シンガーからクリエイターなど、アニメにまつわる才能を幅広く求めるオーディション「Smile Group presents アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021 supported by リスアニ!」。その審査員に話を伺う連続インタビュー、第4回はアニソンのみならず、J-POPやK-POPなどで活躍を見せる作詞家、PA-NONに話を聞いた。作詞経験ゼロからデビューに至るまで、そして現在のシーンに対して思うことなど、彼女ならではの視点で見つめる作詞家という存在とは?
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作詞家は音楽業界に入りやすい?
――PA-NONさんが作詞家としてデビューされたのは2008年頃のことですが、それ以前から音楽活動はされていたのですか?
PA-NON 実はまったく……まったくの素人から入りまして。本来は音楽活動が前提にあって作詞家になられている方が多いんだなってあとから気づきました(笑)。
――たしかにバンドをされていたりやシンガーとして活動されていた方が作家になるパターンも多いですよね。
PA-NON 私の場合は作詞の養成所出身で、仲間たちはみんな会社員や色んなお仕事をされていて、作詞家は兼業という方が多かったですね。
――作詞家の養成所に通おうと思ったきっかけはなんだったんですか?
PA-NON 色んな仕事をしていくなかで、着メロの制作会社に出入りをしていたことがあったんです。そこで、ある日伺ったらオフィスが大パニックになっていたんですよ、スタッフさんたちが「まずいまずい」って。明日締切のパチスロ用の楽曲があるのに、作詞家さんにとある事情で急にキャンセルされたと。
――たしかにまずい展開ですね(笑)。
PA-NON それは絶対に提出しなくちゃいけない案件で、さらにまずいのが、クライアントさんからの指名が女性の作詞家だったんですよね。しかもその会社は着メロを作るのがメインで、こういう仕事は年に1回か2回あるかくらいで作詞家の知り合いがいらっしゃらなかったようで。そのときに私に「書いてみない?」ってお声がかかったんです。「歌好きでしょ?好きだよね!こっちのほうで修正とかやるから!とりあえず書いてみて!」って言われて。
――でも、PA-NONさんは当時作詞の経験があったわけではなかったんですよね?
PA-NON そうなんです。作詞についてなんの知識もないなか、そういう機会が突然やってきたんです。ただ、その作品の原作をたまたま知っていたので、「じゃあ明日までですね」って何もわからないままガイドメロを聴きながら作ってみました。皆さんが修正してくれるだろうと思っていたら、3日後くらいに電話をいただいて「そのまま一発OKでした」って。
――初めての作詞がリテイクなしだったと。
PA-NON そこで「もし興味があれば仕事になると思うからこれからもやってみないか」って誘っていただいて。そのときは仕事を持っていましたし、ありがたい話ですが…ってところで終わったんです。それでも、誰かが歌ってくださって曲になるっていうのはすごい経験で、驚きや喜びがあって……自分の中で宝物になっていたんですね。それから数年経ったときに、家族が脳梗塞になって、そのサポートのために外で仕事ができなくなっていったんです。それで家の中でできる仕事がないかなと思っていたときに、当時のことを思い出して、作詞だったらパソコン1つでできるかもしれないって。
――なるほど。
PA-NON 残念ながらその制作会社さんはすでに事業をたたまれていて、私もまだパソコンを持っていなかったので(笑)、インターネットカフェに行き「作詞講座」って検索をかけて、一番最初に所属することになった作詞家養成講座を受けることになりました。
――最初から仕事にすることを想定して受講されたのですね。
PA-NON 最初は3ヵ月間の講座で、そのあとにテストを受けて、それで基準に達していたら所属、コンペをもらえるっていうシステムでした。3ヵ月で結果がわかるというのは当時の私にとってはすごく良くて。結果、ありがたいことに所属させていただき、コンペもいただけるようになって、デビューが決まったのは1ヵ月後という、とてもラッキーな形でプロになることができました。
――テスト1ヵ月後にデビューということは、その1ヵ月後にNEWSの「STARDUST」を手がけられたわけですか?
PA-NON そうですそうです、当時その事務所がジャニーズ関連のコンペが多かったというのもありまして、環境含め、本当にありがたかったです。
――デビューへのきっかけやスピード感にも驚きましたが、そこも作詞家という職業ならではなところがあるかもしれませんね。
PA-NON 機材がたくさん必要なわけではなく、敷居はそんなに高くなく始められますし、作詞家は音楽業界に入りやすい職業なんじゃないかなって思います。
アニメ業界は、新たな作詞家を求めている
――ちなみ楽曲提供をされるクリエイターさんはコンペを経験されるのが常ですが、PA-NONさんもこれまで数多くのコンペを経験されてきたのですか?
PA-NON コンペの数は作家事務所さんやその方が置かれている立場によって変わってくると思います。昨日昔のマネージャーさんに連絡して確認をとったんですけど、私が作詞家になった10年ほど前は年間200くらい案件が動いていたようです。当時はたくさんのコンペに参加していました。
――200!1年のうち、2日で1曲以上のペースですね。
PA-NON J-POP、K-POP、アニメ、CMソング…色々なジャンルのものがありました。昔の話になりますが、正直なところとてもきつかったですね。余裕をなくして何を書いているのかわからなくなってしまったり。でもそこで作詞体力みたいなものがついて、大変な状況でも「なんとかなる」って思えるタフさはあの経験があったからこそ築き上げられたと感謝しています。
――昔の話と言いましたが、今のシーンについてはどう思いますか?
PA-NON 今って私のような音楽経験やツテがない新人がデビューしにくい、育ちにくい環境にあるんじゃないかなと危惧しています。というのも、あの頃と比べてコンペ数が減ってチャンスが限られている傾向があると思うんです。加えて作曲家さんが歌詞も書かれるケースが多くなった、とも。あとは納期が短い場合だったら、以前お願いしていたこの人だったら書けるだろうっていう指名でいくっていうケースが増えている気がして。周りからそういったお話をよく耳にします。
――なるほど。
PA-NON ただ、今回このオーディション企画が良いなと思ったのは、アニメ業界って今どんどん広がってきてるじゃないですか。アニメだけじゃなくてゲームもそうだし、声優さんに提供するものなど、とても需要が増えていると思うんですよね。なので、そのぶん作詞家さんの数も必要になってきているんじゃないかと。新たに始めたいという方を求めるこういったオーディションは素敵なことだと思いますね。
――たしかに現在、1つの作品から多くの楽曲を、というコンテンツはアニメやゲームと多岐に渡っています。
PA-NON 例えばアニメもゲームも、アイドルものとなったら楽曲もたくさん作るじゃないですか。なので、新たな色が必要になったときに、新しい作詞家が求められていくんじゃないかなって思います。
――そのなかで、PA-NONさんが作詞において心がけているものはなんですか?
PA-NON コンペの場合はお打ち合わせができないので、限られた情報の中で何を一番重要としている発注なのか、ここだけは漏れていけないというものを熟考して、ご依頼されている方のイメージに寄り添うことができるか、ですね。例えば楽曲やアーティストさんによって提出する文書のフォントも変えたりします。とにかく皆さんのイメージをいかに具現化するかですね。そこにフィットしないと採用はされないので。
――最初に渡す情報としての1枚の文書の中で、いかに先方のイメージと合致するか、想像が膨らむかを意識すると。
PA-NON もちろんアニメ作品でしたら事前に原作を読んで準備することは大事ですし、制作サイドだけではなくアーティストさん、そしてファンの皆さんという、キャッチする方々が納得するものを目指すべきだと思うので、色んなことを想像しながら、「このアーティストさんがこんなことを言ったらファンの方は嬉しいのかな」とか様々なところに想像力を働かせながら仕上げていくのが、喜ばれるものに繋がっていくのかなって思います。
――1枚の文書でも、受け止めるすべての人たちのことを考えながら作っていくと。
PA-NON そうですね。歌詞は、受け止める全員を繋ぐ架け橋だと思って作っています。