新居昭乃が歩んだ30年の軌跡を感じさせるコンサート・ツアー「Little Piano vol.6」。そのファイナル公演の模様をレポート!

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観客が待ち侘びる中、新居昭乃がステージに登場するとTOKYO FM HALL内は拍手で埋め尽くされた。スクリーンに映像が映し出され、そこに新居の歌声とピアノが加わっていく。1曲目は「蜜の夜明け」。TVアニメ『狼と香辛料』2期でもOPを飾った曲で、コンサートは厳かに始まる。

歌い終わったところで新居は、この日のコンサート内容について説明を始める。「皆さんからのリクエストでプログラムを構成」されており、「15曲にしようかと思ったんですけどケチくさいので20曲だ!ということ」に決まった。そして、「上位の20曲を歌います」という告白を聞くと、観客は大きな拍手で賛同を表した。

5月15日(日)にTOKYO FM HALLで行われた「Little Piano vol.6」のファイナル公演。その演奏曲を決めるリクエスト投票は、ツアー中に募集が開始され、締切は前週のTOKYO FM HALL公演日夜だった。つまり、新居やスタッフは1週間でファイナルに向けての全準備を進めてきた。しかも、投票で曲が決まるということで、実際、この日のセットリストにある「叶えて」や「きれいな感情」など、それまでのツアー中には演奏されなかった曲も多い。(結果は公式サイトで発表済。)

そもそも今回のツアーは、過去に新居昭乃がリリースしたアルバム6枚を各公演に振り分け、そのアルバム収録曲を曲順通りに全曲演奏するという、全6種類のプログラム仕様。ファイナルで新居は、その集大成ともいうべき特異な公演を見せつけたと言えよう。非常に大変なツアーであったことが予想されるが、この夜もいつものように淡々と、20位から数曲ずつ順々に曲を演奏していく。演奏前後に和やかな口調での曲説明を随時挟みつつ。

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また、新居のコンサートではファンと一緒に歌う曲が用意されているのも恒例。この夜は14位の「星の木馬」がそれで、演奏前、「コーラスのようなものが出てくるんですが、それを皆さんにお願いしようと思いまして」と話すと、新居はピアノを弾き、ファンのための練習時間を設けた。新居のコンサートでは演奏中、各曲に合わせた映像(制作/映像制作プロダクション「オレンジカラー」)が流れるのが常だが、この時は合唱用に歌詞映像が流された。新居は「このツアーで皆さんが歌えるということが分かったので」とさらなるお願いを追加してきた。

「“この星ひとりで回る”というところがあるんです。でも、ここを歌えというわけじゃないんですよ?」

その言葉の後に新居が歌って聴かせたのは同箇所の下パート。「できれば」と前置きしたものの、新居曲のハーモニーを客にお願いするとは随分と無邪気な無茶さだ。ただし、長い人は30年見続けてきたという筋金入りのファンも集まった会場である。高い要求にも応え、新居との合唱を会場全体が楽しみ、緩やかな三拍子曲はさらに温かい雰囲気を作り出した。

続けて、「レコーディングでは菅野よう子ちゃんがその場でキーボードを弾いて同時に録音した」と語り「月からの祈りと共に」を披露すると、12、11、10位の曲ではピアノを離れ、新居はステージの中央で歌声を聴かせる。これまで何度もライブで歌ったり、歌ってもらったりしている「花かんむり」で新居が、「良ければ歌ってください」と観客に促すと、やはりここでも会場は自然と口ずさむ。

楽曲を聴き、それにまつわる新居の思い出を一緒に楽しませてもらっていると、時間は瞬く間に過ぎる。いつの間にか残るは上位5曲のみになっていた。ただ、リクエストの上位曲に進むにしたがって、新居にとっても思い入れの強い懐かしい曲が並ぶと、新居の語りも徐々に熱を帯び、長いお話を聞かせてくれるように。

5位となった「ガレキの楽園」は、新居が「松本大洋さんのマンガ『鉄コン筋クリート』にすごく引き込まれちゃって、その世界に入り込んだつもりで書いた」曲。続く「きれいな感情」は、少女の繊細な気持ちを書いてほしいと依頼された楽曲。ここで新居は、「人前に出るのが苦手」で「大きな仕事だとプレッシャーがかかって熱を出して」しまうことに悩んでいたが、知人から「新居さんは体が弱いんじゃないですよ。(初めて作曲した)8歳の時と自分は同じだと思ってください。8歳の少女が責任のある仕事をしている、と」と言われたことを話してくれた。新居はその言葉で全て「クリアに」なり、「間違いない」と確信したとのことだが、客席の人達も、いつまでも少女性を失わない彼女の音楽、異世界の扉は常に現実にあると思わせる新居昭乃楽曲の理由として腑に落ちた瞬間だったのではないか。

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次いで3位の曲として披露したのは軽快なピアノ・イントロで始まる「Moon Light Anthem」。ここでは30年の月日を飛び越え、当時のことを語ってくれた。
「87年にデビューした後の1年間、作った曲を当時のディレクターさんに全部没にされて。曲が書けないし書きたくもない、って気分になってたときがあったんですけど、そのときにビクターの(ディレクター)桜井さんが『ぼくの地球を守って』というコミックを持って来てくれて、『この中の登場人物の曲を書いてくれない?』って。コミックを一気に読んだら面白くて。そのままピアノが置いてあるスタジオに入って作って、カセットでガチャッて録って、次の日かその次の日ぐらいには渡しました。そうしたら、作者の方も気に入ってくださったということで、すぐにレコーディングが決まったんです。(スタジオに入ると)門倉聡さんのアレンジが済んでいて、私は歌うだけ、でした。その1年ぶりのレコーディングでマイクの前に立ったとき、『なんてありがたいことなんだろう』って思ったんですね。生まれて初めて『謙虚』って言葉が分かったというような、音楽に対してすごく謙虚な気持ちで歌いました。なので、30年近く前の録音ですけども、『空の森』に入っているこの歌を私は越えられないって感じが今でもしています」

そして、「自分は歌うのが好きで、歌うために生まれてきたと思っているけど、(新居が書いた曲を)誰かが自分へのメッセージとして受け取ってくれることがある、ということに気が付いた曲」という「空の青さ」を経て、ついに1位曲の段に至った。

「このツアーの練習中はくじけそうになったときもありました。『やめる』って言ったらどうなるかなって……。さすがにダメだよね(笑)。でも、アルバムを丸々やるってなかなかないので、『聴けなかった曲が聴けた』って喜びの声をもらえたので、自分でハードル上げたけど頑張って良かったな、と思えるツアーになりました。皆さんの笑顔のおかげですごくいい音楽人生を歩ませていただいております」

彼女らしい感謝の言葉を加えた後、1位曲を発表する新居。「地味な曲だと思うんですけど、私自身も好きな曲です。ありがとうございました」と話すと「覚醒都市」を。独特のコード感と低音の効いたループが印象的なこの曲は、青空の下に飛び出したときのような解放感や爽快感、なんとも言えない浮遊感を感じさせる曲。コンサートの最後として演奏される曲として非常に相応しく、偶然ではあるが新居の奮励に対するご褒美に感じた。

演奏を終え、ステージを去った後も拍手は鳴りやまず、それに応えて新居が再登場した。アンコールとして披露したのは、自身の誕生日でもある8月21日リリースされるアルバム[『リトルピアノ・プラス』に収録予定の曲。このツアー中に作られた、歌声のないピアノだけの新曲「little piano song」(仮)だった。小さな旅路のような物語を感じさせるような、それでいて敬虔なメロディーを客席に送り、新居は3月から2ヶ月以上に渡ったツアーを締めくくった。

Text By 清水耕司(セブンデイズウォー)

新居昭乃 30th Anniversary LIVE TOUR 2016「Little Piano vol.6」ファイナル公演
5月15日(日)TOKYO FM HALL

<セットリスト>
01 蜜の夜明け
02 月の家
03 遥かなロンド
04 空から吹く風
05 スプートニク
06 キミヘムカウヒカリ
07 星の木馬
08 月からの祈りと共に
09 風と鳥と空
10 パンジー
11 さかさまの虹
12 WANNA BE AN ANGEL
13 花かんむり
14 金の波 千の波
15 叶えて
16 ガレキの楽園
17 きれいな感情
18 Moon Light Anthem
19 空の青さ
20 覚醒都市
En.01 little piano song(仮)


●リリース情報
30th Anniversary Album
『リトルピアノ・プラス』新居昭乃
8月21日発売
品番:VTCL-60430
価格:¥2,900+税

<収録曲>
・Unkown Vision(TVアニメ「まおゆう魔王勇者」エンディングテーマ)
・Lost Area(「機動戦士ガンダム 外伝 ミッシングリンク」主題歌)
・サンクチュアリ・アリス(セルフカバー曲)
他全12曲を収録予定。

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