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INTERVIEW

2018.10.27

豊崎愛生が初のカバーアルバム『AT living』をリリース!時代を超えて愛される11曲を集めた今作に込めた想いとは?

豊崎愛生が初のカバーアルバム『AT living』をリリース!時代を超えて愛される11曲を集めた今作に込めた想いとは?

声優・アーティストとして活躍する豊崎愛生が、キャリア初のカバーアルバム『AT living』をリリースした。無類の音楽好きとして知られる彼女が今作で取り上げたのは、昭和の日本のポップスシーンを彩った名曲の数々。はっぴいえんどの「風をあつめて」や荒井由実「卒業写真」、大滝詠一「君は天然色」、ザ・フォーク・クルセダーズ「悲しくてやりきれない」、かぐや姫「なごり雪」、RCサクセション「雨あがりの夜空に」、そして自身がセレクトした高田渡「珈琲不演唱(コーヒーブルース)」など、時代を超えて愛され続けている11曲が、豊崎らしい柔らかな歌声と原曲へのリスペクトを感じさせるアレンジでカバーされている。本作に込めた想いについて、豊崎本人に話を聞いた。

――これまで多くの作品を発表してきた豊崎さんですが、ソロ音源でほかのアーティストの楽曲をカバーするのは今回が初となります。なぜこのタイミングでカバーアルバムを制作しようと思ったのですが?

豊崎愛生 私は去年にベストアルバム(『love your Best』)をリリースさせていただいたんですが、それがソロアーティストとしての第一シーズンの集大成という感覚があったんです。それでこれからのソロ活動では何をしていくかを考えたときに、前々からスタッフさんに「カバーをやってみたいよね」と言われていたことを思い出しまして。私はよくライブのことを〈散歩〉に例えて、お客さんと一緒に散歩する感じでゆっくり歩きながらソロ活動をやっていきたいと言ってるんですけど、今回はちょっと寄り道してみようかなという気持ちもあって、カバーアルバムを作ることにしたんです。

――ひと口にカバーアルバムと言っても、選曲はいろんなパターンが考えられると思いますが、今作は日本のポップスの名曲ばかりが並んでますね。

豊崎 今回は基本的には1970年代の昭和の大名曲をカバーさせていただくようにしました。実は打ち合わせのときもいろんな案が出て、みんなのアイデンティティのぶつかり合いみたいな状態になったんですけど(笑)、今回は古き良き日本のメッセージをしっかりと伝えたいということで固まりまして。

――なぜ、その年代の楽曲に絞ったのでしょうか?

豊崎 70年代は日本の音楽シーンが現代の音楽に向かって動き出した革命的な時代だと言われていて、本当にたくさんの名曲や巨匠レベルのアーティストが生まれたと思うんですよ。なかでも私は細野晴臣さんが大好きで、去年初めて直接お会いすることができたんですが(豊崎は2017年9月に細野のラジオ番組「Daisy Holiday!」にゲスト出演した)、私にとって神様みたいな存在の人と出会えたことでまた欲が生まれて、どんな形でもいいから大好きな細野さんの音楽と繋がりたいと思う気持ちが芽生えたんです。なので今回「どの曲をカバーしたい?」と聞かれたときに、真っ先に浮かんだのが「細野さんの曲の中から必ず1曲はカバーしたい」ということで。であれば細野さんのソロ曲よりも、ルーツを遡ってはっぴいえんどの曲にしようということになり、その年代に合わせて昭和の名曲をカバーすることになりました。アルバムの1曲目を(はっぴいえんどの)「風をあつめて」にしているのは、この曲がきっかけという意味もあります。

――昭和の名曲と言えば歌謡曲もありますが、今作のラインナップは歌謡曲ではなく、いわゆるニューミュージックと呼ばれるジャンルの楽曲を集めている印象です。

豊崎 おっしゃるとおりで、今回は歌謡曲ではなくて、アーティストご本人が作詞なり作曲なり演奏をしている、シンガーソングライター的な人の楽曲という縛りで選曲をさせていただきました。私自身のオリジナル曲が、デビューの頃からいろんなアーティストの方に曲を書いていただいてるので、カバーアルバムでもそういった部分を引き継ごうという話になったんです。

――『AT living』というタイトルも素敵ですね。

豊崎 ありがとうございます。自分の今までのオリジナルアルバムはすべて、名前の「愛」の字から取って〈Love〉という言葉をタイトルのどこかに組み込んできたんですけど、カバーアルバムでは「生きる」の字のほうをタイトルにしようと思ったんです。だから音の部分も含めて「暮らし」や「人生」ということをキーワードに作りましたし、今回の収録曲は私が普段リビングで鼻歌で歌っていた曲も多いので、「リビングで聴くような気持ちで聴いてね」という意味も込めてます。そこに「Aki Toyosaki」の頭文字の「AT」を付けてみました(笑)。

――それでジャケットもキッチンで撮られたんですね。

豊崎 ジャケットも生活の一部を感じさせるものにしたかったし、このCDのジャケットを手がけてくれているデザイナーさんとは、プライベートでもご飯を食べに行ったりする飲み友達みたいな関係でもあるのですが、前に「料理をモチーフにしたジャケットも楽しそうだよね」という話をしていたんです。それにカバー曲をレコーディングするなかで、昔の名曲をあえて今の音で全部録り直して、ボーカルも自分なりの解釈も混ぜつつ再構成していく作業が、お料理をしてる感覚にすごく似てると思ったので、「料理系のジャケットをやるなら今回だ!」と思いまして。まあ、自分の家はこんなオシャレなキッチンではないですけど(笑)。

――これは何の料理を作ってるところなんですか?

豊崎 大根の煮物です。

――めちゃくちゃ生活感があるじゃないですか(笑)。

豊崎 そこも昭和を意識しました。今回は私も歌いながら日本語の美しさを感じて感動する曲ばかりだったので、お団子とかほうれん草のおひたしとか、日本の美味しいものを押し出そうということで(笑)。私が作ってるっぽく写っていますが、実際はフードスタイリストさん綺麗に盛り付けていただいて、撮影した後はみんなでお昼ご飯にいただいたんです。実際においしくて、結構ハッピーな撮影でした(笑)。

――収録曲のうちご自身でセレクトした曲は?

豊崎 私は趣味がニッチなほうに行くタイプなので、今回歌わせていただいたアーティストの方の楽曲でも「本当はこの曲がいちばん好き!」みたいなものが全部にあるんです。細野さんが歌ったはっぴいえんどの曲なら、実は「暗闇坂むささび変化」が好きなんですけど……。

――かなり渋いチョイスですね。

豊崎 そうなんですよ。私の趣味で選ぶとすべてにおいてそうなってしまうので(笑)、もっとみんなが知っていて耳馴染みのある「ザ・定番曲」より多くの人の暮らしや人生に寄り添ってきた曲たちを、スタッフの皆さんと話し合いながら決めていきました。だから今回の選曲にはみんなの思いが詰まってるんです。ディレクターはユーミンが大好きなので「卒業写真」の音作りにはすごくシビアにこだわってましたし、プロデューサーは「吉田拓郎さんなら絶対『流星』がいい!」と言っていて(笑)。その中でいちばんラストの「珈琲不演唱」は、私が「どうしても高田渡さんの曲を1曲入れたい」とプレゼンして収録が決まった曲なんです。私は家でずっと渡さんの曲を聴いている時期があったぐらいなので、そういう意味でいちばん私の生活感が出ると思ったし、アレンジもギターのアルペジオと声だけにしてもらって、アットリビング感のある感じにしてもらいました。

――今作のアレンジはどの曲もオリジナル版を踏襲した作りになっていて、完コピに近いクオリティーです。

豊崎 ありがとうございます。今回は自分の名義の楽曲として新しい表現をするというよりも、私が原曲に感動してファンになったリスペクト感をしっかりと伝えたくて、全曲で完コピ感を大事にしました。私の中で歌詞と音は一体で、どちらかが変わると本来のメッセージが伝わらない気がするんです。だから原曲の良さをそのままにしつつ、私は声優なので自分の声や歌い方で曲のメッセージを伝えたいと言ったら、ディレクターやミュージシャンの皆さんがめちゃくちゃ音に凝り始めて(笑)。原曲を聴き込んだり、昔の文献やラジオ番組にまであたって、使ってるギターの弦の種類とか録音したスタジオ、音の録り方を調べてくださったんです。そうやって原曲を読み解いていく作業は音楽好きとしてすごく楽しかったんですけど、歌のアプローチや歌詞の解釈の仕方は普段のオリジナル曲とは全然違ったので、とても勉強になりつつ、ものすごく大変でした(笑)。原曲を理解して、なおかつ自分の声で表現しなくてはいけないし、下手したらカラオケCDみたいになってしまうので。

――今回歌った中でいちばん苦労した曲は?

豊崎 うまくいかないなと思う曲は、自分の声質に由来している部分がすごくあると思っていて。例えば、私はどう頑張っても(忌野)清志郎さんみたいな声とか清志郎さん節は出せないんです。だから(RCサクセションの)「雨あがりの夜空に」は苦労しましたし、技術的にすごく難しいと思ったのは(大滝詠一の)「君は天然色」ですね。大滝さんのベンドダウンしていくような歌い方もそうですけど、この曲は音と歌詞とボーカルが三位一体で完成していてすごく緻密なので、歌のニュアンスや語尾の伸ばし方まで全てに理由がある気がして。そういう意味で歌の全部がポイントになるので、頭が「うわー!」ってパンクしそうになりました(笑)。

――大滝さんのカバーと言えば、以前に『夏色キセキ』の挿入歌で「空飛ぶクジラ」を歌われていましたよね。

豊崎 そうなんです。あのときは(環)凛子として歌わせていただいたので、大滝さんの原曲を意識するというよりも、キャラクターのテンション重視で歌ったんですけど。

――では、逆に自分の声と上手くハマったと思う楽曲は?

豊崎 いちばん肩の力を抜いて自分らしく歌えたのは「珈琲不演唱」です。この曲は今回のアルバムのベースとなる部分を作る意図もあって、最初にレコーディングしたんですね。もともと弾き語りの曲なので音数も多いわけじゃないですし、自然体に歌えるかなということで。アルバムの最後に収録したのも、いろんな曲がある中でラストにふと自分自身に戻るというか、いちばんナチュラルなところに帰ってくるという感じにしたかったんです。今回のアルバムは料理というコンセプトもあったので、最後に「聴いてくれてありがとう。はい、食後のコーヒーです」というイメージもあって、ブックレットも私が料理を作っておもてなしをするという体になってますし、CDをパカッと外したら「どうぞ」という感じの手が載っていて、「召し上がれCD」になってます(笑)。

――ユーミンこと荒井由実(松任谷由実)の「卒業写真」も収録されてますが、豊崎さんはミュージックレインのオーディションを受けた際に、この曲を歌われたというお話も聞きました。

豊崎 そうなんです。私は19歳の時にオーディションを受けたんですけど、その頃の私は洋楽ばかり聴いてて流行りの音楽をあまり聴いてなかったので、オーディションで歌える曲がなくてお母さんに相談したんですよ。そしたらお母さんが曲を選んでくれることになって、一緒にカラオケに行ったんですけど、お母さんも自分が知ってる曲しか入れないので結局懐メロばかりになって(笑)。そのときに選んでくれたのが「卒業写真」で、すごく思い出深い曲なんです。母親とふたりでカラオケに行くなんて大人になってからはないですし、お母さんに「もっとかわいい声出ないの?」と言われながら何度も何度も「卒業写真」を歌ったりして(笑)、今思うと良い思い出ですね。

――そういえばブログに書かれてましたが、「雨あがりの夜空に」では何かの楽器でも参加してるんですよね?

豊崎 カーン!っていうやつをやりました(笑)。あの楽器はなんて言うんだっけ……あっ、ビブラスラップだ! 実は去年のスフィアのライブのときに、バンドメンバーからプレゼントでいろんな楽器をいただいたんですよ。オカリナとかコンガとかパフパフって鳴るやつとか。その中にビブラスラップもあったので、今回のレコーディングでは自前のものを使ってます。あの楽器原曲でも主張が激しいんですけど、このカバーではそれ以上に「私が叩きました、ドヤッ!」みたいなミックスになってるので、ぜひ聴いてください(笑)。

――今回、日本のポップスの名曲をたくさんカバーしてみて、歌手として得られたものや発見はありましたか。

豊崎 ありきたりかもしれないですけど、名曲というのは本当にパワーがあって、いつどこで聴いても色褪せないことを実感しました。70年代の楽曲と言うと50年近く前に作られたわけですけど、今聴いても新しいチャレンジがいっぱい詰まってると思いますし、絶対に聴くべきものだと思うんです。私も今の時代にちゃんと伝えていきたいと思うし、きっと今までカバーしてきたアーティストさんたちもそう思ってたんだろなと感じました。自分のオリジナル・アルバムの場合は「全部めっちゃ良い曲なんです!」とは思っていてもあまり言えないですけど、このカバーアルバムに関しては全部素晴らしい曲だと声を大にして言えます(笑)。

――今後も第2弾、第3弾とカバーアルバムのシリーズ化を期待したいところですが。

豊崎 小沢健二さんとか岡村靖幸さんとか、私が青春時代にちょっと背伸びして聴いてたアーティストさんの曲も歌ってみたいですね。でも、CHARAさんとか、私がその時期に聴いてたアーティストさんとはオリジナル曲でご一緒させていただいてるので、カバーするのであれば、今回の「雨上がりの夜空に」みたいにオリジナルではあまり歌わないタイプの曲を歌っていけたらと思います。

――そして11月24日(土)、25日(日)には千葉・舞浜アンフィシアターでソロ・コンサート“LAWSON presents 豊崎愛生 コンサート2018 「AT living」”の開催が決まっています。こちらはカバー曲が中心になるのでしょうか?

豊崎 『AT living』の収録曲数は11曲ですけど、コンサートはもっとたっぷりあるので、オリジナル曲も歌おうかなと思っています。ただ、今回カバーさせていただいた曲のライブ映像をDVDとかで観てたんですけど、私がもしこの時代に生きてたら絶対に客席にいただろうなあと思って(笑)。でもそれはかなわないことなので、今回のコンサートでそれを体感しようと思ってます。ライブでこの曲たちを歌えるなんて貴重な機会だし、私はスーパーヒーローになったみたいな気持ちなんですよ。2日間で内容も変えてお届けできたらと思ってるので、よろしければ遊びに来てください!

Interview&Text By 北野 創(リスアニ!)


●リリース情報
『AT living』
10月24日発売

品番:SMCL-571
価格:¥3,518+税

<CD>
1. 風をあつめて
2. 卒業写真
3. 君は天然色
4. 悲しくてやりきれない
5. なごり雪
6. タイムマシンにおねがい
7. 流星
8. 言葉にできない
9. サボテンの花
10. 雨あがりの夜空に
11. 珈琲不演唱

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