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2014.07.09

菅野よう子『残響のテロル オリジナル・サウンドトラック』レビュー

菅野よう子『残響のテロル オリジナル・サウンドトラック』レビュー

極北の電子音響が耳の奥でこだまする……菅野よう子が音楽を手がけた、渡辺信一郎監督作品のサウンドトラック。

2014年7月よりフジテレビ“ノイタミナ”枠にて放送されたTVアニメ『残響のテロル』。爆弾テロで東京を人質に取った“スピンクス”を名乗る2人の少年による壮大で危険な遊戯が幕を開ける物語は、平成版『太陽を盗んだ男』のようでもあるが、渡辺信一郎監督によれば「青春アクションサスペンス」とのこと。そして『マクロスプラス』『カウボーイビバップ』『坂道のアポロン』に続く、監督・渡辺信一郎と音楽・菅野よう子の組み合わせは大きな話題を呼んだ。

2014年3月に東京から始まったサウンドトラックのレコーディングは4月にはアイスランドへと渡り、5月にイギリス・ハンプシャーにてミックス、6月にニューヨークにてマスタリングと、世界を駆け巡り、理想のサウンドを追い求めた。日本での作業のメインエンジニアは、フィッシマンズ『空中キャンプ』、バッファロー・ドーター『new rock』など数々の名盤を手がけたエンジニア・zAk。アイスランドでのレコーディングは首都レイキャヴィク郊外にあるシガー・ロス所有のSundlaugin Studio(=pool studio)で行なわれ、シガー・ロス、amiina、ジュリアナ・バーウィックらの作品でもおなじみのBirgir Jón Birgissonがエンジニアを務めた。

ミックスはイギリス人ベテランプロデューサー、Ken Thomas。彼はAu Parisや23 Skidooらコールド・ファンク、Psychic TVやテスト・デプトなどのインダストリアル系、デイジー・チェインソーやクイーンアドリーナなどのオルタナ系、コクトー・ツインズ、シュガーキューブス、M83、シガー・ロスなど、幅広く数多くの名作をプロデュース、またミックスを手がけている。前衛を経た明快さとも言うべき彼のミックスは、鈍色の曇り空のような音像にメロディが埋没することなく、実にすんなりと耳に届いてくる。そして、マスタリングは名匠Ted Jensenとこのうえなく豪華なエンジニア陣だ。

音楽に造詣の深い渡辺信一郎監督から菅野よう子へ伝えられたイメージは、心に茨を持つ少年“ナイン(九重 新)”がいつも聴いている北の国の音楽。サウンドトラックはその音楽を再現する作業でもあった。そのイメージの元となった音楽は、監督が聴いていたアイスランドのエレクトロニカ、電子音響やジャズだ(あるいはスモールタウン・スーパーサウンドのような音響ジャズやポストロックなのかもしれない)。

菅野よう子と知らずに音だけ聴いてみれば、遠く北方の異国で生まれた音響アルバムなのだろうと思ってしまうことだろう。CDショップの音響/エレクトロニカ・コーナーの試聴機に入っていても何ら違和感がない。しかもオリジナリティ溢れるサウンドだ。『カウボーイビバップ』でも見られたようにあるジャンルをそれっぽくではなく、まったく自分のものとして消化しうる菅野よう子の底なしの才能に驚かされる。そして注意深く聴いていけば、ヴォーカルのアレンジやコードの転調など、そこかしこに菅野らしさが感じられるのがまた面白いところだ(『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』でのスコット・マシューの中性的なヴォーカルを想起したり、『WOLF’S RAIN』との類似性を見出せるだろう)。

ひりひりするような焦燥感をたたえた西川 進のフィードバックノイズに戦慄する「lolol」、ポスト・クラシカルのÓlafur Arnaldsの作品にもフューチャーされているArnor Danの憂いを帯びたヴォーカルとストリングスが限りなく美しい「von (feat. Arnor Dan)」、映画『AKIRA』での印象的なシンセ・サウンドを手がけた浦田恵司のリード・シンセとzAkによる音響処理、そして、マシナリーな人力ビートが印象的な「ess」、ex.PHATの鳥越啓介と、Seatbeltsの今堀恒雄&佐野康夫によるハード・ジャズ「saga」、9歳になるアイスランドのハンナちゃんのヴォーカルがあまりに天使すぎる「hanna (feat. Hanna Berglind)」、U.K.ロックの旋律を感じさせるドリーミーなナンバー「lava (feat. POP ETC)」のヴォーカルは、Galileo Galileiや木村カエラのプロデュースでも知られるPOP ETC(旧バンド名:The Morning Benders)のChris Chu。

Apogeeの永野 亮のヴォーカルが限りない多幸感を映し出す「22 (feat. Ryo Nagano)」、レイキャビク弦楽団の演奏とモジュラー・シンセが、残響とともに融合するギャヴィン・ブライアーズのような「lev low」、pool studioのすぐそばに流れる小川のせせらぎを環境音としてフィールドレコーディングしミックスさせた「bless (feat. Arnor Dan)(High Resolution Version)」……などと美しい曲が続いていく。

録音は96kHz/24bitで行なわれ、ハイレゾ環境でのリスニングも考慮されている。圧縮音源とハイレゾ版を比較してみると、解像度、空間の奥行きなど、音の描写力の桁が違う。圧縮音源では「ess」のシンセの音や「22 (feat. Ryo Nagano)」のトラックがのっぺりとしており、ギターの鮮烈さやリズム隊の躍動感が伝わってこない。また魅力的なヴォーカルも実にあっさりしている。世界観を築くはずの音空間が非常に狭く、広大な世界での孤独さを描ききれておらず、ナインの冷めた瞳に映る寂寞とした風景が残念ながら伝わってこないのだ。

「音のない音、密やかでこの世のものならぬ繊細さだからこそのハイレゾ」。菅野よう子はハイレゾ版に対してこのようにコメントしている。重厚な音像と触れれば砕け散りそうな透明な音の結晶が混じり合う、アンバランスな美学。これを体感するためにも、また菅野よう子の意図するところを理解する上でも、ハイレゾでのリスニングがふさわしく思える。

『残響のテロル』のOPテーマ、Yuuki Ozaki(from Galileo Galilei)「Trigger」(作詞:尾崎雄貴、作曲・編曲:菅野よう子)、EDテーマ、Aimer「誰か、海を。」(作詞:青葉市子、作曲・編曲:菅野よう子)のフル・ヴァージョンが、シングルだけでなく『残響のテロル オリジナル・サウンドトラック 2 -crystalized-』にも収録されている。こちらも今作と変わらず美しい曲の数々が収められており、またハイレゾ版もリリースされている。

残響のテロル オリジナル・サウンドトラック菅野よう子
残響のテロル オリジナル・サウンドトラック

Aniplex Inc.
2014.07.09

FLAC 96kHz/24bit

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e-onkyo music
mora

©残響のテロル製作委員会

 収録曲

   作曲・編曲:菅野よう子

 1.lolol

 2.von (feat. Arnor Dan)

   作詞:Bragi Valdimar Skulason

 3.ess

 4.saga

 5.fugl

 6.hanna (feat. Hanna Berglind)

   作詞:菅野よう子

 7.veat

 8.lava (feat. POP ETC)

   作詞:Christopher Chu

 9.walt

10.birden (feat. Arnor Dan)

11.Fa

12.nc17

13.is (feat. POP ETC)

   作詞:Christopher Chu 冨永恵介

14.22 (feat. Ryo Nagano)

   作詞:Christopher Chu 冨永恵介

15.seele

16.lev low

17.ili lolol

18.bless (feat. Arnor Dan)(High Resolution Version)

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