REVIEW&COLUMN
2026.09.30
サイエンスSARU制作のTVアニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』は、原作マンガベースの映像化という従来のシリーズにはなかったアプローチを採った作品である。それゆえ原作に存在していなかった音楽の存在が際立つ形となった。音楽監督を託された岩崎太整は小西 遼、YUKI KANESAKAを招き入れ「音の公安9課」を編成。事前のすり合わせを敢えて行わない大胆なワークフローと、各作家の得意領域と逆張りを織り交ぜた割り振りによって、多様な時代性を宿すサウンドトラックへ結晶した。
TEXT BY 日詰明嘉
サイエンスSARU制作『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』は、これまでの映像化と一線を画す。従来の映像化作品が原作マンガの要素を抽出し、独自に再解釈してきたのに対し、モコちゃん監督は「作り手の理解が及ばないという理由で要素を削れば、作品の重要な部分まで欠落しかねない」(『MAGEDGE』Vol.2より)として、キャラクターの体型からアクションの物理法則まで士郎正宗の原作に極力忠実に映像化する道を選んだ。だが、マンガには当然ながら“音”がない。ここだけは、ゼロから設計するしかなかった要素である。
「『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』O.S.T.」の付属ブックレットに所収された作曲家鼎談によると、劇伴依頼を受けた岩崎太整(アニメ劇伴の代表作に劇場アニメ『竜とそばかすの姫』音楽監督、TVアニメ『血界戦線』音楽など)は、構想段階でチーム戦を思いつき、「音の公安9課」をビルドアップするに至る。その1人は旧知のYUKI KANESAKA(以下、YUKI)だ。TVアニメ『Dr.STONE』の劇伴作曲で知られる彼だが、バークリー音楽大学の助教授でボストン在住、さらにヒップホップのビートメイカー(monolog名義)といった背景を持つアーティストだ。もう1人は小西 遼。Mrs.GREEN APPLEや長谷川白紙、King & Princeなどのアレンジなどを担当しているほか、ジャズ作曲家の挾間美帆とラージ・アンサンブル(ビッグバンド)”Com⇄Positions”を共同主宰する。映画やアニメの劇伴制作において、コ・ライトをしたり複数人で担当することは珍しいことではない。だが、ここまで多様な音楽的出自が混じり合うチーム編成は稀である。
さらに驚かされたのはそのワークフローだ。監督からの「フィジカルな=身体性のある音楽」という全体的なテーマ以外、音楽チームとしては何の事前打ち合わせもリファレンスの擦り合わせも行わず、さらに互いの音楽を聴くこともなく本件を完遂させたという。先の鼎談では3人ともリテイクが来ないことをむしろ不安に思っていた内心を互いに明かしている。もちろんそれは3人の作家のメニュー解釈と音楽創作力に拠るところが大きいが、本作で“音楽監督”とクレジットされることになった岩崎による曲の割振りの上手さが大きな効果を発揮した。岩崎は「ああいう音楽を小西くんがやるのってどういう感じだろう? 」と公安9課のテーマ「The Fabled Few」を小西に振り、YUKIへは「Heavenly Suite Op.4 – Aria della Vida」を振り、普段はやらないとされるアプローチを引き出した。「2人のパブリックイメージとは反対の割り振りにした曲もいくつかある」(岩崎談)と、チャレンジを促している。
本作では岩崎がアニメ劇伴界に登場した(YUKIも参加している)時のことを彷彿とさせるジャズ楽曲が多く収録されていることも見逃せない。岩崎の「Mournful」、小西の「Late Morning」といったナンバーがあり、YUKIによるビッグバンド曲「She is a bit too Clever」は上品に最終話のエンディングを飾った。ジャズとサイバーパンクの相性の良さを改めて感じさせる楽曲の中で現代の色を色濃く打ち出したのが「I Spake as a Child」だ。小西作曲の10分30秒の組曲で、最終話後半で「人形使いと素子の融合」をテーマに書き下ろされた楽曲だ。ここで西洋音楽とアフリカ起源のブラックミュージックの結節点を、第三者である日本人がグローバルな作品の中でどう表現するか、という越境ジャズ的な提示の仕方が今様だ。また、岩崎による「po-ai feat. Mirai Moriyama」は、本格的な劇伴とアーティスト歌唱のコラボレートが進んだ2020年代の音楽らしさがある。一方でYUKIのビートメイカーらしさが発揮された「Hacking Gigolo」「Be Shit Acid」や、シティポップ/R&B的なセンスで書かれている「Sunny Days」や「Strut Down」などは、時代性を想起させる音像で原作マンガの時代の絵柄を現代に浮かび上がらせる。モコちゃん監督は「手描きの手法を重んじつつもデジタル処理を併用しているため、どうしても作画が冷淡になりがち。この質感における課題は、音楽の演出力を活用することで補われた」と証言している(『MAGEDGE』Vol.2)。この音楽的立体感が“冷淡”さに温かみを与えた意図された補正装置といえる。
「The Ghost In The Shell feat. Lanux」や「LateX」は、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』のようなダンスミュージック的なアプローチを試み、20年の時を遡る。「Remnants」、「Stone and Sand」など和楽器や邦楽を持ち込んだ楽曲も多く、それに対し小西は「歴代の『攻殻機動隊』で先達の素晴らしい作家たちが提示してきたものがあるなかで、じゃあ自分はどう和楽器を落とし込むのかというのは本当に考え抜きました」と語るなど、過去作からの継承への意識を明らかにした。本作の音楽は、原作に存在しなかった「音」という要素を三者三様の現在形で構築しつつ、シリーズ史への視座も忘れない。「音の公安9課」は、3人の得意分野とチャレンジの部分が相互作用し、音楽の時代的地層が見事に形成された。最終話まで観た後でまたサウンドトラックを流して聴くと、その熱量が浮かび上がってくることだろう。
●リリース情報
『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』O.S.T.
アーティスト:岩崎太整・小西 遼・YUKI KANESAKA
発売中

品番:VTCL-60705~60706
価格:¥3,960(税込)
配信一覧はこちら
https://flyingdog.lnk.to/SAC
<CD/DISC-1>
01. The Ghost In The Shell feat. Lanux
02. The Fabled Few
03. po-ai feat. Mirai Moriyama
04. Heavenly Suite Op.3 – Query
05. Remnants
06. Revenge
07. LateX
08. The Last Firewall
09. Heavenly Suite Op.5 – Requiem
10. Vacations
11. Stone and Sand
12. Heavenly Suite Op.2 – Reflections
13. Dirge
14. Gun Shot
15. I Spake as a Child
16. Purgation
17. She is a bit too Clever
18. Late Morning
19. Jacob’s Ladder
<CD/DISC-2>
01. Prologue
02. Heavenly Suite Op.1 – Life is
03. Tracer
04. Pre-Launch
05. Don’t Even Ask
06. Sunny Days
07. In the Rain
08. Sunshafts
09. Strut Down
10. Mimic Dance
11. Witness Stand
12. Lone Walker
13. IKARI
14. Ghost In The Dark
15. Mournful
16. After the Signal
17. TAKURAMI
18. Subordinate&Pistol
19. Sinister Plot
20. Hacking Gigolo
21. Away from Home
22. WANA
23. Bad Faith
24. Be Shit Acid
25. Swimming in Blue
26. Sogeki no Hate
27. Heavenly Suite Op.4 – Aria della Vida
『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』O.S.T.
岩崎太整・小西 遼・YUKI KANESAKA
2026年9月30日(水)

【2LP(2枚組LP)】
品番:VTJL-61~62
価格:¥7,700(税込)
Vinyl TRACKLIST
<DISC-1/SIDE-A>
01. The Ghost In The Shell feat. Lanux
02. The Fabled Few
03. po-ai feat. Mirai Moriyama
04. Heavenly Suite Op.3 – Query
05. Remnants
06. Revenge
<DISC-1/SIDE-B>
01. LateX
02. The Last Firewall
03. Heavenly Suite Op.5 – Requiem
04. Vacations
05. Stone and Sand
<DISC-2/SIDE-A>
01. Heavenly Suite Op.2 – Reflections
02. Dirge
03. Gun Shot
04. I Spake as a Child
<DISC-2/SIDE-B>
01. Sunshafts
02. She is a bit too Clever
03. Late Morning
04. Strut Down
05. Purgation
06. Tracer
07. Jacob’s Ladder
●作品情報
TVアニメーション『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』
【スタッフ】
原作:士郎正宗「攻殻機動隊」(講談社 KCデラックス刊)
監督:モコちゃん
シリーズ構成・脚本:円城 塔
キャラクターデザイン・総作画監督:半田修平
美術監督:片野坂恵美
美術監修:増山 修
色彩設計:橋本 賢
撮影監督:伊藤ひかり
編集:廣瀬清志
音響監督:丹下雄二
音響効果:八十正太
録音:太田泰明
音楽監督・音楽:岩崎太整
音楽:小西 遼、YUKI KANESAKA
音楽制作:フライングドッグ
オープニングテーマ:「GO GHOST」King Gnu
エンディングテーマ:「Blue」MILLENNIUM PARADE
アニメーション制作:サイエンスSARU
製作:THE GHOST IN THE SHELL COMMITTEE
©2026 Shirow Masamune/KODANSHA/THE GHOST IN THE SHELL COMMITTEE
『攻殻機動隊』公式グローバルサイト
https://theghostintheshell.jp
『攻殻機動隊』公式X
https://x.com/thegitsofficial
SHARE