ボーカリストの“にんじん”とボカロPを中心とした複数のコンポーザーによる次世代音楽プロジェクトのロクデナシが、“1st Oneman Live「思い出にならないように」”の追加公演を4月9日に東京・Zepp Shinjukuで開催した。
儚くも透明感のある歌声と情感豊かな楽曲で日本国内のみならず海外でも人気を集め、2024年にはTVアニメ『終末トレインどこへいく?』のEDテーマ「ユリイカ」で初のアニメタイアップを担当、同年8月には“ロクデナシ Oneman Live「Vol.0」”を開催してライブ活動を本格化させたなか、今回の“1st Oneman Live”では2月の大阪公演を皮切りに東京、韓国、台湾の海外を含む4都市5公演を実施。いずれもチケットは完売し、大きな注目を集めている。なぜロクデナシの楽曲は言葉の壁を超えて広く海外でも支持されるのか? その答えを今回の追加公演を通じて実感することができた。
TEXT BY 北野 創
PHOTOGRAPHY BY Genki Ito
ロクデナシの音楽の特徴は、楽曲ごとに異なるコンポーザーやイラストレーターが参加することで多彩な音楽性を展開していること。YouTubeにアップされている各楽曲のMVは、サウンド、リリック、ビジュアルとにんじんのボーカルが合わさることで、ひとつの物語を観ているような体験を味わうことができる。さらにその物語がリスナー一人ひとりの記憶や思い出に寄り添い、結びつくことで新たなシナジーが生まれ、それぞれの心の内にある感動のトリガーが引かれることとなるのだ。
今回のライブでは、ステージの前面に紗幕を張り、それらのMVをはじめとした映像演出を全編で展開することによって、サウンドとビジュアルの融和性を強化。さらに楽曲はすべてバンドによる生演奏で届けられ、いつも耳にしている音源とは異なるアレンジ、生音ならではのダイナミズム溢れるサウンドと、その場その時の感情の動きをよりダイレクトに反映したにんじんの歌声が、ライブならではのエモーションを創出していた。
ライブはナユタン星人が書き下ろした躍動感ある「アルビレオ」でスタート。紗幕越しに、ギター、ベース、ドラムス、キーボードから成るサポートバンドと、ステージ中央でボブヘアーを揺らしながら歌うにんじんのシルエットが見える。彼女は顔出しをしておらず、本公演でも表情がはっきりとわかる瞬間は訪れなかったが、声の繊細な表現が楽曲に込められた感情の機微を確かなものとして伝える。本楽曲のタイトルの「アルビレオ」とは、はくちょう座の恒星の名称で、接近した2つの星で構成された二重星という特徴を持つ。いつもそばにいるのにひとつにはなれない――そんな切ない想いを星の名前に託し、にんじんは心を震わせる歌を夜空に届けるように歌う。
そこから流れるように、ままならない日々に惑う人々の気持ちを代弁するように存在証明を強く求めるアップナンバー「僕らの在り処」に繋げると、ロクデナシの楽曲の中でもとりわけ焦燥的なギターロック「ブリザード」へ。ホイッスルボイスのような高音を交えた歌声が、息苦しさの中での葛藤と、それでもいつか良い景色に出会えることを願う想いの強さを加速させる。
ここで、にんじんが改めて「本日はよろしくお願いします」と挨拶すると、ドラマーが叩く和太鼓のような音と和琴や篠笛の同期音源などがオリエンタルな情緒を演出した「言の刃」、にんじんが自ら作詞・作曲した失恋の悲しみがエモーショナルに色づく「逢瀬のままにあなたのもとへ」、ゆったりとした雰囲気の中に滲む感傷がビターな40mP提供の最初のオリジナル曲「三時のキス」と、多種多彩な色を持った楽曲を次々と表現。曲調やジャンルの幅広さ、それらを巧みに表現するにんじんのパフォーマンス力に改めて感心してしまう。
そしてライブ前半戦のハイライトとなったのが、ボカロPのとあが提供した「リインカーネーション」。生まれ変わりを意味する楽曲タイトル、“もう最悪だ”というフレーズから始まる後悔や叶えられなかった夢への想いが込められた歌詞、同楽曲のMVでもフィーチャーされている幻想的な光景の中でブランコに乗って手を繋ぐ2人の少女のビジュアル。それらが紡ぎ出す余白のあるストーリーと、にんじんのクライマックスにかけてどこまでも上昇していくような高音ボイスが、聴く者の想像力を喚起して得も言われぬ感動へと誘っていく。
続いてにんじんが「次の曲はピアノバージョンで歌います」とひと言添えると「アマネゾラ」を披露。先ほどの「リインカーネーション」とは逆に映像によるステージ演出はなしで、ステージにはにんじんとキーボードの2人の姿のみが照明で浮かび上がる。凪のような穏やかさと、その奥に息づく繊細な感情を、歌声とピアノのみのシンプルな構成で表現する。かと思えば、続く「ユリイカ」では、楽曲本編に入る前に熱気渦巻く前奏パートが加えられ、音源バージョンとは異なる表情を持ったアレンジに。歌も演奏も激情的で、アニメ『終末トレインどこへいく?』に登場する2人の少女、千倉静留(CV:安済知佳)と中富葉香(CV:東山奈央)が背中を向けて居並ぶビジュアルも込みで、一気に楽曲の世界観へと引き込んでいく。傘村トータが詞曲を手掛けた“孤独”に寄り添う楽曲の力も相まって、気持ちを奮い立たせてくれるようなステージだった。
SHARE