アニメーション作品『詩季織々』主題歌担当・ビッケブランカ&竹内良貴監督 スペシャル対談

10年前、新海誠監督作品『秒速5センチメートル』に衝撃を受けた中国のリ・ハオリン監督からのオファーに、その『秒速5センチメートル』『君の名は。』を世に送り出したコミックス・ウェーブ・フィルムが応えて完成した日中合作映画「詩季織々」。3篇の短編で綴られる物語の中の1作を監督した竹内良貴氏と映画の主題歌を書き下ろしたビッケブランカが『詩季織々』を語る。

――『詩季織々』が完成した今のお気持ちを教えてください。

竹内良貴 日中合作なので、ちょっと変わった作品ということで、公開するまでどんな反応が返って来るのか、まったく予想ができないでいます。

――風景の描き方なども非常に印象的な作品ですが、どのくらいの期間を費やされたんでしょうか。

竹内 今回、短編が3本ということで、実際の絵の制作に関して言えば、3本トータルで1年半以上かけて作っています。企画からだともうちょっとあって、全部で3年くらいですね。

――企画を聞いたときにはどのような印象がありましたか?

竹内 日中合作はうちの会社(コミックス・ウェーブ・フィルム)ではやったことがなかったので、新しい挑戦かな、と思いましたね。

――1年半をかけて作品に向き合われてきた、ということですが、ビッケブランカさんが音楽を作るときにはどれくらいの期間をかけることが多いんでしょうか。

ビッケブランカ スピードとしては、僕は下手すると今回の『詩季織々』の主題歌「WALK」が最速、くらいの感覚ですね。だから今、監督が「1年半、構想を含めたらもっと」って言ったのに、僕、2日くらいで作っちゃったので、もうちょっと形だけでも時間をかけるべきだったと思っちゃいました(笑)。

竹内 (笑)。

ビッケブランカ 映像を観させてもらって、迷うことがなかったんですよ。いろいろと試行錯誤しうるもので、それが楽しくていろいろとああでもないこうでもない、と時間をかけることもあるんですけど、もうここまではっきりした世界観と絵の力があったら「これしかないだろう!」という感じで2日くらいでガーッと作り上げましたね。

――楽曲を作ることに対して、モチーフがある、というのはいかがでしたか?非常に明確なモチーフだったかと思いますが。

ビッケブランカ モチーフがあっての制作はどちらかと言えば得意なんです。やっぱり自由度が高すぎるのも、時間がかけられてしまうからこそ迷いがちになってしまうこともあるんですけど、ここまではっきりとしたモチーフをいただくと「ありがとうございます。力添えさせていただきます」っていう気持ちで突き進むことのできた2日間でしたね。

――監督の方からはビッケブランカさんの楽曲に対してオーダーであったり、具体的な発注はあったんですか?

竹内 プロデューサーが作品のモチーフを説明し、映像を観ていただいてから書き下ろしていただいたと聞いています。かなりお任せみたいな感じだったんですか?

ビッケブランカ そうでしたね。「映像を観ればわかる!」くらいの感じで。これだけの映像を作れば主題歌をどうすればいいかわかるだろう、というくらいの想いを受け取ったので、僕も「わかりました!」と楽曲にしていく作業でしたね。

――監督がご自身が担当された「小さなファッションショー」を作るにあたっていちばん心を砕かれたのはどういった描写だったんでしょうか。

竹内 短編が3つあって、ふたつは中国の監督が制作していて、ひとつは日本人の僕が制作しているんですけど、舞台が中国なので、現地のネイティヴな感覚が僕にはないんですよね。どこまで中国というものを日本人が描けるか、というところで今回はロケハンに行って、現地を歩いて、なるべく忠実に風景などを再現しようと思ってやっています。

――「衣食住行」のうち「衣」をお願いします、というように3人の監督の担当は決められていったんですか?それとも監督の方から「僕は“衣”を表現します」というように手を挙げられた?

竹内 先に中国の2監督のテーマが決まっていて、そのうえで僕に“衣”を、という形で話が来ました。それに対して「どうしようか」「どう作っていこうか」と考えていきましたね。実は物語に関しては、プロットの方が先に出来ていて、ある程度お話を固めたあとに現地に行って、お話に対して舞台はどこがいいか、と探しながら現地を歩きまわって。現地の街の風景が本編にはたくさん描かれているんですが、歩き回りながら「ここはいいんじゃないか」「これは描きたい」と記録していって、再現しています。

――ご覧になってどんなことを感じられましたか?

ビッケブランカ とにかく絵がきれい。それが初めの印象でしたね。めっちゃきれいで。僕自身、今ではそこまでアニメーションを積極的に観続ける方でもなく、夢中になっていたのは『ドラゴンボール』や『幽☆遊☆白書』の記憶で止まっているくらいなので、「今のアニメーションってこんなにきれいなの!?」って、まずそれで感動したんですね。それで、そのなかでなんとなく、絵のディティールでも、言語は日本語だけど、何か違う場所で起きている出来事、というのを海外から見ている感覚で。いろいろと新しい発見をさせてもらっているなかで「主題歌はこれだ」と浮かんできましたね。

――その映像をご覧になって、描かれている物語を受け取って、どんな部分を抽出しようとされたのでしょうか。

ビッケブランカ あまりそんなに意識はしなかったです。「こういうシーンがあるからこういう描写で」とか「こういう感じだからこういうふうに」というものはなくて。でもあるとしたらアニメの映画ではあるんですけどテンポは速い感じで。ほら、僕、『ドラゴンボール』で止まっていますからね。ずっと睨み合いで一話が終わる、くらいの経験があるわけですよ、昔は。でも今はどんどん物語が展開していくなかでポンポンと場面が変わっていく感じもあったので、テンポ感だけは落とさないように、と。バラードで世界観は崩さないけど、だるい主題歌はやめようって思ったんです。だからテンポがゆっくりでも、言葉はいっぱいに詰め込んで。リズム感は途切れないように、ということだけを気を付けました。歌詞は、映像から受けたままを落とし込んでいった感じですね。

竹内 その曲がすごくぴったりなんですよね。

ビッケブランカ ありがとうございます。

竹内 今回短編で、それぞれが作品としての色が強かったりもするんですけど、その違いをうまく吸収してくれて、なおかつビッケさんの楽曲で3本がうまくまとまるような曲をいただけたので、作品がきれいに締まったと思います。映像全体に対しての楽曲を作ってもらったことですごく作品との一体感が出たなと。3人の監督とビッケさん。それぞれが、それぞれの味を出してまとまったように思います。

――タイアップではなくコラボレーション。

竹内 そうですね。本当に、それぞれのクリエイターのコラボレーションですね。

ビッケブランカ 竹内監督は2つ目でしたが、改めて全編を観たときに思ったんです。監督、真ん中の難しさというのはあったんじゃないですか?1つ目の「陽だまりの朝食」(イシャオン監督)と最後の「上海恋」(リ・ハオリン監督)を繋ぐというか。どちらもすごくカラーの違う短編でしたし、始めはゆっくり入って、最後が大きな動きになる、というのが一本の映画として見た時にもいい、みたいなセオリーもあるでしょうし。

竹内 実は作った順番は「小さなファッションショー」が最後だったんです。順番としては「上海恋」「陽だまりの朝食」「小さなファッションショー」という順番で作ったんですけど、最終的に映画としてパッケージにするときに、どういう並びが収まりがいいか、製作陣と検討しました。「陽だまりの朝食」はちょっと尺が短くて詩的なものですし、「上海恋」はドラマチックなものですし、うまくバランスをとっての真ん中なんです。

ビッケブランカ じゃあ、真ん中に入れるために作られたわけではないんですね。

竹内 そうですね。

ビッケブランカ そうだったんですね。全A面シングルだったんですね。3部を通しての流れも美しいと思います。

――「陽だまりの朝食」「上海恋」があっての「小さなファッションショー」という意識はなかったんでしょうか。

竹内 ある程度はありました。その2作は非常に詩的でしたが、「小さなファッションショー」は対話劇として作ったので、この作品によって物語にバリエーションがつくかな、とは思いましたね。

ビッケブランカ なるほど。この3本の中でも「小さなファッションショー」がいちばん人間的だった気がするんですよね。心の動きという意味でも。姉妹間もそうですが、人間関係をとにかく色濃く描いている。その姉妹に茶々を入れて来るスティーブがいて。監督から伺ったんですけど、ルルとイリンは両親がいない設定ですが、そんな中でイリンを世話するマネージャーのスティーブがいて。しかもスティーブはまるっきり男の姿だけどしゃべりは女性的なゲイの設定で。父親と母親、その両方の意味を込めたって聞いたとき、衝撃でしたよ。すごくないですか!?

竹内 やっぱり20数分の物語で、オリジナルですから事前情報もないわけで。そこでお話を始めて展開していこうとしたらやっぱりかなり情報は詰め込むことになってしまう。キャラクターの配置を整理もしました。これは両親がいる設定だとまったく違うお話になるんですよね。だけど姉妹だけの設定で、そこにスティーブを入れて物語を動かしたんです。設定だとイリンは20代中盤なんですが、普通の人でも就職して、一度は壁にぶつかる。そこでどう乗り越えるのか。この物語では姉妹での存在ですが、そういったものを描くと共感があるだろうな、とは考えましたね。

――ビッケブランクさんが共感したり、印象的だったエピソードはありますか?

ビッケブランカ 僕、「小さなファッションショー」と「上海恋」はどんピシャですね。僕が過去にやった失態やら恥ずかしいことをここが全部突いてくれました。辛くなるくらいの共感でした。もう、衝撃でした。アニメーションはこんな次元に来ているのか、と。これを機にどんどんアニメに精通していこうと思っているんですが、もっともっと学びたいと思わせてもらいました。ただ、今回楽曲を作るにあたっては、全部の作品に向けて書いたんですね。しかも3作という認識も、楽曲を作るときにはしていなくて。入りの「食」でビーフンの描写に驚いて、「小さなファッションショー」で人間ドラマを観て、「上海恋」のドラマチックな物語で終わる。ひとつの流れとして観ていたので、その大きなひとつの物語の終わりを飾る1曲、という感覚で作りました。それぞれの物語には違った発信でのメッセージがあったんでしょうけれど、僕はひとつの、同じものを受け取って書いたんですよね。

竹内 監督3人とビッケさんは年齢がすごく近いんですよ。なので、わりと近い世代でひとつの作品を制作していった感じなんです。

ビッケブランカ いいですよね。それ。

竹内 だから多分、感性が近いと思うんです。

ビッケブランカ 表現方法の違いも感じなかったし、メッセージもすんなり受け取れたのもそれが要因としてきっとあると思うんです。伝えたいことが強くて、観終わった瞬間に「この映像の主題歌はこれしかない!」という想いに駆られましたし、評判もいいです。映像の力をいただいて書けた楽曲です。

竹内 それぞれが別のことを書いているんですけれど、結論は一緒なんだと感じました。歌詞でもこの作品が言っていることがそのまま出ているように感じましたし、最後にこの曲が流れることですべてが繋がっていくような気持ちになって。

ビッケブランカ 歌詞で、サビの終わりの部分で「歩こう 歩こう 歩こう」というのがあるんですが、これが僕の伝えたいことになりますね。日本では「衣食住」と言いますが、中国では「衣食住行」って言って“行”の字があるそうなんです。各作品のメインテーマには「衣食住」が据えられていますが、僕が物語から受け取って書いた曲は、まったく意識していなかったけれども図らずも「行」を示唆するメッセージになっていたんです。楽曲が出来て、制作の皆さんに聴いていただいたときに「どうですか?」と伺ったら「素晴らしいです」と。「この曲からは“衣食住行”の“行”の部分を感じるのですが、それは狙ったんですか?」と言われたんですね。そんなつもりは全然なかった。でも同年代のクリエイターが揃ったときに、僕が無意識に感じたことでこの歌詞が自然と生まれたことは摂理にハマれたのかなと感じています。

――そんな『詩季織々』をどのように楽しんでもらいたいですか?

竹内 まずひとつは、今の中国というものを描いているので、今まで観たことのない風景だったりがあると思うんです。そういうところを観てもらいたいです。あとは中国人は思春期にどんなことを考えているのか。そんなことも詰まっていたりもするので、それは新鮮に映ると思います。なので、そういう部分を観て楽しんでいただきたいと思います。

ビッケブランカ 本当に独特な空気を、この映像の質感が持っていると思います。オープンマインドで全部を吸収していくつもりで観たら、これからの人生の一里塚になるような映像だと思います。ぜひ楽しんでください。

Interview&Text By えびさわなち


●リリース情報
「夏の夢/WALK」(両A面)
8月8日発売

【数量限定生産BOX盤(CD+GOODS(サコッシュバッグ))】
品番:AVCD-94135
価格:¥2,000+税
封入特典:『ビッケブランカ ALBUM TOUR 2019』チケット最速先行抽選応募券
チケット申込期間:8月7日(火)10時~8月19日(日)

【通常盤(CD Only)】
品番:AVCD-94136
価格:¥1,200+税
初回封入特典:
① 封入特典:『ビッケブランカ ALBUM TOUR 2019』チケット最速先行抽選応募券
チケット申込期間:8月7日(火)10時~8月19日(日)
➁「詩季織々」メインビジュアルステッカー

<CD>
1.夏の夢
2.WALK(movie ver.)(『詩季織々』主題歌)
3.夏の夢(coldwater remix)
4. Black Rover (feat.SKY-HI city raven remix)

●作品情報
『詩季織々』
8月4日(土)テアトル新宿、シネ・リーブル池袋ほか公開

<あらすじ>
「陽だまりの朝食」 / 監督:監督:イシャオシン

監督自らの思い出を、ノスタルジーたっぷりに詩的に描く

【テーマ:食】北京で働く青年シャオミンは、ふと故郷・湖南省での日々を思い出す。
祖母と過ごした田舎での暮らし、通学路で感じた恋の気配や学校での出来事…
子供時代の思い出の傍には、いつも温かい、心のこもったビーフンの懐かしい味があった。
そんな中、シャオミンの祖母が体調を崩したとの電話が入る。

「小さなファッションショー」 / 監督:竹内良貴

長年に渡り新海作品を支え続けてきた竹内良貴のオリジナル初監督作

【テーマ:衣】広州の姉妹、人気モデルのイリンと専門学校生のルル。
幼くして両親を亡くした2人は、共に助け合いながら仲良く一緒に暮らしていた。
しかし、公私ともに様々な事がうまくいかなくなってきたイリンはついルルに八つ当たりしてしまい、2人の間には溝ができ、大喧嘩をしてしまう。

「上海恋」 / 監督:リ・ハオリン

変わりゆく上海の街並みに思いを馳せ、淡い初恋を瑞々しく繊細に描いた
『秒速5センチメートル』へのオマージュ作

【テーマ:住】1990年代の上海。石庫門(せきこもん)に住むリモは、
幼馴染のシャオユに淡い想いを抱きながら、いつも一緒に過ごしていた。
しかし、ある事がきっかけとなり、リモは石庫門から出ていき、お互いの距離と気持ちは離れてしまう。
そして現代、社会人になったリモは、引っ越しの荷物の中に、持っているはずのないシャオユとの思い出の品を見つけるのだった。

「陽だまりの朝食」
監督:イシャオシン
作画監督:西村貴世
音楽:sakai asuka
キャスト:坂泰斗、伊瀬茉莉也

「小さなファッションショー」
監督:竹内良貴
作画監督:大橋実
音楽:yuma yamaguchi
キャスト:寿美菜子、白石晴香、安元洋貴

「上海恋」
監督:リ・ハオリン
作画監督:土屋堅一
音楽:石塚玲依
キャスト:大塚剛央、長谷川育美

主題歌:ビッケブランカ「WALK」(avex trax)

2018年/日本/カラー/74分
配給:東京テアトル 宣伝:ガイエ

(C)「詩季織々」フィルムパートナーズ

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