REPORT
2016.02.26
伊藤かな恵によるライブ・ツアー“伊藤かな恵 LIVE TOUR 2016 “カサナルケシキ”>のツアー・ファイナルが、2月14日に赤坂BLITZにて行なわれた。その様子をレポ―トする。
昨年11月に発売された3rdアルバム『カサナルケシキ』を引っ提げての東名阪ツアーとなった今回。一方、ブログで広く“好きな曲”を募るなどして組まれたセットリストは、アルバム収録の新曲はもちろん、初期の楽曲、シングルのカップリング曲までがバランスよく混ざった、ファンにとってうれしい選曲となった。
毎回“伊藤家のホームパーティ”をコンセプトに組まれるライブ、今回はバンドセットの上に瀟洒(しょうしゃ)なシャンデリアなどが下がって、少し背伸びしたホームパーティ感が印象的だ。
バンドと共に伊藤かな恵がチェックのワンピース姿で登場。1曲目は「きみからはじまる」。アルバム『カサンルケシキ』でも1曲目のこの曲は、“おはようございますこんにちはこんばんは”と挨拶を連呼していくサビを伸びやかな声で歌うのが心地よく、開幕のご挨拶にはぴったりだ。
開口一番「1曲目なのに皆の顔見たらグッときちゃって……1曲目なのに!」と涙ぐむ伊藤かな恵。すぐに持ち直してのMCではツアー・タイトルの理由を語り「皆と一緒に同じ景色を見ていきたい積み重ねたものをみんなと一緒に見たい」という気持ちを会場に伝えた。
アルバム曲を演奏していくかと思いきや、ここからは初期の“ノれる名曲”が続き、ライブの熱が一気に高まる。
2曲目「つまさきだち」は1stアルバム『ココロケシキ』からの選曲。Bメロでは“123でジャンプ!”と全員で飛び、同じく1stアルバムからタテノリの元気な曲「タイニーローグ」ではこちらも笑顔で会場を煽っていき、「ジャンプします、飛べますか? いきますよー!」とジャンプで締める。
続いてもやはり1stアルバムからの選曲、ピアノ伴奏から始まる4曲目「いじわるな恋」からギター・イントロの「hide and seek」へと、ゆったりしたミドル・バラードを続けて演奏する。この辺りのテンポは伊藤の伸びのあるボーカルが存分に楽しめる美味しいところだ。伊藤は歌いながらビートに合わせてゆっくり会場を練り歩き、ときにしゃがんで客席をのぞき込むようにしたり、手を振ったりと客席と触れ合うようなペースでステージを楽しむ姿が微笑ましい。
曲が終わると暗転、ステージ上の暗がりでは何やらごそごそと動きがあり、気づいた客席からどよめきが湧き起こる。伊藤自身が「シーッ!」と注意しながらライトに照らされると、ギターを構えた伊藤かな恵が登場! 本人のギター弾き語りによる「ルーペ」だ。昨年の赤坂BLITZライブに引き続きのギター挑戦、今回はシンプルなストロークながらもしっかり1曲弾きながら歌いきり、なかなか聴きごたえのある弾き語りに大きな拍手が沸き起こった。終わってから本人も「今一回も間違えてなかった! これはもう渡辺さん(借りてる)ギター持って帰っていいよね?」とご満悦の様子だ。
「ここまででアルバムの新曲なくない? って人が半分ぐらいいるでしょう。過去の曲も聞いてもらいたいなと思って今回はセットリストを考えてきました」とセットリストへの想いを語りつつ、次の曲はアルバム新録の“誕生日をテーマにした新曲”として「うまれたしるし」を披露すると宣言。この日2月14日が誕生日の客をアンケートしつつ、「温かい曲を入れたいなと思ってこの曲を作ってもらいました。今日が誕生日の人はもちろん、そうじゃない人も今日が誕生日だと思って聞いてください」と椅子に座ってピアノ伴奏と共に歌いだした。じっくり聴き込む会場の空気を代弁するように、曲の終わりには「いい曲だねー」としみじみ言う。また今日が誕生日の客に向かって「おめでとうー!」と祝福の言葉を投げかけた。
続いてもセットリストにまつわるMC。今回のツアーではセットリストを決める際にブログでファンから聴きたい曲やグッズへの意見を集めていたと語り、「次に歌う曲は私が初めて作詞をした曲。レコーディングで歌詞を書いてみたいんですと言ったのがきっかけで、悩んだ末に私が私のために書いた歌詞ですが、それでもみんながそれぞれ自分の解釈で感じとって好きだって言ってくれて、5年くらい前の曲なのに聴きたいって声がたくさんあったのがすごくうれしい」と語る。ものすごく良いことを言っていたのに途中でキーボードの宇田さんとのやり取りでグダグダになりかけるのもご愛嬌(笑)。実に伊藤家らしいアットホームな空気だ。
そうして披露したのは5thシングル「つまさきだち」のカップリング「ここから」。ファンキーなカッティング・ギターにミラーボールも廻り出し、ノリノリな空気でありながら、前述の話と合わせて歌詞を改めてじっくり聴くとなんとも味わい深い。
ここで伊藤かな恵が一旦退場。実力抜群な伊藤家バンドの面々によるクールなバンド・セッションで、場繋ぎとは思えないくらいひとしきり盛り上がると、2014年にリリースした5thシングルの一曲目「Happy Garland」のイントロと共に、衣装替えして伊藤かな恵が再登場! 赤いTシャツに水玉模様のスカートのカジュアルな格好で、「一緒に行こうよ 返事は?」「Say yes!!」とコール&レスポンスも盛り上がり、間奏ではバレンタインにちなんで小さなチョコを会場に配る。
続くMCでは「盛り上がれるように元気な感じの衣装に着替えてきました!」と衣装をお披露目。配り切れなかったチョコを再び豆撒きのように会場に配り、元ソフトボール部という強肩を活かして客席後方までチョコを飛ばす。
次の曲は「星の缶バッチ」。2ndシングル「hide and seek」のカップリングだ。落ち着いた雰囲気の片想いを歌ったバラードを、声色を使って力強く歌う。ツアーの日替わり曲、「打ち上げ花火」、「マイザーズドリーム」と歌ってきて、ファイナルの東京公演は「Shooting Star」。前曲と合わせて“星”続きな選曲も心憎い。
「後半戦はこれを使いますよー!」と宣言してタオルを手に取り、後半戦一曲目は1stアルバムから「ペルシャ」。曲調に合わせた気だるげな甘くやさぐれた声色のAメロから、視界が開けるように明るく歌うサビへの繋ぎがかっこいい名曲だ。
間髪入れず次の曲は『カサナルケシキ』新録の「大嫌いで大好き」。今までにあまりなかったシリアスで激しいロックから、王道ロック・チューンな「Starting Point」へ! 初期の曲から新曲まで横断しながらも、様々な曲調のノれる楽曲が続く流れがうまくマッチングし、会場がひと際大きく揺れる。
最後は「そして、これから」。『カサナルケシキ』新曲のラストを飾るこの曲は、伊藤かな恵自ら作詞しており、後ろ向きな溜息をロング・トーンで歌い上げるAメロ冒頭の譜割りが画期的で大変素晴らしい。そんな後ろ向きなところから現実を見据えてそれでも前に進もうとする、ただ前向きなだけじゃない“これから”を歌った伊藤かな恵らしい楽曲が、ライブツアーを経てライブの締めを飾るに相応しい、多幸感のあるアンセムとなったことはとても意義深く感じた。
曲を歌い終わってライブ本編を締めると、「ありがとう! すぐ呼んでねー!」と退場していく。
アンコールでは白のTシャツと縞のスカート姿で登場。一発目にアルバム新曲「また僕らは明日を知る」を歌い、ゆったりしたテンポで潮騒のように響くギターのなか、力強いボーカルを届けた。間髪入れず、指揮棒を手に取って「一緒に歌ってください!」と歌い始めたのは5周年シングルから「ドレミファソラシドの歌」、全員でサビを合唱するなど、ライブで盛り上がる一曲だ。
MCでは「またすぐ会えたね! 3公演やってきて全部まったく違うのはお客さんのおかげなんだなって毎回実感しています」と今回のツアーの感想を届け、いよいよライブのラスト・ソングへ。
「アーティスト活動をさせていただいて7年目ということでいろいろ思うところもあったなか、最初に“歌の活動をやろう”って言ってくれたとき、“何歳にもなっても歌っていける曲を作ろう”ということで作った1stシングル「ユメ・ミル・ココロ」。ずっとずっと歌ってきて7年経って今でもまだこうやって歌えるのはすごく素敵なことだと思います。デビュー当時に歌ってたときと感じ方が違うなと思いますし、受け取ってくれるみんなにとっても違うのかなと思いますので、じんわりと盛り上がりながら聴いてください」と演奏スタート。
デビュー曲ながら、今回のアルバムにはライブで披露したアコースティック・バージョンで収録された本曲。改めて歌詞と共に聴くと、“おおきくなってわかった”“これからもユメが”など本当に今まさに響く歌詞になっている。客席一同、これまでこの曲を聴いてきたそれぞれの場面、異なる景色を思い浮かべるように聴き入り、最後は7年目ということで7回ジャンプ! 最後の大ジャンプでは、客席のあまりのジャンプぶりに「すごい! 今(ステージ上の)私の身長越したよ!?」と驚きながら、笑顔でライブ・ツアーを締めた。
改めて歌声と曲が抜群にいい伊藤かな恵ライブ。そして堂々たる歌い方が板についてきて、昨年の赤坂BLITZでのツアー・ファイナルと比べても成長を感じるライブだった。今後の活動はまだ決まっていないということだが、またライブワークを重ねて、もっともっと違う景色を見せてくれることを期待したい。
TEXT BY 大用尚宏(クリエンタ)
【セットリスト】
1.きみからはじまる
2.つまさきだち
3.タイニーローグ
4.Hide and Seek
5.いじわるな恋
6.ルーペ
7.うまれたしるし
8.ここから
9.Happy Garland
10.星の缶バッチ
11. Shooting Star
12.ペルシャ
13.大嫌いで大好き
14.Startingpoint
15.そして、これから
アンコール
EN1.そして僕らは明日を知る
EN2.ドレミファソラシドのうた
EN3.ユメ・ミル・ココロ
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