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REVIEW&COLUMN

2016.10.12

fripSide『infinite synthesis 3』レビュー

fripSide『infinite synthesis 3』レビュー

シングル曲「Luminize」「Two souls -toward the truth-」や、「white forces」「1983-schwarzesmarken-」のアルバムVer.など全14曲を収めた、約2年ぶりとなる4作目のフルアルバムが完成。

「sister’s noise」などを収録した2014年のアルバム『infinite synthesis 2』より約2年ぶりとなる4作目のフルアルバム『infinite synthesis 3』。ハイレゾ版はCD版の1週間後、2016年10月12日にリリースされた。
TVアニメ『フューチャーカード バディファイト ハンドレッド』のOPテーマ「Luminize」、TVアニメ『終わりのセラフ』名古屋決戦編のOPテーマ「Two souls -toward the truth-」 、TVアニメ『シュヴァルツェスマーケン』OPテーマ「white forces」のアルバム・エディション「white forces -IS3 edition-」、PCゲーム「シュヴァルツェスマーケン 紅血の紋章』OPテーマをアルバム・ヴァージョンとして収録した『1983-schwarzesmarken-(IS3 version)」、また第1期fripSideで人気のあった「crescendo」「magicaride」を2016年のヴァージョンとしてトラックを作り直し、南條愛乃のヴォーカルでレコーディングした楽曲など、全14曲が収められている。2016年10月末からはこのアルバムのリリースを記念した全国ツアーが行なわれ、2017年3月のさいたまスーパーアリーナで締めくくられる。

「white forces -IS3 edition-」

TVアニメ『シュヴァルツェスマーケン』OPテーマとなった11thシングルのタイトル曲をアルバムのためにエディットした「white forces -IS3 edition-」。“果ての無い”との歌声からすぐさま始まるシングルとは違って、こちらはメインとなるヴォーカルが入ってくるまで1分40秒ほど、序章とも呼ぶべきトラックを付け加えている。ハイレゾではこの部分も聴きどころだ。

見通しの良い空間にストリングスの音色が余裕を持って深々と響き渡る。右側から中央、そして左側まで低音域から中高域へと配置されたそれぞれの弦楽器の定位のよさや、帯域をつなぐスムーズな音の鳴りが伝わってくる。切ない旋律を軽やかに奏でるピアノ、細やかに刻まれるリズム、宙を切り裂くビートの残響。サウンドを構成する音のパーツといった要素にも躍動感が感じられ、情報量による表現力の豊かさが感じられる。

さらに右側にノイジーなギターが割り込み、ストリングスと競り合うようにかき鳴らされる。この対する位置で奏でられるサウンドの中に、もはや言葉として識別不能なまでにエフェクトがかかったヴォーカルが揺れ動いており、“BETA”との絶望的な戦闘を続ける東ドイツ陸軍の第666戦術機中隊“黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)”の映像がフラッシュバックするような、大胆なアレンジが施されている。

この部分のCDとの違いを非常に端的に表わすとよりドラマチックで、いい意味でさらに派手。ダイナミクスの広がりにより強弱のグラデーションが深まり、fripSideらしい「激しい音はベースとなるサウンドから飛び出してくるよう目一杯のアクセントで鳴らし、静かな雰囲気のパートとの対比を強める」といったメリハリ感がさらに活かされた、サウンドの傾向になっているのがこのハイレゾの特徴。その前章が終わりかけ、ヴォーカルが入る前に差し込まれる、一瞬の静けさの余韻といったものにも、その影響が現われている。

同じように“本編”となるメインのサウンドにも違いが感じられる。弾力のある強いローのキックと歯切れのよいスネアが叩き出すスピード感、高音域を駆け巡るピアノや浴びせかけるようなシンセの鮮やかな音色に解像感の強さを感じることができる。イントロとは変わって“生き抜くその先に待っている未来”へと進む意志を投影したギターの勢いのある演奏や、ラストに向けて誇らしげに鳴り響くシンセの音色も刺激的に、ダイナミックさを増したサウンドへと仕上がっている。

ヴォーカルは分離感によりサウンドからぐっと押し出され、より近くにリアルな音像で伝わってくる。やや抑えた前半から、“今はただ 真実に近づくための糧になるから”では、なめらかに抑揚を伸ばし、サビ部分への力強い歌唱へと感情を一気に高める。その“なるから”にビブラートで深い情感をにじませ、想いを振り切った言葉とは裏腹に哀しみを飲み込むように語尾ではほんのわずかに喉を締める。そんなヴォーカル・テクニックも楽曲をよりエモーショナルに彩っていく。

「Answer」

南條愛乃の作詞によるこのナンバーは、彼女のソロアルバム『Nのハコ』に収録されている「きみからみたわたし」「ヒカリノ海」のように言葉をそっと並べる冒頭の、“はらはら 舞い散る 夜 朝 こぼれる”その丁寧な語り口も印象に残る。だがそれらの曲やこのアルバムではあふれる愛に満ちた「One and Only」とは対照的に、続く言葉のたどり着く先は、“運命に試されたのか 果てのない無力さを知る” “悲しみも自分が蒔いた蕾だと抱きしめている”とある種、諦観めいたものが感じられる。早々と提示される結論 “初めから正解など無意味で”という「Answer」に、哀愁を帯びたハーモニカの音色が相まって、この歌が袋小路に陥った社会を風刺したブルースのようにも聴こえてくる。
もっともペシミズムに浸っているのではなく、それは痛みや苦しみを受け止めながら現実を直視し、人の“ぬくもり”や感謝の気持ちを忘れない、現代に生きる人間の姿を飾りなく、そして優しい眼差しで描き出したもの。自分が抱えている気持ちを誰かが代弁してくれると心が少し軽くなることがある。南條愛乃のしっとりとした歌声はふとそんな気持ちにもさせてくれる。

量感があるシンセベースを前に出しつつも他の曲よりシンセを控え、アコースティック楽器やストリングスの音色を交えつつ、90年代後半のJ-POPのようなサウンドがヴォーカルに寄り添うようにミドルテンポで奏でられる。音を拡散させずあえて密にさせるようなミックスが、歌の背景となっているメランコリックに沈むこの世界を映し出す。
fripSideでは力強くしなやかに歌い上げることが多い南條愛乃もこの曲では落ち着いた雰囲気を漂よわせ、しかし静かに語りかけるその抑揚には秘めた思いが立ちのぼる、隠しきれない感情の揺らぎが表わされている。凛とした歌声の透明感や表現の繊細さが解像感によってサウンドから浮かび上がり、ラストでの声の掠れや絞りきるようなハイトーンがいっそう切なく感じられる。

アルバムのオープニングナンバーとなる壮大なインストゥルメンタル「2016 -Third cosmic velocity-」
一条の閃光のように電子音がほとばしる9thシングル曲「Luminize」
イントロでは荒涼とした空間演出と誘導するようなトランス感を加えたアルバム・ヴァージョン「1983-schwarzesmarken-(IS3 version)」
躍動的なビートと間奏のギターも力強い、齋藤真也によるアレンジが光る「determination」
ロックの躍動感とたくましい音像を感じる「magicaride -version2016-」
間髪入れずに転調とともに言葉をたたみかけるような中盤の展開も鮮やかな「Two souls -toward the truth-」
原曲の勢いを保ちながらも洗練されたアレンジで今のfripSideの姿にふさわしいサウンドへとブラッシュアップした「crescendo -version2016-」
アタックの強いシーケンスと英詞のコーラスが効果的に響き渡る「Run into the light」
分厚さを増す低域の層にシンセが煌びやかに舞い踊る「Dry your tears」
ダイナミックなサウンドで“無限の宇宙(そら)”を描く、PCブラウザゲーム『超銀河船団∞』の主題歌「unlimited destiny」
90年代のR&Bを垣間見せるメロウなアレンジも心地好い「One and Only」
跳ね躍るようなリズムと希望を照らす澄んだ歌声で“次のドア”を叩く、爽やかなラストナンバー「Side by Side」

『infinite synthesis 2』からさらにサウンドの幅を広げ、その表現の進化を遂げたfripSide。その変化は音質にも現われており、初期にあったマッシヴな音圧は今ではそれほど感じられず、余裕のある音の響きが聴き取れる。ハイレゾではCDよりもさらに、以前のサウンドとは異なる質感、イメージが強く伝わってくる。もちろん彼らの本質が失われたわけでは決してなく、むしろそれを生かしたダイナミックさと抑揚の豊かさを両立する方向へと向かっている。今後のサウンドの変化も実に楽しみだ。

fripSide
infinite synthesis 3

NBCUniversal Entertainment
2016.10.05

FLAC・WAV 96kHz/24bit

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e-onkyo music
mora

収録曲

 1.2016 -Third cosmic velocity-
   music & arrangement : Satoshi Yaginuma

 2.Luminize (TVアニメ「フューチャーカード バディファイト ハンドレッド」OPテーマ)
   words, music & arrangement : Satoshi Yaginuma

 3.1983-schwarzesmarken-(IS3 version)
   words, music & arrangement : Satoshi Yaginuma

 4.determination
   words & music : Satoshi Yaginuma arrangement : Shinya Saito

 5.magicaride -version2016-
   words, music & arrangement : Satoshi Yaginuma, Shinya Saito

 6.Answer
   words : Yoshino Nanjo music & arrangement : Satoshi Yaginuma

 7.Two souls -toward the truth- (TVアニメ「終わりのセラフ」名古屋決戦編OPテーマ)
   words, music & arrangement : Satoshi Yaginuma

 8.white forces -IS3 edition-
   words, music & arrangement : Satoshi Yaginuma

 9.crescendo -version2016-
   words, music & arrangement : Satoshi Yaginuma, Shinya Saito

10.Run into the light
   words, music & arrangement : Satoshi Yaginuma

11.Dry your tears
   words, music & arrangement : Satoshi Yaginuma, Kai Kawasaki

12.unlimited destiny
   words, music & arrangement : Satoshi Yaginuma

13.One and Only
   words : Yoshino Nanjo music & arrangement : Satoshi Yaginuma, Kai Kawasaki

14.Side by Side
   words, music & arrangement : Satoshi Yaginuma

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