高陵平(Hifumi,inc.)
09.エンディングノート
作詞:鹿乃 作曲:田中秀和(MONACA) 編曲:sugarbeans
bonus track
光の道標
作詞:こだまさおり 作曲:山田高弘 編曲:齋藤真也
●イベント情報
リリースイベント
バーチャル特典お渡し会
東京 3月7日 15:00 土 アニメイト池袋テンポラリーストア
東京 3月8日 12:00 日 タワーレコード渋谷店
東京 3月15日 12:00 日 とらのあな秋葉原店C
大阪 3月21日 15:00 土 ソフマップなんば店
大阪 3月21日 19:00 土 ゲーマーズなんば店
名古屋 3月22日 14:00 日 とらのあな名古屋店
名古屋 3月22日 18:00 日 アニメイト名古屋
東京 3月28日 12:00 土 ソフマップAKIBA④号店アミューズメント館
東京 3月28日 15:00 土 アニメイト秋葉原
<鹿乃プロフィール>
2010年にネット上でアーティスト活動をスタートさせ、2015年にメジャーデビュー。
メジャーデビュー後は様々なアニメ主題歌を担当しながら、これまでに5枚のシングルと4枚のアルバムをリリース。その人気は国内に留まらず、アジア圏特に中国ではbilibili動画の登録者が80万人を超え、絶大な人気を誇っている。今年でアーティスト活動10周年を迎える。
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