INTERVIEW
2026.09.08
2017年に始まったセルフカバーアルバム『仮歌』シリーズが、7年の時を経て『仮歌III』となって帰ってきた。とある声優の鶴の一声から生まれた企画は、いまや楽曲提供先との「愛の結晶」として、アニソン界にセルフカバー文化も根付かせた。そして、オーイシマサヨシを語るうえでは欠かせない親戚のシンガーソングライター・大石昌良のニューシングル「嗚呼、素晴らしき日常」も8年ぶりにリリース。9月22日、23日には各々の武道館ワンマンライブを控え、オーイシ&大石ファンには嬉しい秋。オーイシマサヨシに、その胸のうちをじっくり聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 阿部美香
――セルフカバーアルバム『仮歌』は2017年からシリーズ化され、今回が第3弾となりました。そもそもどういうキッカケから企画が始まったのですか?
オーイシマサヨシ 僕がアニソンシンガー・オーイシマサヨシとしてデビューしたのが2014年なんですけど、ちょうど2017年頃って、楽曲提供がすごく多くなっていった時期だったんですね。楽曲提供の際にはデモ音源をお渡しするんですが、その時に“仮で別の人が歌を当てる=仮歌”という作業があるんです。
――実際に楽曲を歌っている声を録音し、どんな曲かがすぐわかるようにするんですよね。
オーイシ 昨今はAIボイスが台頭してきて、仮歌もAIで打ち込む方が多くなってきてはいるんですけど、10年くらい前は、こういう歌い方がいいだろうという目印を担う仮歌職人の方も、多くいらっしゃいました。でも僕はそもそもボーカリストなので、仮歌も自分で歌ってお渡ししてたんですよ。そんな頃、花江夏樹くんに提供した曲がありまして、「いやもう、このまま音源化してリリースできますよね」と花江くんが言ってくれたんです。それで……「あ、それいいな!仮歌アルバム作ってみようかな?」という、花江くんの鶴の一言で決まりました(笑)。「ようこそジャパリパークへ」もヒットしてくれていたので、ちょうど時期も良かったんです。
――最初に『仮歌』の発表があった時、オーイシさんらしい素敵な企画だ!と思いました。
オーイシ セルフカバーって、みんながみんなリリースできるものじゃないと思うんですよ。それは僕だからどうこうというわけじゃなく、やっぱり楽曲提供先の愛がないと不可能なんですよね。うちのレーベルでは許可を出せないという会社間のルールもありますし、キャラソンのようにコンテンツに提供した楽曲だと作品やキャラクターのイメージも大切にしなければならない。女性キャラクターが歌う曲を男性ボーカルで聴かせるのはどうか……ですとかね。それも僕は重々承知していて、そのうえで「オーイシさんのアルバムならいいですよ」とか「今回は特別に許可します」とか、そういう御恩ありきのリリースなんです。だから『仮歌』はアルバムという名の、皆さんの「愛の結晶」だと思ってます。
――オーイシさん以降、アニソン界でもセルフカバーアルバムが増えたようですね。
オーイシ 身近な方でも草野華余子ちゃん、ZAQちゃん、TRUEさん……と徐々に浸透してきましたけど、やっぱり一番最初だったっていうのは、インパクトあったかもしれないですね。あと、あえて業界用語をタイトルにしたのも面白かったでしょうし、ありがたいことに……売れました(笑)。
――確かに!(笑)。
オーイシ 予想以上に、たくさんの方々にご評価いただけたので、その勢いで2年後に『仮歌II』も出させてもらったんです。そこから、オーイシマサヨシのオリジナル曲もどんどん忙しくなってしまって、7年ほど空いちゃったんですが、その間にもたくさん楽曲提供をさせていただいたんで、今年はそろそろチャンスだな!と、今回の『仮歌III』に繋がっていったんですよ。
――告知があった時、ファンの皆さんも相当喜ばれていましたね。
オーイシ はい、「やっときたか!」みたいな反応をいただけて。僕的には、貯まった曲をまとめさせていただいた感じなので、「よし、やるぞ!」までの意気込みではなかったんですけど(苦笑)、たくさんの方が期待してくれていたのがすごく嬉しかったですし……相変わらず、僕は環境に恵まれてる、人に恵まれてるなって思いました。今回の収録曲も、リリース許可をいただく時に皆さんから「ぜひぜひ!」と言っていただけましたし、3作目にしてさらに愛を確認した、愛の答え合わせの結晶を改めて感じました。
――『仮歌』収録曲はオーイシさん以外の方が歌う前提で書かれるものですが、ご自身で歌う曲とは作り方は変わりますか?
オーイシ 変わりますね。例えばキーの違いとか。技術的なことで言うと、歌う方によって声域が変わりますから、トップ(キー)とボトム(キー)は変わってくる。これ以上高くすると多分ファルセットで歌うことになるな、とか、この音より下は多分出ないだろう……いや、出るかな?と、想像しながら書きますね。あとキャラソンの場合は、キャラクターの声を意識して歌わなければならないので、その方の普通の歌い方よりも、どうしても制約がありますよね。そうなると、あまりメロディに高低差がついたり、跳躍が激しくないほうがいい。そこは考えますね。逆に自分で歌う曲は、声のノリが一番いいキー、メロディラインを選んで作れるオーダーメイドですから、ハチャメチャしてたり、キーがものすごく高かったり、そういう曲が多くなりがちです(笑)。
――歌詞も含めた楽曲全体のテイストも変わりますか?
オーイシ 変わりますね。やっぱり、僕が歌ってサマになる曲と、サマにならない曲というのがあるんですよ。例えば今回の『仮歌III』だと、Snow Manの佐久間(大介)くんに提供した「守りたい、その笑顔」なんかは、やっぱり佐久間くんが歌うからこそサマになるし、Snow Manファンの皆さんが待ち望んでいた曲ってこういう曲なのかな?と、想像しながら書くんです。そういう曲作りは、僕も好きなので。
――楽曲提供には、想像力がかなり必要とされますね。
オーイシ そうですね。提供先のアーティストさんだったり、キャラクターだったり、アニメだったりのフィルターを通して、その先にリスナーさん、ユーザーさんを見て書くのが、提供曲の一番の楽しさ。そこは自分の曲と、全然変わってきますね。
――それでいうと『仮歌III』収録曲は、女性が歌われた曲がとても多い。TVアニメ『【推しの子】』のB小町の劇中歌「サインはB」や、劇場版『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』主題歌「Ready!! Steady!! Derby!!」といったアニメ作品関連曲だけでなく、鈴木愛理さん、上坂すみれさん、愛美さん、えなこさんといったソロアーティスト曲も、歌詞は女性目線から書かれている。例えば「かかった魔法はアマノジャク」の“女の子って面倒くさいの”的なフレーズを、男性のオーイシさんがどう書かれているのか、すごく興味深いなと。
オーイシ 書いているのは、おじさんなのにね(笑)。でも、僕から見た「女の子ってこういう価値観で動いてるのかな?」というのを、女性アーティストさんやキャラクターに投影して歌詞を書いたりするのは、楽しいんですよね。あと今回、楽曲を並べてみて思ったんですけど、 “女の子”という言葉が出てくる歌詞は、思ったより多いんです。そこは、自分でも意識して書いてるのかな?とは思いますね。それと同時に、2026年の今だったら、そんなにはっきりは書けないかもな、とも思います。時代的に、男女の境目を感じさせる表現はなるべくなくしていこうという流れもありますし。少し前なら書けた表現も、もしかしたら今は書かないかな?とか。
――確かにそうですね。
オーイシ あと、これも時代の流れですけど、「私のかわいいを認めて」とか「私の存在をちゃんと見て」とか、「私がこうやって生きることに価値があるんだ」とか、そういういい意味での自己肯定や承認、女性ならではの世の中への手の伸ばし方というのは、時代ごとの曲を聴いていると、すごく勉強になるんですよ。なので、僕もそういう曲をたくさん聴いて勉強しながら、自分なりに書いてるつもりではいます。
――オーイシさんって本当に真面目で、音楽に対しても勉強家で研究家ですよね。
オーイシ 真面目……ですね(苦笑)。そうしないと生き残っていけないから勉強しなきゃ!というのもありますし、探求心をなくしたり、歩むことをやめると、本当にすぐ感性って鈍っちゃう。そもそも、楽曲提供の場合、勉強しなきゃならないことがいっぱいあるんですよ。まず作品のことを知らなきゃいけない。キャラクターがどういう子かを知らなきゃいけない。それが1人のことだけじゃ終わらないかもしれないから、他の部分からもネタを拾ってこなきゃいけない。いろんなキャラクターについて「こんな人だ」というのを自分の中で整理して、歌詞や曲に投影しなきゃいけないんです。
――アーティストさんに対しても?
オーイシ もちろんです。タイアップ曲じゃない場合も、歌ってくれる方のことを調べていくので……何が困るって、“好き”が増えちゃうのが困るんですよ(笑)。それまで知らなかったことでも、調べていくうちに色んなものを好きになりすぎて、まさにオタク状態。あのライブも行きたいし、新刊も読みたいし、キャラクターや作品のコラボショップにも行きたくなりますよね。
――昔からオタク趣味はあったんですか?
オーイシ いえ、全然(苦笑)。オーイシマサヨシとして活動しだしてからですね。でも思うんです。そうやって1の物事にひたむきに向き合ったり、愛を注ぎ込んで好きになるって、本当に人として尊いことなんですよ。その尊さは大事にしたいし、自分の中でその愛情が高まった時に、ようやく曲って書けるものだと思う。雑な向き合い方をして書いた曲は、やっぱり雑な曲になってしまうから、出来上がってからセルフリテイクもします。「やっぱり愛が感じられないな」とか「これじゃ嘘くさいな」という理由で、表に出していない曲もありますね。だからこそ、特に楽曲提供は、ちゃんと1つ1つ、そのコンテンツやアーティストさんにしっかり向き合っていきたい。ほんと、時間が足りなくなって困りますよね。
――プロの作家さんは皆さんそうだと思いますが、楽曲提供の場合、提供先からの「こういう曲をお願いします」というオーダーにも応えなければならないですよね。『仮歌III』収録曲で、特に印象的だったのは?
オーイシ 全部に思い入れがありますけど……例えば「Ready!! Steady!! Derby!!」は劇場版(『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』)の主題歌なんですが、やっぱり『ウマ娘 プリティーダービー』という作品の歴代主題歌のフォーマットにのっとって、冒頭にはファンファーレが欲しい、頭サビで始まるインパクトが欲しい、明るくてスピード感のあるイントロが欲しいというように、結構細かいオーダーがありまして。今までの文脈もありますし、一大コンテンツなのでスタッフさんからの要望もはっきりしていました。
――なるほど。
オーイシ あと、最近は「こういう曲にしたいよね」を、一緒に相談しながら進めていくことも多くなっています。鈴木愛理ちゃんに提供した「最強の推し!」は、まさにそういう作り方でしたね。この曲は、愛理ちゃんの主演ドラマ『推しが上司になりまして』の主題歌なんですが、一緒に番組(『オーイシマサヨシ×鈴木愛理のでしょでしょ!!』)でMCをやっているパートナーシップもありますから、「こういうドラマだからこんな楽曲がいいね」というのをお互いにディスカッションして「推し活応援ソングを作れたらいいな」という答えを、色々なアプローチの中から見つけていった感じです。
――今回、特徴的なのは「異世界かるてっと」ではないかと。
オーイシ あぁ!
――オリジナルでは、アインズ(CV:日野 聡)、カズマ(CV:福島 潤)、スバル(CV:小林祐介)、ターニャ(CV:悠木 碧)のキャラクターたちが歌い、曲中にはセリフも入っていましたが、それもすべてオーイシさんが言ってらっしゃるという。
オーイシ そうなんです。セリフも全部僕がやったので、100回くらい録り直しました(笑)。歌は、まさに当時の仮歌をそのまま使ってるんですけど、当時もキャストさんのセリフ部分は後乗せでした。歌のレコーディングの時に作品のプロデューサーさんもスタジオにいらっしゃって、この小節数のこの尺の中に入るキャラクターのセリフを書き出してもらい、あとから入れてもらって完成したんです。
――オーイシさんも今回、歌もセリフもキャラクターの口調や声色をかなりオマージュされていて、一瞬、オーイシさんとは思えないところも多々ありました。
オーイシ そうなんです……申し訳ないなと思いつつ。僕、演技は本当に無理なんですけど、オリジナルの雰囲気を少しでも感じていただきたくて、コピーさせていただいた感じです。キャストの皆さんは、キャラクターのままで演技しながら歌われていて、本当にすごいですよ。
――当時の仮歌をそのまま収録されている曲もあれば、新規に歌われた曲もある?
オーイシ そうですね。今回は半々くらいかな?実際のレコーディングの際に僕の仮歌からキーが変わったり、曲のテンポが変わることもありますから、それは新規に歌い直して、当時の仮歌が使えるものは使うスタンスですね、『仮歌』シリーズは。そういう場合は、あえて当時の自分の声に寄せて歌ったりもしますし、バックトラックのほうを、多少アレンジし直している「サインはB」のような楽曲もあります。
――そういう部分は、『仮歌』ならではのお楽しみかもしれないですね。
オーイシ ただ、『仮歌』で僕が大事にしているのは、「比較してほしくない」ということなんです。本家には本家の良さがあるし、仮歌には仮歌の良さがある。僕はオリジナルを「本家」、僕の仮歌は「実家」と呼ばせてもらっているんですよ。“実家を出て、本家に向かった歌”という意味で。だから、どっちも良さがあって、どっちも正解だよということは、僕も結構、口うるさく言わせてもらってるんですよ。2つ正解が出た時に、人はどうしてもどちらかを選びたくなってしまうんですよね。そういうことじゃないんだよ、というのはリスアニ!の皆さんにも、ぜひお伝えしたいです。
――両方を楽しく聴いてもらうことで、楽曲そのものの良さに改めて気づけますし、楽しみ方が増えるのはいいことですよね。
オーイシ そうなんですよ。だから時々、逆輸入的な効果もあったりします、『仮歌』をリリースして、僕がライブで歌ったりすることで。『A3!』が今年“アニサマ”(“Animelo Summer Live 2026 -Messenger”-)に初めて出演したんですけど、キャストの皆さんは結構不安だったらしいんですよね。女性人気の高い『A3!』が、男性アニソンファンにどう受け入れられるのかな?と。でも蓋を開けてみたら、「MANKAI☆開花宣言」がめちゃくちゃ盛り上がったそうなんですよ。僕が『仮歌』に収録して、武道館ライブなどでも歌ってきた曲だから、コールもちゃんとやってもらえて……ということを、後日談として聞かせていただきました。そういう話を伺うと「実家の歌も悪くないな!」って気持ちになりますね。
――オリジナルを知ってる方はもちろんですが、普段オーイシさんの曲では聴けないアイドルや女性になりきった表現もたくさん出てきますから、そういう聴き応えもありますよね、『仮歌III』は。
オーイシ そうですね、ミスマッチというか(笑)。そういう面白さを楽しんでいただけたら僕も嬉しいです。9月22日の“オーイシ武道館 Vol.3 ~オーイシマサヨシ ワンマンライブ at 日本武道館~”でも『仮歌III』からの盛り上がれる曲は絶対にやりますので、楽しみにしていただけたら。
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