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REVIEW&COLUMN

2016.08.24

GONTITI『TVアニメーション「あまんちゅ!」オリジナルサウンドトラック』レビュー

GONTITI『TVアニメーション「あまんちゅ!」オリジナルサウンドトラック』レビュー

アコースティック・ギターによるうれしい・たのしい・日常の快適音楽。TVアニメ『あまんちゅ!』のリラックス・サウンドは懐かしくって新鮮です。

ゴンザレス三上とチチ松村によるインストゥルメンタル・アコースティック・ギターデュオ“GONTITI”。縁側で緑茶をすすりながらギターを爪弾くジャンゴ・ラインハルトのごとく、肩の力を抜いて楽しめる彼らの演奏はいつ聴いても新鮮な響きと懐かしい雰囲気をもたらし、時には茶目っ気のあるフレーズで、時には心の琴線に触れる美しいメロディでわたしたちを魅了する。ギターがハミングする俳句のような、それはシンプルで美しく、優しく温かい、日常の快適音楽。

デビュー時より大凡に完成され今もほぼ変わらないそのスタイルは、夏休みを待ちわびる少年のみずみずしさと、幾多の海を越えてきた船乗りの老練さを併せ持っており、何をしてもGONTITIというジャンルに集約してしまうオリジナリティあふれるサウンドは、レイハラカミらにも通ずるタイムレスで唯一無二のもの。いつまでも逗留したくなる居心地のよい老舗旅館といった風情を漂わせつつ、何処までもモダンな感性を保ち続けたまま30年を迎えた彼らを例えるならば、円熟という名のワインではなく、こんこんと湧き続ける名水といった方がふさわしいのかもしれない。

ヒーリング・コンピレーション・アルバム『image』シリーズにも楽曲が収録されているGONTITIだが、NEW AGE畑やアカデミックな出身ではなく、元々はサラリーマンだったという経歴もユニークだ。ミュージシャンとの二足のわらじを履きながら彼らがデビューしたのは1983年のこと。
チャクラ、キリング・タイムの板倉 文がプロデュースを手がけた1stアルバム『Anothermood』には、シングル1枚分の制作費と限られた条件の中、選んだレコーディング・スタジオに設置されていたフェアライトCMI(アート・オブ・ノイズでもおなじみのサンプリング機能を備えたシンセサイザー。当時、1,000万円以上の価格だった)のオペレーターであった松浦雅也(のちにPSY・Sを結成する)が参加しており、アコースティック・ギター+打ち込み&サンプリングによる独自のサウンドを早々と確立している(松浦雅也はその後もGONTITIのアルバムに度々参加をしている)。

個性的な制作陣の参加によって化学反応を起こしたアコースティック・サウンドは、ポップでメロディアスな要素を含んでいるとはいえ、NEW WAVE期においてはある種オルタナティヴな(例えば、非ジャズ・プレイヤーの演奏によるアコースティックなジャズサウンドといった、エヴリシング・バット・ザ・ガール『EDEN』(1984)のような)、言い換えればちょっと風変わりなもの。現在のように幅広い人気を得るまでには、さらに数年の歳月を待たなければならなかった。GONTITIはスタートの時点から、その独自性ゆえに奇妙な音楽人生を歩み続けることを運命づけられたのであった。

「独自性」と言えば、日本語ラップのオリジネイターである、いとうせいこうのトリビュート・アルバム『再建設的』(2016)にGONTITIは参加をしている。曲は1987年にリリースされた7インチの名曲「渚のアンラッキーボーイズ」(のちに同年の傑作12インチ『BODY BLOW』とともにCDに収められている)。ラヴァーズロックの原曲をよりレイドバックさせた、「GONTITIのオリジナルナンバー」と言われればそのまま信じこんでしまいそうな、実に彼ららしいアレンジに仕上がっている。

時代に流されることなく常に自然体で、作品制作やライヴ、またラジオのパーソナリティーや執筆活動などを行なってきた風流人ふたり。何処かつかみどころのない、まるで海中を悠々と漂う“クラゲ”のような存在であるGONTITIが海を舞台とした作品、TVアニメ『あまんちゅ!』の音楽を担当するのも何だか妙な縁を感じる。

竹中直人が監督・主演を務めた『無能の人』(1992)や是枝裕和監督の『誰も知らない』(2004)『歩いても 歩いても』(2008)の映画や、映画『ぼのぼの』(1993)、OVA『ヨコハマ買い出し紀行』(1998)、映画『ぼのぼの クモモの木のこと』(2002)のアニメ作品など、劇伴も多く手がけているGONTITI。

『あまんちゅ!』の音楽も二人のアコースティック・ギターの演奏を中心に、90年代から「放課後の音楽室」など、GONTITIの楽曲にアレンジャーとして参加をしている菅谷昌弘によるピアノや電子音、また桑野 聖らによるストリングスを織り交ぜつつ展開されている。ヴァラティ豊かに25曲たっぷりと、彼らのアルバム同様に味わい深い内容となっている。

キラキラと輝く音の砂がこぼれ落ちるようなイントロも鮮やかなテーマ曲「海と空と太陽と~morning~」
“銀幕”なんて言葉を思い出させる、昔の映画音楽のような流麗なストリングスとともに奏でられるギターも情感豊かに響く「landscape」
鉄琴の音が遠くで鳴り響き、ノスタルジックな黄昏時を演出する「遊びの時間」
楠 均(くじら、KIRINJI)のドラムと一本茂樹のベースが織りなすグルーヴもご機嫌な「route135」(舞台となっている伊豆半島を通っている国道135号のこと)は車に乗りながら聴きたい爽やかなフュージョン・ナンバー
電子音の不思議なリズムとドラムマシーンのジャストなビートによる「hurry up! 」では、彼らにしては珍しくエレキギターをフィーチャー。
“砂浜のスウィング”という曲名の通り、トロンボーン、トランペット、サックスらとのGONTITI楽団による演奏といった趣きの「swing on the beach」は心躍る小粋なセンスが光る。

海の底のような深い電子音にゴンザレス三上のエレキギターが絡む、a reminiscent driveなども想起させる「underwater」
中盤からは音楽室のピアノのような響きも印象的な「雨の月曜日」
路地裏でじゃれあっているようなヴィオロンチェロが深く音を刻む「funny cat」
緩やかに時が過ぎるボッサ・ナンバー「blue in bossa」
ギターが奏でる朗らかなメロディにストリングスが寄り添う「ぴかりウォーク」
キーボードの淡い音色がコーラスのように優しく情景を照らす「入道雲の向こうに」
フクロウの鳴き声みたいな音もユーモラスな「夏の王国」は爽やかな朝の始まりのよう。
かわいいテクノポップとピチカートが入り交じる「delightful day」
落ち着いたトーンで和める「水中メガネ」は、後半からのキーボードのメロウさも気持ちいい。

ハイレゾではアコースティック楽器の音色をそのままに再現する情報量の多さが感じられる。「きっと会える」では爪弾かれるギターの弦の響きや木管楽器の温かみが、「さよならも言わずに」ではピアノの音色の美しさが際立つ。また、ギターがすぐそばに感じられる「遊びの時間」、ヴァイオリン、ヴィオラ、ヴィオロンチェロが折り重なる優美な室内楽曲「new waltz」、低音のアクセントも強い「一緒に歩こう」では背景にある藤井珠緒によるパーカッションの音も細やかに、楽器の距離や定位も明瞭に伝わってくる。

楽曲による音像や音の響きの違いも感じ取られ、散歩をしているような軽やかが伝わる「風とゆびきり」、アルペジオが叙情的に奏でられる「マジックタイム」、静けさの中にギターと弦楽奏の音色をロマンチックに照らし出す「月あかりとマリンシューズ」など、時間や場面によって変わる楽曲の雰囲気や空気感が『あまんちゅ!』の世界に深みを加えている。『あまんちゅ!』では総監督を務める佐藤順一の監督作品『ARIA The ANIMATION』のChoro Club feat. Senooによるサウンドトラックにも通じる、アコースティック楽器のみずみずしく豊かな音の響きを感じることができる。

物語のシーンを彩る劇伴集として、またGONTITIのオリジナル作品としても楽しめるこのアルバム。じっくりと美しい音の響きに耳を傾けるも良し、何とは無しに部屋で流し続けても良し。いつでもどこでもユーモアと安らぎがふんわりと心地好くあふれ出す。生活にうるおいを与えてくれる、と表現するとまるで観葉植物のようだが、そんな音楽が今、とても大切に思える。

なお『あまんちゅ!』のOPテーマ、坂本真綾のMillion Clouds」のシングルには、1999年のミュージック・マガジン誌にて歌謡曲&ポップス部門の第1位に選ばれた坂本真綾の2ndアルバム『DIVE』(1998)のラストナンバーをセルフカヴァーした「DIVE feat.GONTITI」が収められている。タイトルからもわかるとおり、GONTITIが伴奏とサウンド・プロデュースを務めている。坂本真綾の歌声に寄り添って爪弾かれるアコースティックギターの美しい音色に旋律に浮かぶ絶妙な間、阿吽の呼吸。ヴォーカルとサウンドに包まれるような音像を感じられる。こちらも併せて聴いてみてほしい。

VTCL-60434GONTITI
TVアニメーション「あまんちゅ!」オリジナルサウンドトラック

FlyingDog
2016.08.24

FLAC・WAV 96kHz/24bit

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mora

 収録曲

 1.海と空と太陽と~morning~
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村・菅谷昌弘

 2.landscape
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村・菅谷昌弘 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村・菅谷昌弘

 3.一緒に歩こう
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村

 4.遊びの時間
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村

 5.route135
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村

 6.hurry up!
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村

 7.swing on the beach
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村・武嶋 聡

 8.new waltz
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村・菅谷昌弘

 9.風とゆびきり
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村

10.underwater
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村

11.待ちぼうけ
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村

12.雨の月曜日
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村

13.funny cat
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村・菅谷昌弘

14.blue in bossa
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村

15.ぴかりウォーク
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村・菅谷昌弘

16.マジックタイム
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村

17.入道雲の向こうに
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村

18.夏の王国
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村・武嶋 聡

19.delightful day
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村

20.月あかりとマリンシューズ
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村・菅谷昌弘 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村・菅谷昌弘

21.きっと会える
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村・菅谷昌弘

22.てこセンチメンタル
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村・菅谷昌弘

23.水中メガネ
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村

24.さよならも言わずに
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村

25.海と空と太陽と ~sunset~
   作曲:ゴンザレス三上・チチ松村 編曲:ゴンザレス三上・チチ松村・菅谷昌弘

 

<MUSICIANS>

guitar, soprano guitar, ukulele & programming:ゴンザレス三上
guitar:チチ松村

piano, electric piano & programming:菅谷昌弘
piano:黒木千波留
drums:楠 均
percussion:藤井珠緒
bass:一本茂樹

strings quartet:桑野聖(1st vln)、藤家泉子(2nd vln)、島岡智子(vla)、多井智紀(vc)
strings section:violin:桑野聖、藤家泉子、押鐘貴幸、岩戸由紀子、矢野晴子、大林典代、三浦道子、桐山なぎさ
viola:菊地幹代
violoncello:古川淑恵

oboe, cor anglais(English horn):最上峰行
clarinet:澤村康恵
faggot:石川 晃
alt, tenor, baritone sax & programming:武嶋 聡
trombone:榎本裕介
trumpet & Flugel horn:川上鉄平

©2016 天野こずえ/マッグガーデン・夢ヶ丘高校ダイビング部

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