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INTERVIEW

2026.09.30

京都アニメーション『二十世紀電氣目録』OP主題歌&劇伴の舞台裏——湖東ひとみ×五阿弥ルナによる濃密な対談が実現

京都アニメーション『二十世紀電氣目録』OP主題歌&劇伴の舞台裏——湖東ひとみ×五阿弥ルナによる濃密な対談が実現

京都アニメーションが手掛けるTVアニメ『二十世紀電氣目録-ユーレカ・エヴリカ-』。そのOP主題歌「ユーレカ・エヴリカ」の作曲・編曲を手掛けたのは、本作をきっかけに劇伴作家としても本格始動した湖東ひとみ。作詞・歌唱は、これまで数々の映像作品でコーラスや挿入歌の歌唱を担ってきた五阿弥ルナが務めている。華やかなブラスと躍動するリズムが目まぐるしく表情を変えるサウンド、物語からすくい上げた言葉は、どのように生まれたのか。湖東と五阿弥の対談を通して、濃密な制作過程と、作品と音楽が互いに影響しながら形作られていった『二十世紀電氣目録』ならではの音楽世界に迫る。

INTERVIEW & TEXT BY 逆井マリ

不思議な巡り合わせから始まった音楽制作

──まず、お二人がこの作品に参加されることになったきっかけと、決まった時のお気持ちを教えてください。

湖東ひとみ コンペティションに楽曲を出して、選んでいただきました。アニメの主題歌と劇伴を本格的に手掛けるのは今回が初めてだったので、嬉しさと同時に期待や不安もありましたが、「私にしかできない音楽を書きたい」という気持ちは強かったです。実はコンペに出した曲は、京都で書いていたものだったんです。それに後から気づいて(笑)。当時、別の仕事で京都へ行く機会が多かったんですよね。その曲が選ばれたので、改めてご縁を感じました。

五阿弥ルナ 私も今回、参加のきっかけにご縁を感じる出来事があって。大学時代から歌の仕事を始めているのですが、当時エージェント契約していた事務所で、最初に担当してくださったマネージャーさんが、今回のきっかけをくださったんです。湖東さんの楽曲が先に決まっていて、それを表現するアーティストを探しているなかで、私の名前を挙げてくださったと伺いました。

──それもまた、すごい縁ですね。

五阿弥 もう1つ大学時代のお話をすると、当時はユニットで活動していて、自分たちの音楽を広めるためにCDを3000枚ほど作り、大学の機関紙の付録として配っていただいたことがあったんです。そのCDをたまたま誰かがラジオ番組に送ってくださって、それを聴いた方から「歌のお仕事をしませんか」と声をかけていただきました。今回も私を推薦してくださったのがその方なんです。私は元々京都アニメーション作品の大ファンなので、最初は「なぜ私が?」と思っていて、蓋を開けてみたらまさかの、という感じでした。今回お会いしたのも20年ぶりくらいで。「あなたはいくつ私の夢を叶えてくださるんですか」と思いました(笑)。

──湖東さんの楽曲が先にあり、そこから歌う方を探されたというお話がありました。これだけ難度の高い曲となると、歌い手を探すのも大変だったのではないでしょうか?

湖東 そうですね。例えば、冒頭の“ユーレカ・エヴリカ”と歌っているところは、1オクターブ半くらいの跳躍があります。かなり音域の動きが広いので、歌うのは難しいと思います。だから、歌ってくださる方を探すのも大変だったんじゃないかなと……。でも、五阿弥さんの声と歌詞が、本当にぴったりハマって。「こんなにぴったりな方がいるんだ」というのが最初の感想でした。

五阿弥 そう言っていただけると嬉しいです。ありがとうございます。

──そもそも「ユーレカ・エヴリカ」という楽曲は、どのように生まれていったのでしょうか?

湖東 作品として「新しいことに挑戦したい」というコンセプトがあったので、私自身も音楽で新しいことに挑戦したいと思っていたんです。最初の打ち合わせ後、まず私が曲を作り、そこから太田監督とは何度もやり取りを重ねていきました。

ただ、監督にもやりたいことがたくさんありましたし、私にもそれに応えたいという気持ちがあったので、ある意味、ぶつかり合うような時間が続いたんです。なかなか答えが見つからないなか、「太田監督にオープニングのイメージを1枚の絵で表していただく」という案が出て、監督が実際に絵を描いてくださって。その絵を京都の打ち合わせでいただき、そこから私が書いたものが、最終稿に近い形になりました。

──それはどういう絵なんでしょうか?

スタッフ おそらく、皆さんが想像されている「絵」とは少し違うものだと思います(一同、太田監督が描いたイメージ画を見る)。

──えっ、まるで抽象絵画のような……。

湖東 そうですね。わかりやすくキャラクターが書いてあるわけではなくて。ところどころに黒い線が入っているんですけど、この絵の印象からすると、黒い線ってあまり使わなさそうじゃないですか。そこに黒や白が、エッセンスとして入っている。それがきっと、監督のやりたいことなんだろうなと思ったんです。その有象無象の中でも突き進んでいきたいという、大きなテーマがこの絵に表れているのかなと受け取りました。

五阿弥 私はシナリオなどの作品資料と共にこの絵と曲を一緒にいただいて、そこから歌詞を作っていったんです。この絵があったことで、作品のイメージもより具体的に掴むことができました。

──お話を伺っていると、この絵が“楽曲としての電氣目録”になったんですね。

五阿弥&湖東 確かに!

湖東 そう考えると、私たちも、電氣目録でものづくりしてたんですね。

湖東ひとみの“人生の曲”に、五阿弥ルナが命を重ねる

──そして実際の「ユーレカ・エヴリカ」は、10曲分くらいの要素が1つに詰め込まれているような楽曲ですよね。どんなイメージから、この構成になっていったのでしょうか?

湖東 監督の絵にも色々な色が含まれていましたし、最初から、様々な要素を入れたいという気持ちはありました。歌モノを作るうえでは、ある程度定番の構成があると思うんですけど、そういうものにはできるだけとらわれないようにしました。例えば、途中からテンポが速くなりますし、実は序盤も何小節かだけ少しテンポを変えています。

それと、この作品はキャラクターの個性も本当に強いので、その人たちが入れ替わり立ち替わり登場できるような音楽にしたかったという気持ちもあります。「もう全世界の音色を使えたらいいのに」と思うくらい、色々な音を入れたい気持ちもありました。ただ、そのなかでも「前に進む力」だけは一貫して伝わるように意識して書きましたね。

──制作期間自体もかなり長かったのでしょうか?

湖東 TVサイズを書き終えるまでで2ヵ月くらい、全体では3ヵ月ほどあったと思います。これまで色々な仕事をしてきましたが、仕事ではどうしても時間やスケジュールの制約があります。でも、この曲に関しては、1ミリの妥協もなく作っていきました。人生の曲、と言っても過言ではないかもしれません。

──五阿弥さんは、そのバトンを受け取ったわけですよね。最初に曲を聴いた時、どんなイメージを持ちましたか?

五阿弥 凄まじい曲で。推敲を重ねられただけあって、私が受け取った時点で曲はもう完成していました。メロディラインには湖東さんの「ラララ」という仮歌が入っていたんですよね。繊細で鮮烈で、ものすごくかっこいいんですけど、サビになると真っ直ぐに開けていくところには主題歌らしさもある。本当に色々な音楽性を1曲の中で味わえる曲だったので、正直に思ったのは「どうしよう」でした(笑)。

──そこから、どのようにこの曲と向き合っていこうと思われたのでしょうか?

五阿弥 自分の中にあるものは全部使いたいと思う一方で、頭の中だけで考えるのではなく、京都の土地からもヒントをもらいたいという気持ちがあったんです。それで京都アニメーションで打ち合わせをさせていただいたあと、まず物語の重要な舞台でもある伏見稲荷大社へ行きました。千本鳥居をひたすら歩きながら、デモをずっとリピート再生して。

──そこで歌詞を作られていったんですか?

五阿弥 はい。頭の中にあったのは、電気の発明や再生、再起といった物語のテーマです。歩きながら聴いているうちに、だんだん言葉が降ってきて……。元々、太田監督から「大切なことを思い出す」というテーマを、「信じる」と「疑う」という言葉を使って表現してほしいというオーダーがあったんです。さらに、「応援歌にしてほしい」とも言われていました。

──「信じる」と「疑う」は相反する言葉でもありますよね。その2つを1つの歌詞の中で描きながら、さらに応援歌にするというのは、かなり難しいオーダーだったのではないでしょうか?

五阿弥 難しくはありましたが、元々この物語には、光と闇、信じることと疑うこと、時代背景も含めた男性と女性など、対になっているものを多く感じていました。そうした要素を取り入れながら、その音が求めている言葉を探していったんです。最初は、曲を聴きながら思いつく言葉を一気に書き出して、その中から心が反応するものを拾い集めていきました。“光”や“フィラメント”という言葉を入れたり、“回路”と書いて「みち」、“設計図”と書いて「ちず」と読ませたりして、電気を思わせる言葉を散りばめていって。その後、監督とやり取りを重ねながら歌詞を整え、TVサイズを完成させていきました。

──楽曲冒頭にある、副題ともなっている“ユーレカ・エヴリカ”という造語は、五阿弥さんが生み出したものなんですよね。湖東さんから何かリクエストされていたのでしょうか。

湖東 曲の最初はとても重要なので、インパクトのある言葉を置きたいと思っていました。元々造語のようなものをイメージしながら作っていたので、そのことは五阿弥さんにもお伝えしていました。

五阿弥 そういったオーダーを湖東さんと、齋藤(滋)プロデューサーから伺っていたのですが、楽曲を聴かせてもらった時から、私自身も「ここに発明にまつわる、印象的な言葉を入れたい」と思っていました。そこで浮かんだのが、“わかった”“見つけた”という意味をもつEureka(エウレカ)です。ただ、そのままではストレートすぎますし、造語でもない。そこで、国によって異なる「Eureka」の発音をもじりながら、2つの響きを組み合わせて生まれたのが“ユーレカ・エヴリカ”という言葉でした。

──その言葉自体が1つの“発明”ですよね。それが作品タイトルになると聞いた時はいかがでしたか?

五阿弥 びっくり仰天でした(笑)。元々副題を入れたいというお話はあったそうなのですが、なかなか決まらず、何ヵ月も言葉を探していたと伺いました。そんななかで、私が歌詞に入れた“ユーレカ・エヴリカ”という言葉に注目してくださって。「人生でそんなことがあるんだ」と驚きましたね。本当に光栄でした。

──その頃は、五阿弥さんはご妊娠中だったと伺いました。

五阿弥 そうなんです。私はこの作品を“命の物語”だと感じていたので、自分自身の状況とも重なるところがありました。色々なことが重なった時期だったからこそ、より切実な気持ちでこの曲に向き合えたように思います。私自身も、「命をかけて」とまで言っていいのかわからないですけど、本当にそれくらいの気持ちで向き合っていたところはありましたね。曲がとにかくすごかったので。

有象無象を切り裂く、音と歌のエネルギー

──「ユーレカ・エヴリカ」は構成もサウンドもかなり複雑で、様々な要素が詰め込まれていますが、聴いた時には主題がシンプルに届いてくるところもあって。

湖東 そこは、私がこだわっているところでもあります。私は普段、オーケストラの楽譜を書くこともあるのですが、たくさんの楽器を様々に組み合わせていくと、どうしても要素は増えていきます。でも、どれだけ音を重ねても、「最終的にこの曲で何を伝えたいのか」「何を表現したいのか」という核だけは、しっかり残したいと思っているんです。
今回も、監督から伺った作品の世界観や、やりたいこと、さらに絵を受け取るなかで、様々な国の楽器のフレーズやリズムを取り入れていきました。それでも、絶対に“本筋”だけは見失わないアレンジにしようと考えていました。だから、そのように受け取っていただけたのは、とても嬉しいです。
──聴いていると、「これは何の音だろう?」と思うような音色もあって。楽器の組み合わせによって、そう聴こえているものもあるんでしょうか。

湖東 それも大いにあると思います。そこは譜面を書く人間にとっての醍醐味でもあるんですよね。それぞれソロで聴いても素敵な楽器ですが、いくつかの音が合わさった時に、また新しい音色が生まれていって。感覚としては、フルオーケストラに、さらに色々な音色が加わっているくらいの音数があります。

──演奏家の方々は、湖東さんからお願いされたのでしょうか?

湖東 私から個人的にお願いした方もいますが、基本的にはハートカンパニーのHeartbeat Projectの皆さんに演奏していただきました。演奏家の方に渡されるのは、基本的にご自身が担当するパートの譜面だけなんです。それでも、皆さん作品全体の世界観まで察してくださって。こちらが求めているものを汲み取りながら音にしてくださったので、本当にたくさん助けていただきました。

──その後、歌のレコーディングに入られたのでしょうか?

五阿弥 はい。私事なのですが、ちょうどその頃に安定期に入ったんです。体調が整った状態で向き合うことができて良かった、と感じていました。それと、作詞の段階ではかなり色々なことを考えていたんです。それこそ喜八のように、「本当に合っているのか」と疑いながら、何度も推敲を重ねていて。でも、いざ歌入れとなったときには、逆に稲子のような気持ちになっていたんです。「絶対大丈夫です!」と、自分を信じるようなマインドになりました。

──素敵なお話ですね。レコーディングはいかがでしたか?

五阿弥 この曲のテーマにもあるように、大切なことを思い出しながら、どこか祈るような気持ちと、切実に打ちひしがれた人を鼓舞するような気持ち、その両方を持ちながら歌いました。譜面には湖東さんがセクションごとに、イメージを書いてくださっていたんですよね。例えば1番のAメロには「不気味さ、うねり、一瞬の可憐さ」、Bメロには「大衆を先導していく」、サビには「真っ直ぐに突き進む力」といった意味があって。それが歌ううえでの道しるべとなりました。

──実際の歌唱でも、セクションごとに歌い方を変えることは意識されましたか?

五阿弥 ただ、やっぱりものすごく難しい曲なので、歌い方をあれこれこねくり回す余裕はないんですよね(笑)。いただいたイメージを大切にしながら、あとはもうマインドで歌うだけというか。「届け!」という気持ちで、聴いてくださる方に届けることだけを考えて歌いました。

──この歌を聴いた時に、原始的なエネルギーも感じたんです。今のお話を聞いて、すごく納得しました。

湖東 まさに、そういうエネルギーがありますよね。五阿弥さんは本当に様々な声色を持っている方で、万華鏡のようだと感じています。「マインドで歌った」とおっしゃっていましたが、そのなかで自然と技巧によるコントラストも生まれていて、それが本当に素晴らしいと思いました。それから、この曲はコーラスもかなり入っています。私は元々合唱をやっていたこともあって、コーラスが好きなんです。耳を澄ませると、五阿弥さんの声がたくさん入っています。

──コーラスも、声というより1つの楽器のように響いている部分がありますよね。

湖東 そうですね。2番のAメロに、少しささやくような、リズミカルなスキャットも入れていただいています。「こういうことをやりたいんですけど」とお願いしたら、すぐに提案してくれました。

五阿弥 2番のAメロは、この凄まじい曲の中でも、少し遊びを感じられるところなんです。この作品にはボーイ・ミーツ・ガール的な要素もあるので、歌にも少し遊びや甘酸っぱさを取り入れたいなと思っていました。

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