INTERVIEW
2016.12.14
──藤林さんとのディスカッションでキャラクターやストーリーに明確なイメージや姿を与えて、彼らが動き出す準備ができました。そこからそれに具体的な歌詞や音を当てていく段階になるのでしょうか?
悠木 藤林さんとのディスカッションにはプロデューサーやほかのスタッフさんも同席していて、プロデューサーを通じて作曲家さんたちにもキャラクターやストーリーを共有してもらいます。そのディスカッションで世界観やキャラクターが固まりまして次は、今回はだいたい6~8曲と想定していたんですが、その曲数を仮定したときにそれぞれの曲では何をテーマにしていきますかっていう話になるんです。
──その6~8曲のミニアルバムというサイズ感は、早い段階で決めていたのですか?
悠木 人の声ってすごく情報量が多いので、声だけの作品で45分とか50分になると息切れしちゃうんじゃないかなって。それで“プチアルバム”でいこうと判断しました。聴き終えたときにちょっと物足りないかなってくらいがちょうどいいよね?って。食べ過ぎもよくないっていう(笑)。
──それはたしかに(笑)。
悠木 だから一曲一曲もあえて短くしています。元々はもっと長かった曲もあったんですけど、作曲家さんに「一曲でこの長さだとプチアルバムとして作品全体が出来たときにすごく重たくなってしまうので」とお願いして、ぎゅっと縮めていただきました。
──悠木さんは本作も含めて“プチアルバム”、一般にいうところのミニアルバムの作品数が多いですよね。シングル、プチアルバム、アルバム。それぞれについての考え方を聞かせていただけますか?例えば収録曲数の少ないシングルにアニメ作品とのタイアップ曲がひとつ入ると、悠木さんが思い描くご自身の世界観とのバランスが難しくなるのではありませんか?
悠木 意外とそれはそれで楽しくもあるんです。縛りがひとつあることで気持ちが盛り上がったり、発想が広がったり(笑)。そんな盛り上がりもありつつ、シングルには塗り重ねていく楽しさみたいなものがあって、一枚でいかに見せていくかというのを考えるのが面白いです。
──対してプチも含めてアルバムの面白さというと?
悠木 アルバムには、いろいろな曲をレイヤーとして重ねていって、すべてを重ねたときにどういう世界が見えるかっていう面白さがあります。どちらにも面白さがあって、表現したいテーマとの相性もあるんですよね。例えば今回のテーマにはレイヤーを重ねるやり方が合います。だからシングルじゃなくてアルバム。でもフルじゃなくてプチ。先ほど言いました、声の情報量とのバランスでの判断です。
──アルバムについての「曲ごとがそれぞれのレイヤーでもあり、レイヤーを重ねたときにアルバムとしてひとつの世界が見える」というのを聞いて、とてもしっくりきました。悠木さんのアルバムにはアニメの世界観に沿った曲も入っていて、その曲の世界もアルバム全体の大きな世界の一部として自然に取り込まれている。それはそういうことだったのかと。
悠木 今までずっと、作品にはコンセプチュアルなストーリーを持たせてきました。ですので、アニメからの別のストーリーが入ってきたとしても、それを崩したくはないんです。それに縛りがあったところで私たちが表現したいものができなくなるわけじゃない。その表明として、アニメ作品の世界観も私の作品の世界観に確実に取り込んでいます。また私は縛りがある方が盛り上がる面もありますし(笑)。そこはむしろ望むところで、積極的にやっていこうとさえ思っています。
──ではここからは6曲それぞれのテーマ、実際の歌詞や曲で表現されているストーリーやキャラクターなどを順に紹介していただけますか?
悠木 じゃあ2曲目から話しますね。2曲目「サンクチュアリ」は蝶々の歌です。今回の作品の本当に最初からのイメージなので、その蝶々の歌から始まります。で、3曲目「マシュバルーン」がえのきの歌。
──なるほ……え?そんなさらっと「えのきの歌」とか言われましても(笑)。
悠木 実は~(笑)。「えのきってよく見ると気持ち悪いよね」っていう(笑)。食べるのは好きなんですけど、私。でもえのきを上からすごい近くで見ると気持ち悪いんですよ。
──小さなものがぎゅっと集まってる感の気持ち悪さですか?
悠木 そうそうそう。集合してる気持ち悪さってありますよね?っていうのがあって。そして、4曲目の「鍵穴ラボ」は『ビジュメニア』の少女を他の観点で捉えたときのストーリーといいますか。
──リスナーにとってこの「鍵穴ラボ」の最後は、今回のプチアルバムの中でも特に息を飲まされる場面のひとつだと思います。
悠木 あ、よかったです(笑)。それまで後ろを向いて作業をしていた女の子がぐるっと振り返って、鍵穴から覗いていたキメラの方を向くっていう。
──怪談話の最後みたいな(笑)。その瞬間、鍵穴から女の子を覗いているキメラとしての歌声が、とてもうれしそうな声になりますよね?
悠木 それもその瞬間までのストーリーがあるからなんです。『ビジュメニア』の少女は白いものが好きで、誰にも理解してもらえずにずっと孤独で、白いものを自分の部屋の中に集め続けて、いつか全部を白くしてやろうって研究をしてるんですけど、そんな中でこのキメラに突然、出会う。
──本当に真っ白なキメラに。
悠木 入り込んだ森の中で元々白く生まれてきている謎の生き物に出会って、その子に恋をするわけですね。言葉も通じないし感覚もまったく違うんだけど、全部白いしこの子がとにかく私の理想だと。それでこの子を夫に迎えるんです。家に連れてきて鍵をかけた部屋でその子の白さを研究する、そのときのストーリーが「鍵穴ラボ」です。
──この白い森の中では、白が大好きだけど彼女自身は白い生き物ではない、『ビジュメニア』の女の子の方が異質なんですか?
悠木 『サンクチュアリ』の歌詞は『ビジュメニア』の女の子がこの森に誘なわれてくるときのお話とも捉えられますよね。でもこのキメラの方も実は元はどこかの国の王子様で人の言葉もわかっていたんだけど、この白の世界に毒されて白くなったっていう設定もあったりするんです。どちらの視点でも見られる曲になっています。
──設定を本当に作り込んでいるんですね。
悠木 はい(笑)。あとですね、この黒い方のキメラはまだちょっと人の言葉がわかるときなんです。で、白い方がもっと侵食されて人の言葉がわからない、より動物的になった姿という設定になっています。
──黒い方というのは通常盤アートワークの髪だけは黒いキメラ、白い方というのは初回限定盤の髪まで真っ白なキメラですね。
『トコワカノクニ』初回限定盤ジャケット
悠木 言葉のわかるわからないの話には「マシュバルーン」からの流れもあります。この世界には白い生き物って意外とたくさんいて、白くなったからといって、キメラは誰ともしゃべれなくなったわけじゃないんです。白いもの同士ならしゃべれるので。なので森の白い仲間たちと一緒に仲良く楽しく暮らしている。そこに女の子がやってきて出会うというのが「マシュバルーン」のストーリーで、そこからの「鍵穴ラボ」なんです。
──キメラたちからしたら「あれ?白くなくてしゃべれないのが来たぞ?」ということに?
悠木 白くない生き物には言葉が通じないので。でも、あの女の子は自分のことをわかろうとしてくれてるしすごく優しい、ということはわかる。キメラの感覚は犬や猫みたいなものなので。「何かごはんくれる」ってついて行ってしまうぐらいには迂闊(笑)。
──女の子はそのキメラにすごく懐かれたわけですね。
悠木 すごい懐いているので無警戒についていって、女の子がいつか全部を白くしてやろうって研究をしている「鍵穴ラボ」に行くんです。
── 「鍵穴ラボ」に続いての5曲目「レゼトワール」は、このプチアルバムのリードトラックですね。たしかに「 “声だけでつくる”ってどういうことだろう?」と不思議に思っている人には、まずこの曲を聴いてもらうのがわかりやすいと感じました。
悠木 この「レゼトワール」がいちばん声が重なってる歌なんです。なので特徴的かなと思います。ストーリーは、研究所に来たキメラの子と女の子が全然違う言語で全然通じない話をめちゃ楽しくしてるっていう話です。
──言葉は通じてないのに楽しそうって、言葉をしゃべり始める前の子供同士でもありますね。大人から見ると「なんとなく成立してるっぽい……」という感じの。
悠木 何かよくわかんないけどこの子とこの子は仲がいいぞ、みたいな(笑)。そういう何となく成立してるっぽさ。だからこの子たち全然違う話をしてるけどふたりともすごく楽しいし、そのコミュニケーションをふたりともすごく特別なものに思っている……というのが、私から見てもとてもラブラブなんです(笑)。
──そして最後の6曲目は「マシロキマボロシ」です。
悠木 最後なのですが実はこの最後の「マシロキマボロシ」と1曲目の「アイオイアオオイ」っていうのが、最後から最初に戻ってループしてもらうとわかるんですけど、同じ音の曲なんです。
──それで「じゃあ2曲目から話しますね」だったんですね。同じメロディの曲なのはわかりますが、それだけではない仕掛けもあるんですか?
悠木 あるんです!でも答え合わせはしないで皆さんにお任せしておきますね。私のファンの方々、優秀ですし(笑)。
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