「ジュ・ジュテーム・コミュニケーション」「愛の詩-words of love-」などのヒット曲を収めた1stアルバム。

歌手として、またTVアニメ『アクエリオンロゴス』綺声神心音役、TVアニメ『SHIROBAKO』の坂木しずか役など声優としての活動も行なっている千菅春香。2012年に開催された「ミス・マクロス30コンテスト」の歌手部門グランプリを受賞し、翌年、kz(livetune)　作詞・作曲によるシングル『プラネット・クレイドル／ワンダーリング』にてメジャーデビューを果たした。

彼女も出演している佐藤順一監督のOVA『絶滅危愚少女 Amazing Twins』のオープニン愚テーマ（※正式な表記）「絶滅危愚少女！」やTVアニメ『モモキュンソード』オープニングテーマ「桃色ファンタジー」、TVアニメ『アクエリオンロゴス』エンディングテーマ「ジュ・ジュテーム・コミュニケーション」、TVアニメ『学戦都市アスタリスク』エンディングテーマ「愛の詩-words of love-」などのシングルを経て、リリースされた1stアルバムが『TRY!』。

北川勝利、岩田アッチュ、清竜人、川嶋あい、Rasmus Faberらによる楽曲、矢野顕子作詞・作曲による渡瀬マキの曲をコトリンゴがアレンジした「あなたのほほえみ」などを収めた全14曲。千菅春香が初めて作詞を手がけた、開放感に包まれる「TRY! TRY! TRY!」も収録されており、タイトル通り何事にもひるまずに挑み続けた3年間の経験や、ノリに乗っている今の勢いが反映された、活きのいい作品に仕上がっている。

「ジュ・ジュテーム・コミュニケーション」

近年ではでんぱ組.inc、ももいろクローバーZや、また堀江由衣やAice5に楽曲提供を行なっている奇才、清竜人による作詞・作曲・編曲。東洋的なイントロから始まり、様々な音楽要素を盛り込みながらころころと転調する楽曲を、ポスト渋谷系なアレンジで小粋にまとめあげた明るいポップナンバーとなっており、堀江由衣の楽曲などでも披露した「語り的センテンス挿入」と「アクロバティックな曲展開」はここでも健在。

おもちゃ箱に詰め込んだようなサウンドが程よいバランスで整理されたハイレゾでは、ブリティッシュ系ギター、ラウド的ドラミング、洒落たジャズピアノ、遠くにさざめく喧騒、エレクトリックポップなどなど、一瞬一瞬に差し込まれる飛び出す絵本のようなギミックも効果的に、すぐそばにいるのに遠い惑星の住人みたいな “あなた” との交信に割り込むノイズのように響く。華やかさあふれる楽器の音色のなじみもよく、エネルギッシュな演奏のテンションもいっそう高まる。

真剣な眼差しで精一杯の愛を投げかけるヴォーカルは、声の美味しい部分を掬いとる清竜人のメロディラインを滑るように踊る。フェチ的なアレンジやエフェクトも相まって、“ア・アデュー” “サ・サリュー”などのファルセットに近い語頭に宿るキュートさもひときわ魅力的。

「愛の詩 -words of love-」

TVアニメ『学戦都市アスタリスク』では、劇中音楽を担当したラスマス・フェイバーの作曲・編曲よる2ndシーズンのEDテーマとなったシングル曲。作詞は、ソロ・アーティストとしてまた執筆活動も盛んに行なっている、GOMES THE HITMANの山田稔明。

哀愁を帯びたギターによるイントロからしっとりとしたトランスポップと思いきや、フロアライクなハウスサウンドへと自然にシフトする、巧みな構成の妙を感じるトラック。とはいえ、単なるビートが先行した歌ものクラブミュージックには陥らず、物語の余韻を残すエンディングテーマとしての機能も備えるポップソングへと着地している。

ハイレゾでは、ラスマス・フェイバーらしい抜けのあるサウンドがさらに心地よく響き渡る。適度に重く瞬発力があるビートがキレ良く、そして輪郭はなめらかに描写。フュージョンらしさを漂わせるベースやキーボード、優美なストリングスとを加えながらも、厚みのあるゴージャスな方向性ではなく、ここではむしろやや控えめにすっきりと、千菅春香の歌声が映えるバランスで仕上げており、ラスマス・フェイバーの洗練された美学を感じられる。ヴォーカルはサウンドに浮遊しながらしなやかに、大人っぽい清冽さを漂わせながら、抑揚を華麗にスキップする。高みへと昇る澄んだ歌声が美しく、声が重なり合いながら飛翔する終盤の昂揚感も絶品。

冒頭のセリフ入りにも驚かされる、北川勝利らしくない（!?）熱血ソング「Break On Through」、kzならではの突き抜けたサウンドが爽やかに広がる「プラネット・クレイドル」、声優としての声の可愛らしさを最大限に引き出した、北川勝利らしいファンクネスさが光る「モモキュンソード」、

“千菅春香はどこを目指す？？” というフレーズもインパクト大な、三重野瞳による歌詞の自分応援ソング「あなたの春香さん」、「ジュ・ジュテーム・コミュニケーション」のカップリング曲「私とあなたの在る世界」を手がけたinktransによる郷愁エレクトロニカ「corolla」、心の慟哭を示すギターが壮絶に鳴り響くシューゲイザー・ナンバー「リフレイン」など、千菅春香の豊かな個性を様々なスタイルで表現したサウンドを目一杯詰め込んだ、いい意味で欲張った内容の1stアルバム。千菅春香のヴォーカルはただ清々しいだけでなく、ヘヴィ・ロック「本当の声をあなたに預けたくて」では力強さ、「あなたのほほえみ」では『「たまゆら」主題歌コレクション～卒業写真～』に収録されている「最後の春休み」に通ずる可憐さも感じさえ、守備範囲の広さがうかがえる。これからが実に興味深いアーティストだ。