今春に行われたnano.RIPEのワンマンツアー“nano.RIPE TOUR 2019 「ゆうきのきのみ」”は、バンドにとって大きな意味を持つ公演となった。このツアーは、2018年8月に急逝した元メンバーの青山友樹(ドラムス)を偲んで企画されたもの。そのため、青山の在籍時代に活動を共にしたアベノブユキ(ベース)を今回限りのサポートとして迎え、セットリストもアベと青山がバンドのリズムセクションを担っていた時代の楽曲を中心に構成。当時のライブの雰囲気に近づけることで、青山との思い出をファンと一緒に懐かしみ、そして全力で楽しむ――それがかつてのバンド仲間に対する最高の手向けだと考えたのだろう。そんなツアーの幕開けを飾った、5月3日の東京・恵比寿LIQUIDROOM公演をレポートする。
nano.RIPEが恵比寿LIQUIDROOMでワンマンライブを実施するのは、2014年のツアー“ハナアカリ”以来のこと。そのときは青山がバンドに加入してちょうど1周年を迎えた頃だった。会場いっぱいに詰めかけたファンの中には、きっとそのライブを生で観ていた人も多くいただろうし、あるいは青山が在籍していた時代のライブを知らない人もいたことだろう。そのように人によって思い出の度合いや分量は変わるものだが、そんなことは関係なく、観る者をただただ興奮させ、音楽の渦に引き込んでくれるのが、nano.RIPEというバンドのライブだ。
バンドのツアーでは恒例となっている、きみコ(ボーカル/ギター)による朗読風のナレーションを加えたツアーオリジナルのSEが流れ出し、その締めくくりとなる彼女の「この夜を君に捧ぐ」という言葉を合図に、まずササキジュン(ギター)、アベノブユキ(ベース)、そして青山の代わりにこの日のサポートを務めた菅間 匠(ドラムス)がステージに登場。一拍置いてきみコが現れ、大きく手を上げて歓声に応える。ライブは「きせつの町」でスタート。シングル「なないろびより」(2013年)のカップリングに収められ、TVアニメ『のんのんびより』のOPテーマ候補として制作された晴れやかなロックチューンだ(結果は「なないろびより」がOPテーマになった)。
そこから挨拶もそこそこに「ウェンディ」「うつくしい世界」と懐かしいナンバーを続けて披露する彼ら。特に後者ではフロアから盛大なコールと手拍子が巻き起こり、アベもフリーキーな演奏で盛り上げる。MCできみコは「この3曲で何となく雰囲気はわかったんじゃないかと。あまり休ませる気はありません」と断言し、メンバーを含む誰もが楽しそうな笑顔を浮かべた「なないろびより」、アベがテクニカルなスラップベースで見せ場を作った「マリンスノー」と続けていく。さらに近年のヒット曲「アザレア」でアグレッシブに攻め、彼らのライブには欠かせないアップチューン「面影ワープ」へ。ギターとベースの2人はステージ狭しと暴れまわるように動き、落ちサビの“本当は少し怖くて触れなかったカブトムシ”では定番の大合唱が起こる。
2年半ぶりにnano.RIPEのライブに参加したアベは「圧がすごい。この感じ久々っすね」と、観客の熱すぎる反応を絶賛。ササキはアベと青山のnano.RIPEでのラストライブとなった2016年の公演“スーパーノヴァ”でテンションが上がってアベの服を脱がせたことに触れ、今回のツアー中のどこかで再びアベの服を脱がせたい、という密かな抱負を語る。きみコも青山との思い出を語るも、いざ思い返してみると、ライブのことよりも、何かを食べていたり飲んでいる姿ばかりが思い浮かぶと語って会場を沸かせる。
バンドはシングルコレクション『シアワセのクツ』(2015年)に新曲として収録された「地球に針」を挿み、きみコの「青山友樹といちばん最初に演奏した曲を」との言葉に続けて「ハロー」を披露。天に届けるように高らかと歌い上げるきみコの歌声に聴き入る人も多く、特に終盤の“会いたくなったらココにいるよ 泣きたくなったらココにいるよ”というフレーズは胸に刺さった。さらにストリングスの音がエモーショナルな雰囲気を増幅するバラード「ポラリス」では、結成21年目を迎えたnano.RIPEからバンドを支えてきてくれたすべての人に向けての感謝の気持ちを歌にして届ける。
中盤戦はエッジーに突き進む「モラトリアム」で幕を開け、そこからアベの「細かいことを言うつもりはひとつもありません。君たち、行けますか?」という煽りを挿み、彼らのファンクラブの名前にも冠されているインディーズ時代からの定番曲「ノクチルカ」へ。フロアを瞬く間に熱狂させると、さらにタオル回しが恒例となっている「リアルワールド」を畳みかけ、会場は天井知らずの盛り上がりを見せる。そこからスペーシーな音響で月面を歩くような浮遊感を演出した「アポロ」を演奏すると、今度はTVアニメ『花咲くいろは』前期OPテーマだった「ハナノイロ」を投入。きみコはマイクをフロアに向けたりと、その場にいるみんなで大合唱状態だ。
続くMCできみコは、食べることが大好きだった青山のために、今回のツアーを「友樹の分まで食べるツアー」にすることを宣言。2015年の47都道府県ツアー“47.186”時に青山が自主的に行っていた、各地で食べたものをツイッター上で紹介するハッシュタグ「どんグル」を復活させると語った(実際に「#どんグル」で検索すると見ることができる)。そして「今の僕らの思いをすべて詰め込んだ」(きみコ)という、事前にツイッターで公開していた新曲「声鳴文」を披露。タフで力強さを感じさせるストレートなロックチューンで、「ウォーオー」というみんなで歌えるパートも盛り込まれており、早くもライブのアンセム曲となりそうな予感だ。
そしてライブはいよいよ終盤戦。きみコは「届けるところが遠いよ、今日は。いつもの何倍も声を出していきましょう!」と檄を飛ばし、のっけからフルスロットルな「めまい」でパンキッシュに迫ると、続いて文字通り柵越え上等の「サクゴエ」で会場のボルテージをさらに引き上げられた。そこからこれまたライブの必殺曲「ツマビクヒトリ」へと繋げ、フロアはこれ以上はないと思えるほどに熱狂。ササキとアベが互いに向き合っておでこをぶつけながら演奏する場面も見られた。
そして最新アルバム『ピッパラの樹の下で』(2018年)から歌われたのは「ステム」。熱く猛るような演奏に乗せて、生きる意味、歌い続ける意味を朗々と歌い上げるきみコ。“別れるために出会ったことを 出会うために別れたことを”という歌詞は、20年以上にも及ぶバンドの歴史の中で数々の出会いと別れを繰り返してきた彼らの、それでも前に進むという固い意志を言葉にしたものだろうが、青山に捧げたこのライブにおいては、さらに大きな意味を持って耳に飛び込んでくる。
きみコは『ピッパラの樹の下で』について「図らずもと言いますか、そこで歌っていることが、すごく今の自分たちと重なる、予言のような歌がたくさんになってしまったと思うんだけど、それは捉え方ひとつなのかなとも思って」と説明(『ピッパラの樹の下で』は青山の訃報が届く前に完成していた)。「昔の曲も今歌うと全然違う風に自分の心に届いたりして、多分それが変わっていくということだと思うんだけど、でも変わらないでほしいこともやっぱりあって。だけど受け入れなくてはいけない現実を、受け入れて、乗り越えて、進まなくては……そんな気持ちを込めて今回のこのツアーを組みました」と、このツアーを企画した意図を明かす。
そしてきみコは「47都道府県ツアーを思い浮かべて歌います」と語り、この日のライブの最後の曲「有色透明」へ。この曲は、きみコ、ササキ、アベ、青山の4人で、186日かけて47都道府県を回ったバンド史上最長のツアー“47.186”において、各公演のラストで歌われたナンバーだ。ギターを置いてハンドマイクを握ったきみコは、ゆったりと、しかし力強く前に進むような演奏に乗せて、伸びやかな歌声を会場いっぱいに広げる。終盤の“ココロにも色があるんだよ ぼくらにも色があるんだよ”とリフレインする箇所では、フロアを左右に分けて合唱し合い、最後は全員で大合唱。十人十色、様々な人の歌声が重なり合い、七色の虹よりも色彩豊かで美しい景色を描き出す。「受け入れたくない現実は山ほどあるけど、nano.RIPEはまだまだ続くから、またライブハウスで会いましょう」、きみコは最後にそう言い残して、ライブ本編を締めくくった。
アンコールを受けて再度ステージに上がった彼らは、まず青山が好きだったという煌びやかで推進力のあるギターロック「ルミナリ―」をパフォーマンス。青山を含む4人編成で制作した最後のアルバム『スペースエコー』(2016年)に収められていたナンバーだ。そしてきみコが「友樹が繋いでくれたnano.RIPEの21年目が始まって、ボクらは楽しくやってるよ、というのをこのツアーで見せて、ボクらはボクらでもう少し先まで歩いていくから、ということを伝えられたら」と心境を語り、この日のライブ当日に配信リリースされた新曲「アイシー」へ。ゆったりとしたテンポの演奏がどこか寂しい気持ちを高めるなか、きみコは切実な表情を浮かべながら歌を紡いでいく。歌詞の最後の一節“それでも会いたい人がいる たった一人だけ”と、その後の悲痛な願いとも取れるようなシャウトが聴衆の胸を打つ。
その後、きみコが「まだまだ続くけど、いつか終わりは来るものだということを、改めて感じるツアーになりそうだと思います。今日は本当にありがとうございました」と挨拶し、今度こそ本当に最後のナンバーとして歌われたのは「終末のローグ」。アルバム『スペースエコー』のラストに収録されていた楽曲で、“進め 終わりへ”で締めくくられる歌詞は、いつか終わりが訪れるその日まで全力で活動を続けていくという、バンドとしての決意表明にも捉えられる。かつてのバンド仲間との別れをしっかりと受け止め、彼と共に作り上げてきた音楽を引き連れて、これからもまっすぐ前を向いて歩く決意を示したnano.RIPE。その姿に大きな「ゆうき」をもらった一夜だった。
Text By 北野 創(リスアニ!)
nano.RIPE TOUR 2019 「ゆうきのきのみ」
5月3日(金・祝)東京・恵比寿LIQUIDROOM
<セットリスト>
M01. きせつの町
M02. ウェンディ
M03. うつくしい世界
M04. なないろびより
M05. マリンスノー
M06. アザレア
M07. 面影ワープ
M08. 地球に針
M09. ハロー
M10. ポラリス
M11. モラトリウム
M12. ノクチルカ
M13. リアルワールド
M14. アポロ
M15. ハナノイロ
M16. 声鳴文
M17. めまい
M18. サクゴエ
M19. ツマビクヒトリ
M20. ステム
M21. 有色透明
EN01. ルミナリ―
EN02. アイシー
EN03. 終末のローグ
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