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INTERVIEW

2018.04.26

ファンと交わした「ただいま」と「おかえり」――悠木碧「帰る場所があるということ」インタビュー

ファンと交わした「ただいま」と「おかえり」――悠木碧「帰る場所があるということ」インタビュー

昨秋、「永遠ラビリンス」で新たな歌手活動のスタートを切った悠木 碧がニュー・シングル「帰る場所があるということ」をリリースした。これはアニメ『ピアノの森』のEDテーマで、主題歌としての寄り添い方と彼女自身と歌声を追求する姿勢がよく表れ、またカップリング曲とのコントラストも際立つ充実した1枚になった。活動に即して生まれた思いが歌声に乗った理由を彼女の口から聞いてほしい。

――『ピアノの森』のEDテーマ曲である「帰る場所があるということ」の制作にあたり、悠木さんからはどのようなオーダーをされましたか?

悠木 碧 実は最初、『ピアノの森』のエンディング曲として音楽チームの中で挙げていたのはこのシングルのカップリングの「ビロードの幕」の方だったんです。『ピアノの森』はショパンコンクールの話なのでショパンのピアノの熱さや苦しみが出るような歌を、と話していたのですが、アニメの制作サイドからは温かくて本編にあったことを消化する、ほっこりするような明るい気持ちで視聴者の方に見終えてほしいと曲をという提案をいただきました。私は歌手活動を再開してからのテーマとして、みんなの意見を受け入れたうえで楽しんでいくことを目標にしているので、それを受けての曲をコンペしていただき、「帰る場所があるということ」の曲を選ばせていただいたという形です。

――悠木さんがこの曲を選ばれた決め手はどんなところにありましたか?

悠木 歌詞がない状態で聴いても森の木漏れ日みたいなものが想定できる様々な表情が入っていて、Aメロの「風の通り道 梢を揺らして」の部分では、葉っぱが光を遮るようなキラキラした音が想像つく感じがしたり、大地から肥沃の匂いがしたりして、それでいて大変爽やかだったところが良いなと思い、選ばせていただきました。王道をつかみつつ、その範囲で遊んでくれているのがすごく良くて、それって「用意してもらった条件と縛りの中でなるべく遊ぶ」という私の信条に近いなと思って。

――歌詞に<「ただいま」の数と「おかえり」の数はおなじじゃなきゃだめなんだ>とあり、これが非常に印象に残りました。悠木さんはどのように解釈されましたか?

悠木 これ、本当にすごい歌詞だなと思って。たとえ「おかえり」が返ってこなくても「ただいま」が言える場所が自分のホームだと思うんです。そこで「おかえり」が返ってきたときのホッとした感じはやっぱり格別。私がソロ活動を再開して最初のシングルの「永遠ラビリンス」の際にラクーアでイベントを開催したのですが、一度歌手活動を止めてから数ヶ月経っているはずなのに、お客さん達が「おかえり」と言ってくれたんです。正直、自分のなかでその発想はありませんでした。責められて当然だとも思っていたし、みんながそこまで私の音楽活動のことをホームだと思ってくれているとは想像していませんでした。新しい場所に踏み出すと思ってすごくビクビクしていたのですが、「私、帰ってきたんだ」と。そのときにはじめて「ただいま」と返せたんです……。温かかったんですよ。うまく言い表せないのですが、あの「おかえり」はすごい威力を持っていたと思うんです。びっくりしすぎて言葉にならなかったですけど、一人一人に「ただいま」と言いたい気持ちになりました。それにこれからは私がホーム側になって、みんなに「ただいま」と言ってもらえるようになりたいなと思いました。私に「おかえり」と声をかけてくれた人たちにとって、この曲を聴くとあの時の情景がもう一回戻ってくるんじゃないかなと思っています。私としてはあの時の温かさがこの曲に込められたのではなかろうかと思っております。

――この曲、この歌詞の部分は悠木さんのこれからのアーティスト活動を占うというか基盤のひとつに。

悠木 ホントに。元々それを想定して歌っていたわけではなかったのですが、お客さんからこのタイトルを「僕ら的にはそういう意味で捉えていますし、それがすごく嬉しい」というコメントを頂いて。思い返すと、この曲を歌う時に感じていた温かさって、あの壇上で感じた温かさだったんだなと繋がりました。これから自分のアーティスト活動をする上で、みんなとどういうコミュニケーションを取って行けば良いのかということをもう一度考え直した一曲です。

――そして当初の主題歌の予定だった「ビロードの幕」 は激情の熱い歌。

悠木 はい。「帰る場所があるということ」が受け身の歌だとしたら「ビロードの幕」 は訴えたい曲です。音楽に対するみんなの情熱とか、「受け取ってくれ」という痛切な気持ち、自分の中でのアーティストとしての葛藤みたいなものがキャラクターの中にあるので、そういうところの盛り込めたらいいなと思って歌った曲です。私自身も自分の感情の発露に近いのは「ビロードの幕」の方だと思っていて、いろんな要素を欠いてでも、今思っていることを吐き出したいという思いが詰まった強い歌になっているなと思います。

――こちらのサウンド感はいかがでしょうか?

悠木 ピアノ伴奏がかなりシリアスな作りになっていて、盛りに盛りを重ねたという感じですね。ピアノ伴奏で、ピアノの曲を歌にしているぐらいの感じなので、すごく早くて技術的には相当しんどかったです。またハイトーンが難しくて、「追いつかないな」と思ったのですが、その体が追いつかなくて悔しい感じが気持ちとして歌にの乗るんですよね。その意味で良い感情が乗ったのではないかなと思いました。

――まさか、その思いを引き出すための難しい曲に作ったとか?

悠木 だったらすごいですね(笑)。どちらの曲も性別とか年齢とか関係ないように歌っています。それは聴いた人がどのキャラクターを重ねたりとか、入り込めることに特化したいと思ったからです。『ピアノの森』はキャラクターのバックボーンもしっかりと描かれているので、それぞれが主人公みたいな感じですから、意外と主人公はぼんやりさせるように歌っています。「ビロードの幕」は激しいのでサラっと聴くと阿字野先生の歌だと感じられるかと思いますが、どのキャラクターにもすごい激情があるし、表現したいということや負けたくないという気持ちがあると思うんです。「帰る場所があるということ」も、主人公の(一ノ瀬)海くんにも当てはまるように作りたいと思ったし、かといってあまりにも抽象的にしすぎない、良いバランスにできたんじゃないかなと思っています。

――ある意味、対極にある2曲を復帰後のセカンドシングルとして発表できたことに対してご自身ではどのように受け止めていますか?

悠木 何かを伝えたいと思う情熱や意気込み、感情の発露というものが今まで私の生業になっていたのですが、それは育んでくれた人たちがいた結果、そうなっているんですよね。なので、『ピアノの森』の人たちほど天才ではないかもしれないけれども、彼らが辿った結果として道に着いたということについて、私も共感ができます。これは確かに対極的な曲ではありますが、人の経過と結果であるという。だからひとりの人間から出ていて、ひとりの人間が抱え込める両面だと思いますし、そこは決して相反しているものではないとも思うんです。アルバムでレイヤーを重ねていくことは結構得意としていたのですが、シングルで油絵みたいに同じ人間が抱え込める様々な感情を別の形として一枚にできたのは初めてです。「なんで今までやらなかったんだろう?」と思いました(笑)。なので、他のアーティストさん達がそういうことをやってきたことがやっと理解できたというか。役者として、今までさまざまなキャラクターの目線で人生を生きることが楽しすぎて、そちらばかりに特化していたのですが、そうではない深め方ももちろんできるんだなと思って取り組みました。ホントに、経過と結果を繋がっているひとりの個人として描けている『ピアノの森』の作品だからこそできたやり方だと思いますね。キャラクターがきちんと描かれているということはすごく重要で、だからこそ名作なんだなとすごく思いました。

――6月24日には自由学園明日館でのライブ&トークイベントが予定されています。

悠木 今回はすごくいい感じの環境でピアノ伴奏で歌えるらしいんです。個人的にはひとりで生演奏のみで歌うのは初めてなので、とても楽しみです。環境がめちゃくちゃ良くて、『ピアノの森』の世界観が好きだと思ってくれる人に、その空気から感じてもらいたいなと思うものが表現できる場所になっていると思うので、ぜひリリースイベントも楽しみにしていただけたらと思います。梅雨の時期になるので可愛い雨具を用意して待っていてください。

Interview & Text By 日詰明嘉


●リリース情報
TVアニメ『ピアノの森』EDテーマ
「帰る場所があるということ」
4月25日発売

【CD+DVD】

品番:COZC-1432~3
価格:¥1,800+税

【CD only】

品番:COCC-17448
価格:¥1,200+税

<CD>
1. 帰る場所があるということ
2. ビロードの幕
3. 帰る場所があるということ(Instrumental)
4. ビロードの幕(Instrumental)

<DVD>
帰る場所があるということ Music Video
帰る場所があるということ Music Video Making

●作品情報
TVアニメ『ピアノの森』
NHK総合テレビ 毎週(日)24:10~放送中

※関西地方は同日24時50分からとなります
※放送日時は変更になる場合があります

原作:一色まこと(講談社『モーニング』所載)

© 一色まこと・講談社/ピアノの森アニメパートナーズ

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