2023年にメジャーデビュー10周年を迎え、10月にはそれを記念したスペシャルライブ「fhána 10th Anniversary SPECIAL LIVE “There Is The Light”」を大盛況のうちに終えたfhánaが、その次の一手となるメジャー初のEP『Beautiful Dreamer』を完成させた。話題の新作アドベンチャーゲーム「ONE.」のタイアップ2曲「永遠という光」「Last Pages」のほか、様々な形で“夢”を表現した本作には、fhánaというバンドが10周年というディケイドの先に思い描いているビジョンが凝縮されている。彼らが今見ている“夢”とはどんなものなのか。EPに込めた想いについて、メンバー3人に直撃した。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創
――今回のEPのタイトルは『Beautiful Dreamer』ということで、アニメ好きとしては、どうしても押井 守監督の名作『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』を連想してしまうのですが……。
kevin mitsunaga やっぱりそうなりますよね(笑)。
佐藤純一 最初はtowanaが“夢”や“ドリーム”に関係したタイトルがいいんじゃないか、と発案してくれたのがきっかけで。fhánaは今年メジャーデビュー10周年を迎えて、それを記念したベスト盤のリリースや10周年ライブを終えた今、次の新しいビジョンに向かうなかで、“夢追い人”的な意味での“夢”をみんなで新しく見たいよね、というところから“ドリーマー”というキーワードが出てきたんですね。その時点で『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』のことが脳裏に浮かびつつ、いいタイトルだなと思って『Beautiful Dreamer』にしました。
――towanaさんはなぜ“夢”というワードを提案したのですか?
towana 今回はアーティスト写真の衣装が先に決まっていたんですけど、それがパジャマっぽいお洒落なセットアップだったので、“夢”とか“ドリーム”をキーワードにするのはどうですか?っていう話をしました。あと、これは余談ですけど、私は11年活動してきて、今回初めてスカートではない衣装をアーティスト写真で着ました(笑)。
佐藤 この衣装との出会いも偶然で、今借りているオフィスのビルにカフェが入っていて、そこでたまに貸し切りのギャラリーや展示会みたいなことをやっているんですけど、その展示会で出会ったのがこの衣装の服を作っているブランドだったんです。最初はライブで着る服に良さそうだなと思って、僕とkevinが個人的に購入したんですけど、これをセットアップにしてアーティスト写真の衣装に使うのもいいかもと思って。しかもこのブランドのデザイナーの方とお話したときに、『小林さんちのメイドラゴン』のアニメを好きで観ていたみたいで、「えっ!あのアニメの主題歌をやっていた方なんですか!?」という反応をしてくださって。
――運命的な出会いがあったんですね。でも、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』の世界観は、色んな形で“世界線”を表現してきたfhánaの音楽性とも通じるところがあるので、結構意味深なタイトルだなと思いました。
佐藤 そういうイメージもありましたね。『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』は学園祭の準備期間が終わって、学園祭当日になるかと思ったら、また準備の日に戻って、それをずっと繰り返す、ループものの原点的な作品ですよね。バンド活動や音楽活動も祭りを繰り返しているようなところがあって、タイアップ、リリース、ライブ、常に次の祭りに向かって準備して盛り上がっている、終わらない学園祭をずっとやっているような職業だと思うんです。
――確かに。今回のEPには新作ゲーム「ONE.」のタイアップ曲「永遠という光」「Last Pages」が収録されていますが、この2曲があったうえで“夢”をコンセプトに作品全体をまとめていったわけですか?
佐藤 元々EPを作ろうという話があって、そこに「ONE.」の主題歌の話がタイミング的に重なったので、この2曲をEPに収録することは先に決めていて。その後、fhánaとしては10周年ライブモードに突入して、10月7日まではそこに全集中することになったので、残りの4曲はライブが終わってから一挙に仕上げていきました。ただ、“夢”をテーマに楽曲を作っていったわけではなくて、自然と“夢”に収束していった感じですね。
――ここからは収録曲について1曲ずつお話をお聞かせください。1曲目の「夢」はtowanaさんのポエトリーリーディングをフィーチャーした楽曲です。
佐藤 これは今回の収録曲の中で最後に完成したのですが、元になった楽曲というのがあって、それが新体制一発目のツアー、今年6~7月に行った“Looking for the New World Tour 2023”の登場SEとして作ったインスト曲なんです。
kevin その時点で佐藤さんから明確なリファレンスを共有されたうえで、ライブの入場シーンを思い浮かべながら制作したので、僕の中では「ここから始まる」という意識のもと作っていた楽曲なんです。それにポエトリーを乗せて新しく1つの楽曲にするという話を聞いたときは、いい意味でびっくりしましたけど、そもそも僕はポエトリーの入った楽曲が好きなのでいいなと思って。towanaさんは以前にも「Logos」でポエトリーをやっていましたけど、そのときからtowanaさんのポエトリーが好きなんですよね。
towana 本当に?
kevin うん。しかも元々はSEとして作っていた「夢」の、じわじわと世界観にログインしていく曲調にポエトリーがぴったりで、すごくいいなと思いました。
――ポエトリーの部分を含めて歌詞は林 英樹さんが書かれていますが、どんなイメージを共有して歌詞を書いてもらったのでしょうか。
佐藤 fhánaの楽曲はこれまでも現実世界の動向に対するリアクションが原動力になっていることはよくあって。それこそデビュー前に作った「kotonoha breakdown」は、東日本大震災があったうえでできた曲ですし、4thアルバムの『Cipher』(2022年)はコロナ禍以降の世界が反映された作品で。その意味では、この「夢」という楽曲も、今の現実社会を受けた部分があります。今の時代は、インターネットでちょっとした言葉尻を捉えて炎上してしまったり、映画・ドラマや広告を制作するときも色んなことに配慮する必要があって、現実社会が良くも悪くもすごく窮屈になっていると思うんですね。そこに夢と現実がひっくり返った感じ、現実を超えた現実感の無さがあって、むしろファンタジーの世界に本当の真実っぽさが感じられるよね、という話を林くんとしていて。
――なるほど。
佐藤 で、僕は岩井俊二さんが好きなのですが、林くんと「キリエのうた」(岩井俊二監督の最新作)の話で盛り上がったんですね。あの作品には現実の新宿や北海道といった場所が登場しますが、描かれているのは岩井さんのファンタジーだと思うんですよね。だけどそれが現実に捉えられる部分もあるところが面白いという話になって。そういう話から繋がる形で生まれたのが、この「夢」のポエトリー部分なんです。
――これは自分の感想ですが、コロナ禍のときに“不要不急”という言葉のもと、音楽やライブという文化の是非が問われたりもしましたが、でも音楽やアニメ・創作物といった文化が描く“夢”や“ファンタジー”というものは、生きる活力や世界を変える原動力になるんじゃないかと思ったんですよね。そういったことがこの「夢」という楽曲の歌詞で表現されているようにも感じました。
佐藤 まさにおっしゃる通りのことも詰め込まれていて。「夢」の最初は“ああ また誰かの夢と繋がってしまった”という言葉で始まりますが、「Beautiful Dreamer」の歌詞にも“同じ夢同じ空見てる”とあって、誰かの“夢”や“ビジョン”のようなものが繋がって共有されることで、世界が変わったり個人の人生が変わることがあると思うんですね。“夢”というのは誰かに向けて口にした時点で、それは“あなただけの夢”ではなくて“みんなの夢”になる。そういうメッセージもこの楽曲には含まれていますね。
towana この「夢」やEP全体のメッセージに関して言えば、「夢を見続けよう」とか「美しい夢を見よう」というメッセージは綺麗ごとにも聞こえるけど、でもそれが切実な本音なんだよね、というところで、今の自分たちの気持ちにも重なっているように感じていて。その意味でも、いいメッセージになったなと思います
佐藤 それとポエトリーの最後の“どうか祈りを 僕らの進む先に美しい夢を”という部分は、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』を思い出すんですよね。あの作品の最後、シロツグが宇宙に行って、地球を見下ろしながら「我々の進む先に、暗闇を置かないでください」と語って祈りを呼びかけるシーンがあるんですけど、そのイメージと重なって。最初はもっと堅苦しい感じの言葉だったんですけど、何度も調整したうえでこの形になりました。林くんは楽曲の尺に合わせず歌詞を書いてきたので、僕が楽曲に合わせて自分で朗読した音源を送ったりもして(スマホを取り出してその音源を再生する)。
――おおっ、佐藤さんバージョンの朗読も素敵じゃないですか。
佐藤 でも、この後、尺が余っていたので……(音源の朗読が途中で終わって「ここから結構、余っている。あと、3行とかあると、ちょうど合う」という佐藤の声が楽曲に合わせて入る)……こんな感じで林くんに伝えて(笑)。
kevin これ、どこかで秘蔵音源として出すと面白いんじゃないですか(笑)。
towana いつかFCイベントとかで公開しようよ。
――超レア音源ですね(笑)。あと、先ほどkevinさんも褒めていましたが、towanaさんのポエトリーがすごくいいですよね。
towana でも、ポエトリーから途中で歌に入るときに、聴いていてびっくりしませんでした?ポエトリーの部分は抑えめのトーンで結構ぼそぼそしゃべっているので、最初は歌の盛り上がる部分を、今の完成形よりも抑えめで、伸びやかに広がる感じで歌ったんです。そうしたら佐藤さんから「もっとバーンと圧のある感じで歌ってください」と言われて。だから聴いている人はびっくりするんじゃないかと思って心配で。
kevin いや、びっくりというよりも、ハッとなる感じだと思うよ。いい意味で。
towana それならよかった。でも、ポエトリーは個人的に苦手意識があるんですよね。やっぱり歌のほうが得意なので(笑)。こういう朗読みたいなのは、嚙まないようにしつつ、でも感情を込めて、しかも尺もぴったり合わせなくてはいけないので、結構難しいんですよ。でも、なぜか折に触れてやらされますね。
kevin 僕らが2人ともポエトリー好きなので(笑)。
佐藤 歌い手が語り部にもなるのがいいと思うんですよね。あと、towanaは声質的にもポエトリーがグッとくる声だと思っていて。
towana そうなの?私は客観的な評価ができないから。
佐藤 僕の中には『ヱヴァQ(ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q)』と同時上映された『巨神兵東京に現る』のイメージがあって。あの作品は林原(めぐみ)さんが語り部として語っているんだけど……。
towana 林原さんはいいに決まってるじゃん!
佐藤 いや、それとtowanaの語りが結構似てるんだよね。綾波レイっぽいというか、儚げでぼそぼそと話している感じが。
towana それは私が棒読みだからじゃない?(笑)。
佐藤 ともかく、「Logos」のときに『巨神兵東京に現る』みたいでいいなと思ってたので、今回もtowanaにポエトリーをしてもらったというのがありますね。
――2曲目の「永遠という光」は、Keyの主要スタッフが制作した伝説の作品「ONE 〜輝く季節へ〜」のリファイン版となる新作ゲーム「ONE.」のOPテーマ。そもそもどういった経緯で主題歌を担当することになったのですか?
佐藤 このゲームの販売元になるネクストンのプロデューサーさんが、fhánaのファンということで、25周年でリファインするにあたって僕らに声をかけてくださって。
kevin ありがたいですよね。僕らはさんざん「CLANNAD」やKey作品からの影響について話をしてきたので。僕も「ONE 〜輝く季節へ〜」そのものというよりも、後々にKeyになっていく制作チームの皆さんに対してすごくリスペクトがあるんですよ。なので、きっと高校生の頃の僕に今の状況を説明したらショック死すると思います(笑)。
――その意味では楽曲を制作するときも相当力が入ったと思うのですが。
佐藤 それが逆に、すごく自然な気持ちで作ることができました。元々持っている世界観の中に浸りながら作ることができたというか。プラスして、ゲームの主題歌ということで、アニメの主題歌の89秒みたいな縛りがなかったので、そこも含めて自由に作れましたね。
――でも、原作ゲームのファンであれば涙するような楽曲に仕上がっていますよね。“永遠”というキーワードの扱いを含め、歌詞も作品の内容に寄り添ったものになっていますし。
佐藤 そこは林くんに資料を共有したうえで作り込んでいきました。
towana 歌詞の中に“あの輝く季節へと”っていうフレーズがあったので、林さん流石だなあと思って。あと“鍵”というワードも入っているんですよね。これは使いやすいモチーフなのでもしかしたら偶然かもしれないですけど、きっと狙って入れたんだろうなと思って。
kevin 確かに、そう考えたほうがエモいよね。
――あと、これは個人的に思ったのですが、折戸伸治さん(Keyのサウンドクリエイター、「ONE 〜輝く季節へ〜」の音楽も担当)へのオマージュも入ってますよね?
佐藤 それはイントロやアウトロの部分に入っているフレーズのことですよね?当時の泣けるノベルゲームには、こういう冬っぽい、雪が降っていそうなイメージのサウンドが多くて、「ONE 〜輝く季節へ〜」のサントラにもまさにそういうサウンドが入っていたので、今回はベタにそれを入れてみました。そもそもゲームの制作サイドからも明確に「冬っぽいひんやりした音を入れてください」と言われていたので、それならば、鉄琴みたいな音でミニマルなフレーズが繰り返されて、泣けるコードがバーンと鳴る感じをやるしかない!という感じでしたね(笑)。
――この楽曲は先日の10周年ライブのアンコールでも披露されましたが、towanaさんは歌ってみていかがでしたか?
towana 難しい曲ですね。そんなに速いわけではないんですけど、実際に歌ってみると言葉がギュッと詰まっているので、その中で感情を込めて歌うのが結構難しくて。でも、ゲームの主題歌でもあり、原初のfhánaっぽいという印象があって。なのでライブで初披露するときは、後ろのスクリーンに歌詞を出したいと、私から要望を出したんです。実際にライブに来てくれたふぁなみりー(※fhánaのファンネーム)たちからの評判も良かったので、やっぱりfhánaの結成のきっかけでもあるKeyとfhánaの親和性が高いからこそ、自然体で作っても良い曲になったんだと思います。
――そして3曲目の表題曲「Beautiful Dreamer」は、fhánaの楽曲の中でも相当アグレッシブなギターロックになっています。
佐藤 元々EPに1曲はこういう速いギターロックを入れようと考えていたので、最初からエモい曲を作ろうと思っていて。デモができた段階で、ギターロック枠というのを超えるパワーとポジティブな意味での“夢追い人”というイメージを感じたので、この楽曲を表題曲にすることにしました。僕は基本ピアノで楽曲を作るので、最初にできたデモはピアノロックみたいな感じだったんですけど、ギターで埋め尽くしてピアノが聴こえないくらいにしようと思って。それでHoneyWorksの中西さんにギターを弾いてもらって、丸一日かけてレコーディングしました。towanaが歌を録らなくてはいけない時間を過ぎてしまったので、towanaが後ろで待っているなか、ちょっと焦りながら(笑)。
――これは10周年ライブを観たときに感じたことですが、今のfhánaはめっちゃロックモードに入っているなと思ったんですよね。そういう部分がこの楽曲には表れているのかなと思って。
towana (ライブは)ツインギターになりましたもんね。
佐藤 確かに今回のEPは、この「Beautiful Dreamer」に限らず、全体的にギターサウンドにこだわっていて。
kevin 「Turing」もジャズギターが入っていますからね。
佐藤 そうそう。中西さんには事前に色んな参考楽曲を聴いてもらったうえで、僕がディレクションしながら一日中録っていましたね。曲の速さもfhána史上最速で、これまでは「コメットルシファー ~The Seed and the Sower~」がBPM224で一番速かったんですけど、この曲は234あるんですよ。
kevin めちゃくちゃ速いです(笑)。
towana でも私は別に速いなとはあまり思ってなかったので、そんなに難しくもなかったし、自分の歌録りを待ちながら中西さんのRecを横で聴いていたので、自然に入っていけました。
――歌のテンション感や気迫という面では、前作のシングル「Runaway World」と地続きな印象も受けました。
towana ああ、確かに。どちらもロックっぽい感じですもんね。でも、歌うのは楽しくて、私は「永遠という光」や「Last Pages」みたいな泣ける曲も好きだし、こういうギターロックも好きなんだろうなと思いました。
佐藤 Spotifyで、その1年間に聴いたもののまとめを教えてくれたりするじゃないですか。それで僕が2023年に一番聴いたアーティストはfhána、2位は坂本龍一さんで、fhánaの音源はライブのセトリを組んだり練習時にたくさん聴くので、実質1位は坂本龍一という感じだったのですが、3位はELLEGARDENだったんですよ。自分でもこんなにエルレを聴いていたんだと思って。ちなみに4位がスマッシング・パンプキンズ、5位はポーター・ロビンソンだったので、そういうエモロックやオルタナティブロック好きなところが、「Beautiful Dreamer」には凝縮されている感じもしました。