緒方恵美『real/dummy High Edition』レビュー

ダミーヘッドマイクを使用した「バイノーラル録音」による楽曲も収録した緒方恵美の最新アルバム!強さから儚さまで多彩な表現で独自の世界を切り開く、緒方恵美の意欲作。

緒方恵美の最新アルバムとなる『real/dummy』。PS4、PS Vita専用ソフト『ニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期』ED主題歌「断鎖 -break-」、sprite/fairysラジオ『緒方恵美と妖精の国。~あおかな広報局』テーマソング「beyond the sky」、Xbox Oneソフト『ミステリートF -探偵たちのカーテンコール-』挿入歌「プライド」、緒方恵美も【歌ってみた】「脱法ロック」の作者Neruによる書き下ろし新曲「オオオカミ少年隊のテーマ」など、12曲を収録している。

今作には、中土智博、クラムボンのミトArte Refactの五条下位とfandelmale、渡部チェル、Neru、w-inds.や関ジャニ∞、また自身もメンバーである“Tourbillon”のヴォーカル・河村隆一などに楽曲提供を行なっている葉山拓亮、manzo、ジェッジジョンソンの藤戸じゅにあ、『ペルソナ』シリーズの音楽を担当しているアトラスの目黒将司、そして黒須克彦が参加。また「僕を放て」では、「残酷な天使のテーゼ」「魂のルフラン」の作詞家・及川眠子が作詞を手がけるなど、豪華な作家陣の名前がクレジットに並ぶ。

“現実(リアル)に溢れるダミーをみつめ、作り物(ダミー)の中にリアルをこめて”という、2次元のキャラクターに命を吹き込む声優らしい今作のテーマに沿って、ダミーヘッドマイクを使用した「バイノーラル録音」による楽曲も2曲収録。個性的なクリエイターによるヴァラエティに富んだサウンドと、楽曲によって一段と変化するヴォーカルの多彩な表現がじっくりと味わえるアルバムとなっている。

「white closet」

EDM系エフェクトを差し込んだラウド・ロックとR&Bフィーリングのメロウネスも感じられるサウンドが交錯する、アルバムのオープニングを飾る今作のリード曲。大胆な展開によるサウンドの中に、きめ細やかな音へのこだわりが感じられる、中土智博らしい楽曲だ。

陰りを映す深みのあるヴォーカルからは、友情という境界を越えられず、「closet」することを選んだ主人公の心の叫びがひしひしと伝わってくる。左右や後ろからは内なる存在からのコーラスや囁きが現われ、抑えきれない想いからこぼれ落ちるように儚く響く。希う気持ちを静かに語りながらも、サビでは感情をあふれさせ、“『誰にも 渡さない』”と歌い上げる、そのエモーショナルな歌声が切なくも美しい。

一聴するだけですぐさま高い解像度と立体感が伝わってくるハイレゾ。ダイナミクスの幅もあり、歌い手の感情の起伏と呼応するように緩急付けるサウンドが、静と動のイメージの対比を鮮明に描き出す。そしてまた、音圧が高いことにも気づかされる。楽曲制作において音圧を上げることを優先すると、音の強弱の差が小さくなり音表現の繊細さ、表現のグラデーションといったものが損なわれてしまうが、ここではダイナミクスを確保しつつ、しかし極めて高い音圧により、クリーンかつ迫力のあるサウンドを生み出している。ハイレゾでは解像感やダイナミクスの要素が引き出されてはいるものの、迫力が薄まるような(CDとの比較だけでなく、作品の方向性として)作品もあるが、今作ではどちらの要素も優先したような、その均衡が見事に保たれている。

さてこの曲では、通常のマイクに加えて、ドラマCDやシチュエーションCDなどで使われることが多いダミーヘッドマイクが使用されている。ダミーヘッドマイクは人の顔の形をしており、その耳の中にマイクが設置されている特殊なマイクだ。これを使用して録音を行なうと、実際に目の前にその人がいてすぐそばで囁かれているような、非常にリアルな臨場感で音を体感することができる(このような立体的音響による録音手法を「バイノーラル録音」と呼ぶ)。ダミーヘッドマイクの実力が一番効果的に現われるのは、やはり耳元で囁いて録音することだ。

空間の定位も良くメイン・ヴォーカルも立体的に聴こえるが、ダミーヘッドマイクで録音された部分はそれ以上の立体感、存在感がある。コーラス、語り、囁き、ため息、吐息。緒方恵美が実際にすぐそばにいて耳元で囁かれているような、非現実的でリアルなその質感は、確かに今作『real/dummy』のコンセプトにもかなっている。しかもその声が非常に蠱惑的。低い声質によるその甘い囁きは性別や年齢を超えて、聴いている者の耳と心を震わせる。もちろんスピーカーでのリスニングも楽曲の良さを充分味わうことはできるが、声の要素に焦点を合わせて、静かな場所でイヤホンやヘッドホンにて聴くことも併せてオススメしたい。

なおYouTubeに「white closet」のフルサイズ試聴動画が公開されている。バイノーラルの効果を体感することができるので、特にイヤホンやヘッドホンにて試聴してみてほしい。

「ユウキアイマジン(courage & imagination)」

こちらも立体的な録音手法であるバイノーラル録音によるナンバー。Astell&Kernのラインナップの中でも最上級のハイレゾプレイヤー「AK380」に、同社の「AK Recorder」を組み合わせて(ハイレゾのオーディオに詳しい方ならばこの機器の組み合わせで、ライヴ・レコーディングたるこの曲の意図するところがおわかりになられるだろう)、さらに「AK Recorder Kit」に付属しているマイク部分を改造したものを緒方恵美の耳に装着して(インイヤーモニターがマイクとして使用されている)、「一発録り」によるレコーディングを行なっている。つまりこの曲では、緒方恵美がダミーヘッドマイクとなり、自身のヴォーカルと楽器の演奏を一緒に録音しているのだ(ラインなども一切使用せず、録音はこのダミーヘッドマイクのみ使用)。リスナーが耳にする音は緒方恵美の耳の位置から録音されたものであり、レコーディング現場に立ち会うというよりもむしろ彼女と一体化したようなリアルな音場を体験できる。

始まりから終わりまで緒方恵美とともに音を捕らえた、ちょっと特殊な手法によるこの曲だが、そのサウンドはいたってシンプル。この曲の作曲を手がけるmanzoによるピアノ、カホン等のパーカッションやウィンドチャイムなど、少人数のアコースティック・ライヴといった編成となっており、楽器の鮮やかな音色や勢いのあるビビッドな演奏など、演奏者との距離からスタジオの空気感までを余さず音源に収めている。

“貧乏暇ナシ 転びまくりの人生 だけど悪くない”と飾らずに歌うヴォーカルは実に伸び伸びとしており、ちょっとくつろいでいるようにも感じられるほど。またおおらかな演奏からもスタジオの和やかな雰囲気がそのまま伝わってくる。それにしても、中盤で演奏の手を休めての仲間たちとの気さくなMCはリラックスしすぎ(笑)。聴いているこちらもつられて笑みを浮かべてしまう、そんな楽しいひと時を共有できる。

なお2016年2月1日に発売されるCDに先駆けて1月25日より先行配信されているハイレゾ版『real/dummy High Edition』では、全曲をアルバムとして購入した場合、ボーナストラックとして「ユウキアイマジン(courage & imagination)192k High Edition」と「from オガタ」をダウンロードできる。「from オガタ」はハイレゾ版購入者へのヴォイス・メッセージなのだが、「ユウキアイマジン(courage & imagination)」のレコーディング直後にリアルダミーヘッドマイクそのままで吹き込まれており、メンバーやスタッフとの和気あいあいとした模様が収録されている。

ハイレゾというフォーマットでバイノーラル録音という実験的な試みも行なっている今作。同じくダミーヘッドマイクを使用して制作された悠木 碧の『トコワカノクニ』のように、音楽の新しい表現の可能性を感じさせる。もちろん注目すべきは特殊な手法のみならず、全編を通して楽曲の出来栄えが素晴らしく、彼女の新たな代表作としてふさわしいアルバムに仕上がっている。また緒方恵美の音楽に触れたことのない人に入門編としても迷わず勧められる一枚だ。

※ハイレゾはこれからという方は、今作のサウンド・プロデュースを務めた音楽プロデューサー・佐藤純之介による

教えて純之介さん!Lantis音楽プロデューサー佐藤純之介がズバリ回答!!「ハイレゾQ&A」Vol.1こちら
をチェックしてほしい。

※またダミーヘッドマイクについて興味を持たれた方は、2016年12月にリリースされた悠木 碧『トコワカノクニ』のインタビュー

■悠木 碧『トコワカノクニ』インタビュー Vol.1 悠木 碧 インタビューはこちら
■悠木 碧『トコワカノクニ』インタビュー Vol.3 フライングドッグ 音楽プロデューサー・佐藤正和 インタビューはこちら

こちらもご一読いただきたい。

megumi_ogata_LZC-1121緒方恵美 
real/dummy High Edition

Lantis
2017.01.25

FLAC・WAV 96kHz/24bit、WAV 96kHz/32bit

ハイレゾの購入はこちら

e-onkyo music
groovers
mora

 収録曲

 1.white closet
   作詞:em:óu 作曲・編曲:中土智博

 2.Be My LADY
   作詞・作曲・編曲:ミト

 3.beyond the sky
   作詞:RUCCA 作曲:五条下位 (Arte Refact) 編曲:fandelmale (Arte Refact)

 4.プライド
   作詞:em:óu 作曲・編曲:渡部チェル

 5.オオカミ少年隊のテーマ
   作詞・作曲・編曲:Neru

 6.二人の方舟
   作詞・作曲・編曲:葉山拓亮 Chorus:川村ゆみ

 7.ユウキアイマジン(courage & imagination)
   作詞:em:óu 作曲:manzo 編曲:M’s Bar

 8.僕を放て
   作詞:及川眠子 作曲・編曲:manzo

 9.アルター・エゴ
   作詞:em:óu 作曲・編曲:藤戸じゅにあ

10.惑星照
   作詞:em:óu 作曲・編曲:目黒将司

11.断鎖 -break-
   作詞:em:óu 作曲・編曲:黒須克彦

12.D.Closet
   作曲・編曲:中土智博

【ボーナストラック】
13.ユウキアイマジン(courage & imagination)192k High Edition
   作詞:em:óu 作曲:manzo 編曲:M’s Bar

14.from オガタ

■制作フォーマット:HD Master 96kHz/32bit floating
(tr5のみ48kHz/24bit、ボーナストラックは192kHz/32bit floating)

■配信フォーマット:96kHz/24bit wav、96kHz/24bit flac、96kHz/32bit整数wav
(ボーナストラックは192kHz/24bitのみ)

■マスタリングエンジニア:原田光晴
■マスタリングスタジオ:Magic Garden Mastering

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