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INTERVIEW

2025.10.08

【連載】ReoNa 3rdアルバム『HEART』リリース記念「リスアニ!’s Heart」第2回:アルバム『HEART』ReoNaロングインタビュー

【連載】ReoNa 3rdアルバム『HEART』リリース記念「リスアニ!’s Heart」第2回:アルバム『HEART』ReoNaロングインタビュー

“絶望系アニソンシンガー”を標榜するReoNaの通算3作目となるニューアルバム『HEART』は、様々な“絶望”に寄り添うお歌と共に7年の道のりを歩んできた彼女にとってメルクマールとなる作品になった。「R.I.P.」「ガジュマル ~Heaven in the Rain~」「GG」「End of Days」といったアニメタイアップシングルに加え、ハヤシケイ(LIVE LAB.)、傘村トータ(LIVE LAB.)、堀江晶太、荒幡亮平、宮嶋淳子、Ryo’LEFTY’Miyata、映秀。ら豪華クリエイター、アーティスト陣が書き下ろした新曲群に刻まれているのは、ReoNaと彼ら彼女たちが心に抱く言葉にし切れない想い。音楽だからこそ表現できる多種多様な“ハート”の形だ。痛みにも優しさにも触れてきた彼女が紡ぐ『HEART』への思い――。
連載2回目、そんなReoNaの思いをロングインタビューでお届けする。

■【連載】ReoNa 3rdアルバム『HEART』リリース記念「リスアニ!’s Heart」

【連載】ReoNa 3rdアルバム『HEART』リリース記念「リスアニ!’s Heart」

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創

多彩なクリエイター陣がReoNaを通して表現した“ハート”

――前回のシングル「End of Days」の取材の最後におっしゃっていましたが、今回のニューアルバム『HEART』は、1stアルバム『unknown』、2ndアルバム『HUMAN』と合わせて三部作になるイメージで制作を進めたらしいですね。

ReoNa はい。前作の『HUMAN』は、そのアルバムに至るまでの道のりを振り返った時に、人と接することで生まれてくるものや“人間”について深く考えてきた数年だったことから『HUMAN』というタイトルにしたように、今回の『HEART』も、前作からの2~3年の間にReoNaはどんなお歌を紡ぎ、どんなことを考えて生きてきたのか?というところから始まりました。『アークナイツ』という作品との掛け算で初めて“怒り”をモチーフにした「R.I.P.」をはじめ、大事な人を失った悲しみを描いた「ガジュマル ~Heaven in the Rain~」も、“楽しんだもん勝ち”という心を描いた「GG」も、アニメとの出会いをきっかけにReoNaがその瞬間に考えていることを形にしてきた。その全部のお歌を受け止めることのできる器として、『HEART』という言葉が出てきました。

――『HEART』という言葉には、“心・心臓・愛情・核心”など色んな意味合いが含まれているので、その意味では間口の広いタイトルですよね。

ReoNa すごく広い言葉だからこそ、今お話した楽曲だけでなく、「Debris」や「オムライス」といったお歌に込められたひと口では語れない感情、時に揺らいで、時に穴が開いて、時に守って、時に傷つく、そんな気持ちを1つに収めるものとして『HEART』はぴったりだったように思います。

――もう1つ、ReoNaさんのデビュー曲「SWEET HURT」にも、綴りと意味合いは異なりますが「ハート(=HURT)」というワードが含まれています。それも少なからず意識したのでしょうか。

ReoNa 「SWEET HURT」というお歌からReoNaの歩みは始まって、その時には甘くて痛い愛のお歌、“痛み(=HURT)”という言葉でしかハートを表せなかったReoNaが、『unknown』『HUMAN』とリリースして、今回の『HEART』に辿り着く。その意味でも、今までの道のりの先にあった言葉だと思います。

――ReoNaさん自身は、自分自身のハートや心について、この7年間の歩みの中で、変化を感じていますか?

ReoNa 感じますし、『HEART』というタイトルになったのは今回ですが、今までも色んな楽曲で“心”というものには向き合ってきたなと思っていて。「ANIMA」や「虹の彼方に」だったり、「ないない」もそうですし、自分と誰かの間にあるものでもあり、自分の中にあるものとしての“ハート”を考え続けてきた。だからこそ、これまでもこれからも変化していくものという印象があります。

――先ほどのお話によると、近年の様々な感情を描いたお歌を1つの器に収めるための言葉として『HEART』が導き出されたとのことですが、個人的にはアルバム全体を聴いた感想として、今までよりもポップで親しみやすい印象を受けました。その意味での『HEART』でもあるのかなと。

ReoNa ああ、本当ですか。でも、それは自然とそうなっていったんだと思います。今回は最終的にどんな色になるかまったく想像していなくて。というのも、今までの作品の場合は、まずクリエイターさんとReoNaチームでしっかりとお話したうえで楽曲を作ってもらうことが多かったのに対して、今回のアルバムの新曲は、各クリエイターさんがReoNaというスピーカーを使ってどんなお歌を歌って欲しいのか、皆さんに委ねる比重がすごく大きかったんです。「命という病」を書き下ろしてくださった堀江(晶太)さんを例に挙げると、最初に私たちのほうから「最近どんなことを考えていますか?」というのを聞いて。

――ReoNaさんの想いではなく、堀江さんの描きたいものをヒアリングするところから始まったわけですね。

ReoNa 堀江さんに作詞・作曲・編曲を全部お願いするのは「BIRTHDAY」以来だったのですが、今まで一緒にお歌を作ってきた足跡があるからこそできたことだと思います。それはハヤシケイ(LIVE LAB.)さんにせよ、傘村トータさんにせよ、レフティ(Ryo’LEFTY’Miyata)さんにせよ同じことで、ReoNaのハートだけでなく、関わってくださるクリエイターの皆さんのハートも携えて、アルバム制作ができたなと思っています。

――ここからは新曲のお話をお伺いしていきます。アルバム表題曲の「HEART」はハヤシケイさんが作詞・作曲、レフティさんが編曲を担当。開放的なバンドサウンド、痛みも愛おしさも“心”があるからこそ生まれることを描いた歌詞が、自然とハートを温めてくれるようなナンバーです。

ReoNa 今回のアルバムタイトルが『HEART』に決まった時、クリエイターさんたちに、“HEART”をテーマにしたお歌を作ってもらうところから始まりました。この曲に至るまでに、今回のアルバムには入らなかったまったく別のお歌がたくさん生まれたくらい、本当に難航したのですが、最終的にハヤシケイさんが、痛くも苦しくもあるけど、柔らかいところも尖ったところもある、このお歌を形にしてくださいました。私の中では、同じくハヤシケイさんが書いてくれた「HUMAN」(2ndアルバム『HUMAN』表題曲)と繋がるところがあって。

――というのは?

ReoNa 「HUMAN」は“人”との触れ合いについて書いた歌詞だと思うのですが、それは“心”を考えることと同じだと思うんです。きっと「HUMAN」や今までの他のお歌でハヤシケイさんが言葉に尽くせなかった想い、その先にある言いたかったことが、この「HEART」で描かれているように感じていて。楽曲のテンポ感や温かさ、キラキラした感じも含めて、今のReoNaだから歌えるものだと思いますし、ハヤシケイさんが描いてきたものの答えが1つある気がしています。

――心を指して“いっそこんなものなければ 辛いこともないのに 私は私をやめられないみたい”と歌っているように、ReoNaさんがこれまで表現してきた絶望ソングとしての側面があると同時に、サビでは“それでもあなたを想うと 柔らかな 柔らかな熱が灯る場所 Heart”と歌っていて。

ReoNa 多分、絶望を見つめ続けてきたからなんでしょうね。闇には光も付きものですし、この7年間の活動の中で、絶望にも色んなグラデーションがあることに気付いて。大きい絶望だけではなく、名前も付けられないような小さな日々の絶望にも寄り添いたい、と考えるようになった先に広がっていたのが、この「HEART」が持つ温かさなのかなと思います。

――結びの歌詞“こんなに痛くて こんなにも愛おしい場所 Heart”は「Sweet Hurt」への返答のようにも聴こえますし、個人的にはハヤシケイさんが作詞した「虹の彼方に」とのリンクも感じました。あの楽曲は“心の痛み”を知ったことによる絶望を描いていたので。

ReoNa まさに。「こんなに辛いことが起きるくらいなら、心なんて最初からなかったらよかったのに」っていう。本当にそうだなあと思います。でも、あの時のハヤシケイさんは、その思いを「虹の彼方に」置いてきたからこそ、きっとこのお歌では、心の痛みだけではなくて、愛おしく思える心もちゃんとここに持って来れたんだと思います。

――歌詞の話で言うと“まだ生きてる まだ生きてる”というフレーズも印象的で。この楽曲に限らず、今回のアルバムは全体的に“生きる”ということについても向き合っている曲が多い印象があります。

ReoNa そうですね。私にとっても“生きる”ということを考えてきた3年間だったと思うので。ただ、私の中では、この“まだ生きてる”は、直接的な生き死にということよりも、心が生きているかどうか、というイメージがすごく強くて。自分の心を押し殺すのは難しいことだと思うんです。「こんな気持ちを抱かなかったら楽なのに」とは思っても、心は自分の意思とは裏腹に息づいている。この“生きる”には、そういう心の動きが含まれているのかなと思っています。

――ReoNaさん自身は、どんな瞬間に心が生きていることを実感しますか?

ReoNa うーん……心が生きていることを実感するのはすごく難しいと思うんです。「楽しいな」とか「嬉しいな」「ありがたいな」と思っても、それは感情の話なので、「わ、私の心、今喜んでる」とはなかなかな思いづらいというか。それに対して、悲しくなったり、傷つく言葉を見かけた時のほうが、心を意識しやすいし、自分の心が生きていることを実感できる気がします。自分のことのはずなのに、他人事のように「このままだと心が死んじゃう」と思ったりするのは、なんだか不思議だなって。

――「HEART」では心の痛みと愛おしさの両方が描かれていますが、ReoNaさんはどんな思いを込めてこの曲を歌ったのでしょうか。

ReoNa この「HEART」という楽曲は、完成に至るまでに何度も歌詞が変わって、その度にプリプロとしてお歌を入れさせていただいたのですが、最初は私も痛みの方にフォーカスして歌っていたところがあったんです。でも、レフティさんがアレンジしてくださって楽曲が完成していくにつれて、自然とこの曲の持つ温かさや柔らかさに導かれて、今の務めて柔らかく歌うアプローチに辿り着くことができました。正直、このお歌を重苦しくなく歌うのは、私の中でかなり難しかったんです。

――それは気持ちの面で?もしくは技術面で?

ReoNa どちらもだと思います。最初のデモの段階では、ハヤシケイさんの弾き語りで届いたのですが、すごく温かで、ハヤシケイさんのお歌もすごく素敵なんですよ。そのイメージがあったからこそ、自分が歌った時に「なんでこうならないんだろう」という苦しみは結構味わったかもしれないです。

――「HEART」のMVは、ReoNaさんがギター片手に放浪しながら誰もいない大自然の中でお歌を歌う、開放感に溢れた映像に仕上がっていますね。

ReoNa 前作の「End of Days」のMVはフルCGで監督が思う世界観を描いていただきましたが、今回は私が1人ぼっちでお歌を歌う、ある意味、原点に帰ってきたようなMVになりました。ギターケースを引きながら新緑の茂る山道を歩いたり、軽トラックの荷台や牧場に、いつもライブでお歌を一緒に届けてきた絨毯を敷いてお歌を歌って。マイクは普段レコーディングで使っているソユーズのレプリカを作ってもらいました。流石に本物を外には持ち出せなかったので。

――ソユーズのマイクは高級品ですものね。

ReoNa それと私が引いているギターケースは、実際に私が使っている私物で、神崎エルザの楽曲を歌わせていただくことが決まった時に、初めて買ったアコースティックギターのギターケースになります。なのでよく見ると『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』のレンとフカのアップリケを縫い付けてあって。でも、うちの猫たちにさんざん爪を研がれて、表面はかなりボロボロになっています(笑)。

――ちなみに、アルバムの限定盤に付属のBlu-rayには、本楽曲のリリックビデオを収録。「HEART」と「オルタナティブ」をレコーディングしたロンドンのアビーロードスタジオでの様子を観ることができます。

ReoNa 本当にアビーロードスタジオでの風景そのままの映像になりました。実際に訪れたことで感じたものがすごく多くて。足を踏み入れた瞬間、聖域と言いますか、世界的な名曲がたくさん生み出された場所にいることの尊さみたいなものを感じて。レコーディングには、レフティさんとレフティさんのバンド、エンジニアのとしさん(渡辺敏広)、それとハヤシケイさんも一緒に行って。ハヤシケイさんは「HEART」のアコギを弾いてくれているのですが、今まで見たことないくらい活き活きしていました(笑)。やっぱりバンドマンの憧れの場所なんだなあと実感しました。

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