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INTERVIEW

2020.11.11

聴く者すべてを温かく包み込むかのような、慈愛に満ちた心に沁みる歌声――。田所あずさ「ヤサシイセカイ」インタビュー

聴く者すべてを温かく包み込むかのような、慈愛に満ちた心に沁みる歌声――。田所あずさ「ヤサシイセカイ」インタビュー

田所あずさにとって約1年ぶりとなるニュー・シングル「ヤサシイセカイ」は、激しいロックだった前作「RIVALS」とは打って変わって、オープニングを飾るTVアニメ『神達に拾われた男』と強く結びつく聴き心地のよいバラードに仕上がった。今回はその表題曲はもちろん、涙する場面もみられたMVやさらなる歌への挑戦を込めたカップリング曲への想いについて、たっぷり語ってもらった。

『神達に拾われた男』への想いを込めた楽曲制作と、MV撮影での“気づき”

――2020年は、田所さんにとっても普段とはかなり違う1年になったと思います。

田所あずさ 本当に、誰もが大変な年でしたよね。私のお仕事もアフレコの仕方をはじめ、いろいろな収録方法が少しずつ変わりましたし……でも、こうやって無事にCDをリリースさせていただけたり、アニメがちゃんと放送されたりして一安心しましたし、改めて活動できていることへのありがたみも感じています。

――お客さんを前にしたイベントやライブも、ほぼできない状況でした。

田所 ファンの方に全然直接お会いできていないので、みんなはきっと寂しがっているんだろうなぁと思うんですけれど……でも逆に、そのぶん制作のほうに集中できたという、プラスに変えられた部分もあったんですよ。ありがたいことに音楽面ではこのシングル以降の展開も考えているような状況で、その制作も並行して行なっていたんです。なので、そちらにもしっかり時間を割いて力を入れることができたので、実は今はこの先待っていることにワクワクしているところなんですよ。

――さて、ニューシングルの表題曲「ヤサシイセカイ」は『神達に拾われた男』のオープニングテーマです。まずは作品についての印象からお伺いしたいのですが。

田所 転生モノなんですけど、激しいバトルなどが中心というよりも、すごく優しくて心温まるお話で。現実にこの世界で生きている私たちにも共感できたり、勉強になるような人と人とのつながりがしっかりと描かれている作品で、とても好きになりました。

――共感されたのは、作中のどんなポイントでしたか?

田所 転生前の(竹林)竜馬さんはブラック企業に勤めていて、報われない苦しい人生を送っていました。でも転生先で記憶を持ったまま新しい人生を歩んでいくなかで、優しい人ばかりなことに驚いて……最初は心を開ききれずに人をなかなか信じられなかったけど、徐々に自分でも気づいていなかった傷が癒えていくんですよね。そういうところを観ながら、自分もじわぁっと心が温まるし。特にリョウマくんが公爵家の方々に「おかえり」と言ってもらえている姿は、自分と勝手に重ねて泣けましたね。

――そんな作品のオープニングを飾るこの曲は、どのように作られていったのでしょうか?

田所 先に声優のオーディションがあって主人公のリョウマ役に選んでいただいたあと、しばらく経ってからオープニングテーマも担当させてもらえると聞いて……すごくありがたくて、嬉しかったです。でも、主役も主題歌も担当するというのはすごく重要な役回りだし責任も感じたので、今回はコンペでの曲選びから関わらせていただきました。

――どのようなところが、選曲の決め手になったのでしょう?

田所 応募いただいた曲すべて原作を開きながら聴かせていただいたんですけど、一周目から「これしかない!」と思ったのがこの曲だったんです。全曲もう一周しても、やっぱりその気持ちは変わらなくて。いちばん作品の世界観に合っているし、優しくてきれいだけどちょっと切ない、リョウマくんの過去を感じるようなメロディだと感じたんです。

――そしてそこに、こだまさおりさんの書かれた歌詞が組み合わさって。

田所 こちらもすごくぴったりで、この作品をしっかり表す楽曲になったんじゃないかなと思っています。もちろんそれを決めるのは観てくださる方々と、原作の先生と監督さんと……だと思うんですけど。でも私は自信を持って「私がイメージする『神達に拾われた男』を、すごく表していただけたな」と言える曲になったように感じています。

――歌詞の中に、お好きな部分はありますか?

田所 いちばん好きなのは、サビの“生きているんだと こんなにわかる”というフレーズですね。こだまさんにも「報われない人生があったからこそ、人の優しさが染み入ってくる」というものを歌詞にしていただきたいとお願いさせてもらっていたんですが、まさにこの一行でそれを感じられるというか。「昔があったから、今そう思える」と感じられるフレーズだなぁと思います。

――優しさが染み渡る感覚は、田所さんの歌声からも強く感じました。歌ううえでもその点は大事にされたことだったのでしょうか?

田所 そうですね。やっぱり原作を読んでいると、リョウマくんの幸せをすごく強く願ってしまうんですよ。そういう愛情みたいな気持ちを歌声に込めて、包みこむように……リョウマくんがみんなに囲まれているキービジュアルのようなイメージで(笑)。レコーディングでいただいた「歌詞がとても素敵なので、歌声から歌詞の情景が浮かぶような歌い方をしてみて」というアドバイスも心がけつつ、歌っていきました。

――加えて、アコギや笛などのサウンドとのバランスも非常に心地よく感じました。

田所 サビですごくぶわぁっと素敵に広がっていく曲なんですけど、あまりにも強くバン!と出しすぎると、優しさがなくなってしまうと思うんです。ただ、だからといって弱すぎても広がっていく感じが出ないので、ちゃんと“響かせる”という意味でテクニックのすごく必要な楽曲だと感じています。なので、優しくてふわぁーとリラックスして聴けるバラードではあるんですけど、いざ歌うとなると大変でした(笑)。

――その一方でMVでは涙されていたりと、楽曲の印象からは少し意外に感じる部分もあったように思います。

田所 今回はまず私がいろいろなMVを観たうえで、三石直和監督という方に撮っていただきたいとお願いしました。打合せなどもしたうえで臨んだんですが、撮影当日、監督からの御要望で二人きりでお話しさせていただくことになりまして。

――どんなお話をされたんですか?

田所 楽曲を作った過程や歌に込めた想いについて聞かれたので、私は「作品を第一に考えて、『リョウマくんが報われていくような曲にしたい』という想いを込めました」とお話ししたんです。そうしたら「このMV自体はあなたを撮りに来たから、あなたのパーソナルを見せてほしい」と監督がおっしゃいまして。「なるほど!」って思ったんですよ。

――あらたな気づきがあった。

田所 そうなんです。そこで初めて作品への目線を外して田所あずさとしてこの曲に触れたら、この曲を大好きな気持ちはまったく変わらないんですけど、なんだか苦しくてつらく感じられたんです。だから、撮影中に涙が出てきてしまって……最初は「ヤバい!」と思って顔をそむけたんですよ。だけど監督は、「無理に笑わなくていい」と言ってくださって。そのとき「この曲は人を癒やすようなものにしたいと思いながら作っていたけど、聴く人によっていろんな見え方がしてもいいよなぁ」と、すごくストンと自分の中に落ちたような気がしました。

クリエイターとのやり取りを通じて、“遊べた”カップリング2曲

――カップリング曲も2曲制作されましたが、まず草野華余子さんが作詞作曲を手がけられた「New-me」は、比較的内省的な曲のように感じました。

田所 華余子さんとこういった形でガッツリご一緒するのは初めてでしたし、「ずっと田所あずさの曲を書きたい」と言ってくださっていたとお聞きして、すごく嬉しくて……しかも最初の打合せのときから「こういう曲を歌ってほしい」という案も持ってきてくださったんです。

――かなりアツい想いを持っていらして……。

田所 そうなんです。ありがたいことに。逆に私からも今聴いている曲などのお話をさせていただいたうえで、一度持ち帰っていただいたんですけど……3曲もデモを送ってくださったんですよ。その中で特に「歌いたい!」と思った曲が、この「New-me」でした。すごくリズムが印象的でしたし、華余子さんならではの女性的でしなやかに音が動くメロディで。でも地に足のついたかっこよさもしっかりあるところに、すごく魅力を感じたんです。

――歌詞の内容についても、御要望は出されたのでしょうか?

田所 はい。お電話やメールでのやり取りも綿密にしました。ただ華余子さん自身もシンガーソングライターなので、私の話を聴いたうえで自分と重ね合わせて、文字に落とし込んでくださったようで。なので私一人の曲というよりも、華余子さんとのブレンドのようなイメージの曲だと感じています。

――レコーディングにも、華余子さんがいらっしゃって?

田所 はい。気持ちの部分はわりと任せてくださったんですけど、技術面では華余子さんがいろいろとサポートしてくださって。たとえば「ここはこういうふうに発音すると、リズムがよく聴こえてくるよ」とか、初めて聞くようなことを教えていただいて、とても勉強になりました。

――音域的にはそこまで高い部分はあまりありませんが、サビの高音部分のファルセットなどからは非常に歌声のきれいさを感じました。

田所 歌の技術を上げていきたいという想いがあったので、元々「裏声とかも積極的に使っていくような曲を歌いたいです」というお願いをしていたんですよ。実際この曲はしっかりと裏声の効いてくる楽曲だと思いますし、そのぶん切り替えの難しい部分もあるので、そこは計算して結構詰めて歌いました。でもやっぱり曲自体がすごくいいので、すごく自然に、曲に気持ちを持っていってもらったところもあったように感じています。

――そしてもう1曲のカップリング曲、「Visual Vampire」ですが。

田所 こちらの曲は、堀江晶太さんに作編曲していただきました。今までの堀江さんとの曲は、すごくストレートでエモーショナルな曲が多かったんですけど、今回はカップリングなので「せっかくなら堀江さんと遊びたいな」と思って(笑)。なので、結構クセのある楽曲になりました。

――サウンド面で、最初に何かリクエストはされたんですか?

田所 いや、堀江さんと自由に話しながらやりたいという気持ちがあったので、この曲も今気になっている曲を参考に聴いていただいたり、逆に堀江さんからも「こういうのも合うんじゃない?」という曲を出していただいて。そのとき参考として挙がった曲は全部洋楽だったんですけど、リズムの面白さは残しつつ日本人が歌って馴染むように、堀江さんにまとめていただきました。

――歌詞は前作のカップリング「スペクトラム ブルー」に続いて、大木貢祐さんが手がけられていますね。

田所 はい。「堀江さんと大木さんのタッグもみてみたいな」という個人的な気持ちもありつつ(笑)、楽曲が自由で少し飄々とした感じのするものなので、だからこそ歌詞ではスパイシーなことを言っている……というバランスが、とっても素敵なんです。「Visual Vampire」というのは「主役を食っちゃうぐらい、悪目立ちする」という意味で。アーティストを名乗って何かを表現するなら悪目立ちするぐらいの覚悟でいかなきゃいけないし、「あなたは、本当にそれでいいんですか?」と問いかけるような、毒もちょっとある素敵な歌詞にしていただきました。カップリングにはもったいないような、すごく面白い曲になったと思っています。

――そんなこの曲、歌ううえではどんなところに力を入れられたのでしょう?

田所 今までの歌い上げるようなアプローチとは違って、楽器の一つとしての歌に取り組みました。それに堀江さんがちょっと加工を入れたりして、活かしてくださって……なのでこの曲もめっちゃ難しかったんですけど(笑)、歌ってみてあらたな道が開けたような気もしました。

――どんな部分に難しさを感じましたか?

田所 リズムが身体に入らないとどうしてもうまくキマらない、集中力のめちゃくちゃ必要な曲なんです。でもこれができるようになるべきだし、なりたいと思ったので、徹底的に「ここはこう!」と全部歌い方を作って臨んでいきました。

――ほかの曲でも試みられていたファルセットの使い方やDメロで繰り返し出てくる“Muleでいないでよ”のフレーズなどでの力の抜き具合など、田所さんの歌い方のバリエーションがたくさん詰まっていますよね。

田所 ありがとうございます。その「Mule」という言葉はスラングで“運び屋”という意味を持っているので、そのフレーズには「ただの、遺伝子を運ぶだけの入れ物でいないでよね」というメッセージが込められているんです。そこを逆にMuleっぽくといいますか、アンドロイドっぽく歌って、それをカッコの中のフレーズで人間として否定するようにしていたりして……あまり説明しすぎるのは野暮かと思うんですが、他にも歌詞と歌い方をリンクさせている部分がたくさんあるので、ぜひ皆さんにもそれぞれ解釈していただけたら嬉しいです。

――さて、この秋はシングルのリリース以外にも、昔からやりたいとおっしゃられていた少年役の担当や、声優を志されるきっかけになった『犬夜叉』の世界観を継ぐ作品『半妖の夜叉姫』に出演されたりと、様々な夢や目標を叶えられました。アーティストとしてもあらたな試みの詰まったシングルがリリースになった今、今後声優として、アーティストとして、目指していきたいものはそれぞれなんですか?

田所 アーティスト活動については、この先に待っているものが私として今まででいちばん覚悟を持って取り組んでいることで……自分でも、いちばん“表現している”と感じることなんですよ。そういうことも通じて、やっぱり“アーティスト”と名乗るにふさわしい人間であり歌手でいる……ということを、これからも貫いていきたいです。

――それは歌だけではなく、声優としても。

田所 そうですね。一つひとつのことをより考えて、誠実に作品とキャラクターと向き合っていきたいです。しかも、満足することなく。そういう気持ちはこの先もずっと、表現者としていちばん大事にしていたいですね。

INTERVIEW & TEXT BY 須永兼次


●リリース情報
田所あずさニューシングル
「ヤサシイセカイ」
11月11日発売

【アーティスト盤】

価格:¥1,300
品番:LACM-24048

【アニメ盤】

価格:¥1,200
品番:LACM-24049

<CD>
01.ヤサシイセカイ
作詞:こだまさおり 作曲・編曲:h-wonder
02.New-me
作詞・作曲:草野華余子 編曲:草野華余子・岸田(岸田教団&THE明星ロケッツ)
03.Visual Vampire
作詞:大木貢祐 作曲・編曲:堀江晶太
※アニメ盤未収録

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