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INTERVIEW

2021.08.05

35年歌い続けてきた今、大変な時代だからこそ伝えたい想い――森口博子、24年ぶりのオリジナルアルバム『蒼い生命』ロングインタビュー

35年歌い続けてきた今、大変な時代だからこそ伝えたい想い――森口博子、24年ぶりのオリジナルアルバム『蒼い生命』ロングインタビュー

神前 暁との初コラボ曲と、名曲「ホイッスル」のアンサーソング

――そのほかの新曲についてもお伺いします。「陽だまりのある場所」、こちらも温かい気持ちになるバラードですが、この作曲・編曲をあの神前 暁さんが手がけられたと。

森口 そうなんです!!

――いわゆる現代アニソンのトップクリエイターと森口さんがコラボしたわけですが、そのきっかけはなんだったんですか?

森口 私がレギュラー出演している番組「Anison Days」で、以前神前さんをゲストにお招きして、神前さんの楽曲をカバーさせていただいたんですね。そのときに歌った「perfect slumbers」(TVアニメ『猫物語(黒)』OPテーマ)という楽曲が心に響いて、事前リハでも自宅での自主トレでも、歌っていると説明のつかない涙が溢れてきて。そのときから自分のなかで温めていた、神前さんに曲を書いていただきたい希望が、今回アルバムをリリースするにあたり実現することになりました。神前さんもオファーを快く引き受けてくださって。実は、その初対面の時に神前さんも曲を書きたいとおっしゃってくださっていたんです!! 驚きと幸せのコラボです。

――今回はカバーではなく、森口さんのために書かれた楽曲です。最初に聴いたときの感想は?

森口 もう号泣ですよね。美しくも切なさの極み。やっぱり(気持ちを)抑えられない。細胞レベルで好きなんだと実感しました。

――この美しいメロディが体に入っていく気持ち良さというか。

森口 気持ちいいというより震えるほうですね。何かがこみ上げてくるんですよ。そこから私が詞を書くことになったんですけど、もう想いが溢れすぎて逆に書けなくて。結局オケ録りのときにもまだ詞が出来上がらず、「もう少し時間をください」と言って、レコーディングの予定を入れ替えてもらいました。それでそのオケ録りの時に生のストリングスの音を聴いた瞬間、詞がバーっと出てきたんです。

――そこからイメージを膨らませて完成させたと。

森口 そうです。歌詞は私の故郷の福岡でのことを、100%ノンフィクションで書きました。子供の頃から家族みんなで行っていた「かしいかえん」という、地元の人に大変愛されている歴史ある遊園地があるのですが、緊急事態宣言の影響もあって今年その閉園が決まって。それがもう悲しくて悲しくて。お花がすごく綺麗な遊園地でもあったので、そのお花の前で家族が写真を撮るのも名物で、私も2歳ぐらいのときに家族で撮った写真がアルバムにあったんです。それで閉園が決まったあと、福岡に帰省したときに家族みんなで同じ場所に行って、昔と同じ立ち位置でまた写真に収めたのが、ついこの間の出来事です。

――なるほど……。

森口 そういうことも歌詞に書いて。私も東京に出てきて、厳しい世界の中で35年生かされてきました。だけどなかには社会の納得いかないルールに打ち砕かれる日もあるじゃないですか。そんな想いだとか、この閉塞的なご時世でみんなが心のよりどころにしていたお店もなくなるなかで、どうやって夢と向き合っていくべきかとか、かしいかえんへの感謝の気持ちを込めて書きました。100%リアルな気持ちなので、プリプロ(仮のレコーディング)のときに思わず号泣して歌えなくなっちゃったんですよ。でも、私が泣きながら歌っていたら、エンジニアさんもスタッフの皆さんもレコーディングを止めなかったんです。止めないでずっと曲を流していた。なんかそれにも感動しちゃって……ごめんなさい、思い出したらまた涙が出ちゃった。

――そういうときは一度曲を止めて改めて歌い直すと思いますが、あえてそのまま曲を流し続けたと。

森口 そうなんです。止めたっていいわけじゃないですか、泣いて歌えないんだから。泣いちゃったらそこで止めて、落ち着いてからまた歌うでもいいんですけど、そのときはグズグズなりながらでも、歌えていないフレーズもあって、また歌い出したりとかもあったんですけど……。そこで、一曲の間にすごく、人生を感じたというか。

――歌手として、どんな苦難があっても歌い続けなければならないというか。

森口 そう。それと「立ち止まってもいいんだよ」っていうのもあるじゃないですか。泣いて歌っていないところもあるわけだから。それでも涙を拭って歌い出してみたりして。

――それをまた聴く人が自分のことに置き換えることができる、そんな楽曲だと思います。

森口 神前さんにも「プリプロの森口さんの歌を聴いて、詞が大化けしたと思いました。ホントに歌が素晴らしくて」と言っていただけて、とても感激しました!!

――さて、続いてはアッパーな「ポジション」。これは1993年にリリースされた森口さんのヒットシングル「ホイッスル」のアンサーソングとのことですが……。

森口 元々は私が作詞作曲を途中までしている、アニバーサリーコンサートでみんなと一緒に声を出して歌えるような曲を今回のアルバムに入れるつもりだったのですが、今はコンサート会場でみんな声が出せない状況なので、それはちょっと出番を待ってもらうことにして。その代わりにどんな曲を入れるかとなったときに、ディレクターさんが「声を出せなくてもみんなが元気になれるサマーソングはどうですか?」と提案してくれて。そのときに「ホイッスル」みたいな曲と言われたので、そこで私が「なるほど、じゃあその後を描こう」と思い付いたんです。

――「ホイッスル」のその後ですか。

森口 ホイッスルは当時私の大好きなプリンセス プリンセスの岸谷 香さんの作曲で、詞は西脇 唯さんとの共作でした。93年から28年経って私たち、色んなことを経験して大人になったわけじゃないですか。だからあの頃の応援歌とはちょっと温度が違うものを感じていると思うんですよね。大人って日々揺れるもので、コンディションもモチベーションも人それぞれだし、家庭内、仕事内、恋愛とか、色々なことで揺れているけど、そのなかでも自分の居場所が絶対あると思っていて。そこにはやっぱり感謝を忘れちゃいけないし、これは譲れないという核さえブレなければいいんじゃないかっていう。そういう想いを「ホイッスル」のアンサーソングとして詞を書きました。曲は私がメロディを口ずさんで、音楽プロデューサーの時乗浩一郎さんがコードを付けた、あの頃を経て大人になった人たちに向けたエールソングになります。

――これは当時「ホイッスル」を聴いていた世代には刺さりますよね。“もう一度 思い出し行こう”というフレーズもそれを示唆するようで。

森口 そう! ほかにも“遠いあの日 追い越した夏雲”という歌詞があるんですけど、あれは「ホイッスル」のAメロに出てくる“海岸線走りながら 追い越してゆく夏雲”の“夏雲”を指していて。それとAメロに“サングラス”が出てきて、そのあとに“ガラスに映るまぶしい顔”というフレーズがあるんですけど、「ポジション」の“まぶしい”は本当に体に堪える“まぶしい”だし、ガラスに映ったそのまぶしい顔もまたブサイクなんですよ(笑)。それに対して「ホイッスル」のAメロの“ぶつかる波がまぶしい”は、気持ちがドンドン晴れていって乗り越えた自分と波がぶつかるイメージなので、“まぶしい”の意味がちょっと違うんですね。そうやって昔の曲とユニークに対比させていきながらストーリーが進んで、最終的には前を向いて自分の歌をみんなでうたっていこう、という曲になっています。

次ページ:“35人の森口博子”が歌う「水の星へ愛をこめて」、その先に続く未来

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