勉強はできるがどこか不器用な女子高生・岩倉美津未と、個性豊かなクラスメイトたちの日常を描いたTVアニメ『スキップとローファー』。観ていると思わず心がほっこりしてしまう本作のエンディングを、温かくも芯を感じさせる歌声とともに彩っているのが、逢田梨香子が歌うEDテーマ「ハナウタとまわり道」だ。普段から何気ない日常を大切に生活しているという彼女が、今回のタイアップを通じて新しく開拓したアーティストとしての表現について、たっぷりと話を聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
――新曲の「ハナウタとまわり道」、ここに来るまでの道すがらにも聴いていたのですが、今の季節にピッタリですね(※取材は4月中旬に実施)。
逢田梨香子 そうなんですよね。桜はもう散ってしまいましたが、ジャケット画像も花びらが舞っているイラストになっていて。聴いていると、いい感じに力を抜いてリラックスできるところがこの楽曲の魅力だと思うので、学校や会社からの帰り道とかに聴いてほしいなと思います。
――この楽曲はTVアニメ『スキップとローファー』のEDテーマになりますが、逢田さん的には作品とどのように寄り添った楽曲に感じますか?
逢田 聴いているとほっこりと癒されて、「また明日も頑張ろう」という気持ちになれるところは、アニメのエンディングを彩る楽曲として、作品の色にもすごく合っているなと思います。それにこの歌詞が、主人公の(岩倉)美津未ちゃん目線で描かれているように感じていて。彼女のフィルターで日常を見ていると「こんな感じの世界なのかな?」と思うんですよね。例えば“時々しんどいけれど”といった歌詞も、いかにも学生が使いそうな口調のように感じられますし、今までの私の楽曲の中でも生活感が感じられるところは、美津未ちゃんの等身大でありつつ、きっと色んな人の日常にも寄り添ってくれると思いますし、身近に感じられる楽曲だと思います。いい意味できれいすぎないというか。
――なるほど。『スキップとローファー』は地方から東京の高校に進学してきた美津未とクラスメイトたちの日常を描いた作品ですが、作品自体の印象をもう少し詳しく聞いてもいいでしょうか。
逢田 タイアップのお話をいただいてから原作を読ませていただいたのですが、学生たちのほっこりした明るいお話というのが大前提としてありつつ、学生時代に誰もが経験するような人間関係のほろ苦い部分も描かれていて。それでも美津未ちゃんが(人間関係のあれこれを)彼女なりに噛み砕いて、自分の中に落とし込んで前向きに進んで行く姿がすごく素敵で。読んでいる人にすごく元気を与えてくれる作品だと思いました。
――それはやはり美津未のキャラクターによるところが大きい?
逢田 そうですね。とにかく美津未ちゃんが魅力的で。「彼女がこんなに頑張っているんだから、自分ももっと頑張りたいな」という気持ちにもなりますし、ただ底抜けに明るくてポジティブなわけではなくて、彼女なりに悩んだりしている姿も含めてすごく素敵だなあと思って。ちゃんと現実的な考えも持っている女の子なので。読みながら「頑張れ!」って応援したくなっちゃいますね(笑)。
――少し天然でズレているところもありますけど、そこがまた魅力的と言いますか。
逢田 そうなんですよね。だから珍しいタイプの主人公だなあと思って。友情の話もそうなんですけど、志摩(聡介)くんとの関係性も、恋愛に発展していくのかどうなのかっていう微妙な距離感があって、そこも面白いなあと思いました。自分の周りにも原作のマンガを読んでいる友達がいて、すごく人気のある作品なんだということを、アニメの放送が始まって改めて感じています。
――アニメも素晴らしい出来ですものね。
逢田 ですよね。やっぱりP.A.WORKSさんは素晴らしいなあと思いました。
――そういえば逢田さんもP.A.WORKSさんとは縁が深かったですね(笑)。あと、美津未は演じるのが難しい役柄だと思うのですが、黒沢ともよさんの演技も素晴らしいですよね。
逢田 私も美津未ちゃんはパッと見、正解がわからなくて(演じるのが)難しそうだなと思ったんですけど、ともよちゃんが演じているのを見て、「あっ!美津未ちゃんはこれだ!」って思いました。ともよちゃんが演じることで完成形を見ることができたというか。彼女にしか演じられないんじゃないかなあと思います。
――その意味では、声優としても刺激を受ける部分はありましたか?
逢田 ありますね。今作もそうですけど、ともよちゃんとは前にも共演したことがあって、その現場で結構お話をしたり、LINEのアドレス交換をして……ともよちゃんは色んな意味ですごく刺激的な存在なんですよね。初めて会った当時は、たしかまだ22歳くらいだったんですけど、そのときから「人生何周目なんだろう?」と思うくらい考え方がしっかりしていて(笑)。だから学ぶこともたくさんありましたし、この作品でまた会うことができてすごく嬉しかったです。
――逢田さんも『スキップとローファー』に声優として出演されていますが、アフレコ現場の様子はいかがだったのでしょうか。
逢田 アフレコは入れ替え制で、収録がバラバラだったりするので、ともよちゃんとも少しお話した程度で、そこまでたくさんお話することはできなかったのですが、現場は和気あいあいとしていました。そういう雰囲気が作品からも伝わってくるんじゃないかなと思っていて……逆にこの内容で現場は殺伐としていたら嫌ですよね(笑)。ともよちゃんも座長としてどっしりと構えていらっしゃって、いい雰囲気の現場だったと思います。
――ちなみに逢田さんは『スキップとローファー』をご覧になって、自分の学生時代を思い出したりはしましたか?
逢田 私ですか? いやあ、私はこんな感じではなかったかなあ(笑)。だからこそ、アニメを観ていて「学生時代、もっと楽しめばよかったなあ」とは思いますね。
――学生時代はどんな生活を送っていたのでしょうか。
逢田 もちろん友達はいたんですけど、集団生活があまり得意なほうではなかったので、「早く卒業して大人になりたい!」って思っていました。でも、今は逆に学校に通いたいなあっていう願望もあります。専門学校とか。
――それは何かを学びたい気持ちが強いんでしょうかね。
逢田 あ~、もしかしたらそうかもですね。特に予定はないんですけど(笑)。今ちょうど車の免許を取りたいなと思っているので、多分、今までやってこなかったことをやりたい欲が高まっているのかもしれないです。ラジオ番組(「逢田梨香子のRARARAdio」)でも「早く免許を取ってほしい」ってハッパをかけられています(笑)。
――「ハナウタとまわり道」は田中隼人さんが作曲・編曲、六ツ見純代さんが作詞を担当されていて。お二方とも逢田さんとはこれまでの楽曲でご縁のある方ですね。
逢田 はい。なので安心感がすごくありました。特に田中さんはデビュー曲の「ORDINARY LOVE」の頃から携わってくださっているので、絶対に良い曲を作ってくださるという確信があって。それは歌詞に関しても同じでした。
――では、楽曲を受け取ったときの印象はいかがでしたか?
逢田 作品にはとてもマッチしていてかわいらしい楽曲だと思ったのですが、逢田梨香子の楽曲としては今までになかったタイプの楽曲だったので、新鮮味が強くて、最初は「私に馴染めるかな」と思いました。でも出来上がってみると、今まで歌ってきた逢田梨香子らしさも楽曲の中にちゃんと含まれていて。ファンの皆さんもすごく気に入ってくださっているので嬉しいです。
――たしかに、今までの逢田さんの楽曲は、もう少しシリアスな雰囲気のものが多かった印象です。
逢田 私はそういう楽曲が好きなので。でも、今回はタイアップのような機会がないとなかなか出会うことのできない、自分の引き出しの中からは出てこないタイプの楽曲なので、新しい部分を引き出してくださったと思います。
――逢田さんはこれまでにも「for…」(TVアニメ『戦×恋(ヴァルラヴ)』OP主題歌)や「Dream hopper」(TVアニメ『装甲娘戦機』OPテーマ)といったタイアップ曲を歌ってこられましたが、毎回、自分のアーティスト性が拡張されていく感覚があるのでしょうか?
逢田 そうですね。それこそ「Dream hopper」を最初にいただいたときは、楽曲自体は今までに聴いたことがないような曲調ですごくいいなあと思ったんですけど、「これをちゃんと自分の曲にできるかな」という不安もあって。でも、作家さんたちのお力添えもあって、最終的にはしっかりと今までの楽曲の中に入っても馴染んでくれるものになるんです。いつも不思議だなあって思います。
――そこはやはり逢田さんの表現の力も大きいのではないでしょうか。
逢田 いやあ、まあ同じ人が歌っているので(笑)。
――そう言ってしまえばそうですけど(笑)。
逢田 でも、アルバムやEPを制作するときは、私からも「こういう楽曲を歌いたいです」というお話をさせていただくのですが、タイアップ曲のときは新しい色の楽曲に出会えるので、そういった楽しみは感じています。
――その意味では「ハナウタとまわり道」もご自身のアーティスト性を広げてくれた感覚があると思いますが、レコーディングのときはどんなイメージで歌ったのでしょうか。
逢田 これが結構悩みましたね。元気な曲ではありますけど、ハキハキと歌うのも子供っぽくなってしまって違うかなあと思って。レコーディングは田中さんに録っていただいたのですが、ちょっとJ-POPっぽい歌い方と言いますか、語尾の歌い方や節回しの付け方を意識するようにディレクションしていただきました。例えば“駐車場の地域猫”のところのメロディに少しヤマを付けるような歌い方ですとか、Dメロのフェイクみたいな歌い方もそうですね。そういった歌い方をレクチャーしてもらいながら、なるべく力を抜いて、フワッとした感じで歌いました。
――その「フワッとした感じ」というのは作品の世界観に合わせることも意識して?
逢田 そうですね。淡々と歌うのも違うなあというのがあって。それと私は歌うときに結構力んでしまうクセがあるので、今回はなるべく力を抜いて歌うように意識しました。でも逢田梨香子らしさもしっかりと出したかったので……この曲は明るくて柔らかくてすごく前向きな曲なんですけど、私はどこか寂しさや切なさを感じたりもしたんですね。そういう部分もひっくるめて前向きに進んでいく、という表現ができたらと思いながらレコーディングしました。
――たしかに明るい楽曲なんですけど、それだけではないんですよね。歌詞に“躓くその分だけ 起きるの上手になった”とありますが、そこは美津未の性格や『スキップとローファー』で描かれるリアリティにもマッチしていて。
逢田 そうですよね。楽しいことだけじゃないっていうのがちゃんとわかっていて、それでも明日は頑張ろうっていう歌詞が、すごく寄り添っていてくれるなあと思って。“時には過去(きのう)が まぶしく見えたとしても”というフレーズも、「生きていると楽しいことも大変なこともあるよねえ」という気持ちになりますし、でも最終的に明るい気持ちに持っていってくれるので、すごくいい曲だなあと思います。
――この“時には過去(きのう)が まぶしく見えたとしても”は、逢田さんが今まで歌ってきたこととも重なるように思いました。
逢田 たしかに。歌詞に関しては今までの私の楽曲の雰囲気にも寄り添ってくれていたので、そんなに無理なく向き合うことができて。新しい雰囲気がありつつも向き合いやすさはありました。
――ほかに歌詞で共感したり、自分らしさを感じた部分はありましたか?
逢田 2Aの部分は特にそう感じました。“ありふれた景色が 彩る営みに 「たいせつ」宿ってる”というのは、私も日頃からそう感じることが結構あって。何気ない日常こそが大事なものだなって思うことがあるので、素敵な歌詞だと思いました。この生活感のあるところがすごく好きで、「そうだよね、結局、最終的にそこに行きつくよね」って思うんですよね。色んな華やかな世界よりも、自分の慣れ親しんだ場所や景色が心の拠り所になるというか。
――この辺りはそれこそ「ORDINARY LOVE」で歌われていたことにも通じるなあと思いました。
逢田 あー!たしかにそうですね。作詞家さんは別の方なのですが、歌詞全体からは初期の楽曲の雰囲気を思い出したところはあるかもしれないです。ここにきて、最初の頃を思い出すような、振り出しに戻る……っていう言い方は違いますね(笑)。原点回帰みたいな印象はありました。
――ちなみに、逢田さんは何気ない日常を大切にしている一方で、普段のお仕事では非日常的な経験、華やかなステージに立つことも多いわけじゃないですか。その辺りのバランスはどのように取っているのでしょうか。
逢田 たしかにそういった活動をこれまでにたくさんさせていただいていて。でも、だからといって日常や慣れ親しんだものに対して適当になることはないですし、それと自分の普段の日常はまったく別物なので、自分の中では完全に分けていますし、「どっちも大切なもの」だと思っています。私は20歳くらいの頃から今のお仕事をさせていただいているのですが、マインド的にはその頃から全然変わっていないですし、自分の中では「変わりたくない」という気持ちがすごく大きくて。なのでそこは変わらないようにしてきましたし、実際にそんなには変わらないなあと自分でも思います。
――変わらないでいるためにも、普通の日常を大切にされているっていう。
逢田 そうですね。結局最後はそこに戻ってくるなあっていう。非日常もずっと続くと疲れちゃうじゃないですか。もちろんそういうのがいい人もいると思いますけど、私は割と落ち着いていたいタイプなので、日常に関しては。
――普段はどんな日常を送っているのですか?
逢田 ええっ!?……本当に陰の者として影のように生きています(笑)。質素に、静かに。
――そうなんですね(笑)。では、普段の生活の中で「こういう日常が大切だなあ」と感じる瞬間は?
逢田 私は都会よりも田舎の落ち着いた雰囲気のほうが好きなので、たまに都会から離れた場所に行くと、ストレス発散になりますし、いいなあって思いますね。
――そうやってリフレッシュしているわけですね。
逢田 はい。この間、すごく久しぶりに地元に帰ってお友だちと遊んだんですけど、駅に降りてしっかりと歩いたのが本当に久々だったんですよ。でも、(街並みが)変わってなくて、それだけですごく泣きそうになってしまって(笑)。そのときに「こういう時間も大切だなあ」って思いました。昔は地元に帰るのがあまり好きなほうではなかったんですけど、ちょっと大人になったのかなあと思いましたね(笑)。
――前作のEPはタイトルが『ノスタルジー』で、昔を振り返るようなテーマの楽曲がたくさん収録されていたので、もしかしたら逢田さんの中で今はそういったモードにあるのかもしれないですね。
逢田 たしかに。特に「ノスタルジックに夏めいて」という楽曲は学生時代のことを思い出しながら歌詞を書いたんですけど、あとから「実際に懐かしい場所に行けばよかったなあ」と思いましたね。でも、実際にその場所に行ってみたら変わってしまっているのも寂しいなあと思って。
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