VARIOUS『TVアニメ「月がきれい」サウンドコレクション』レビュー

伊賀拓郎が手がける叙情的な劇伴と東山奈央による挿入歌を収録したアルバム。挿入歌は、村下孝蔵「初恋」、Chara「やさしい気持ち」、Every Little Thing「fragile」など往年の名曲をカヴァー。

2017年4月より放送されたTVアニメ『月がきれい』。太宰治を敬愛する小説家志望の安曇小太郎と陸上部の短距離走者、水野 茜が初めて出会った中学3年の新学期から物語は始まる。

劇伴は伊賀拓郎が担当。『緋弾のアリアAA』『魔法少女育成計画』、またWEST GROUNDとともに『風夏』などTVアニメの劇伴や、西沢幸奏「ピアチェーレ」(アニメ「ARIA The AVVENIRE」主題歌)などを手がけ、また今作のエンディングテーマである東山奈央の「月がきれい」と、劇中で使用された挿入歌のアレンジも務めている。

『TVアニメ「月がきれい」 サウンドコレクション』には、伊賀拓郎による劇伴29曲と、東山奈央が歌う挿入歌5曲を収録。小太郎と茜の恋模様を優しく彩る音と美しい歌を再びじっくりと味わうことができる。

劇伴

M-1「川越の春、新たな芽吹き」は、第1話「春と修羅」冒頭で使用された曲。タイトルの通り、桜の花びらが舞い散る川越の風景をいくつも追いながら、新学期を迎えた校舎へとカメラは移動。クラス分けにわきたつシーンの中に小太郎と茜の存在を印象づけた。小川に反射する光のようにきらめくピアノの音色と深みのあるストリングスが清々しい。第8話「ヰタ・セクスアリス」の風鈴が舞う夏祭りの場面でも使用されている。

M-2「部活動」は文芸部である小太郎が図書室を開室するシーン、そして陸上部に所属する茜がグラウンドを走っているシーンで使用。管楽器と弦楽器のアンサンブルがワルツのように軽やかに放課後の様子を描写している。

どことなく郷愁を誘うようなメロディが響くM-3「陽暮れて家路近くありせば」は第1話の後半、小太郎が帰宅途中に立ち寄ったなじみの古本屋で流れていた。ここで小太郎は彼のよき理解者である立花からはっぴいえんどの1stのレコードを貸してもらう(ちなみに川越にこのレコードバックのお店はない)。そして太宰治の『女生徒』を購入して帰るのだが、後日、小太郎の小説を読んだ母親が「女心がわかってないわね」とつぶやくシーンの伏線にもなっているようにも思える。

M-4「やさしい時間」は繊細なタッチのピアノが静かに時を紡ぐ。用具係の一件を機にLINEを交換したふたりがメッセージをやりとりするまでを温かく見守るように奏でられていた。

ピアノによるM-5「EyeCatch」を挟んで、M-6からM-9までは第4話「通り雨」にて使用された。M-6「修学旅行の朝」は冒頭の東京駅での集合シーン、M-7「浮き立つ気持ち」は清水寺など京都での観光シーンで爽やかに旅の楽しさを演出。M-8「女子浴場の喧騒」は小気味いいシロホンと管楽器のユーモラスな旋律が絡むかわいらしい演奏。M-9「もっと、しゃべりたい」は、ゆっくりと一音一音を弾くオルゴールの音色が静かにあふれるように茜の思いを伝えていた。

M-10「涼子先生とろまん」は主にエンディング後のコメディテイストのミニドラマ(いわゆるCパート)で使用された。「涼子先生とろまん」のシリーズの中では、涼子先生が落ち込んでいる回はM-19「こっそりと…」(夜、よその家にこっそり忍び込むシーンなどで使われそうな)がかかっていた。

M-12「焦燥Ⅰ」ではリフレインするピアノが待ち続ける茜のひそかな苛立ちを、M-13「付き合うって、何?」ではアコーステッィクギターが小太郎のもどかしい気持ちを表わしていた。ちょっと不穏な雰囲気を醸し出すM-11「いやな予感」からM-16「焦燥Ⅱ」までは、付き合い始めたふたりのまだぎこちない感じや、もやもやとした感情を映した曲が続くが、朗らかなM-14「高揚」を挟むことで、アルバムが暗いトーンになることを避けている。

M-17「板挟みと小さなヤキモチ」はピチカートとピアニカが軽やかに弾む中、ストリングスがちょっぴりスリリングに差し込まれる。なんとなく綱渡りをしているようなイメージだが、第5話「こころ」にて、茜の親友・西尾千夏と小太郎が図書室で話し合っているところに出くわした茜の心情と困惑する小太郎の姿をややコミカルに表現していた。

M-18「水面に揺れる月」はまさにその名の光景が映し出された第5話の後半に登場した、ピアノが淡く奏でる夜想曲。M-22「恋人たち」は、第9話「風立ちぬ」では陸上大会のシーンで曲の後半を使用。流麗な旋律がふたりの行く先を照らし出すように優しく響き渡る。

M-25「気づき」は第11話「学問のすすめ」でふたりが受験のことについて語り合い、お互いを励ます場面で流れていた。東山奈央のエンディングテーマ「月がきれい」のサビをモチーフに優雅な室内楽へと仕上げている。M-28「決意」は第12話「それから」で小太郎がパソコンに向かうシーンのバックで使用。モリコーネなどの映画音楽を思い出すような、温かく懐かしいメロディがじわっとしみる。

M-29「月がきれい」は第7話「惜しみなく愛は奪う」や第10話「斜陽」など、重要な場面で使用されたピアノ曲。月明かりのように輝く、そしてほのかに切なさを漂わせる音色が深い余韻を残す。

挿入歌

この『TVアニメ「月がきれい」 サウンドコレクション』には、東山奈央による挿入歌がM-30から34まで5曲収録されている。挿入歌は往年の名曲をカヴァーで、約1分30秒から2分30秒ほどの長さの「TVアニメ「月がきれい」EDIT ver.」となっている。どれもがピアノやアコースティックギター、ストリングスによるアレンジとなっており、東山奈央の澄んだ歌声が凛と響き渡る、美しい仕上がりとなっている。

「初恋(TVアニメ「月がきれい」EDIT ver.)」は第3話「月に吠える」で使用された。陸上大会に出場する茜の記録更新を祈願するため、小太郎が神社にて参拝するシーンで、セリフを入れずに歌を聴かせることで小太郎の茜に対する思いを表わしていた。そっと語りかけるような歌声がさらに切なさが帯びる。「初恋」は1983年にリリースされた村下孝蔵の代表曲で、彼が他界した後も多くのアーティストによって歌い継がれている。東山奈央の2ndシングル「イマココ/月がきれい」の【アニメ盤】には「初恋」のフルヴァージョンが収録されている。

「やさしい気持ち(TVアニメ「月がきれい」EDIT ver.)」は、第5話「こころ」の後半、古本屋にて小太郎と茜がふたりきりで会話をする場面で使用。ハープの華麗な音色が印象的なM-21「そのままの君でいい」が止まってからしばらくおいて、静かに歌が流れ始め、“手をつなごう”の歌詞が映像に重なる、その演出も見事だった。限りなくイノセンスな歌声がここで安らぎを感じさせる。「やさしい気持ち」は1997年にリリースされたCharaのシングル。同年リリースされたアルバム『Junior Sweet』には「やさしい気持ち(しあわせ Version)」として収録されている。

第8話「ヰタ・セクスアリス」の終盤でかかったのは、「夏祭り(TVアニメ「月がきれい」EDIT ver.)」。「夏祭り」は1990年にリリースされたJITTERIN’ JINNのシングルで、「プレゼント」「にちようび」とともに大ヒットしたかれらの人気曲。Whiteberryのカヴァーでも有名だ。原曲はポップに弾ける賑やかなサウンドが印象的だが、ここではしっとりとしたアレンジで楽曲の持つ哀愁をさらに引き出している。

第10話「斜陽」では「fragile(TVアニメ「月がきれい」EDIT ver.)」を使用。「fragile」は2001年にリリースされたEvery Little Thingのシングルで、「Time goes by」と並んで、ELTを代表するバラード曲。小太郎と茜の気持ちをそのまま代弁しているような歌詞は、すれ違った気持ちがひとつになる、このシーンだけでなく作品全体にとっても重要な意味を持っているようでもある。アニメでは途中から音量が上がり、東山奈央の歌声がふたりの思いを強く響かせた。

第11話「学問のすすめ」では、「未来へ(TVアニメ「月がきれい」EDIT ver.)」を使っている。「未来へ」は、1998年にリリースされたKiroroの2ndシングルで、「長い間」とともにずっと愛されているナンバー。恋する気持ちを描いたほかの挿入歌とは異なり、「母の優しさ」がじわっと伝わってくるこの曲は、真夜中、安曇家の食卓で静かに流れた。映像はことさらおおげさな演出を施さず、丁寧に光景を描写することに徹しており、そのことがかえって情感のこもった歌声を引き立たせている。映像と歌のバランスが絶妙だ。

ハイレゾはさらに躍動的なサウンドで、「部活動」や「浮き立つ気持ち」ではみずみずしい青春のイメージを強くさせる。また「そのままの君でいい」「恋人たち」などストリングスをふんだんに使用した曲では音の厚みとその響きがますます豊かに聴こえる。もちろん東山奈央の透き通った声の質感や繊細なニュアンスもありのまま、よりリアルに伝わってくる。

なにより伊賀拓郎が生み出す叙情的なメロディとアレンジ・センスに魅了される。アニメ作品内で聴く映像と一体化した劇伴や挿入歌ももちろん素晴らしいのだが、1曲ずつじっくりと聴いてみると楽曲の美しさが作品の感動をよりいっそう深くしてくれる。そんなことに改めて気づかせてくれるアルバムだ。

VARIOUS
TVアニメ「月がきれい」サウンドコレクション

FlyingDog
2017.07.05

FLAC・WAV 48kHz/24bit

ハイレゾの購入はこちら

e-onkyo music
groovers
mora

 収録曲

   作曲・編曲:伊賀拓郎

 1.川越の春、新たな芽吹き

 2.部活動

 3.陽暮れて家路近くありせば

 4.やさしい時間

 5.EyeCatch

 6.修学旅行の朝

 7.浮き立つ気持ち

 8.女子浴場の喧騒

 9.もっと、しゃべりたい

10.涼子先生とろまん

11.いやな予感

12.焦燥Ⅰ

13.付き合うって、何?

14.高揚

15.困惑

16.焦燥Ⅱ

17.板挟みと小さなヤキモチ

18.水面に揺れる月

19.こっそりと…

20.涙

21.そのままの君でいい

22.恋人たち

23.激発

24.意気消沈

25.気づき

26.霧のように

27.黄昏の街

28.決意

29.月がきれい

30.初恋(TVアニメ「月がきれい」EDIT ver.)
   歌:東山奈央
   作詞・作曲:村下孝蔵 編曲:伊賀拓郎

31.やさしい気持ち(TVアニメ「月がきれい」EDIT ver.)
   歌:東山奈央
   作詞・作曲:Chara 編曲:伊賀拓郎

32.夏祭り(TVアニメ「月がきれい」EDIT ver.
   歌:東山奈央
   作詞・作曲:破矢ジンタ 編曲:伊賀拓郎

33.fragile(TVアニメ「月がきれい」EDIT ver.)
   歌:東山奈央
   作詞:持田香織 作曲:菊池一仁 編曲:伊賀拓郎

34.未来へ(TVアニメ「月がきれい」EDIT ver.)
   歌:東山奈央
   作詞・作曲:玉城千春 編曲:伊賀拓郎

この記事を書いた人