1st Album『eYe’s』発売記念~MYTH&ROID “虹色の目の化石”をめぐる物語~ 第4回

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1stアルバム『eYe’s』のリリースを記念するインタビュー連載第4回は、生み出したTom-H@ckによれば「実験作だった」とされる「Paradisus-Paradoxum」(TVアニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」後期OPテーマ)。前作「STYX HELIX」とは異なる形で聴く者の意識を異次元世界へと誘うこのMYTH&ROID楽曲。そこにどのような制作秘話が埋め込まれているのか。冒頭から広がる神秘性、急激に押し寄せる焦燥感の裏側を聞く。

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――「Paradisus-Paradoxum」はどういった形で生まれた楽曲だったんですか?

Tom-H@ck MYTH&ROIDにとって初めてのOP曲だったんですよね。題名の意味は「矛盾の楽園」。実はこの曲の制作当時、鋼鉄の心をもつ僕が初めて「振り回された!」って思えることがプライベートでありました。そう、いろいろと……。まあ、いわゆる対人関係なんですけど。

――「振り回された」と仰るからには、でしょうね(笑)。

Tom-H@ck 前(連載第2回)にも話したことがありましたけど、「優しさだけじゃダメなんだな」というところでかなり勉強させてもらった出来事でした。その中で「なんて美しいんだろう」って思える感情を発見したんですよね。例えば、恋愛に例えると誰かを愛するとか、あるいは誰かに好意を持って優しく接するとか、そういったもののなかにあるのは基本的にポジティブな感情ですよね。「助けてあげたい」とか「何かプレゼントする」とか。でもそのとき初めて、説明するのが難しいので伝わるかどうかわからないですけど、「汚れ」みたいなものを見出したんです。世の中には「闇の世界」がたくさんあって、闇の世界を見ながら一方では誠実な自分が存在する、ということってあると思うんですよ。例えば、わかりやすく噛み砕くと僕はやらなかったけど、「ふたりの異性と同時に付き合う」というような状況があったとして。そういう時って、ポジティブに人を愛する世界と、別個の汚い世界を同時進行で歩んでいる自分の中に、「どっちが居心地がいいことなの?」「どっちが自分の生きる道なの?」というものすごい葛藤が芽生えてくるんですよね。そこに表と裏の自分が同時進行していく感覚に「気持ち良さ」があった、それは「発見」でしたね。人ってそれぞれに価値観を持っていて、感情においてもそれは同じなんですけど、今まで「これが絶対正しい」って思っていたのとはまた別の感情がどんどんとすごいスピードで自分を侵食していくというのは新しい体験でした。ひと晩寝て起きたら、自分が「変わった」感覚があるんですよ。次の夜に寝て起きたらさらに、「どんどん価値観が変わってきた」「今までいいと思っていたのとは違うのにこれが良い」みたいなターンオーバーを感じていました。そんなときに作った曲が、略して、この「Para-Para」だったんです。

――今までの自分とは矛盾した感情に支配されていく過程から生まれた楽曲、ということですか?

Tom-H@ck そう。きれいな物事が進んでいるとき、絶望や汚いものが同時に自分の中で吸収されていく。そうやってミックスされていくことで自分という人間が形成されていく流れを、この「矛盾の楽園」で表現しました。

――MYTH&ROIDの楽曲はすべて、さまざまな感情の「最果て」を表現しています。今回は「矛盾」の最果てですか?

Tom-H@ck いや、「侵蝕」です。人間が生きていく中で体験する侵蝕。それがいいものなのか悪いものなのか、答えはないんだけど、それを受け止めて人生を歩まなくてはいけない。それほどに重い「侵蝕」ですね。

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――ただ、侵蝕されてくる感情を形に、つまり曲にするというのはどういう作業だったんでしょうか。

Tom-H@ck さっきも話したように、侵蝕されていく自分の心を俯瞰的に見ていたら「めちゃくちゃきれいだ」って思ったんですよね。それは、実際に生まれ変わるわけではないとしても、新しい自分が生まれる予感みたいなもので、そこに美しさを感じたんです。それっていわゆる「矛盾」なんですよ。

――今までの自分を否定する行為ですからね。

Tom-H@ck 今までの自分が良いとは思わなかったものが侵蝕してきて、それと並行で自分が進化していくわけですから。では、その矛盾を音で表現するときにどうしたかというと半音階でぶつける手法やブロックコードを多様する手法など、そういったテクニックをガンガンに入れたんですよ。「STYX HELIX」はドとレの音を重ねたと言いましたけど、それよりも強烈な不協和音を逆手にとって楽曲を構築しています。

――音楽理論的にはタブーみたいなものだという話でした。

Tom-H@ck でも、半音階を多様して和音を構築していくというのは「何が何でも絶対やるなよ」って音なんですよ。「ドから数えてレの音はまだいいけど、ド#をハーモニーには使うのは無理」、そういう音なんです。でも、「Para-Para」はメロディラインと後ろで鳴っている音は完全に半音でぶつかっていますからね。Aメロもそうですよ。当時、「Para-Para」を聴いて感じ取った人たちが僕にリプライを飛ばしてくれたんですけど、「すんごい気持ち悪いんだけどなんか癖になる」って言ってくれました。うれしかったですね。自分が狙ったのはまさにそれ。気持ち悪いものを気持ちよくやるために人間はこうやって葛藤の矛盾の中、自分にいろいろな価値観を見出していくんだ、というところを表現したかったんです。

――サビの直前とかも気持ち悪いですよね。初めてのOP楽曲とは思えない作りで。

Tom-H@ck 実は、この曲も「超ヒット」には結びつかない方法論で作っています。というのは、例えばCコードの上にテンションを加え、モードで展開していきます。テンションというのは、ドならド・ミ・ソという3音がコードとしてありますけど、それに3つくらいの違う音を重ねるんですよ。すると何が起きるかというと、ジャズのような響きを生み出します。これをやるには、ピアノやストリングスのような音が濁らない楽器を使うんですけど、「Para-Para」のサビはテンションをかなり含んだ状態でピアノやストリングスを鳴らしてるんですよ。そこにキャッチーなメロディを乗せている。正直、作ったときはヒットするかどうか、「出してみないとわかんねえな」って感じていましたね。実験的な曲だったんです。それが、今までのMYTH&ROID曲の中ではいちばんセールスがよかったんですよ。まあ、実験は成功したと言えるでしょうね。そういう楽曲でした。

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――難しい曲ですが、ボーカルラインに関してはどんなふうに歌ってもらうイメージでしたか?

Tom-H@ck 最初は強く歌おうとしたんですよね。なのでかなり「弱く」という方向にディレクションしたのは覚えています。強く歌ってしまうとよくあるアニソンになってしまうのであんまり気持ち良くない。あとは「侵蝕」というイメージは伝えていました。これ、(CDの)ジャケットも侵食されてるんですよ。顔が羽や花に。これもアートディレクターさんに侵蝕というテーマでお願いしました。

――プライベートの貴重な経験がクリエイティビティに結びついた楽曲ということでしたが、Tom-H@ckさんとしても珍しい経験だったのではないですか?

Tom-H@ck そうなんですよね。僕は「それ」が嫌な人だったんですよ。アーティストの多くは、自分のプライベートにあった物事を詞にして、曲にして、パッケージしていくということをやっているので、「別に僕がやらなくてもいいことかな」と思っていたんですよね。でも、やっぱり「アーティスト」を始めたことで変わったんでしょうね。

――プロデューサーとはかなり視点が。

Tom-H@ck 「やらなくてもいいじゃん」というのがなくなって、自分が今感じている感情をMaxのときに形として残す、というのは芸術作品としてもいいことなのかもしれないと思いました。時間が経つと人間の感情はどんどん形を変えていくものですからね。自分でも気付かぬうちに。

――俯瞰で見ても魅力的な、作品にしたい感情だったということですね。

Tom-H@ck そこは、感情の最果てを積み上げるMYTH&ROIDの活動にもつながっていますね。

Interview&Text By 清水耕司 (セブンデイズウォー)
Photography By 山本マオ


●リリース情報
1st Album 『eYe’s』
4月26日発売

【初回限定盤(CD+BD)】
品番:ZMCZ-11076
価格:¥4,000+税

【通常盤(CD)】
品番:ZMCZ-11077
価格:¥3,000+税

<CD>※曲順未定
・「L.L.L.」(TVアニメ『オーバーロード』EDテーマ)
・「ANGER/ANGER」(TVアニメ『ブブキ・ブランキ』EDテーマ)
・「STYX HELIX」(TVアニメ『Re:ゼロから始める異世界⽣活』前期EDテーマ)
・「Paradisus-Paradoxum」(TVアニメ『Re:ゼロから始める異世界⽣活』後期OPテーマ)・「JINGO JUNGLE (リミックス)」(TVアニメ『幼女戦記』OPテーマ)
・「Crazy Scary Holy Fantasy」(『劇場版総集編 オーバーロード 不死者の王』テーマ) ほか、新曲含む全14曲収録予定。

<Blu-ray>
1.「L.L.L.」Music Clip
2.「ANGER/ANGER」Music Clip
3.「STYX HELIX」Music Clip
4.「Paradisus-Paradoxum」Music Clip
5.「JINGO JUNGLE」Music Clip
6.「タイトル未定」(新曲) Music Clip

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