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INTERVIEW

2017.02.08

1st Album『eYe’s』発売記念~MYTH & ROID ”虹色の目の化石”をめぐる物語~第1回

1st Album『eYe’s』発売記念~MYTH & ROID ”虹色の目の化石”をめぐる物語~第1回

2017年4月26日、1stアルバム『eYe’s』を世に贈りだすMYTH & ROID。熱望された今作に収められる14曲(予定)には、数々のOPテーマ・EDテーマ・挿入歌も含まれる。アニメーション作品を牽引したそれらを通して、MYTH & ROIDのプロデューサーとして、クリエイターとして、アーティスト集団の長として、Tom-H@ckが抱く思考と気概をお伝えしていく、連載シリーズの第1弾。

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――「JINGO JUNGLE」(TVアニメ『幼女戦記』OPテーマ)は、MYTH & ROIDがアニメに提供する楽曲としては4作品7曲目となります。どのような楽曲を手がけたという感覚でいますか?

Tom-H@ck これまで4作品に参加させていただいてきたMYTH & ROIDですけど、OPテーマを担当するのは「JINGO JUNGLE」で2曲目となります。そこで今回は、リスナーの方がオープニングの89秒を聴いて「なんだこの楽曲?」ってインパクトを残すような、今までいちばん“強い”楽曲をめざしました。これまで作ってきた音楽の中でいちばんノイジーだとも思います。入っているギターの音は、一度レコーディングしたものを2回くらいエフェクトでひずませています。ラジオボイスっぽく、ギターの音ではないように聴こえますし、インダストリアルロックの極端な例という感じになりましたね。

――オープニングである、というところは意識したんですか?

Tom-H@ck しましたね。BGMでもOPテーマ&EDテーマでも、アニメに対してどういう音楽をあてて飾りつけするかというのは僕が職業音楽家として活動するなかで、いちばん長く考えてきたところです。では「オープニング」って一体何かと言えば、やはり「顔」なんですよ。30分という時間を視聴したときに感じた匂いや色、それを決定づける入り口だと思っているので、音の選び方にも神経は使います。ただ、オープニングに対しての意識がある一方で、その半分は別のところにあって。これはずっと言っていることではあるんですけど、MYTH & ROIDが作る音楽がアニソンと呼ばれようが呼ばれまいが僕はかまわなくて。個人的にはどっちでもないとは思っていますけど、ただ、今の音楽市場でどういう音楽を作ったらみんなが面白いと思ってくれるのか、という意識は持っているんですよ。「12、3年くらい前に流行ったサイケデリックトランスやインダストリアル・ロックみたいなカオティックな音楽をキャッチーなメロディに乗せたら、アニメのオープニングとして絶対ヒットするだろう」、そんな狙いがMYTH & ROIDとしてはあって、「JINGO JUNGLE」にもその思いはありました。

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――サイケデリックトランスやインダストリアル・ロックのような音楽にOP的なキャッチーさをまとわせる、というのは困難な作業だったかとも思います。

Tom-H@ck そこに関して言えば、思い出すことがひとつあります。昔、僕がOPテーマなどの音楽で携わっていたアニメ作品がヒットして、キャラソンも書くことがあったんですよ。で、2曲作ったんですけど、どっちがいいかで作品の音楽プロデューサーと僕とで意見が分かれ、議論したことがありました。そのときに言われたのが、全体を見てどういうプロデュースワークが必要なのか、どうすればいろんな人に届けられるのか、アーティストをどう見せなければいけないのか、新しいアイデアを入れつつどういうプロセスワークをするべきなのか、その部分が何も分かっていない、っていうことでした。すごく怒られましたね。当時僕は、自分の師匠と一緒にレーベルを運営していて、しかもまだ若いこともあったから、そう言われても強がって「わかりますよ」とは答えていたんですけど。でも、そのレーベルはアンビエント系のニッチなジャンルでもありましたし、作品を音楽で飾りつけするということへの努力がまだ足りないのではないか、作品プロデュースという意味ではもっと精進しなければいけない、というようなことを数日考えさせられました。ただ、その意味では、ある作品にどういう音楽をあててキャッチーさを狙うか、というのはその頃から訓練されている部分なんです。中田ヤスタカさんがインタビューで話していましたけど、今後はマーク・ロンソンのようにクリエイターが表立ってアーティスト活動する人も増えていくと思いますし、自分としてもそういうところを狙ってはいるので、音楽だけではなくてトータルのコンテンツとして何を表現するか、それによってどう世の中を変えていくのか、それって実は自分がいちばんこだわっているところではありますね。

――MYTH & ROIDがオープニングだからアニメに注目する、という人も実際にいますよね。

Tom-H@ck そう言っていただけるとすごくうれしいですね。アーティストがデビューしてその場所にたどりつくまでって非常に困難なんですけど、でもプロデュースワークとしてはやはりそこをめざさないといけないし、そっちに向かっている空気感を感じてはいますよ。

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――「JINGO JUNGLE」を制作する際、『幼女戦記』のどの部分にいちばん注目しましたか?

Tom-H@ck 『幼女戦記』を読んだら誰しもが思うことでしょうけど、やはり「戦争」ですね。つまり「殺戮」。その狂気的な部分を表現するのがいちばんわかりやすいのかな、と思いました。というのも、原作を読ませていただいたら非常に面白くて、プロジェクトを一緒にやっているhotaruともそう話していました。ただ、いかんせん「難しい」んですよね。それは大きな魅力なんですけど、今の活字に慣れていない人からすると少しハードルが高いんじゃないか、というのを最初に思いました。だから、マス(=大衆)をつかむような音楽を仕上げれば、足りない隙間を埋めるようないいバランスになるのではないか、と思いながら「JINGO JUNGLE」を作りました。たぶん、監督さんや演出さんも同じことを思ったんじゃないかと。アニメの『幼女戦記』は非常にわかりやすくて、アクションでピークを迎えるところ、悲しいところ、楽しませるところ、というのがとても伝わりやすく演出されていたので。

――エンタテインメントに寄せるというのはカルロ・ゼンさんの意向もあったということですが、映像という面でのキャッチーさが画面に込められていましたね。

Tom-H@ck 転生なんかもそうですけど、厨二心をくすぐる感じが出ていましたね。(原作の)ここがそうなるのか、という楽しさがありました。あと、個人的に面白かったのがSE。ターニャが宝珠を使うときに鳴ったSEって、意外とみなさんは聴き逃したと思うんですけど、あれはヤバいと思いますよ。

――ヤバいというのは?

Tom-H@ck アニメを含めて日本の映像作品がハリウッド映画に比べて何が劣っているかというと、SEとか音楽なんですよ。そこのクオリティがかなり違っていて、例えばハリウッド版の『トランスフォーマー』でトランスフォーマーたちが変形するときのSE。あれなんかどうやって作っているのか、めちゃくちゃセンスがいい音ですよね。SEだけで脳みそを掻き回されるような感じがしますけど、同じ感覚を『幼女戦記』のあのシーンで感じました。全然魔法の音ではなくて、それこそ機械が変形するような音で。今まで魔法物のアニメはいろいろとありましたけど、あんな音は初めてでしょうね。新しい次元に進んだような、ハイセンスなSEの使い方をしていました。でもたぶん、深層心理で感じていると思うんですよ、視聴者の方も。気づいてはいなくても、「なんかかっこいいな」と思わせられるような効果を発揮していると思います。

――先ほど話に出た、作品を見終わった後に感じる匂いや色みたいな部分で影響を与えるようなSEということですね。Tom-H@ckさんと同じ意識を感じます。

Tom-H@ck ですね。新しい挑戦に向かっているという意味でも、なんか自分もうれしくなりました。

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――歌詞についてはどのような考えがありましたか?

Tom-H@ck 歌詞で何を表現するのか、どう作品に合わせるか、hotaruと考えたんですけど、世の中の人間って政治的な意味でも比喩的な意味でも誰もが自分の国を持っていて、一人ひとりがその国王であり大統領であり、愛国者である、という考えが浮かんだんです。JINGOというのは英語で「愛国者」という意味なんですね。愛国者が日々戦いを繰り広げることで世の中は構築されていて、その様を『幼女戦記』に投影しようと考えました。音楽業界でも一般の社会でも、やっちゃいけないことやって干されるとか、理不尽なことをされて誰かがつぶされるとか、本当に戦争ですよね。だから、そことリンクさせた世界観を歌詞で表現しました、最初は。ところが、KADOKAWAの若林 豪プロデューサーから「これでは弱い」と言われまして。その要素を残しつつももっと狂気的に、要するに「殺戮をしちゃうよ」とはっきり口にしてしまうように変化させた、という裏話がありましたね。

――人は誰もが愛国者で生きることは戦いである、というテーマに込めた思いというのはありますか?

Tom-H@ck 僕が表現したかったこととしては、「愛国者同士の争いで成り立っているような、そんな残虐で希望のない世界が延々とらせんのように続くけど、その中で欲しいものを勝ち取っていかなければならない」というところですね。私事ですが去年から会社の代表としても動いているので、そうなると他の会社の方たちといい意味でも戦っていかなければいけない。だから、恋愛でも何でもそうですけど、人間と人間が対立するときって戦いなんだと感じるんですよね。鎧とか魔法といった武器を操るように、大人になるにしたがって自分の武器で人間社会を勝ち上がっていくんだと思います。あと、僕自身が本質的に「戦闘民族」で。「ふざけんじゃねー」って思うことも多々あるので、「争い」っていう感覚はしっくりきましたね。

――ボーカルについても伺いたいのですが、「JINGO JUNGLE」ではどのようなディレクションを行いましたか?

Tom-H@ck これは簡単で「狂気を表現してくれ」です。ただ、ブレスポイントはめちゃくちゃディレクションしました。歌で感情を表現する方法って、音程、リズム、歌いまわし、こぶしとかいろいろとあるんですけど、息を閉じるところでいちばん感情を感じるんですよ。「あーー」って歌って、その「あーー」の最後に息を閉じるところですね。例えば、そこを下げたら疲れている感じになりますし。だから、「JINGO JUNGLE」を聴いているとわかるんですけど、どの語尾も全て感情的というか、息苦しい感じになっています。絞り出されるというか、窮屈さを感じるんですね。それによって狂気的な部分を表現しました。そこがボーカル・ディレクションでこだわった部分ですね。キーもそうですね。ちょっと高いんですよ。本来ならば半音下げるんでしょうけど、キーが高いところに行くとノドが閉まっていくような、苦しい感じが出てくるので、その息苦しさを出すにはこのキーがいいと思いました。逆に下げると20%くらい熱量が失われてしまうので。そこは楽曲が何を求めているかで判断するところですね。

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――ここまでプロデューサーとしての視点で「JINGO JUNGLE」を語っていただきましたが、いちアーティストとして力を注いだポイント、楽しんで作ったという箇所はありましたか?

Tom-H@ck それならふたつありますよ。ひとつは、キック(=バスドラム)の音ですね。「JINGO JUNGLE」は最初から最後まで四つ打ちなんですけど、そのキックの音がアニメではまず聴かないくらいに極太で音量もでかいです。たぶん、アニメのプロデューサーなら、低音が響きすぎるので下げてくれ、って言われるレベルですね。

――それは、極太のバスドラ音を録ったということですか?

Tom-H@ck いえ。実は僕、アナログシンセが好きで、何十年前のシンセを全部コントロールできるように組んでしまうぐらいにマニアなんですよ。台とか引き出しとかラックをオリジナルで作って。車一台が買えるぐらいかかったのかな?今回のキックはアナログシンセで作って、3回くらいデジタルで加工しました。低音を上げたりアタックを作ったりひずませたり。ここまでやる人はまずいないと思います。でも、そこがクリエイターとプロデューサーの違いですよね。真逆じゃないですか。自分の世界でねちねちねちねちいじっているのと、クオリティを追求するよりもどうやって多くの人に届けるか考えるのって。僕もやっぱり出身はクリエイターで、あとからプロデューサーの能力を身に付けたタイプなので、みんながやらないようなところで深い音作りをするのは楽しくて楽しくて仕方ないですね。もうひとつはグルーヴです。音楽って、縦のラインであるハーモニーと横のラインであるリズムで構成されているんです。「JINGO JUNGLE」はインダストリアルロックなのでハーモニーではそんなに難しいことをしていないんですけど、横のラインのグルーヴはかなり力を入れました。25年くらい前に発売されたSP-1200というヴィンテージサンプラーがあるんですけど、ヒップホップの黒人が使っていたやつなんですよ。古いから19メガくらいしかないんですけど、それでリズムを組みました。よく聴くと(「JINGO JUNGLE」の)リズムはタッタタッ、タッタタッってちょっと跳ねているんですね。この微妙な跳ね具合が非常にグルーヴィーで、それでSP-1200はレジェンド化しているぐらいです。ところが、古い機体だからバカでかくて重いし、黒人がグルーヴを押しやすいようにパットが付いているし。せっかく自分のスタジオは見た目も重視したいからスタイリッシュにしているのに、どうしようかと思ったんですけどどうしてもSP-1200を組みたくて。仕方ないから(外側)は壊してラックに積みました。30万くらいで買って改造費も30万くらいかかりましたね。そんなやつ、テイ・トウワさんしか見たことないですね(笑)。

――でも、この機材にしか出せない音とかリズムとかありますからね。

Tom-H@ck そうなんですよ。機械だから正確だと思うじゃないですか?でも、中で微妙にエラーが起きて、そのエラーが結果的にいいグルーヴになって、名機と呼ばれるものが生まれるんですよね。それを現代的なインダストリアルロックと組み合わせたというところでは、誰にも気づかれない部分かもしれませんけど、「JINGO JUNGLE」では非常にクリエイティブな実験ができたという思いもありますね。

Photography By 山本マオ
Interview&Text By 清水耕司 (セブンデイズウォー)


●リリース情報
5th Single
TVアニメ『幼女戦記』OPテーマ
「JINGO JUNGLE」
2月8日発
170117-c002
品番:ZMCZ-10928
価格:¥1,200+税

<CD>
1. JINGO JUNGLE
2. Frozen Rain
3. JINGO JUNGLE [Instrumental]
4. Frozen Rain [Instrumental]

1st Album
『eYe’s』
4月26日発売

【初回限定盤(CD+BD)】
品番:ZMCZ-11076
価格:¥4,000+税

【通常盤(CD)】
品番:ZMCZ-11077
価格:¥3,000+税

<CD>※曲順未定
・「L.L.L.」(TVアニメ『オーバーロード』EDテーマ)
・「ANGER/ANGER」(TVアニメ『ブブキ・ブランキ』EDテーマ)
・「STYX HELIX」(TVアニメ『Re:ゼロから始める異世界⽣活』前期EDテーマ)
・「Paradisus-Paradoxum」(TVアニメ『Re:ゼロから始める異世界⽣活』後期OPテーマ)
・「JINGO JUNGLE (リミックス)」(TVアニメ『幼女戦記』OPテーマ)
・「Crazy Scary Holy Fantasy」(劇場版総集編『オーバーロード不死者の王』テーマ)
ほか、新曲含む全14曲収録予定。

<Blu-ray>
1.「L.L.L.」Music Clip
2.「ANGER/ANGER」Music Clip
3.「STYX HELIX」Music Clip
4.「Paradisus-Paradoxum」Music Clip
5.「JINGO JUNGLE」Music Clip
6.「タイトル未定」(新曲) Music Clip

ご予約はこちら

●作品情報
劇場版総集編
『オーバーロード 不死者の王』
2017年2月25日公開

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