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REPORT

2017.08.15

牧野由依の歌声が、観客の心に幸せを“セーブ”。“Yui Makino Live『Reset&Happiness』”レポート

牧野由依の歌声が、観客の心に幸せを“セーブ”。“Yui Makino Live『Reset&Happiness』”レポート

7月15日・16日、AiiA 2.5 Theater Tokyoにて“Yui Makino Live『Reset&Happiness』”が開催。牧野由依にとって約半年ぶりとなるワンマンライブは、盛り上がり等に加えて意識的に流れのよさを意識したセットリストで構成。観客の耳を楽しませてくれた。
本稿では、そのうち初日の模様をお伝えする。

まず場内が暗転すると、ブルーの逆光が客席を照らすなか秒針の音が響き始めてダンサーふたりが登場。パフォーマンスを展開するなかに程なくして牧野が現れ、センターの位置に立って頭上で指を鳴らし、3人でのダンスをスタート。そのさなかバンドメンバーが入場すると、再び響き始めた秒針の音は徐々に加速。牧野がグランドピアノのもとについたところで、最新シングル「Reset」からライブはスタートする。
実際レコーディングでもピアノ演奏を担当したこの曲は、この日はバンドをバックにした弾き語りスタイルでの披露。美しいタッチとともに、芯もありながらどこか切なく儚い歌声でこの楽曲の世界観を十二分に表現していった。

ハンドマイクに持ち替えた牧野、「みんな、盛り上がる準備はできてる!?」と「夏休みの宿題」のイントロで観客を煽る。ここからは3曲、ライブアレンジでよりアグレッシブになった楽曲でライブ序盤を盛り上げる。その先陣を切る形となったこの曲は、この時期にピッタリのアッパーながらもちょっと切ないナンバー。歌声から漂うあどけなさと青春感が、楽曲の持ち味を十二分に活かす。続く「ふわふわ♪」では、2-Aメロへの普段以上の気持ちのこもり方が“恋する女子”感を生む。サビで巻き起こった恒例のワイパーを目にした牧野、その光景に対し思わず「ありがとー!」と感謝のシャウトが。そして初夏のような爽やかさを持った「囁きは“Crescendo”」では、生でのストリングスもその一助となって、真夏日の東京に涼やかな風を吹かせる。振付もおしとやかさとキメどころのメリハリが明確についており、それに加えてサビでは歌声とあいまって、目には非常にかわいらしく映った。

ここで一旦暗転すると、再びステージは青の光に包まれ「What a Beautiful World」に。ここからライブは一転、しっとり聴かせる楽曲ゾーンへと入る。高音に非常に良い伸びの出たこの曲だったが、それに加えて、そこに甘さも交じる1-Bメロは楽曲中の聴きどころのひとつだったように思う。そしてその歌声に聴き入っていた観客を感じたのか、後奏では微笑みも浮かべながらゆっくり見回すように客席に視線を向けていた。

曲明けのMCでは、今回がMC箇所の少ないライブであることを明かす牧野。それは「曲の流れを大切にしたい」との彼女の意向が反映されたものであり、その片鱗はライブ序盤1~5曲目のブロックからすでに感じ取れるものだった。
とはいえ、回数こそ少ないながらもそのトークのキレは健在。最新シングル「Reset」について「いい感じにいいことになりました!」と多くの人が手に取ったことを素直に感謝し、会場からは拍手が起こる。ちなみにその「Reset」の発売イベントに向かう途中で買った「富良野ラベンダーティー」をTwitterで絶賛したことがメーカーに伝わり、メーカーの粋なはからいで観客へのおみやげになることも発表。SNSの拡散力に改めて驚いていた。

などと喋りながら、牧野は再びグランドピアノへ。お次はラベンダーならぬ“ジャスミンの香り”の香る曲「シンフォニー」だ。牧野のピアノによるこの曲の上演は、特にオールドファン歓喜のひと幕。その歌声が、プラスの意味合いで10年前と何も変わらぬまま今聴けるという幸せを噛み締めていた観客も少なくなかったことだろう。照明効果も淡いパープルやイエローなどと移り変わり、暁の空や、歌詞通り黄昏の中でこの曲が歌われるような演出も、非常に素敵なものだった。続く「たったひとつ」は牧野のピアノとストリングスが軸となり、美しいファルセットを聴かせていくナンバーに。落ちサビでの、フェイクかそれとも不意の声の裏返りか、そのポイントがより込められた想いの強さを感じさせた。

ここでバラードゾーンは一区切り。“コンサート”と題した公演で行うクラシックコーナーを、“ライブ”であるこの日もピアノ・ヴァイオリン・チェロという編成で敢行する。
その転換中には、高校の同級生だったチェロ・渡邉雅弦の高校時代の恥ずかしいエピソードを暴露しつつ、そこから「音高生憧れの曲」との紹介へ繋げて「『ニュー・シネマ・パラダイス』メドレー」の演奏へ。
直前まで叩いていた軽口はどこへやら、3人で息の合った美しい音色を奏でていき、今度は“ピアニスト・牧野由依”としての表情を見せていく。なかでも中盤、ピアノが切なくソロを執るパートではその寂しそうなポツポツとした奏法が、楽曲の持つ機微を表現。再び3人揃ってからは徐々にクレッシェンドしていき、主題部に戻るとまた爽やかな、新緑の季節を思わせるようなサウンドを奏でていった。
そのままスタートした「その先へ」では、1コーラス目は牧野の独奏による弾き語り。Aメロでの歌声の丸さや温かさに再び胸を打たれつつ、このようにゆったりとしたナンバーだとファルセットにもビブラートが乗ってきており、表現の深みも感じられる。そしてサイドスポットが当たってサビ明けからヴァイオリン・チェロもその音色を重ね、楽曲を彩っていった。

無事楽曲を奏できった牧野、グランドピアノがステージから去ると「次はみんなに声を出してほしい」と観客へリクエスト。「サビです。ラララです」と若干強引に(?)しれっと観客を巻き込んで歌い始めたその曲は、「未来の瞳を開くとき」。ピアノの音色をバックにスポットライトを浴びて歌い始めると、歌唱に専念したこともあってかより持ち味の独特の魅力ある響きを持つア段の歌声が映えてくる。Dメロ後にはステージ奥からオレンジの光が客席を照らすと、大サビでは「みんなの声聴かせてー!」との牧野の言葉からリフレイン部で観客が合唱。牧野も一緒に歌いつつ、時折観客にマイクを委ねて笑顔を見せる。そしてそのリフレインのラスト1回は両者の歌声オンリーで締めくくり、牧野も「素敵でしたー! ありがとう!」と礼を告げて一旦ステージを降り、中盤のしっとりとした楽曲ゾーンは閉幕した。

再び青の光に包まれたステージに入場したダンサーによるダンスタイムを経て牧野が再登場すると、そのままシームレスに「secret melody」へ。ここから4曲はライブバージョンにアレンジされた楽曲で、再びアグレッシブなステージが展開される。まずEDM寄りにミックスされたこの曲では、またも甘い歌声をステージ中央で響かせつつ、サビ頭の唐突な最高点もきっちり歌い上げる。加えて落ちサビの英詞では、より歌声に少女感も増し、かと思えば後奏のファルセットは薄いレースのよう。次々とテイストの移り変わる歌声を味わえる1曲となった。また続く「Synchronicity」も、原曲より少々フロアサウンド寄りのミックス。歌声は凛としたものへと変わり、表情もよりキリッとしたものに。それがこの楽曲の色や彼女の声の特色と合わさると、サビ高音の歌声を強く打ち出す部分で切なさが際立つから不思議なものだ。そして「Brand-new Sky」のロックバージョンへ。ドラムのキックが強く主張するサウンドに乗せて、ステージ上の牧野はダンサーを従えて踊りながらこの曲を披露していく。

そしてそのまま「『Zipper』いっちゃうよー!?」と、予習動画を公開していたその曲へ突入。配信の甲斐あってか、サビやDメロでは牧野の振付に合わせて観客が踊る踊る。またこの曲ではステージ上を歩きながら、より甘め成分増し増しの歌声を客席の隅々にまで届けていったのだが、それがサビに入った際には歌詞とあいまって歌声には反則的なキュートさが生じ、観客の心を撃ち抜いていった。
さらに続けて「みんなと一緒に楽しい思い出を作りたい」と語り、観客へ「『Say Hello!』しませんか?」と呼びかければ、「ワールドツアー」のスタート。直前に練習タイムを経てということもあってか、1サビでは早速大音量の「Say Hello!」が返ってくる。それに非常にうれしそうな表情を見せた牧野は、2コーラス目に入ると上手の端に移動し観客へ手を振ったりと心底楽しそう。やはりこの曲、観客からステージ上まですべての人が笑顔になれる“楽しさ鉄板曲”だ。そんななかだからだろうか、落ちサビのファルセット気味の歌声は不意におしとやかさが見えたように感じられ、そのギャップもまたいい意味でズルく感じられた。
そしてラストも牧野のライブの終盤での鉄板曲、「Cluster」。何も言わずともサビでは、歌声に合わせてたくさんの手が掲げられる。実は1サビの入りは移動しつつで横を向いていた牧野、客席を向いた瞬間に目に飛び込んできた前述の光景にほんの一瞬驚きつつ、その表情はうれしさからすぐさま笑顔へと変わっていた。その観客を大サビでライトが照らしてその笑顔を牧野に見せたところで、そのまま楽曲はジャンプエンド。ラスト6曲MCなしでアッパーなナンバーを歌いきり、本編はここで終了となった。

すかさずクラップアンコールが場内を包むと、やがてステージは明転。その中央には再びグランドピアノが据えられていた。そして牧野がステージ袖からぴょこっと顔を出すと、「みんなとお揃いにしてきたよ!」と今回のライブグッズのTシャツに着替えステージに再登場。そして「日々の悲しみや辛いことをResetして、Happyになっていただきたくて作ったライブ」と改めてライブのコンセプトを語ると、そのままライブ初日を終えての感想へ。「私自身楽しかったです! それもやっぱりみんながいてくれたからだな、と思います。ありがとうございます」と告げて一礼し、「できれば、この思い出はResetしたくないなぁと思っています。セーブしようかな?」と『サクラダリセット』になぞらえてこの日の思い出を胸に留めると、本編と同曲「Reset」の、今度はAcoustic Versionをピアノの独奏から弾き語り始める。
実はこの日が生での初披露となったこの曲。それはサウンドに鋭ささえ感じる原曲とは違い、優しく包み込んで悲しみを消してくれるような楽曲、そして牧野の歌声とピアノとなっていた。Aメロでのより色濃い切なさや落ちサビ頭のか細さなどから、アコースティックならではの表現の深さを感じさせてくれる。生ならではの、息遣いや表現でこの曲を魅せてくれた。

曲明け「Resetしたあとはどうするんだっけ?(牧野)」「Happiness!(観客)」といった掛け合いもありつつ、「皆さんのおかげで素敵な1日になりました。ありがとうございます」と改めて感謝と一礼。最後に『サクラダリセット』の第2クールEDテーマとなっている「Colors of Happiness」を、ラストナンバーとして届ける。
サウンドに激しさの現れるBメロでは、そこまで弱く儚く入っていた歌声もしっかりと強くなっていき、自作詞ということも手伝ってか想いの乗り方の強さが際立つ箇所に。そのままサビにも強く入っていくが、その強さとラストでのすっと抜けるような歌声とのコントラストは、この曲のハイライトとして深く記憶に“セーブ”されたポイントだった。そしてラスサビでその部分にあたる「虹に変わる」の一節を歌ったと同時に、ステージ上方のライトは虹色のグラデーションにその色を変える。このアンコール2曲で“悲しみ”を虹という形の“幸せ”に変え、ライブは幕を下ろしたのだった。

序盤にライブに勢いを与えるようなアッパーな曲を固め、中盤はクラシックコーナーも含めて落ち着いて聞ける曲を並べ、そしてダンスコーナー明けはライブ終盤に向けて会場の空気をさらに高める楽曲を次々歌っていく――この「流れを考えた」というセットリストは、非常に聴き心地のいいものだった。
彼女はまだまだ新しい曲をたくさん私たちに届けてくれるだろうし、もちろん過去に歌ってきた曲も今回披露されたものだけではない。バラードから場の空気を高められる曲、キュートさを届ける曲など多彩な持ち歌が存在する。だからこそ、この経験を活かして今後さらに最高のHappinessを感じられるライブを観たい。この日のライブを体感したものとしては、やはり自然とそう思わざるを得ないのである。

Text by 須永兼次

“Yui Makino Live『Reset&Happiness』”DAY1
2017.07.15@AiiA 2.5 Theater Tokyo
【SET LIST】
<Introduction>
M1.Reset
M2.夏休みの宿題
M3.ふわふわ♪
M4.囁きは“Crescendo”
M5.What a Beautiful World
M6.シンフォニー
M7.たったひとつ
●クラシックコーナー:『ニュー・シネマ・パラダイス』メドレー
M8.その先へ
M9.未来の瞳を開くとき
<Dance Show Case>
M10.secret melody
M11.Synchronicity
M12.Brand-new Sky
M13.Zipper
M14.ワールドツアー
M15.Cluster

EN1.Reset~Acoustic Version~
EN2.Colors of Happiness

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