人気VTuberグループ・にじさんじに所属し、二次元と三次元を繋げるような音楽活動を続けてきた樋口楓。彼女の3曲入りの最新シングル『三D』が完成した。
今回の楽曲は、3曲ともに彼女の作品でもお馴染みとなった光増ハジメ(FirstCall)が作曲を担当。楽曲ごとにそれぞれ異なる作詞家を迎えつつ、3曲すべてがTVアニメや実写ドラマ、ゲーム作品のタイアップ曲になっており、活動初期から「二次元と三次元の壁を壊したい」と語っていた彼女らしい魅力が詰まった作品になっている。それぞれの制作過程について、本人に聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 杉山 仁
――2023年も後半に差し掛かっています。音楽や音楽以外のものも含めて、今年の活動の中で樋口さんが特に印象的だった思い出はありますか?
樋口楓 まずはやっぱり、「めーぷるなっつばにーだよ」(胡桃のあ、樋口楓、兎咲ミミ&みこだよコーチ)で出場した「Vtuber最協決定戦」ですね。私はVTuber活動をしていて何かしらで優勝したこと自体が初めてだったので、これは皆さんにとっても印象的だったんじゃないかな、と思っています。
――長らく使い続けてきた武器・Lスターとキャラクター・ランパートでの優勝でしたね。
樋口 Lスターとランパートってだいぶ個性が強くて、一歩間違えたらすごく弱くなってしまうんですよね(笑)。その構成を活かしてくれたメンバーとコーチに本当に感謝しています。私は三番手だったので、自分が貢献できたかどうかはあまり実感がないんですけど、一番手と二番手の2人に背負ってもらったし、コーチングでランパートの活かし方を教えていただいたのはすごく大きかったと思っています。
――2月に5周年を迎えたことについてはいかがでしたか?
樋口 大々的に何かをする感じではなかったですけど、「VTuber業界が今も続いてくれていて嬉しいな」っていう気持ちです。自分自身も、この5年間で「無理に活動を続けて心がしんどくなるのは一番嫌だな」とわかったところがあって……自分のペースをこの5年間でおおよそ掴んだ感覚があるからこそ、「無理のないように活動していこう」と思うようになりました。
――長く楽しんで活動するにはどうすればいいか考えるようになったということですね。
樋口 そうですね。周りの人達がすごく大変なときもあったし、コロナ禍での制限が解除されたことでリスナーさんがVTuber以外のものにも手を出すようになって、そのギャップで疲れてしまう人も周りにいたりしたので、「ちゃんと休んで、気持ちを切り替えられるようなタイミングを作ろう」と考えるようになったのが大きいかもしれないです。
――ここ数年で色々な変化がありましたからね。
樋口 元々私の場合、案件のようなものをお仕事として受けている一方で、配信活動は自分の趣味の範囲でやっているので、自分の配信では本当に友達と話すような感覚でいることを大事にしているんです。だからこそ、みんなに言えばわかってもらえるというところがあって、休みたいときには「ちょっと休もうかな」と言えるような関係を築けていることは、良い5年間を過ごしてこられたからこそなのかな、と感じたりしています。
――ここ数年で自分自身について「変わったな」と思うことはありますか?
樋口 うーん、昔よりもだいぶ慎重になったかもしれない(笑)。昔はコラボしたい人、コラボしたい企業さん、お仕事したいところ、みたいに色んな方向に突っ走っていましたけど、にじさんじを運営しているANYCOLOR株式会社という会社自体が昔と比べてすごく大きくなったこともあって周りに大人が増えましたし、VTuberが色んな場所で活躍するようになったことで、良い意味で色んな界隈の方々と接する機会が増えていて。自分1人の行動で印象を悪くしないようにしようと、これまでより考えて行動することが増えたように思いますね。
――音楽活動についてはどうでしょう?樋口さんの歌い方なども、活動の中でより幅広くなっているようなイメージがあります。
樋口 自分ではあまり実感がないですけど「歌いやすいもの」や「歌いたい楽曲」を、なんとなく見つけられるようになってきたのかな、とは思います。今までは知識がなくてあまり言葉にできなかったものを、ちゃんと汲み取ってもらえるようになったというか。自分の好きなものを、しっかりと作れるようになってきたのかもしれないです。実際に音楽活動をしてみないとわからないこともありますし、仮に「こういうものを作りたい」と思っても、予算やクリエイターさんのスケジュールの問題が出てきたりもしますけど、そういうことも込みで、「ちゃんと作りたい楽曲がわかるようになってきた」という感覚なんです。
――なるほど。では、樋口さんが自身の音楽活動で大事にしているのはどんなことですか?
樋口 自分のマインドの問題なんですけど、ライブで一回終わってこの楽曲を歌うのは終わり、というものにはしたくない、という部分はあります。作った曲を大事にしていきたいと思っているんです。歌詞や楽曲のテーマという意味では、例えばタイアップ曲の場合は、タイアップする作品の物語と樋口楓らしさの両方がちゃんと出ればいいな、という気持ち。一方で、タイアップ曲やリード曲じゃないものに関しては、私がより歌いたい方向性のものだったり、スタッフさんと話していて「それいいやん!」と思ったアイディアを採用したりしています。
――今回のシングルに収録された3曲はすべてがタイアップ曲になっています。まずは1曲目「Bravery? Naturally?」(TVアニメ『英雄教室』OP主題歌)の制作過程を思い出していただけますか?
樋口 この曲は「アニメのタイアップをするよ」ということを先に教えていただいたんです。『英雄教室』はファンタジー学園風の物語で、主人公自身は闇を負っている部分もあったりはしますけど、基本的には最強元勇者の主人公が友達を作っていく作品なので、「疾走感のある爽やかな楽曲を作りたい」と思っていました。
――この楽曲は実際に、青春感のある爽やかなギターロックになっていますね。
樋口 そうですね。今回も作曲は光増ハジメさん、歌詞は以前「Baddest」でも作詞をしていただいたRUCCA さんという、樋口楓チームとしても実績のある方に楽曲をお願いさせていただきまして。私自身の歌に関しては、真っ直ぐ歌おうと意識していました。「Baddest」のときはダークなロック曲だったので、ちょっと斜に構えて歌うことを意識していたんですけど、今回は「明るく歌おう」ということを、光増さんと一緒に話していたような気がします。
――「Bravery? Naturally?」で樋口さんが特に好きなところはありますか?
樋口 2Aの「”フツウ“って 定義に 未だに 惑うけれど 『誰もが 同じじゃない』」という歌詞の部分は、今を生きる人たちには結構刺さるんじゃないかな、と思ったりしています。私たちも「何で普通にできひんの?」とか「誰々はあんなに頑張ってるのに、どうしてやらないの?」という声をかけられたりしますけど、1人1人のキャパシティが違うからこそ見る側もやる側も違うから、この歌詞の部分は「確かになぁ」と思います。
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