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INTERVIEW

2017.08.26

劇場版長編アニメ『きみの声をとどけたい』公開記念、木皿陽平プロデューサーインタビュー

劇場版長編アニメ『きみの声をとどけたい』公開記念、木皿陽平プロデューサーインタビュー

マッドハウス制作によるオリジナルの長編アニメーション映画『きみの声をとどけたい』が、8月25日より公開される。物語の中心となるのは、それぞれさまざまな思いや悩みを心に抱く7人の女子高生たち。彼女たちがお互いの気持ちを通わせあいながら、「声」の力によって小さなキセキを起こす姿を描いた、夏の湘南を舞台とした青春ストーリーとなっている。

その女子高生を演じたのが、昨年開催の「キミコエ・オーディション」を勝ち抜いた6人の新人声優からなるユニット、NOW ON AIR。彼女たちは今年3月にファースト・シングル「この声が届きますように」でランティスからアーティスト・デビュー。この8月には同映画のEDテーマを収めたセカンド・シングル「キボウノカケラ」を発表している。

今回は、そんな彼女たちをオーディション審査員のひとりとして、そして音楽プロデューサーとして見守ってきた、ランティスの木皿陽平氏にインタビュー。映画や彼女たちの魅力についてたっぷりと語ってもらった。

――まず完成した映画を見ての感想はいかがでしたか?

木皿陽平 この作品のためにオーディションで、かなりの長い期間審査を担当したので大変でしたが、そこで選ばれたNOW ON AIRのみんなが、この作品のために演技指導や音楽のレッスンを頑張ってきたことを知っているので、やはり感慨深いものがありましたね。

――声優としてのオーディションを経てのデビューとなると、どうしてもそこを意識して作品を観てしまう部分があると思うんですが、僕も観ているうちにグイグイ引き込まれてしまいました。みなさんの演技も素晴らしいですね。

木皿 そうなんですよ。一線で活躍しているプロの声優さんと比べると、彼女たちの素に近いというか生っぽい感じがあるので、まだまだ荒削りな演技ではあるんですけど。そういう意味でも際立ってますよね。一般公募でゼロから選んで良かったと思います。それに僕の場合はオーディションやユニット活動といった裏の部分を見てきたので、彼女たち6人それぞれがキャラクターにオーバーラップしますし。

――湘南という舞台もそうですし、みんなでコミュニティミニFMを始めるという設定自体もイメージに合ってますし。

木皿 なんか懐かしいですよね(笑)。時代設定は現代なんですけど、20年ぐらい前の作品と言われても違和感のないような感じもあって。僕は古いアニメや懐かしい作品が好きなので、そういうところも観ていて居心地が良かったです。

――これまでのNOW ON AIRの活動にリンクした部分も多くて、映画を観てなるほどと思うところが非常に多かったです。映画で6人が揃うところも現実と重なるというか。

木皿 現実の人間関係はあんなにギクシャクしてないですけど(笑)。実際のNOW ON AIRのメンバーは仲が良すぎて逆に心配になるぐらいなんです。何かのイベントで彼女たちへのアドバイスを求められたときに、「もう少しギスギスしたほうが、お互い相手を超えようと思って頑張れるから良い」みたいなことを言った覚えがありますし。

――彼女たちが作品のなかで歌う理由がはっきりしているのも良いですね。例えばアイドルをやるというのではなく、純粋に歌を歌うということが描かれていて。

木皿 どちらかというと、人と人の繋がりとか、現実に溢れている大切にしたほうがいいものについて描かれていますからね。電気屋のおじさんがラジオの機材で奔走してくれたりとか。いまどきそんなお店自体がなかなか無いじゃないですか。僕も商店街が好きなので、そういう地元の結び付きで若い子たちを応援していくという構図が、すごくあたたかく感じられましたね。しかもそういった描写に違和感がなくて、ちゃんと現代劇として観られるんですよ。だからこの作品は普通にすごく好きでした。

――そのような本作で声優デビューし、EDテーマも担当しているNOW ON AIRについてお話を聞かせてください。振り返りになりますが、オーディションではどのように関わられたのですか?

木皿 いろんな方と一緒に審査しましたけど、やはり監督や音響監督は演技を見たりするので、僕は将来性やいろんな意味でのスター性、それとやはり歌の部分ですよね。もちろんみんな歌はうまいんですけど、最終的には歌唱力というよりも、与えられた音楽をどう噛み砕いてくれるかという部分を意識しました。あとは単純に人となりで、例えばこの子がワガママを言ったときにそれをかなえてあげたいと思えるかとか。言ったことをやるだけの子よりも、こちらを突き動かしてくれる人のほうが、一緒に仕事をして面白いことができると思うので。

――それで最終的に残った6人は、やはり各々の個性が際立っていたのでしょうか。

木皿 2次審査の面接の時点でも80人近く残っていたので、ほとんどの人は覚えていないんですけど、この6人は全員覚えてますからね。飯野(美紗子)さんはたしか面接の順番が全体の3人目くらいだったんですよ。最初のほうにレベルの高い子がきたので困惑してしまって(笑)。そういう子を基準に採点しようと思うので、飯野さんは辛めにつけてしまったんですけど、周りの評価はみんな高かったので、やっぱり高くしてよかったんだと気付きました(笑)。それと神戸(光歩)さんは面白かったですよ。「私を選ばないで誰を選ぶんですか?」ぐらいのことを言ってましたから。

――すごいですね(笑)。

木皿 (鈴木)陽斗実ちゃんはクラシックをやっていて、僕もクラシックをやってたので印象に残りましたし。田中(有紀)さんは履歴書の写真がすごく眠そうな顔をしていて、当日来たときも黒いブラウスに黒いチノパンにビン底のメガネみたいな感じだったんですよ(笑)。ただ、すごいうまくて歌も演技もピカイチだったんですよ。「何だこの子は!」と思いましたね。

――田中さんが演じるかえでの初登場シーンはインパクトありましたね。

木皿 彼女はすごいんですよ。しかも化粧して衣装を着せたらこんなに美人になるなんて(笑)。その後に合宿審査があったんですけど、そのときの資料の写真がすごくかわいくて、この子はもしかしたら化けるかもと思いましたね。僕のなかでは、その4人がそれぞれ別の個性を持ちながら、スペック的に拮抗しているイメージなんですよね。鈴木さんは音楽的なセンスがバツグンですし、飯野さんもかなり良いんですよ。で、神戸さんも独自性がありますし、田中さんは天才的で、みんな同じくらいにすごいんです。

――岩淵桃音さんも演技がすごく自然でいいなあと思いました。

木皿 彼女はまだ高校生なんですけど、たまにハッとさせられるような大人びた部分があるんですよ。下手したらこのなかでいちばん大人っぽく見えるときもあります(笑)。本人は小さいしかわいらしい格好をしているので、いわゆる女の子らしい佇まいなんですけど、落ち着いてるんですよね。片平(美那)さんは荒削りな感じで、年齢的には高校生なんですけど、もっと若く見えちゃう時もあるじゃないですか(笑)。でも、この2人は可能性やポテンシャルがすごくありますね。

――皆さんそれぞれの個性が際立ってますし、映画ではキャラクターの個性ともバッチリ合っている印象を受けましたね。木皿さんは最初のこの6人でどういう音楽性をめざそうとされたのですか。

木皿 彼女たちの歌声を聴いてもらえればわかると思うんですけど、歌声がキャッキャしてなくて、本当に落ち着いてるんですよ。メンバーのなかで甘い感じの歌い方をする人は、桃音ちゃんぐらいかもしれない。田中さんとかは完全に歌謡曲の雰囲気ですからね。僕はそれが逆に好きなんですけど。NOW ON AIRはとにかくあったかくていい曲を作ろうと考えていて、別に高揚感を煽らなくてもすごくいい曲ってあるじゃないですか。どこか懐かしい感じがして。そう考えるとこの映画と同じですよね。

――6人が集まって歌うパートでもあまり声の高低をつけずに、良い意味で平たく歌われているというか。

木皿 そうですね。とにかくあったかい感じにしたほうが良いと思ってたんですよ。みんな音楽に対してすごく真面目に向き合ってくれてるし、そういう人たちが音を大切に歌ってくれるような歌にしたいと思って。聴く人のことを元気付けたり、そっと背中を押してくれるような6人になればいいという思いがあったんでしょうね。

――そういった方向性はどのように固まっていったのでしょうか。

木皿 最初のシングル(「この声が届きますように」)のカップリングが泣ける曲で。僕自身がすごく疲れてたこともあって、押し付けがましい感じではなく元気をくれる曲がいいなあと思っていたときに、杉山勝彦さんに「風が吹いた」という曲を書いていただいたんですよ。それがすごくいい曲だったので、次の曲も杉山さんに書いてほしいなと思ったんです。

――なるほど。

木皿 彼女たちの声は杉山さんのメロディーに合ってると思ってたので、そこは決め打ちだったんですよ。杉山さんの他のワークとかを見ても、いま思えばNOW ON AIRのイメージにすごく合ってますしね。

――杉山さんのワークスのなかでも、AKB系ではなくて坂道系というか。

木皿 そうそう。彼女たち自身もAKB48というより欅坂46とかに近い感じだと思うので。スカートはひざ丈かひざ下みたいな(笑)。

――さらに、これまでの楽曲はすべて結城アイラさんが作詞を手掛けてらっしゃいますね。世界観として非常に柔らかくて、清純な方向性を感じさせる歌詞で。

木皿 映画の劇中歌も全部結城さんですね。最初のテーマを考えたときに、やはり統一性を持たせたほうが良いから、誰かいい人がいないかと思って、結城さんがいいかなと思ったんです。

――それで彼女たちの魅力であったり、歌声やメロの良さが絞られて、すごく気持ち良く聴ける曲になってると思います。今回の映画のEDテーマ「キボウノカケラ」もセカンド・シングルとしてリリースされましたが、今後の展望はありますか?

木皿 せっかく彼女たちがここまでいい曲を歌えているので、これからも続けていきたいですし、ここで終わりにはせずにスタートとしたいですね。一曲一曲がすごくいい曲ですし、今後もいい曲をいっぱい提供していくので。セカンド・シングルのカップリング(「恋する夏ワンピ」)は中土智博さんの曲なんですけど、この曲もすごくいいですよ。生弦と生ブラスで相当お金をかけましたけど(笑)。やはり消費的に作るのではなくて、ちゃんといい歌をていねいに作ってあげることで、きっとそれが報われるときがくると思うので。

――そこは、この映画がどう受け止められるかというところにも繋がってくるでしょうね。

木皿 アニメ作品ではあるんですけど、いわゆる最近のアニメとは違うものになっているので、アニメに興味のない人やいろんな人に見てもらえればと思いますね。アニメをいっぱい見ている方にとってもすごく良いものが作れてると思いますし、今どきの若い人が観ても、DNAにある忘れてた何かを思い出させてくれるような作品だと思います。

――制作はマッドハウスなので、『時をかける少女』のように背景の露出の良さとか絵作りといったところでも、一般の人も惹きつける内容になってると思います。しかもこれが夏の終わりに公開されるというのもいいですよね。

木皿:すごく心にきますよね。夏休みの終わりを寂しく感じさせてしまうかもしれないけど(笑)。しかも押し付けがましくないんですよ。脚本の段階ではわからないこともいっぱい見えたし、するっと心の琴線に触れてくれて、本当に感動しましたよ。お客さんにもぜひ、いろんな部分に目を向けてほしいですよね。こういった作品もアニメのひとつの形、可能性として観てもらえるとうれしいです。

Interview By 澄川龍一(リスアニ!)Text By 北野 創


●作品情報
『きみの声をとどけたい』
8月25日(金)全国公開

【キャスト】
片平美那/田中有紀/岩淵桃音/飯野美紗子/神戸光歩/鈴木陽斗実/三森すずこ/梶裕貴/鈴木達央/野沢雅子

【スタッフ】
監督:伊藤尚往
脚本:石川学
キャラクターデザイン:青木俊直
アニメーションキャラクターデザイン:髙野綾
音楽:松田彬人
制作:東北新社 マッドハウス
製作:「きみの声をとどけたい」製作委員会
エンディング主題歌「キボウノカケラ」NOW ON AIR
イメージソング「この声が届きますように」NOW ON AIR

<ストーリー>
舞台は湘南。
高校生たちの友情、葛藤、そして夢。届けたい“声(想い)”――。
海辺の町、日ノ坂町に暮らす行合なぎさは将来の夢が見つからず少し焦っている16才の少女。
「言葉にはタマシイが宿っているんだよ、コトダマって言ってね――」
小さいころ祖母から聞いたコトダマの話をなぎさは信じていた。
ある日、古びたミニFMステーションに迷い込んだなぎさはDJの真似事をする。
「本気のコトバは、本気の願いは、いつか現実になるんです!」
すると、偶然にも放送されたコトバは 思いがけない人に届いていた――。

©2017「きみの声をとどけたい」製作委員会

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