【北川勝利・藤村鼓乃美 ボーダーズの“音の場” season3】#25 青山一丁目～六本木編

ボーダー柄の服をトレードマークに、ユルくマジメに音楽と向き合うコンビ――。“ボーダーズ”こと北川勝利と藤村鼓乃美が贈る「ボーダーズの“音の場”」。港区大門から始まった3rdシーズンも、青山一丁目駅で再び港区に入り残りわずか。見慣れた景色の中でお2人はどのような発見をするのでしょうか？

PHOTOGRAPHY BY 山本マオ　INTERVIEW & TEXT BY 田中尚道

――今回はまず旧将棋会館の隣のブロックにある蕎麦屋の「ほそ島や」さんでお昼をいただきました。名人戦の出前なんかでも有名なお店でしたね。

北川勝利　今回の歩き出しがビクタースタジオの近くなんだけど、あのあたりは全然歩いたことがなくて。向こうに将棋会館がありますよって言われて、今まで気づかなかったけど、知っている土地と土地が急に繋がるという体験を久しぶりにして楽しかった。

――区画的には狭い範囲なんですが、高低差があって見えないんですよね。だから普段使わない道に入ると知っている場所に出るということがあのあたりは多いかもしれません。

北川　いつもビクタースタジオで頼む出前のひとつが「ほそ島や」なんですが、そういうお店ってメニューは知ってるし食べたこともあるんですけど、実際の店舗に行くことがないからちょっと面白かった。あんなに近所にあったんだ。

藤村鼓乃美　出前ではなにを食べるんですか？

北川　そばと半どんぶりのセットが多いかな。それかラーメンかカレー。

藤村　ラーメン美味しかったです。

北川　カツカレーは藤井聡太九段も食べてたことで話題になって、店も混んでいるから頼むと時間かかるかもって言われてました。あんなに近いからすぐ来るんだ……。

藤村　ロケの日も結構並んでましたね。

北川　僕らが食べた後も並んでて、そんなに人気なんだって。

藤村　そば屋なのにラーメンが美味しかった。カレーとラーメンが有名なんでしたっけ？

――そば屋なのにラーメンとカツカレーが有名らしいです。

藤村　そう聞いたのでラーメンを頼んじゃいました。

――おそばはいかがでしたか？

北川　普通に知ってる味です。かつ丼とそばにしましたが、スタジオで出前に頼むメニューなので。

――じゃあ、出前と同じものにしたんですか？

藤村　違うものにすればよかったのに。

北川　本当は冷やし天ぷらそばにしたかったんですけどまだやってないということで、ついついいつものにしてしまいました。

藤村　店舗と出前で味が違うかもしれませんし。でもいいお店でした。

――そこから青山一丁目駅の上にある本田技研の本社にいったわけですが、建て替えで入れないとは知らず。

北川　ホンダの思い出……。

藤村　……。

――昔は1階がショールームで、車とか確かASIMOも展示されていたと思います。

藤村　ASIMOってホンダなんだ。

北川　青山一丁目駅の上にホンダがあるんだけど、ODEN STUDIOというリハスタが青山と赤坂の間くらいにあって。永ちゃん（矢沢永吉）がやってるスタジオなんです。そこでリハが終わった後に青山一丁目駅直結のビル（青山ツイン）の地下のレストラン街にあるとんかつ屋さんで毎回生姜焼き定食を食べるのが決まりになってました。

藤村　とんかつ屋なのに。

北川　いつものメンバーでいつものメニューを食べてニコニコして帰るっていう。最初知らないでとんかつ食べてて、ベーシストがいつも生姜焼きを食べてて気になってたんです。で、一回食べたらそれ以降は生姜焼きになりました。薄い豚肉じゃなくてとんかつの肉を生姜焼きにしている。そんなメニューを紹介しつつ、乃木邸ですね。

藤村　子供とおじさんの像があった。

北川　あそこはどんな場所なんですか？

――乃木希典の家の跡ですね。乃木希典は明治天皇の腹心で、日清、日露戦争に従軍しています。特に日露戦争では第三軍司令として旅順攻囲戦を指揮、多数の犠牲を払いながら旅順を攻略して、その後の奉天会戦でロシア軍を破って日本の勝利に貢献しました。帰国後は昭和天皇が学習院に入るにあたり、孫の教育を託すと学長に指名された人です。明治天皇崩御に際して奥さんともども殉死しまして、その時のことは夏目漱石の「こころ」にも出てきますね。屋敷のなかには乃木大将夫妻瘞血之處という殉死に際して夫妻の血を受けたもろもろを埋めた塚もあります。

北川・藤村　へぇ……。

――日露戦争の英雄なので、死後邸宅脇に乃木神社が建立されました。いまでも結婚式などで訪れる人も多いですね。お参りした時は丁度大祓の時期で茅の輪が置かれていました。

藤村　乃木さんだから乃木神社……。

――現在由来のもので一番有名なのは乃木坂ですかね。駅名だしアイドルグループ名だし。

北川　乃木邸から乃木神社を通って地下鉄の乃木坂の駅に出たときに、この道ってこうくっついていたって知らなくて。

――乃木坂駅の入り口にトンネルがあったじゃないですか。

北川　あったあった、あのトンネルを抜けると青山墓地があって、その先にブルーノート東京があるって言ってましたよね。ブルーノート東京のそばに岡本太郎記念館があって、岡本太郎のプリミティブな彫刻が展示されているんですけど、夜にブルーノートから出てくるとそれが塀越しに見えて気になってました。入ってはみたいんですけど、その時間だともう閉館していて。

――あそこも立体的なんですよね。丘があるところをトンネルで抜いているのでより分かりづらいといいますか。

北川　そうそう。ビクタースタジオとおそば屋さんとか乃木坂の当たりとか、別々に知ってたけど急に繋がって面白いなと。そこからソニーのスタジオですね。乃木坂ソニーで“のぎソ”って言われてました。乃木坂のほかにもソニーのスタジオがあるからそういわれていたんだと思いますが。

藤村　市ヶ谷にもありましたよね。黒いビル。CBSソニーの。

――CBS、懐かしいですね。

藤村　あそこで一時期スタジオ借りて練習させてもらってたんです。

北川　乃木坂ソニーにも行ったことあるんでしょ。

藤村　あります。個人的なTD（トラックダウン　複数の音源を統合するレコーディングの最終工程）で一回行ったことがあるのと、スケジュールをさかのぼってみたら北川さんと一緒に行ったことがありました。

北川　さっき言われて思い出した。

藤村　2013年6月17日です。

――それはボーダーズより前ですね。

藤村　「サマーバケーション」のマスタリングをあそこでしているみたいです。

――まさにボーダーズの始まりですね。あそこのホールはかつて「リスアニ！マラソン」という、そのクールに放送されるアニメのOPテーマ・EDテーマを一気に視聴するイベントをやっていたことがあります。

藤村　私、オーディションで行ったことがあって。千秋さんが松田聖子さんのファンで『MemorieS』というトリビュートアルバムを出しますということで、カラオケでシンガーを募集していて。それに応募したら最終選考の会場が乃木坂のスタジオでした。夏盤（『Bitter Sweet Pineapple』収録の「レモネードの夏」）に参加させてもらったんですけど、その時にそこのスタジオで別のオーディションもやっていて、それがsupercellのボーカルオーディションでした。そっちも受けたかったと思ったのを覚えています。

北川　乃木坂ソニーはいっぱい話がある。前に劇伴をやった『Buddy Daddies』もあそこで録りました。そこから。

――坂を上って国立新美術館です。

北川　最初に僕が所属したメジャースタジオがマーキュリーっていうところで、ちょうど松田聖子さんが「あなたに逢いたくて～Missing You～」で移籍した時だったんですけど、乃木坂のスタジオから六本木に行く道をまっすぐ上った先に旧防衛庁があって、それを壊してちょうど東京ミッドタウンを作ってる横を通ってスタジオに通ってたという記憶を思い出しました。

――北川さんが当時町田にお住まいだったから小田急線から千代田線で乃木坂なんですね。

北川　そうです。まだ大江戸線が開通してなくて、六本木に出にくかったんです。そんな道を通って、新国立美術館？

藤村　国立新美術館です。

北川　あの道って普段は入らないから、あんなにカッコいい建物があるなんて知らなかった。美術館は中に入れたしよかったね。