TVアニメ『宝石の国』音楽担当・藤澤慶昌インタビュー

遙か昔に生物が存在したとされる、気が遠くなるほどの未来の世界。そこでは金剛先生と人型の宝石たちが暮らしていた。彼らが過ごす日常と、その平和を崩すように宝石たちをさらいにやってくる月人との戦い。そんな日々を、宝石のひとり・フォスフォフィライトの視線で描く『宝石の国』。魅力あふれる宝石たちと圧倒されるほど美しい自然の景色が3DCGで描かれる物語は音楽が場面を語る部分が非常に大きい。その音楽を作る藤澤慶昌氏に話を聞く。

――アニメ『宝石の国』の音楽制作に関わることになった経緯を教えてください。

藤澤慶昌 そもそもはだいぶ前に、監督の京極尚彦さんから「今度こういうことをやるんだ」というお話を伺ったことからでした。その後にコンペ形式で音楽を担当することが決まったという流れですね。

――コンペのときにはどのようなことを意識して楽曲を作られていたんでしょうか。

藤澤 あまり前情報を持たずに、原作から受けた印象からコンペに提出する楽曲制作に入っていきました。まだ作品の方向性にしても、CGに関しても、影も形もない頃でしたので。僕自身が原作を読んで受けた印象を元に作っていった感じでしたね。今、本編で使われてきた音楽よりも、もうちょっと(世界観が)大きめだったような記憶があります。楽曲自体も。壮大な感じにしていたように記憶していますね。

――藤澤さんが原作を読まれて受けた印象から作られた、ということですが、実際、この『宝石の国』という作品に対しては、どのような印象があったんでしょうか?

藤澤 僕が最初に原作を読んだ印象は、言葉にするのが難しいですが、隙間が多いというか。間が多いような印象がありました。それに、入りこめそうで入り込めない、みたいな。遠くにある世界のように感じたんですね、原作は。それが最初に感じた印象で、突き放されているような感じがしたんですよ。ただ、意外と話としてはコミカルなシーンが多かったりもして。原作を読んでいて、アップダウンが多くて、若干の疲れを感じさせるくらいの緩急があるな、ということが強く印象に残っていますね。でも、ひと言で言ってしまえば「なんだこれは!」という感覚でした(笑)。

――楽曲を作るにあたっては、そういった特徴はどのような作用があると考えられますか?

藤澤 最初はコンペに出した曲の世界観で作ったんです。壮大な世界観で。でも具体的な要望として出てきたのが「もう少し世界観を包括するような曲」。場面やシチュエーションの主張がドーンと出るよりも、世界を包括して、バックグラウンドを彩るようなイメージがあるといい、という話だったんです。たしかに音楽で埋めると、隙間がなくなっていってしまう。なので楽曲を再構築していくときに、物語の中の隙間と同じく、音をつまんでいく、どんどんそぎ落としていくことをすごく意識してきました。それは原作の印象に近いのかもしれないですね、今考えると。『宝石の国』の原作のマンガでは“色”がないじゃないですか。もちろん表紙には色があるんですが、あの作中の白黒感がカラーになったときの彩りというのを、音でどういうふうに表現するか。もちろんアニメは視覚的にも補完できますけど、光具合みたいなものを意識しました。具体的な要望の中にもそれはあったので、そこを織り交ぜながら、という感じでしたね。

――『宝石の国』の音楽はいつ頃に作られていたんですか?

藤澤 去年の年頭に作っていて、そこから再構築をして、6月の半ばに第一弾としてメニュー上にあった楽曲をレコーディングする、というタイミングがあって。でもそのあとはアニメの後半の部分が出来てから、ということで。昨年の後半は、フィルムスコア用の音源というか、要所要所でその制作があったので、昨年は1年かけてずっと『宝石の国』の楽曲を作っていた感じですね。

――特にアニメ制作サイドからの要望で「こういった音を」というオーダーはあったんですか?

藤澤 いちばん具体的だったのは、月人の登場の曲ですね。僕がいちばん最初にコンペで作った楽曲では、わりと声を入れていたんです。いわゆるブルガリアン・ポリフォニーのような、どこか宗教的なコーラスみたいなものだったんですが、それをやっていくとだんだん、肉感的になっていく。それをどうしたらいいかな、とぼんやり考えていたときに、音響監督の長崎行男さんから「ガムランだ!」という話が出たんです。でもガムランってピッチがすごく揺れるので、実際に西洋楽器と合わせると、ぐしゃっとした質感になってしまうんですけど、それをうまく使えたらなと。それが一番、わかりやすく具体的なオーダーでしたね。あとは再構築のときに、もっと包括的に、世界観を描くことを音楽自体の主にしたい、というか。音楽も「背景音楽」と言いますけど、よりそういう空間を彩る音楽にする、というのがいちばんベーシックにあるお題というか、テーマとしてオーダーがありました。あとは情感的になりすぎない、感情が出過ぎないというのもありました。さっきの「肉感」じゃないですが、やっぱり描かれているのは「宝石」だし、これは僕も元々感じていたんですが、人間の文明が崩壊して何千年と経った後の話なので、いろんなことが退廃的というか。すごく朗らかなんですけど、どこか異常なところがあったので、それがうまくいびつさとして、存在している世界に出るといいかな、というのは考えましたね。

――特に苦戦したオーダーはありましたか?

藤澤 苦戦したのは……でも意外と全体的に苦戦したような気がします。どれが具体的に、というのは実際にはなかったんですけど、『宝石の国』自体が、今まで見たこともなければ感じたこともない世界だったんですよね。だから正直なところ、どう手を付けていいかわからなかったんです。たださっきもお話した、退廃感であったり、隙間だったり、白黒の感じ、というのから、とりあえず自分が思うような曲を作ってみよう、とやり始めて、そこからの再構築だったんです。だから再構築の時点では少しずつモヤのようなものも取れてきていたので、すっと制作は進んでいったと思います。毎回悩んではいますが、この作品では、曲がどうこう、というよりも世界観との整合性をどう取るか、ということが悩ましかったので、音楽全体が難しかったと思いますね。

――手癖で作る、というのとはまた違う制作を求められそうですよね。

藤澤 そうですね。バーン!と作ったらいいわけでもなく、ピアノで和音だけのときに鳴らす音の数であったり、組み合わせで、ああでもない、こうでもない、とやっていたものですから、そこが難しかったです。音を減らす怖さと面白さみたいなものがありました。だってあの島には、宝石と金剛先生しかいないですからね。その感じを、どうすれば出せるのか。そこですね。曲というよりも、その判断がいちばん難しかったです。

――実際に物語からの情報量も少ないので、音楽が担っている部分が非常に大きな作品でしたね。

藤澤 役割が普通のアニメよりもすごく大きかった気がしますね。あれだけ音数が少なかったけど。音をそぎ落としても、役割は逆に大きくなっていったように感じます。効果音との掛け合いで、音サイドから物語を整えた部分もあったり。いわゆる必要最小限で最大限の効果を引き出すことになったと思いますし、音の役割がすごく多かった感じはします。

――音色のチョイスも藤澤さんの方で全てやられたんでしょうか。それとも「この音を」というオーダーがあった?

藤澤 楽器の音は、そうですね。基本的には。ガムランはアンサンブル全体でああいう音なので、特にオーダーもなく。実は歪ますために、こっそりチェレスタを混ぜてたり…ただ、シンシャはもう、僕がずっと「二胡だ!」と思っていたので、使いました。再構築のときに、ちょっとアンビエントな、もっと空間的なものに、ということで何を使おうか、というやりとりは、音楽全体としてはありましたけど、やっぱり「宝石っぽさ」を考えていくと、ピアノのガーンと響く旋律だったり、ストリングスのキラキラとした部分や、月人の気持ちの悪さとして重たいところで弦がうにゃあ、と歪んで響くところは作りながら決めていきました。

――今回、『宝石の国』の劇伴をやられたことで、ご自身が味わうことになった「劇伴仕事の面白さ」は何でしたか?

藤澤 今回の『宝石の国』の音楽の作り方の主軸のひとつが、セミフィルムスコアリングと言いますか。メニューにあった30曲前後のものを、うまく絵に合わせやすいように作ったんですね。それでちゃんと、ギリギリなんとなく絵に合っているというより、わりときっちり合わせる、という作業があって。後半のレコーディングは完全にフィルムスコアで。録った通りではないですけど、ほぼほぼそういうふうな作りになっています。最初のお題で作ったもの以外はリアルタイムに。放送が始まったあとにレコーディングをしたりもしていたので、時間軸としてはアニメの制作と音楽の制作がほぼ平行に進行していたんですね。僕は元々絵に充てる方が好きなので、何も絵が出来ていないところに音楽を作って渡すケースでは、完成後に僕にとってのうれしいサプライズがたくさんあるんですが、確実に絵を見て音楽を作る、中身を見ながら作る、というのがすごく楽しかったです。いわゆるテレビアニメではなかなかそういった手法で作ることは出来ないので、いい経験だったと思います。面白い経験でした。得たものとしては、これによって出来ることと、メニューとして作っていくこと、いろいろな可能性があるんじゃないかな、と思った次第です。とにかく面白かったです。

――そんなアニメの劇伴のお仕事でやりがいを感じるのはどんなところでしょうか。

藤澤 「一話のここで使われた曲があるから十一話で出て来る曲に意義が出て来る」というような、場面と場面とを繋ぐことが出来るのが劇伴だと思うんです。映画だったら頭のこの曲があるからクライマックスの曲がこうなっているんだ、という感じで、物語の中で線を作ることが出来るのは面白いなと思っていて。アニメに限らず、いわゆる劇伴と呼ばれるものは一曲一曲も大事なんですが、その線を少しずつ作っていけるのがやりがいというか醍醐味だと思っているので、それをうまく大事に出来るといいのかな、と個人的には思っています。

――放送が終了し、今後、パッケージでも楽しめるこの『宝石の国』。改めてこれから観る皆さんへ、劇伴の聴きどころを教えてください。

藤澤 音楽的な面で言うと、通して観てみると曲のモチーフの意味がもう少し見えて来るかもしれないです。山とか谷とか。もちろん音響チームの音の当て方も含めてですけど、アニメを毎週追っていたときよりも分かると思います。通して観ると長いかもしれないですが、一編の映画に近い感覚で観られて、線になっていくのがもっと具体的に感じられると思います。各話完結ではなくうまく次へ、次へと繋がっていくようになっているので。そうすれば、第12話のエンディングの理由が伝わると思います。

Interview & Text By えびさわなち


●リリース情報
TVアニメ『宝石の国』オリジナルサウンドトラック コンプリート
音楽:藤澤慶昌
好評発売中

品番:THCA-60209
価格:¥3,300+税

<収録内容>
【DISC 01】1.メインテーマ/2.昼下がり/3.アイデア/4.フォスフォフィライト/5.月人/6.黒点/7.戦い/8.危機/9.砕かれる/10.ちょっとひと息/11.なんなのさ!/12.ウェントリコスス/13.Sea/14.孤高/15.シンシャ/16.深海/17.驚異/18.Ground/19.覚醒する力/20.金剛先生/21.眠る季節/22.なにもできない/23.Night/24.秘密/25.あーもう!

【DISC 02】1.流氷/2.冬の試練/3.消失/4.アンタークチサイト/5.届かない/6.liquescimus/7.冬の終わり/8.目覚め/9.記憶/10.始まり/11.後悔/12.欠けた記憶/13.変容/14.フォスの戦い/15.決断/16.新型/17.撤退/18.しろ/19.疑念/20.フォスとシンシャ/21.鏡面の波[Orchestra Ver.]/22.鏡面の波[Orchestra Ver.] Instrumental/23.宝石の国

※【DISC 02】6.「liquescimus」歌:フォスフォフィライト(CV.黒沢ともよ)
作詞・作曲・編曲:志娥慶香

『宝石の国』Blu-ray&DVD Vol.2  初回生産限定版
好評発売中

※収録話数:第3話~第4話

【Blu-ray】
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価格:¥6,800+税

【DVD】
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価格:¥5,800+税

© 2017 市川春子・講談社/「宝石の国」製作委員会

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