TVアニメ『ピアノの森』劇伴担当・富貴晴美インタビュー

「自分が気に入った作品に巡り合うとグッズを買いに行ったり、サントラを買いに行ったり。家にBlu-rayも大量にあって。洋画も邦画もTVドラマも好きなんですがアニメも好きで、区別なく観ていたのでアニメーションの仕事ができることをずっと願っていました」(富貴)

『ピアノの森』はそんな富貴にとって念願の仕事だったが、その劇伴楽曲の数々を集めたオリジナル・サウンドトラックがリリースされた。自身も幼少期からピアノを続けてきたという作曲家が『ピアノの森』ではどのように楽曲を手がけていったのだろうか。自身を大きく成長させた、ふたつの課題とは?

――『ピアノの森』の音楽に関してはどのような要望があったのでしょうか?

富貴晴美 まず、ピアノを使わない、あるいは使ったとしてもメインに鳴るのは違う楽器という前提のもと、全編通しての方向性としては映画音楽的なアプローチで、アニメーションで使われるような音楽は欲していないということを最初に言われました。

――アニメーションと映画で使われる音楽にはどのような違いがあるのでしょうか?

富貴 アニメーションのほうが音数が多いですね。楽曲としても成り立つような音楽で世界観を埋めている気がします。映画音楽はむしろ楽曲だけを聴いても何が何だかわからないというか、隙間が抜けてしまっています。だから、映画音楽のサントラを出すのは怖いですね。映画の中では成り立っても音楽としてはどうなのかな、聴いた人が満足するのか。そこが大きな違いかな、と思います。特に映画の場合、できた映像にリンクさせた音楽を作っていくので、台詞があるところは音を飛ばすんですよ。(テンポを示す)クリック(音)に合わせて音楽を作っているんですが、そのテンポが60だとしても、台詞とアクセントが重なるときは「ワン、ツーーー、スリフォ」みたいにセリフとぶつからないようにします。だから、曲としては揺れ揺れだったり、隙間が空いていたりするんですね。曲をかっこよくしたいなら、もっとガンガン行くべきところでもいきなりストップさせるとか。特に日本の映画はそうですが、そうやって台詞をすごく大事にしていると思います。

――『ピアノの森』はその方向性で音楽を作っていったということですね。

富貴 そうですね。なので必要最低限の音だけをチョイスし、それで世界を作れたら、という思いでした。

――実写の場合は情報量が多いので音楽で作品世界を広げる必要はないかわりに、アニメは舞台となる世界を音楽でも広げていくような、というお話を聞いたことがあります。

富貴 そのとおりだと思います。なので少し音が増えるというか、世界を強く打ち出してあげるような音楽にしています。劇伴は、作品の方向性を示すというか、「こういうドラマなんだよ」という部分をふわっと大きな世界観で包み込む仕事だと思っているので。だから、そこを外さないように台本や絵コンテはいつも何百回と読みます。作り手は「言いたいことが伝わったらいいな」と思っているので、それを音楽でも表現できたら、という考えですね。

――ピアノの代わりとしてはどのような楽器が選ばれていますか?

富貴 アイリッシュフルートだったりアコーディオンだったりフィドルだったり、ケルト音楽の楽器を入れています。それによって「森」と「ヨーロッパ」をリンクさせる世界を作れたら、と思いました。

――慣れ親しんだピアノをメイン楽器としない曲を作るのは難しかったですか?

富貴 勉強になりました。「あえて使わない」と言われることは今までなかったので。むしろ、オーケストラサウンドを作る中にも入れ込むなど、何も気にせず使ってきたところがありましたので、「今までピアノでやっていたことをどう別の楽器に担わせるか」というところで世界が広がったと思います。例えば、ピアノでよく速いパッセージをやりますが、そこをストリングスで演奏するとか、本来ピアノでやるところをハープで補ってもらうとか。ただ、楽しかったですね。

――「ピアノってこういう楽器なんだ」という発見もありましたか?

富貴 そうですね。ピアノっていちばん安易な楽器でもありますね。どのシーンにも合う楽器なので。だから、ピアノを使わないということはすごくチャレンジャーで、安易さがなくなるというか。だから、「泣かせる」とか「しんみりさせる」という一つひとつに本気で取り組み、最初からイメージをがつんと感じながら書いていく、という形になっていきました。寂しいシーンだったら、ピアノでポン、ポンと弾いたらもう出来上がってしまうんですよ。でも、木管でやってみて「本当に悲しくなるのかな」と考えるとか、木管とストリングスを合わせて一音一音ピアノのように持っていくとか。

――習慣で作ってきたところも意識的に作る必要がありましたね。

富貴 なので、『ピアノの森』の世界観は繊細に作られていると思います。あと、曲のキーを転調させないというのがもうひとつの課題としてありました。これもすごく意味のある言葉でしたね。ものすごく勉強になったので。元々そんなに転調するタイプではなかったんですが、まったくしないとなると、ひとつの足かせになるので。

――転調を使わないことで作曲がどのように変わったと感じていますか?

富貴 そうですね、盛り上げるためのプロセスがすごく……。

――重要?

富貴 そう。重要になってくるのは感じました。こうゆっくりと進んできてから(転調で)「行け!」と盛り上げるところがなくなるので、じわじわと上に向かうようにどんどんと仕掛けていくとか。そのために、音数を増やしたり、楽器を増やしたり、対位法的な手法を練り込んでいったり、そういう技能を使いました。でも、技能だけに走ると感情がついていかないというのはいつもすごく感じてもいるんです。音楽的には最高にかっこいい、バッハみたいに「天才か、私?」と思うような楽曲を作ったとき、実際に映像と合わせてみると悪目立ちしてしまうことがあります。涙を流すところで音楽が邪魔してしまったら、劇伴の作曲家として失格なので、音楽とシーンを合わせてみて自分がまず泣けるか、ということをやっていました。うれしいシーンなら喜べるかどうか、客観的に毎回確認するようにしてますね。ピアノや転調という安易な方法をすべて外されたことで、40、50と楽曲を書いていくなかで無駄な曲がない(音楽メニューの)出し方をしてくれたと思います。

――現在アニメは第2シリーズの放映中ですが、第1シリーズと比べてどのような音楽になっていますか?

富貴 第2シリーズは「葛藤」のシーンが多いと感じていて、ピアノを弾いているところは音楽をつけようがないので劇伴としては、コンクールが終わった審議のシーンか、プライベートになったところになるんですが、ひたすらみんなが思いをしゃべっているんですね。

――ピアノ曲が流れる演奏中も「葛藤」しているくらいですからね、モノローグで。

富貴 でも劇伴音楽を作る身としては少し難しくて。先週も演奏シーンの審査員を見ていて、「よくこんな言葉が出てくるなあ」「こんな表現は私には出てこない」と思っていたくらいなんですが(笑)、なので審議のシーンではミニマルっぽい音楽をかけるとか、邪魔にならなくてちょっと嫌な感じがする曲とか、どっちに向かうかわからないような曲をかなり作りました。

――第1シリーズはピアノが燃えるとか非常にドラマチックで。

富貴 ドラマチックでしたよね(笑)。

――それに比べてたしかに第2シリーズは会話劇で話が進んでいくところがあります。登場人物は違えども同じ会話劇、というところでどう差をつけましたか?

富貴 そこも結構難しかったですね。審議のシーンに関して言えば、誰を推したいかという審査員たちの思惑がありますから、淡々とした中にも少し不協和音を入れ込むとかしています。なので、地味な音楽だとしてもストーリーをつけ、少し長めに書いています。音響監督の長崎(行男)さんがシーンに結構長く曲をつけてくださるので、「シーンが切り替わって次のシーンになってもまたげるかな」という希望を持って作っていました(笑)。

――では、あくまで楽曲はシーンベースで? キャラクター別にイメージは作ることはせず?

富貴 そうですね。シーンベースで、審査員と記者の戦いとか、審査員同士のやり取りとか、そういう感じでした。その意味でも、シーンに合わせる映画的な作りでした。第1シリーズのときはカイが自由奔放で、修平は規則の中で黙々とやってきて……という性格の違いをつけていましたが。

――自分の音楽がついているシーンで、印象に残っている箇所はありますか?

富貴 やっぱりピアノが燃えるシーンだと思います。自分もそこは力を込めて書きましたし、実際に映像として観たときにすごく引き込まれました。音楽をかなり激しくしていたので、「激しすぎたかな」と心配になっていたんですが、映像も迫力があったので、やってよかったと思いました。なので何回も見返しました。でも、子供の頃のシーンに音楽をつけるのも楽しかったですよ。明るくて結構ふざけたような音楽で。あとは、光が差す美しい森でメロディが流れるところはすごく印象的で美しくて、実写映画を超えたんじゃないかとは思っています。

――『ピアノの森』でのメニュー出しはいかがでしたか? 『ピアノの森』が初めてのTVアニメーション仕事でしたが。

富貴 絵コンテをもらえたのでわかりやすかったです。連ドラの場合は台本が上がってこないこともありますし、指示も「喜び1」「-2」「-3」「-4」、「哀しみ」「-2」「-3」「-4」という事もあるので、今回は映画のようでした。タイトルを見るだけでどこのシーンかわかるし、シーンの説明もしっかり書いてあるし、「なんて親切なんだろう」と思いました(笑)。

――意外なシーンに使われていた、という曲はありましたか?

富貴 サントラCDの13曲目にある「洗礼」という曲は、カイが子どもの頃、ガキ大将が出てくるシーンのために作ったんですが、いろいろなところで使われていましたね。ガキ大将はいなくてもコミカルなシーンで流れていて、笑っちゃいますね。私の中ではどうしてもガキ大将の顔が浮かんでしまうので。

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