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INTERVIEW

2018.03.29

切り拓いてきた道と、奇跡とが交錯したニュー・アルバムに。 林原めぐみ『Fifty~Fifty』リリースインタビュー

切り拓いてきた道と、奇跡とが交錯したニュー・アルバムに。 林原めぐみ『Fifty~Fifty』リリースインタビュー

昨年は“ワンマンライブ”という形で初めてライブを行い、シンガーソングライター・岡崎律子へのトリビュート・アルバム『with you』もリリースした林原めぐみ。そんな彼女がリリースするニュー・アルバム『Fifty~Fifty』はこの数年間の充実した音楽活動を凝縮しつつ、奇跡的な邂逅を果たした、前述の岡崎の未発表曲「Mint」も収録した濃密な1枚に仕上がった。本稿ではその「Mint」への想いはもちろん、50代を迎えた彼女の“今”の想いに迫る。

――今から3~4年ほど前に「今年は、これから動こうかな」とおっしゃられていたものが瞬く間にわーっと大きい流れになっていきましたが、7年ぶりのオリジナル・アルバムが完成した今のお気持ちはいかがですか?

林原めぐみ なんか“7年ぶり”ってやだなーと思って(笑)。『with you』はトリビュート・アルバムって呼ばれてはいますけど昔はそんな言い方なくて、アルバムは全部アルバムだったんですよね。それに、新録があろうがなかろうが衣装とか曲順について考えたりと、脳の動く速度とか心を割く比重は変わらないんですよ。だから「名刺にいらなくない?その肩書」って思って、世の中のこの区分けに多少の腹を立てております。「全部アルバムだっつーの」って(笑)。

――すべてに対して同じぐらいの労力をかけて、こだわって制作されてきたわけですよね。

林原 はい。あと私の場合は、ずっと「アニメの曲がある程度たまったから、新曲何曲か入れて出すか」っていうスタイルだったので、いわゆるオリジナル・アルバムとしてあえて本人発信のものだけで1枚作ったのは、多分『ふわり』ぐらい。今回もほんとにオリジナルか?って言うと、そうでもないんです(笑)。

――ジャズフェスに出演されたりとか、あとは「恐山ル・ヴォワール」や“アニメ(ーター)見本市”の楽曲が収録されていたり、リリース済みのものではありますが、聴き慣れているはずの『エヴァ』の楽曲たちに解釈が加わるとまったく別世界に連れて行ってくれるなという発見もあったりと、ここ最近の林原さんの活動が1枚にギュッと凝縮されているような印象を持ちました。

林原 歌ありきというよりは“作品・キャラクターありき”というものが私が歌うということのスタンスだったので、「それでよくここまで歌と出会ってきたものよ」っていう感じがありますよね。でもそれも「つばさ」から考えると5年ぐらいかかっているので、それだけ集まるのに、時間がかかったかなっていう感じがします。これといって「ここに向けて果敢に曲を考えた」とか「デモテープを聴いた」とかそういうことではないので、自然な流れといえば自然な流れかなと思います。

――今回のアルバムの中には、過去の自分やこれからの自分、さらには聴いている皆さんに対してのメッセージも込められている「Fifty」も収録されていますが、アルバムタイトル自体はどのような想いでつけられたのでしょうか?

林原 “50”って、それなりに数字として力強いと思うんです。そこに乗っかったのと、あとは「Fifty」の歌詞の中に「あの頃から何も変わっていない」っていうフレーズもありますけど、私にとっては『Half and, Half』という“私半分、キャラクター半分”な最初のアルバムから、まったくもって何も変わらないっていう意味もあって。いつの間にか非常に長くなってしまった音楽活動のひとつの締めとしては、ちょうど今歌った曲は全部入っているから、いいんじゃないかしらっていうのもありますね。

――その「Fifty」の歌詞とも少々関係してくるのですが、昔のご自身が考えていた50代と今って、何か違いはありますか?

林原 全然違いますね。もう、50歳ってめっっちゃおばさんだと思ってたし。これはラジオなどでも話したんですけど、かつての『幽☆遊☆白書』の現場で50代を迎えられた大先輩が「あなたたち、50歳って想像つかないでしょ?今となーんにも変わんないのよ」って言っていたのをずっと覚えていて。で、自分がいざなったときに「ほんとだ」って思ったんですよね。もちろん年齢とともに責任感を持たなきゃいけなかったり、近しい人や親の死も乗り越えていかなきゃいけなかったりはしたけれど、変わらないところは変わらない。そういう部分を、「Fifty」ではとても肯定的に言いたかったんです。

――なるほど。

林原 当然変わっていかなきゃいけない部分も確実にあって、ある程度の年齢になったら自分で自分の人生をディレクションしていかなきゃいけなくなる。でもそれができたからと言って、変わらないところは変わらない。それを「変わらないさ」って諦めるんじゃなくて、認めながらも「まだまだ先があるね」っていうことを言いたかった、という感じですかね。

――音楽的にも、いい意味での余裕感であったり包容力みたいなもの、あとは艶っぽさであったりとか。それはたとえば20~30代では醸し出せない音楽の魅力みたいなものは、すごく感じました。やっぱりシンプルに音楽として非常に上質で。

林原 鷺巣(詩郎)さんと椎名林檎さんが同じアルバムにいるって、ちょっとすごいですよね。岡崎(律子)さんもたかはし(ごう)さんもいるし……すごい人に支えてもらってるなって、ホントに思います。この人たちが「やりたい」と思ってくれるから今があるわけで、逆を言えば、やりたいと思ってもらえる自分になれていたということもあるとは思うけど。それはもう、どっちがどっちっていうことじゃないんですよね。とくにたかはしごうさんは、曲もなんですが、今回の新録4曲は全部彼にボーカルディレクションをお願いしました。ピッチやリズムはもちろん、長年組んでいるので表現の部分まで「こういうことをやってほしい」ってバンバン球を投げてきて、それを全部打ち返して結果真逆な歌い方になったのもあったし、逆に「Fifty」なんかは一発で決まっちゃいましたね。彼は元々クラシックも経験していますし、パッと初見で歌もうたう人だし。コーラスも、ものの何秒かでパッと考えちゃう、非常に音楽的な才能の高い方なんですよ。私は歌詞を表現するっていうことにはとても自信を持っていますけど、そこに彼の持つ音楽的な正確性であったり技術面を乗っけると非常にクオリティの高いものになるので、大変ありがたく思ってますね。

――そのたかはしごうさんの「集結の園へ~セカンドインパクト~」で始まって、鷺巣さんの、いわゆる『エヴァ』とジャズの出会いから生まれた楽曲が始まってたかはしさんに帰ってきて、また最後たかはしさんという、シーンが変わってくるようなタイミングでたかはしさんの曲が入ってるなというのも、曲を聴いていて思いました。「サンハーラ」のあたりはアニソン的な力強さがありますし、そして椎名さんの曲があって、岡崎さんの世界があって……そのあたりの曲順も、「あ、なるほどな」ってスッと降りてくるようなものになってたりもするなと。

林原 曲順はとにかく人格があまりにあっちこっち行きすぎてるので、もう、非常に悩みましたけど(笑)……結果うまくおさまりました。

――印象としては非常にドラマチックな、最後に「Fifty」に辿り着くっていうような感じの曲順になっているなと思ったんですが、聞きたいことから伺っていくとなると、やはり「Mint」についてです。こちらは1stライブの楽屋打ちの席でangelaのKATSUさんからテープを渡されたとのことで。

林原 そうなんです。

――ブログを拝見して、衝撃だったんですけれども。

林原 13年時が経って軍艦島も見て、岡崎さんへの想いを……忘れるとかそういうことでは決してなくて、ひとつ整理をして。でも言ってみると、あのライブって岡崎さんがいっぱいだったんですよ。「『ミンキーモモ』から始めよう」とか「岡崎さんの声で始めて岡崎さんの声で終わろう」とか。そのライブの打ち上げの席で岡崎さんのカセットもらうって、できすぎじゃないですか?その日じゃなくても、スタッフ越しでもいいじゃん、って思うし。で、びっくりしちゃって、KATSU君にはかつてしたことないぐらいのハグをして。

――そうなんですね(笑)。

林原 「ありがとう」でもないし「何これ」でもないし、全部日本語がめんどくさくなっちゃって、もう「あーっ!」みたいな(笑)。KATSU君が、モノとしては古いけどあえてDATを使いたいからと言って、ピアノのお師匠さんの蓮沼(健介)さんからDATをもらって、その時に、キングレコードとゆかりの深い…という意味で岡崎さんのカセットももらったそうで。そこで彼は「これはめぐさんが持っていたほうがいい」と思ってくれたらしく。打ち上げの席で、渡してくれました。しばらく聴けずにワタワタしていたんですけど。いざカセットをセットして、あそびの部分がスーッとなって、イントロが聴こえてきて……そのあと岡崎さんの声が聴こえてきたときすぐ止めちゃったんです。なんかもう、聞いたら終わっちゃうって、怖くて。でも深呼吸してもう1回聴いて……。

――そのとき、どのようなことを感じられましたか?

林原 自分でもすごく嫌だなと思ったんですけど、1番を聴き終わる頃には「これがどこかで形になってないか、すぐキングさんに調べてもらわなきゃ」ってプロデューサー・モードに入ってたんです。「岡崎さんの歌をうたいたい」っていうのもあって、欲がすぐ出ちゃったんですよね。でもそんな自分を反省したり……なんだかわかんない、ひとり情緒不安定になっていて(笑)。だから「ぼろぼろ泣いてしまいまいました」なんて状態にはならなかったんですよね。私が歌いたいのかみんなに聴かせたいのかもうわからなかったんですけど、もう「使命だ」みたいな気持ちになってしまって。

――そして調べた結果、どこでもまだ形になっていなかったことがわかった。

林原 はい。それで紐解いてみたら「『リグレット』のアンサーソングみたいだね」っていう会話が蓮沼さんとの間で交わされていたということがわかってきたので、「リグレット」もカバーしよう、となったんです。

――初めてこの2曲が、隣り合ったんですね。

林原 そうなんですよ。でもそれも難しくて、未発表にしていたということは「まだ修正しようとしていたのかな」とか。だから「世に出しちゃっていいのかな?」とかいろいろ考えました。でも「あのライブ後にここに来たってことで、勝手にいいってことにしよう」と思うようにしました。本当に勝手ですけど(笑)。

――不思議な節目で、昔は「雨の子犬」のテープと楽譜が押し入れから出てきたりして、今回はKATSUさんからもたらされた。

林原 うん。もう岡崎さん、いたずらしてるのかと思うぐらい。ふふふっ(笑)。でもさすがにもうないよなあ。うん。

――「Mint」を岡崎さんが作られたタイミングは、漠然と「リグレット」のあとぐらいだということはわかっているんですね。

林原 そうですね。蓮沼さんがご経験なさってます。レコーディングも、ディレクションはごうさんなんですけど、2曲とも蓮沼さんがスタジオに来てくださって。かつて一緒にレコーディングをしたこともあるキングのスタジオだったりして「ホント、岡崎さんがそこに座っているみたいだね」って言いながら。でもそれはちっとも悲しくなくて、ごうさんはごうさんで「会ってみたかった」って言うし、彼女がどんな人だったかを蓮沼さんは全力で伝えようとしてくれるし、私はもうそれをただただ噛み締めてうれしいし……っていう、すごくあったかいレコーディングでした。

――これは岡崎さんが亡くなってしまったからこそかもしれませんけど、「Mint」の歌詞の中では、まるでその彼女に対する想いみたいなものが岡崎さんの言葉で綴られているみたいだなと思いました。

林原 それは別のインタビュアーの方からも言われました。でもそれをすごくありがたいと思いながらも、私は完全に男と女の「リグレット」がある分“未練たら男とさっぱり子の歌”みたいに感じていて。

――明快ですね。

林原林原 そのさっぱり子が、私が歌うと“さっぱりさっぱりさっぱり子”になっちゃうから、「そのさっぱりの中に、たくさんの感謝がある」っていうことだけは失わないようにと、すごく心掛けました。だからそういうふうに言われて、愕然としたというか……これもまた自分の勝手な解釈で気持ちが悪いけど、そんなことにすら気づかせなかったというか。そこに気づいちゃっていたら、きっと岡崎さんのことばっかり思って歌っちゃって、歌としての意味が変わってしまったかもしれないじゃないですか。でもやっぱり、どう取られてもいいというのが歌のあるべき姿だと思うから、とてもその感想はうれしく思います。

――例えば椎名林檎さんのファンの方がこの曲と出会うかもしれないというときには、現象としてはフラットなほうが絶対いいとは思いますし。

林原 うん。でもそう思うと、あのライブをあのように締めたあとに来るカセットとしての意味がすごく大きくなるというか……「マジか」って思いますけど。

――さて、以前『タイムカプセル』のタイミングで「いろいろと動きます」というお話をいただきつつ、実際ここまでの形になりました。そこであえてお伺いしてしまって恐縮なのですが、これから先の音楽活動についてはどのように考えていらっしゃいますか?

林原 ……毎度、ノープランですね。切符がきたときに。

――それに乗り。

林原 列車には乗ります。別の雑誌の方に“終わる終わる詐欺”と言われて、ホントうまいこと言うなと思いましたけど、でも毎回それぐらいの気持ちというか。「Fifty」に関しても「こうしておけばよかった」というところはないんですよ。毎度「どうして私は歌っているのだろう」とは考えさせられるんですけど、それに対してファンの人から反応があったりすると「私のやったことが波になっていくんだな」というのを感じますね。泉に石をポトンって落として、それがフワワワッて広がっていくというか。ありがたいことですね。

――そのタイミングが来たらライブもやるかもしれないし、すべては切符がやってくるのを待つと。

林原 やるべき役と、うたうべき歌が目の前に来たときに。で、来なかったら来なかったで、おうちの掃除したりします。

――ははははっ(笑)。

林原 きれいになると思います。やることはいっぱいあるので(笑)。

 Interview By 冨田明宏 Text By 須永兼次


●リリース情報
『Fifty~Fifty』
3月30日発売

【初回限定盤(CD+Blu-ray)】

品番:KICS-93693
価格:¥3,500+税

【通常盤(CD)】

品番:KICS-3693
価格:¥3,000+税

<CD>
01.「集結の園へ~セカンドインパクト~」(「CRヱヴァンゲリヲンX」搭載曲)
02.「Come sweet death,second impact」
03.「The Image of black me」
04.「Dilemmatic triangle opera AYANAMI Version」
05.「SKY5」
06.「もう1人の私 MEGU Version」
07.「サンハーラ~聖なる力~」
08.「つばさ」(劇場アニメ「マルドゥック・スクランブル 排気」主題歌)
09.「薄ら氷心中」(TVアニメ「昭和元禄落語心中」OPテーマ)
10.「今際の死神」(TVアニメ「昭和元禄落語心中 -助六再び篇-」OPテーマ)
11.「リグレット」
12.「Mint」
13.「恐山ル・ヴォワール」
14.「Fifty」

<Blu-ray>
「薄ら氷心中」
「薄ら氷心中」アナザーバージョン
「今際の死神」
「青空」
各Music Video収録

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