ネット音楽シーンで絶大な支持を得ているシンガー/クリエーターの「そらる」と「まふまふ」によるユニット、After the Rain。昨年は日本武道館公演を大成功させたふたりが、8月7日と8日の2日間に渡りさいたまスーパーアリーナを舞台に、“After the Rain さいたまスーパーアリーナ 2018 雨乞いの宴 / 晴乞いの宴”を開催。ここでは初日となった8月7日「雨乞いの宴」の模様をレポートする。
場内へ足を踏み入れたとたん、そこへ広がっていたのは巨大な夏祭りの会場。しかも背景には、櫓のような小さな舞台も設置されていた。
After the Rainのライブは、爽やかな歌の風を運ぶような「マリンスノーの花束を」の演奏を合図に幕を開けた。なんて心に爽快さ覚える歌だろう。この日、ふたりは夏を舞台にした歌や夏を想起させる楽曲を数多く用意。冒頭の「マリンスノーの花束を」をはじめ、淡い青春模様を覚える歌を数多く届けてくれた。ただしAfter the Rainの楽曲は、たとえ曲調は明るく爽やかだろうと、歌詞の内容まで爽やかとは限らない。そこには心の痛みや、暗い影を落とす想いがいろいろ綴られている。
「マリンスノーの花束を」もそう。輝く青春模様が見えながらも、捉え方次第では、とても切ない歌として胸の奥へと響いてゆく。でも、つねに光と影を気持ちの中で交錯させながら日々を生きる僕らには、心の持ちよう次第で彼らの楽曲がポジティブにもネガティブにも見えてくるように、After the Rainの楽曲が持つアンバランスさが胸を打つのも事実だ。
続く「セカイシックに少年少女」でも、爽やかな楽曲に合わせ誰もが無邪気に夏景色の中へ飛び込み、思いきりはしゃいでいた。いや、ふたりの歌や力強い姿に触発され、騒がずにいれなかった。
「解読不能」では吹き上がる無数の炎を背に、ふたりは満員の観客たちへ挑むように情熱的な歌声をぶつけ、続く「盲目少女とグリザイユ」や「メリーバッドエンド」でも、そらるとまふまふは激しく躍動する楽曲の上で、高ぶった気持ちを歌声に乗せ、攻めるように観客たちへ投げつけてゆく。荒々しいふたりの姿勢に触発され、気持ちの鼓動がどんどん早鐘を打ちだした。この刺激がたまらない。いや、もっともっと、その魅力で魂を熱くさせて欲しくなる。
「ECHO」では、まふまふがひとりで歌唱。これまでの勢いをさらに加速させるよう、激しい演奏を手に満員のファンたちを歌で挑発し続けていた。
ここで場面は一転、夏らしい和装に着替えたふたりは、夏祭りを舞台に“誰かの涙でできたソーダを飲んで”と歌う「林檎花火とソーダの海」を披露。楽しげな曲調の中にも痛い心の叫びを投影したところこそ、After the Rainらしさ。このブロックでは、和要素の楽曲を次々と披露。満員の観客たちから“ハイ!ハイ!”と熱い声が飛び交った「夢のまた夢」では、熱狂的な声を全身に浴びながら、そらるとまふまふはそれぞれ舞台左右に用意したトロッコへ飛び乗り、客席後方へ設置した櫓へ移動。ふたりのトロッコが目の前を通るたびに歓声が大きくなっていたことも、報告しておこう。
ここで切なさの中にも愛しさを感じさせるバラード「天宿り」をしっとり歌ったのち、彼らはJITTERIN’JINNの「夏祭り」をカバー。一気に輝きを放ちながら走り出した楽曲に合わせ、櫓がゆっくりと空へ向かって上がりだす。まふまふが躍動する演奏に乗せてはしゃげば、そらるも……と言いたいところだが、高所恐怖症のそらるは、その高さにちょっと怖がり気味。続く「わすれられんぼ」でも、高いところではしゃぐまふまふと、ときどき座り込みながらも、勇気を振り絞りファンたちへ想いを届けてゆくそらる。そのコントラストも見どころだった。
勢いよく弾けながらもふたりの温かい心が垣間見えた「彗星列車のベルが鳴る」に合わせ、ゆっくりと降下した櫓。ふたりは、やってきたときとは別のトロッコへ乗り、ふたたびメインステージへ戻っていく。とても華やかでカラフル、和要素を詰め込んだエレクトロ/トランスナンバーの「妖のマーチ」を通して祭りあがった風景を描いたあとは、ふたたび、まふまふがソロでノスタルジックな香りの楽曲「朧月」を披露。祭りの風景に切ない色を落としていった。
三度着替えを終えたAfter the Rainは、心に沸き上がる高揚を与える「アンチクロックワイズ」を投影。高ぶる気持ちを剥きだしの感情にのせ歌にぶつけてゆく。
「久しぶりにこの曲をやります」の言葉に続いて流れたのが、「アイスリープウェル」。沸き上がる歓声を受けながら、ふたりは揺れる気持ちをしっかり楽曲に乗せ、会場中の人たちの胸に響かせてくれた。続いて“大人になってしまったの 子供のままでいられないの”と歌う「夕立ち」では、その辛辣な心の叫びに、気持ちがずっと釘付けになっていた。なんて、心を強く惹きつける歌だろう。悲痛な歌声の中に温かみを感じられたのもうれしかった。
「今回のセットリストは自分たちでも限界を超えるくらい」と語っていたように、今回のライブは楽しさの……いや、感情の悲喜を存分に引きだした内容。しっとりロマンチックな雰囲気から始まりながら、ビートが駆けだすのに合わせ気持ちも馳せり続けた「桜花ニ月夜ト袖シグレ」。華やかさの中へ四季折々の風景を投影した「四季折々に揺蕩いて」。
本編最後のMCでは、「歌い手」として夢の舞台であるさいたまスーパーアリーナへAfter the Rainの単独公演として立てたことのうれしさ語ったふたり。そして……ピアノの音色に乗せたそらるの歌声。そこへ寄り添うまふまふのハーモニー。最後は、スケール大きな「彷徨う僕らの世界紀行」で満員の観客たちと気持ちをひとつに感動を分かち合っていった。
アンコールでは、まだまだ攻め続けるぞとばかりに、「脱法ロック」「ロキ」と激しくパワフルな楽曲を立て続けに歌い、観客たちを熱狂の渦の中へ連れ出した。中でも「ロキ」では、早口で歌を掛け合うふたりの姿に満員のファンたちが大興奮。誰もが、祭りの熱気に酔いしれていた。
まふまふが、「セットリストがヤバい、喉がぶっ飛びそう」と、ふたたびこの日の殺人的な熱狂セットリストの感想を述べれば、そらるが「歌い手」たちの夢の舞台であるさいたまスーパーアリーナにAfter the Rainとして立てたことへの喜びや想いを、ふたたび切々と語ってくれた。
それぞれの語りのあと、彼らは互いの髪の毛に猫耳を付けだした。そう、お馴染みのあの楽曲の登場だ。歌う前にそらるは、「もう年齢的にこの格好で歌うのはきつい、今回で最後かも」と、ちょっと恥ずかしそうに本音も漏らしていた。その言葉に続き、最後の最後にAfter the Rainは「すーぱーぬこになりたい」を披露。会場中から「にーぼし にぼし にぼし」の大コールが沸き起こるなか、ふたりはそれぞれトロッコへ飛び乗り、客席を一周しながら、熱狂するファンたちの声援を近くで思いきり浴びていた。まさに、祭りあがったクライマックスな宴に相応しい風景だ。
After the Rainが、さいたまスーパーアリーナを舞台に開催した「雨乞いの宴」と「晴乞の宴」。2日目はあいにくの台風直撃となったが、それでも心はずっと晴れ晴れとした楽しい夏祭りをAfter the Rainは届けてくれた。どんどん活動の規模を大きくしてゆくAfter the Rain、この祭りがもっともっとドデカい風景になるよう願ってやまない。
Text By 長澤智典
Photo By 小松陽祐[ODD JOB]、加藤千絵、小境勝巳、坂口正光
After the Rain さいたまスーパーアリーナ 2018 雨乞いの宴
2018年8月7日(火)さいたまスーパーアリーナ
8月7日(火)OPEN 16:30 / START 18:00
<セットリスト>
1.マリンスノーの花束を
2.セカイシックに少年少女
3.解読不能
4.盲目少女とグリザイユ
5.メリーバッドエンド/そらる
6.ECHO/まふまふ
7.林檎花火とソーダの海/そらる
8.夢のまた夢/そらる
9.天宿り/そらる
10.夏祭り
11.わすれられんぼ
12.彗星列車のベルが鳴る
13.妖のマーチ
14.朧月/まふまふ
15.アンチクロックワイズ
16.アイスリープウェル
17.夕立ち
18.桜花ニ月夜ト袖シグレ
19.四季折々に揺蕩いて
20.彷徨う僕らの世界紀行
アンコール
21.脱法ロック
22.ロキ
23.すーぱーぬこになりたい
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