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INTERVIEW

2017.02.22

1st Album『eYe’s』発売記念~MYTH & ROID “虹色の目の化石”をめぐる物語~ 第2回

1st Album『eYe’s』発売記念~MYTH & ROID “虹色の目の化石”をめぐる物語~ 第2回

「Crazy Scary Holy Fantasy」は、MYTH & ROIDのデビュー曲「L.L.L.」に続く2度目の『オーバーロード』楽曲でもある。一度、作品の世界観を音楽に封じ込めるという作業を終えた後、劇場版というテーマをどのようにTom-H@ckは音楽世界に投影したのか。Tom-H@ckの音楽理論に裏付けられた楽曲制作風景や、音楽への情熱を切り取るインタビュー連載の第2回目。

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――「Crazy Scary Holy Fantasy」は、MYTH & ROIDにとって2度目の『オーバーロード』楽曲となります。どのような楽曲にしようという思いでしたか?

Tom-H@ck アニメ側やKADOKAWAさんの要望として「狂気を表現してほしい」と言われていたんですけど、すでに「L.L.L.」でアルベドが持つ狂気的な愛を表現しているんですね。しかも、幸いにも「L.L.L.」は多くの人に聴いていただくことができたので、ここでまた、ただ狂気を表現するわけにはいかない。アルバムにまとめた時にもテーマが重複してしまうので、そこで考えたのが、第三者目線でその狂気を見るということでした。そうすることで狂気を滑稽な感じに見せる、それがこの楽曲なんです。ホラー映画で人形が笑った瞬間に感じるような、どこか怖い感じ、それを聴いた時に感じさせるのが「Crazy Scary Holy Fantasy」です。人間、笑ったり安らいだりしている瞬間みたいに心を無防備にしている時が一番恐怖だと思うんですよ。楽しそうに凶器をもてあそんでる様子を見ると感じる恐怖、そういうものを表現することで「L.L.L.」と差別化できると思いました。

――MYTH & ROIDの楽曲は「感情の最果て」を表現しています。連載第1回でお聞きした「JINGO JUNGLE」は「殺戮の最果て」、「L.L.L.」は「愛情の最果て」。それではこの「Crazy Scary Holy Fantasy」は?

Tom-H@ck 「快楽」ですね。人間って快楽と狂気が混じりあった状態にあって、それはバランスよく保てればいいけど、バランスが崩れた時に人間は堕ちてしまう。幸せな時はなぜか不幸がやって来そうな気がするとか、そういう恐怖を感じる瞬間が表現されていると思います。

――快楽を求めすぎると狂気に近づくこともありますね。

Tom-H@ck 表裏一体なところがあります。個人的に思うことがあって。実は、2016年の個人的なテーマは「慈愛」だったんですよ。自分の過去がなんていうか傷だらけなので、「こういうこと言うってことはこう思ってるんだな」みたいに相手の気持ちを汲んであげるというか、相手の気持ちになって優しくして、相手を許して、許したところの空いたフィールドで自分が活躍していく、みたいな。そういうやり方で会社もアーティスト活動も進めてきたんですよ。相手に愛情をすごく注ぐ「奉仕型S」なんですよね。例えば、誰かとふたりでご飯を食べていても、パイナップルが切りにくそうだったら「俺、切るわ」とか。それが、去年の10、11、12月頃になって、これは「考えなきゃいけないな」って思ったんですよ。人と対峙した時に「俺、やるよ」ってのは甘やかすし相手が成長しないし、しかも、その代償が自分に返ってくるということを感じて。いや、それまでもそういうことがあるとは思ってはいたんですけど、重なることがあったんですね。別に恩着せがましく「やってあげた」なんて思ってはいないけど、「悪」で返ってくることがあるとあらためて気づきました。「優しさ」って「狂気」に変わるよね、ってことを仕事でもプライベートでも実感したので、相手の立場に立ちすぎるのは良くないと思ったんですよ。これは個人的にちょっと面白かったですね。だから、2017年のテーマは「鋼鉄(はがね)の心」です。

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――楽曲とリンクする1年だったんですね(笑)。楽曲としてどんな特徴があると思いますか?

Tom-H@ck 多分、初めてだと思いますよ、完全なるシャッフル(リズムの)楽曲って。マリリン・マンソンなんかが今言った感じだと思うんですけど、笑ってる感じやそこから生まれる狂気とか、楽曲としてはハッピーな感じを表現する時、リズムを跳ねさせたら大体ハッピーになるんですよ。それは、劇伴でもOP・EDでも誰かに曲を書く時でも。で、そのスキップするような感じにドス黒いギターを入れると、笑っているんだけど「この笑い、ヤバくない?」っていうのを音で表現できるんです。だから、この曲もギターは相当ヘビーです。しかも、DIEZELっていう、スラッシュメタルで使うような超ひずむアンプを使っているんですけど、あえてひずみは抑えてアタック感を出すようにしています。リフとしては低音域で重いギターが鳴っている感じだけどリズムは跳ねている、というのを表現した曲ですね。

――前に見える軽快さの背後に黒く渦巻くものが見えるような。

Tom-H@ck 人間誰しもが持っている闇の部分ですよね。

――メロディラインで意識した点はありますか?

Tom-H@ck この曲は、コード進行がロックでもポップでもなくジャズなんですよ。ジャズと聞くと弱々しい感じをイメージするかもしれないですけど、舞台音楽で使うようなコード進行を使っていて、メロディもそういうコード進行に合わせています。メロディを作ってから合うコードを作るのではなく、初めにコードがあって、そのコード進行ですでに「笑いながら怖い」という感覚を表現しているところに、メロディを作って乗せてやるというやり方ですね。音楽理論としては窮屈なやり方で、作曲の手法としてはこっちのやり方の人は少ないみたいですけど、僕はコードや音色から楽曲を作るんですよね。

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――舞台音楽ということはミュージカル的ということですか?

Tom-H@ck そういう感じですね。昔からある古い音楽の形式を引っ張ってきています。なおかつ、サビの切り替え部分でキーに当たる音の半音上、スパニッシュスケールを一瞬使っているんですよ。例えば、Cメジャーならキーはドになりますが、ド#入れる。そうすると何が起こるかというと、ドレミファソラシドというキーの中に入っていない音なので「何が起きたんだ」という違和感を聴く側に与えられます。この曲でもそれを取り入れることで恐怖感とつなげてるんです。しかも、そのアクセントで癖になるキャッチーさも持たせられます。理論的にはモード理論というものなんですが。

――そこがジャズ的ということですね。ボーカルに関してはどんなディレクションを進めましたか?

Tom-H@ck 明るく歌うところと怖く歌うところのメリハリは両極端に、とは言いました。それも、セクションの中で分けるのではなく、セクションごとに大きく。例えば、BメロならBメロ全部は明るく歌って、サビではドス黒く歌う。大きく激しく変えていくことで狂気的なものが増す感じを出しています。実際、Bメロの静かになるところでは相当明るく歌っているんですよ。サウンドも雰囲気もダークなところに挟まれているので、そうは聴こえないかもしれないですけど、声をかなり明るく録っています。それは、シャッフルとヘビーなギターを合わせたのと同じで、快楽を求めて人間がおかしくなるという狂気的な部分をボーカルでも表現しました。Mayu本人は「支配者君臨」って言葉で表現していましたね。

――プロデューサーとしてではなく、一アーティストとしてTom-H@ckさんが楽しみながら作ったところはありましたか?

Tom-H@ck そういう話ですと、多分、僕がしてきた今までの仕事で一番いいギターの音になってるんじゃないかな。DIEZELっていうアンプを使ってひずみを抑えているって話をしましたけど、それをやることでギターの音がすごく研ぎ澄まされた音になっているんです。今回そのギターを一緒にプログラミングしたエンジニアさんと「今回、ずいぶん音いいね」「前、録ったあれですよ」「えー、こんな音出るんだ」みたいな話もしたんですよ。普通はひずませて使うアンプを、逆のアプローチで使いこなしたところはクリエイティブでしたし、勝利の要因でしたね。

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――というのは?

Tom-H@ck ギタリストとピアニストが作る音楽の違いという話があるんですよ。メロディ感が違うとか楽器が違うとか。その要因は、ギターってひずませて入れると、人間の可聴域である20Hzから20kHzまでを全部埋めることができるんですよ。でも、すごく悪い言い方してしまうとそれって、あとはベースとドラムを入れたらもうOK、みたいな感じで完成しちゃうんですよ。だから、ギターを入れることで他の楽器を殺してしまうから、もうギターが入らないということもある。でも、どうしてもギターを入れたかったならどうするか。今言ったようにひずみを下げるんですよ。そうすると隙間ができるし、ピッキングのアタック音がすごく分かりやすくなってリズム感も出てくる。ひずんでるとリズムじゃないところにアタック音が出るような感じになるんですけど。ただ、それって、ステレオで聴いた時に右の耳と左の耳で全く同じフレーズに聴こえるように弾かなくちゃいけないので、合わせるだけで何回もテイクを重ねなければいけないくらいに弾きにくいんです。でも、そこに挑戦している。それはアーティストとして、妥協しなかったというかやりたくてやったところですね。そこをクリアするとグルーヴがしっかりするという効果を狙えるんです。

――最初にも少しお伺いしましたが、この楽曲では、一度表現した『オーバーロード』という作品をあらためてリメイクするようなところがあったかと思うんですが、同じ作品に別方向からアプローチするというのは難しかったですか?

Tom-H@ck 今聞いていて、ふたつ思ったことがあります。僕の師匠って、うち(=TaWaRa)とはグループ会社であるF.M.F所属の百石元さんで、若いころにみっちり3年間、朝から晩まで叩き込まれたんですよ。夜中の3時ぐらいに電話がかかってきて、「何だ、この音。こんなんじゃエンジニアから仕事干されてすぐ仕事できなくなるよ」って言われるとか。そういう毎日だったんですよ。そのときに、リテイクを受けたとか作り直さないといけない時に、今の若いやつは一個作り上げたものを全部捨てる勇気がない、って言われたんですよね。「一回捨てろ」「改造して、3割4割強化したものでその場をしのげると思うなよ」って。僕もそれはすごく思います。気持ちをリセットした方が絶対いいものができるという確信があるし、僕ってそれが得意なんですよ。それからもうひとつは、これも絶対そうなんですけど、今の若い人は努力の量が足らない。「え、(音楽)理論書、それぐらいしかないの? 俺、200冊ぐらい持ってるけど」ってことが結構あるんですよ。会社を興してから、所属のクリエイターに、自分のネタもどんどん与えるし、理論書も見せるし、どうやって自分がここまで来たか、こういう風にやらなければいけないって話を毎月のようにするんですけど、「なんで夢があるのにそこに命を賭けないのか」って思いますね。時間ができたら飲むし、友達と遊ぶし。「もっと努力しろよ」って感じですね。

――アンプのひずみのお話もそうでしたけど、作った1曲にどこまで時間や手間をかけるかというのも同じですね。

Tom-H@ck どこまで掘り下げられるか、ですね。短時間で軽く作ったやつで出しちゃうのか。「好きこそものの上手なれ」ってことで、作品に対する愛情の深さって聴く人も感じちゃうので。クリエイターとしてやっていくなら、「ひとつの作品に愛情深く」というのは考えなくてはいけないところでしょうね。

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Interview&Text by 清水耕司(セブンデイズウォー)


●リリース情報
1st Album
『eYe’s』
4月26日発売

【初回限定盤(CD+BD)】
品番:ZMCZ-11076
価格:¥4,000+税

【通常盤(CD)】
品番:ZMCZ-11077
価格:¥3,000+税

<CD>※曲順未定
・「L.L.L.」(TVアニメ『オーバーロード』EDテーマ)
・「ANGER/ANGER」(TVアニメ『ブブキ・ブランキ』EDテーマ)
・「STYX HELIX」(TVアニメ『Re:ゼロから始める異世界⽣活』前期EDテーマ)
・「Paradisus-Paradoxum」(TVアニメ『Re:ゼロから始める異世界⽣活』後期OPテーマ)
・「JINGO JUNGLE (リミックス)」(TVアニメ『幼女戦記』OPテーマ)
・「Crazy Scary Holy Fantasy」(『劇場版総集編 オーバーロード 不死者の王』テーマ)
ほか、新曲含む全14曲収録予定。

<Blu-ray>
1.「L.L.L.」Music Clip
2.「ANGER/ANGER」Music Clip
3.「STYX HELIX」Music Clip
4.「Paradisus-Paradoxum」Music Clip
5.「JINGO JUNGLE」Music Clip
6.「タイトル未定」(新曲) Music Clip

●作品情報
『劇場版総集編 オーバーロード 不死者の王』
2017年2月25日公開
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(c)丸山くがね・KADOKAWA刊/オーバーロード製作委員会

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