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INTERVIEW

2022.03.18

【特別企画】ピクチャードラマ「VOISCAPE」についてエグゼクティブプロデューサー・水島精二に話を聞く――! 第1回:「VOISCAPE」誕生秘話

【特別企画】ピクチャードラマ「VOISCAPE」についてエグゼクティブプロデューサー・水島精二に話を聞く――! 第1回:「VOISCAPE」誕生秘話

ボケてツッコんで、爆走していくキャスト陣の演技

――そんな「VOISCAPE」ですが、改めて女子3人による真正面からのコント作という驚きの第1話となりましたね。

水島 よもや水島精二がこんなことを始めるとは思ってなかったでしょ?っていう部分もあるじゃん。「あの人、真面目に作品を作ってたよね?」って言われてるほうだと思うんで。でも別にこういうの、嫌いじゃないんでね。ナンセンスな感じとか。

――導入は驚きがありますが、会話劇としても実に興味深い作りですよね。

水島 意外と丁寧に作ってありますからね。“ヘッドホン推奨”って言ってるんですけど、話が進むにつれてどんどん音の演出が細かくなっていく。実はこれって、単純に僕が成長しているだけでもあるんですよ。やっぱりSE必要だよなとか、ここの音の出方をこういうふうにしたいな、とかやっていって、どんどんエンジニアを困らせてます。最初はざっくりしていたんだけど、だんだん細くなって。大量のやり取りをして「ここは違います」「そこの編集はこうです」みたいなね。最終的に「僕がちゃんとPro Toolsを使えるようになれば、みんなも幸せになるのでは?」と思ったので、最近はPro Toolsも覚えようって思っています。

――Pro Toolsを使うアニメ監督!(笑)。それも長いキャリアの中でも新鮮なお仕事ですね。

水島 新鮮ですね。アニメだとずっとコンビの音響監督がいて、そういう人に音を見てもらっているから。そこで学んできたことを、限られた予算内で自分でやるという。しかもそれで1話は結局10分を超えてるんだけど、最初は1話5分くらいの想定で始めていたんですよ。だからそういう意味では大変なことになってるんだけど、周りが止めないんですね。止めないうえに、僕も止まらなくなっちゃってるから、これはもう……頑張ってNBCさんに売っていただいて(笑)。

――そのなかで中島さん、鈴代さん、大野さんといったキャスト陣の演技もまた型破りなものになっていますね。

水島 3人の役者さんにはお芝居のうえで色々なチャレンジをしてもらうという意味で、そこのハードルも高めに設けてやっていきたいね、みたいな話を最初にしました。ちなみにキャスティング、僕の意見は反映されていないです。

――そうなんですか?

水島 オーディションでディレクションはしたんだけどね。そこは「D4DJ」と同じで、まったくノータッチ、きたものを受ける(笑)。

――でも作品の方向性が変わったというのもあって、鈴代さんと大野さんのオーディション時とはまた狙いが変わってきているわけですよね。

水島 はい。そもそもが大野さんがやってくれている希という子はもっとかわいらしい、大野さんが演じそうな役だったんですよ。でもそれがちょっと不思議な子になっていき。逆に鈴代さんが演じる栞はすごく大人しい子。逆に今の栞のほうがが鈴代さんっぽくありますよね。ただ、ご本人たち的には自分のイメージとちょっと違った役がオーディションで決まって喜んでいたみたいで、いざ収録用の台本もらったら「なんだこりゃ?」ってビックリしたみたい。その気持ちはよくわかります。

――そのギャップを埋めてからの収録となったと。

水島 中島さんは途中から入ったから「こんな感じなんだ」っていう感じでしたけどね。3人とも最初にやったときにはオーディオドラマを録っているような感じだったんだけど、“コントをやる”ことになるから、とにかく「テンポ感」が大事だとリハのときから言っていたんですよ。でも今の声優さんは、前の人のセリフを潰してまで食って入ってくる人ってなかなかいないんですよ。それでいて間を作るから、非常にちゃんとしてる。その分、コントの間になかなかならない。

――そこがまず普段の演技との違いですよね。

水島 なのでこちらも、とりあえずメリハリ考えて、良いところに引っ張り上げて、あとはこっちで編集しようと思って。コントの間はある程度こっちで作るから、被らないように、でも勢いのあるセリフとかハイテンションなお芝居をとにかく引っ張り出して。だから本人たちは収録が終わって「OKです」ってなったとき、「すごく体力消耗したけど、どうなるんだろう」と、手応えがつかめないまま帰ったって言ってました(笑)。

――水島さんの中にあるコント的な間というものに、演技から寄せていくのではなく、録り終わったものをコントにしていくというか。

水島 そうですね。演劇みたいに稽古を重ねて、って時間は無いので。だからそのときに面白いお芝居とかを使えるように、素材として間のこととかもこっちで調整できるようにはしてありますね。

――そうして仕上がったものは実にコント的ですよね。いわゆる大ボケ小ボケ、ツッコミというトリオのコント師的な構成というか。

水島 うん、そうなんですね。そういう意味では声優さんのお芝居の良いところを引っ張り出してテンポさえ作ればこんなに面白くなるぞ、こんな変なことをできるぞ、っていうのを、1つのパターンとして提示できたら面白いんじゃないかなと思った(笑)。なにより自分でキャスティングしたわけではないから、どういうお芝居を持ってくるかもわからないんですよ。だから鈴代さんなんて、こっちが面白がって持ち上げたらどんどんアクセルを踏んでいってくれて、「どこから音出した!?」みたいな「ゲコッ」って音とかも出してて。本人がNGだと思っているやつはだいたい使われているっていうね(笑)。

――栞のエキセントリックさは回を重ねるごとに破壊力を増していきますよね。同様に希のシュールなボケもそうで。

水島 希はね、大野さんには「なるべくこの2人に着いていかないでください」っていうのをずっと言っていて。だから大野さんもそこをキープしながら、クールだけどでも心の中では楽しんでいるよって話をしているんで。その微妙なラインとかを頑張ってすごく出してくれてるっていう感じですね。

――たしかに、ボケとツッコミの応酬のなかで、全然違うボケを入れてくるタイプといいますか。

水島 結局あれは、己を保ってないとできないんで。やっぱり面白くなって乗っかっていっちゃうと変わってしまうんですよ。役者さんって、基本的には乗っかっていく芝居のほうが要求されがちなんですよ。コントだとそれが、自分が保ったり役割を持つなかで面白いミスマッチ感になるかだから。それでいうと面白かったのが、みちるってすごくツッコむんだけど、必ず引きずり回される役なんですよ。それが中島さんのボーイッシュな感じとめちゃめちゃ合っていて、かつその言い回しがなんか変なんですよ。それが逆にすごいハマってて、強く否定してもらうとそういうニュアンスが出たりする。しかもそのあとそのまままた引きずられていくっていうお芝居が非常にマッチしている。この3人になって良かった、結果オーライじゃんって。

――みちるのツッコミはお話の支柱でありつつも、そこからズルズル引っ張られている感じがして、そこがまた良いですよね。

水島 大ボケが強すぎるので。ツッコまれても止まらないで、どんどんボケていくっていう。しかもボケてるつもりあるのかなみたいなキャラじゃないですか。

――あのマジの“嘆きツッコミ”的なボヤキは魅力的ですよね。

水島 “嘆きツッコミ”ってジャンルがあるんだ(笑)。

――「そんなあ~!」っていうあの嘆き感というか(笑)。

水島 否定しているんだけど、嘆きながらそのまま流されていく(笑)。

――そうした3人の演技がつくづくハマっているお話だなと思います。

水島 キャスティングの妙って誰も計算してなかったと思うんだけどね。僕も高垣くんからもらったシナリオを読んでから、実際に本人たちの声とお芝居を聞いて、「ああ、こうやれば成立するのか」みたいなのを作っていたから。だからやっぱり受け身の仕事なんですよ。使命としては面白くするということだから、この本に対して3人を素材としてどれだけ持ち上げるかというところを念頭にディレクションして、かつ上がった素材をさらに面白くするために音をつけていく。そこは、自分の理想がここにあって……っていう作り方よりは、現状を常に確認、更新しながら詰めていくみたいなやり方になっていて。この3人で良かったなとは思いますね。面白くなったから。

――そこはやはりアニメのアフレコとは違いますよね。

水島 ああ、違いますよ。だってアニメは最初に絵というわかりやすい基準がある。音声は誰か1人が突拍子もない芝居をしたら、それを受けてシナリオを成立させなきゃいけない。それが役者だけじゃできないのをこっちで手助けするわけじゃないですか。これ面白いからこれ基準でやっていこうとなるとどんどんエスカレートしていくし、落としどころも大きいオチにならなきゃいけないから、めちゃめちゃ派手にしなきゃっていうのもやりながら逆算して。音だけの楽しみはすごくある。絵があるよりは音だけのほうが色々なことができるし。

――それが台本の面白さと相まってとんでもない方向にいくという。

水島 実際に出来たものは本よりエキセントリックになっています。高垣くんにも麻草さんと僕が作っていた本も読んでもらって、「これとまったく違う感じにしてくれ」ってオーダーして。だから全然違うキャラクターにしちゃっていいし、最初に6話分発注したんだけど、この6話でそれぞれのキャラの性格が入れ替わったりとかしていても構わない。とりあえず女の子3人の突拍子もないコントを書いて、残り2本くらいにはちょっと先へ繋げられるような設定を盛り込んでほしいって言ったのが、5話の“笑い寝の世界”なんです。で、6話では色んな世界に飛んじゃう、その先は本来のストーリーに繋がっていくぞって思っていたら、「この方向でまだ続けてください」って言われるっていうね。

――そうした外部からのリアクションもあって、本来想定していなかったコントというものがどんどん高度化していっていますよね。

水島 最終的にはお客さんに楽しんでもらうということは軸としてまったくブレないんだよね。でも今まではこの作品はこういうテーマがあって、着地点がこうで、全体を通してこういうことを訴えかけたい……みたいなことを考える仕事が多かったわけですよ。でもこれは行きがかり上一緒に乗っちゃった船でいつの間にか僕が前へ出なきゃいけなくなっている空気だから、後ろを見て「僕のせいじゃないからな!」って言いながら進められる(笑)。それをずっと面白がってやってる感じはありますね。

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