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INTERVIEW

2019.03.23

TVアニメ『ピアノの森』劇伴担当・富貴晴美インタビュー

TVアニメ『ピアノの森』劇伴担当・富貴晴美インタビュー

――『ピアノの森』ではショパンの存在が大きな役割を果たしています。ピアニストたちにとってショパンはどういう魅力があるのか、ピアニストでもある富貴さんにその魅力を教えていただきたいのですが。

富貴 ショパンは「ピアノの詩人」とも言われていて、メロディックで美しい曲が多いとよく聞きますが、ピアニストにとっては弾きやすい、手が喜ぶ曲ばかりでもあるんです。すごいパッセージで下りてくるところも手がそう回るように書いてありますね。リストは手が大きいこともあって、私なんかは速いパッセージだと手が届かなくて、やりたくてもごまかすしかないところもありますが、ショパンは手が小さかったので。誰が弾いても手が喜ぶという点ではいちばんだと思います。リストやベートーベン、ブラームスは喜ぶという感じはしないんですが。自分もずっとショパンを演奏してきましたが、演奏者がいちばん楽しんでいるんじゃないかと思える曲が多いんですね。見る人より踊っている人の方が楽しい「祭り」みたいな。だから、ピアニストがみんな好きと話すのも分かります。逆にショパンは、オーケストラ曲や管弦楽が苦手だと言われていて、交響曲がないとか、ピアノ協奏曲も誰かの編曲が入っているとか。なかなかそういう、ピアノに特化した人はいないですね。

――ピアニストも審査員も、出てくる登場人物たちのショパンに対する愛を感じます。

富貴 本当に好きだと思いますよ。音大でも友達が5、6人集まってショパン会とかやっていました。手が喜ぶというのもあるし、音の和声の組み方もすごく豊かなので。だから、ピアノがまだ上手ではない子供たちや、ピアノを始めたばかりの人もショパンの曲を弾くとうまく聴こえるかもしれない、と学生のときに思いました。私も「あれ?上手くなった?」って思えました。でもそのあとにリストを弾くとやっぱり下手で(笑)。だからショパンは特別だと思いますね、ピアノを弾く人にとって。ショパンといえばピアノです。

――だから、ショパン国際コンクールはピアニストにとって大きな存在なんですね。ポーランドの人たちの盛り上がりもすごくて。

富貴 「Nasza Polska(我々のポーランド)」って言ってましたね。

――富貴さんは『ピアノの森』を読んで、どこに惹かれましたか?

富貴 私は音大時代に読んだんですが、阿字野先生とカイの関係が羨ましかったですね。家族みたいな、父と息子みたいな。自分にも仲が良くて尊敬もしている先生がいて、先生の持っているものをすべて学びたいとは思っていましたが、なかなか追いつけないし、(カイと阿字野のように)あそこまで踏み込んではいけませんでした。どうしても、自分が勉強して、それを先生が見て受け答えしていく、という形だったので、ひとつの目標に向かって突き進む同志みたいな関係が羨ましいとはずっと思っていました。でも、ピアニストはそういうところが強いですね。コンクールに向けてすごく有名な先生と一丸になって、というところがあります。私も、(2000年優勝者の)李雲迪とか、ガラ・コンサートはいつも観に行くくらいにショパン・コンクールが大好きなんですが、TVでやっている特集を見ていると本当に先生と二人三脚だと思います。フィギュアスケートのコーチとスケーターみたいに。そういう先生にめぐり会えたということ自体、強運の持ち主なんでしょうね。私は今、母校の国立音楽大学で作曲を教えていますが、講義だけなので1対1の個人レッスンはしていないんです。でも、教えるのは大好きなのでいつか作曲についてできたらいいなと思っています。

――子供にピアノを教えたいという気持ちはありますか?

富貴 実は大学の4年間ずっと、近所の子供たちにピアノをレッスンしていました。最後の頃は生徒が10人くらいいて、発表会もしましたよ。やっぱりどんどんうまくなっていくのを見るのは楽しかったですね。阿字野先生も同じ気持ちだったんだろうな、とは感じます。成長して、自分を追い抜いていく瞬間を味わうことは指導者にとっていちばんうれしいことですよね。私はそこまでいかなかったんですが。みんな、(レッスン中に)お菓子を食べてたり(笑)。

――『ピアノの森』にも様々な先生が登場します。教える側でもある富貴さんはどのように読み取られていましたか?

富貴 そうですね。最近思うのは、最低限の理論やノウハウは教えられても、その人が作り上げる音楽までを教えるのは難しいということですね。メロディを作るというのはやっぱり一人ひとりの才能なので、大成できるかどうかはその先です。阿字野先生が修平とカイの両方を教えたとしても、きっと最終形は違ってきますよね。それは、やっぱり音楽って内面に持っているものが出てくるからで、それを聴衆がどう感じるのかというところもあると思います。ショパン・コンクールも多分、1位、2位、3位の人は全員上手くて、あとはその演奏を審査員が好きか嫌いか、どういう解釈が好きか嫌いかという話になってくると思います。なので、先生もある程度教えた先は任せるしかないんじゃないかな。どの世界もそうかもしれないですが。

――その意味で阿字野は教えるのがうまいというか、距離感がいいですよね。

富貴 クールですよね

――一流のピアニストたちが弾く、作中に登場するキャラクターのピアノパートについても感想を聞かせてもらえますか?

富貴 すごく合ってますよね。演奏が素晴らしいうえに、ピアニストたちが役になり切っているというか、実際に演じられるんじゃないか、って思えてきます。

――ピアニストたちによる実写版が作れてしまいそうな?

富貴 本当に!(笑)。実写版を作ったとしたら彼らにかなう人はいないでしょう。

――それくらい音楽がしっくり来ているということですね。

富貴 アニメを観ている感覚じゃないんですね。私もですが、音楽をやってきた人はドキドキ、ワクワクして聴いているんじゃないかな。アニメというよりもコンサートを聴きにきた感覚でした。

――すごくうまいピアニストがいたとしても、ひとりが弾き分けるよりもリアルですか?

富貴 そう思います。やっぱりひとりだと限度があるので。曲が難しいものばかりだと自分の癖がどこかしらに出てくると思うんですね。やっぱり違う奏者が演奏していることで、よりコンクールを観ているような感覚というか、「ショパン・コンクールもきっとこんな感じだな」って思います。『ピアノの森』(のアニメ)はすごく力が入っていますね。

――改めてですが、『ピアノの森』の劇伴作業はいかがでしたか?

富貴 楽しかったですね。私にとってアニメの劇伴は楽しいしかなかったです。

――作っていていちばん楽しかった楽曲というと?

富貴 第2シリーズでは「ショパン国際ピアノコンクール」という大きなテーマを描いた曲が。第1シリーズではやっぱりピアノが燃えるところは楽しかったですね。

――楽しかったんですね?(笑)。

富貴 楽しかったです!ずっとピアノを弾いてきましたが、そんなドラマチックな経験をすることは生涯ないですよね(笑)。だから、燃えているシーンを思い浮かべるだけでドキドキしていました。よく海辺でピアノを弾くシーンが映画やドラマで出てきますが、そういうかっこいいシーンを想像していたので、音楽も負けない、支えられるような曲にしたいと思いました。それから、カイの小学生時代の曲「ヤツらに捧げるバラード」も面白かったです。

――原作の一色まことさんが作詞し、いじめられっ子の大貴役である小林由美子さんが歌いました。

富貴 タコとかバカとかいうセリフにつけるのが面白かったし、小学生の彼らになりきって作りました(笑)。絵コンテを見ながら作っていたんですが、絵コンテが素晴らしかったので目を閉じるだけで映像が見えてきて、まさに映画を作っている感覚でしたね。どういう風に動いていくんだろうっていうのは頭の中で見えるので。

――富貴さんにとって初のTVアニメ仕事は楽しくて仕方なかったみたいですね。

富貴 アニメが大好きだったんですよ。だから、アニメの音楽を作りたいと願っていたんですがなかなかチャンスがなくて……。やっといただいたお話が『ピアノの森』だったんです。しかも、私は大学生のときに初めて世に出る仕事をしたんですが、それが『ゼロの使い魔』のキャラソンで、その曲をコンペで選んでくれたのが(『ピアノの森』の音楽プロデューサーの)澁谷(知子)さんなんです。初めて仕事をご一緒した人が10年たって声をかけてくれたのが『ピアノの森』で、私の中では奇跡的な出来事でした。それに『ゼロの使い魔』のときの澁谷さんとのお仕事が楽しいイメージしかなくて、再会できてうれしかったです。まさに「魔法使い」な存在ですね。なので、私にとって『ピアノの森』は「アニメの仕事をできた」という大きな一歩でもあります。本当に半ば諦めていましたから。(アニメ関係者の)知り合いもいないし。親戚に誰かいないかな、とも思ったり(笑)。でも、うれしかったというよりもとにかく楽しかったですね。一生心に残る作品になりました。感謝しかないです。

――アニメーションの仕事を熱望していたというのは意外でした。ドラマや映画の劇伴は多くされているので。

富貴 そうなんです。仕事にしようするとこんなにも縁がないものなのかと思いました。ドラマと映画の仕事ができるようになっても、アニメは手の届かない「格の高いもの」でしたね。でも、『ピアノの森』をやったら学生たちもすごく喜んでくれて。やっぱり音大なのでみんな観ているんですよ。授業のときに「観てね」と言っても「もう観てるよ」って言われるくらい。大河ドラマの『西郷どん』をやったときよりもみんながワーってなりましたね。「先生、天才!」って(笑)。音大生にとっては特別なんだと思います。

――こういうアニメ作品をやってみたいという願いはありますか?

富貴 激しい戦闘ものもやってみたいですね。でも、『ピアノの森』や、あと(『ピアノの森』第1シリーズのあとに手がけた)『ツルネ -風舞高校弓道部-』もピアノや弓道といったひとつの目標に向かって頑張る姿を描いていて、自分に置き換えることができたので楽しかったです。特に『ピアノの森』は自分が生きてきた世界を見ている感じでしたし。

――では、激しい戦闘物も、夢を叶える系も次々とアニメーション仕事ができるのが目標ですね。

富貴 そうですね。腕を磨かないと(笑)。

Interview & Text By 清水耕司(セブンデイズウォー)


●リリース情報
TVアニメ「ピアノの森」音楽集
音楽:富貴晴美
3月20日発売

品番:COCX-40745-6
価格:¥3,500+税

<DISC-1>
1.海へ(ピアノ演奏/一ノ瀬 海)
2.ピアノの森
3.月明かり
4.阿字野が待つ場所へ
5.カイと修平
6.決意
7.森の妖精
8.お前の敵はお前
9.葛藤
10.喜びと哀しみと
11.燃えるピアノ
12.運命の始まり
13.洗礼
14.森の端の天使
15.攻防戦
16.栄光と挫折
17.ピアノを教わる気はない!
18.森の端なんか大嫌い
19.ライバル
20.負けたくない
21.便所姫
22.モーツァルトたちとの戦
23.一番のピアノ
24.同士との別れ
25.雨に濡れたピアノ
26.天才と秀才
27.逆転の栄光
28.外の世界へ
29.本気でピアノがやりたい!
30.スランプ
31.推薦状
32.いざ勝負
33.ワルシャワへ
34.記者とピアニスト
35.動揺
36.ショパンの森
37.交響曲第9番 ホ短調 作品95「新世界より」4楽章(アレンジ・バージョン)
38.帰る場所があるということ(TVサイズ)(歌/悠木碧 TVアニメ「ピアノの森」第1シリーズエンディングテーマ)

<DISC-2>
1.ショパン国際ピアノコンクール
2.結果発表
3.厳正なる審査
4.アダムスキの教え
5.夢と闘志
6.パン・ウェイの過去
7.代理戦争
8.ピアノの魂がつながる
9.父の動揺
10.エミリア
11.ハンドドクター
12.安心できる場所
13.審査員の思惑
14.かすかな望み
15.運命の駆け引き
16.勝者と敗者
17.焼け焦げた鍵盤
18.ショッキングな速報
19.果てしなく広いポーランドの平野
20.レフの挑発
21.心晴れやかに
22.ピアノの子
23.緊張の真っ只中
24.集中
25.自問自答
26.親心
27.走馬灯
28.阿字野と洋一郎
29.心理的な抑圧
30.最終結果
31.そして…
32.友情のハミング
33.ヤツらに捧げるバラード(歌/大貴[CV:小林由美子])
34.Sto lat
35.はじまりの場所(TVサイズ)(歌/村川梨衣 TVアニメ「ピアノの森」第2シリーズエンディングテーマ)

© 一色まこと・講談社/ピアノの森アニメパートナーズ

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