TVアニメ『彼氏彼女の事情』Blu-ray BOXリリース記念 劇伴音楽担当・鷺巣詩郎インタビュー

庵野秀明監督が『新世紀エヴァンゲリオン』のヒット後初めて手掛けたTVアニメ作品として1998~99年にかけて放送された『彼氏彼女の事情』。この作品は、「エヴァには立ち返らない」と宣言していた当時の庵野監督が、実写映画『ラブ&ポップ』などとともにまた別の表現方法を追求する中で生まれたものとして知られている。今回は、本作のBlu-ray BOXの発売を記念して、『カレカノ』『ふしぎの海のナディア』、そして『エヴァ』を筆頭に、数々の庵野作品で音楽を担当してきた鷺巣詩郎氏に、『エヴァ』や『彼氏彼女の事情』、そして近年の『シン・ゴジラ』にまで通じる庵野作品の魅力について聞いた。

――TVアニメ『彼氏彼女の事情』は1998年から1999年にかけて放送された作品です。まずはその放送開始直前、1997~98年頃の状況について思い返していただけますか?

鷺巣詩郎 1995年から1996年まで続いた『新世紀エヴァンゲリオン』のTV放送後、97年頃というと旧劇場版(『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』)が公開されましたが、私たちは当事者だったこともあり、庵野監督にとっても、鷺巣にとっても、当時は「『エヴァ』の余韻」としか言いようのない時代だったと思います。その旧劇場版の楽曲「甘き死よ、来たれ」や「THANATOS -IF I CAN’T BE YOURS-」で、当時はまだアニメと縁遠いとされていた洋楽的な要素との折り合いをつけられたこともあって、97年7月にはオーケストラを迎えた『エヴァンゲリオン交響楽』を行ないました。そのCDが12月に発売され、時を同じくしてボーカル曲を集めた『EVANGELION-VOX』がリリースされ――。この作品は洋楽的な要素とアニメーションを繋ぐという意味でも、ダメ押しの作品になったと感じました。そして、『彼氏彼女の事情』がはじまる98年には、『エヴァンゲリオンVOX』の楽曲をロンドンからミュージシャンを招いて演奏する『エヴァナイト』を、渋谷のOn Airやクアトロで行ないました。また、僕が初期からかかわっていたMISIAのデビュー直後だったので、彼女と一緒に『R&Bナイト』も行ないました。ロンドンレコーディングでも同じミュージシャンが彼女のバックを務めたりしてましたから。

――そうしたミュージシャンの流入が、J-POP/R&B的な場所とアニメ音楽との間で起こっていた、と。そうした中で、『彼氏彼女の事情』は少女漫画原作の作品とあって、鷺巣さんが手掛けられた劇伴も、一転して日常の雰囲気を盛り込んだ可愛らしい曲が多く用意されていたと思います。作品として、『エヴァ』から引き継いだものはあったと思われますか?

鷺巣 庵野監督が『カレカノ』で果たした功績の中で、『エヴァ』から引き継いでいるものがあるとしたら、それは「学園ドラマの日常をえげつなく深くした」ということだと思います。たとえば『巨人の星』や『アタックNo.1』もある意味では学園ドラマですが、実は教室のシーンはあまり描かれていないですよね。けれども『エヴァ』で、それまでクローズアップされなかった教室での日常の深みを表現して「実はそこに本質がある」「それこそが深いんだ」ということを浮き彫りにしました。日常の中に潜む狂気のようなものを、大胆に反映していたんだと思います。そして『カレカノ』でも、その雰囲気だけは引き継がれていると感じます。しかも庵野監督の場合は、それを様々な要素がひとつになった「音響表現」として表現しているんですね。これは監督の非常に稀有な特徴だと思っているのですが、たとえば、『エヴァ』の「特務機関NERV」での戦闘シーンの表現は、人間のるつぼではなく、あれは「音響のるつぼ」なんですよ。あの場所を通して、台詞と音楽と効果音といった様々な要素が一緒くたになっている。そういう意味でも、庵野秀明という人は映像作家であり、同時にすぐれた音響作家でもあると思います。

――台詞と音楽、アニメーション、マンガ表現のようなものが混然一体となった『カレカノ』の最終話の展開も、まさにその魅力を象徴する瞬間のひとつのように感じます。

鷺巣 そうですね。庵野監督の場合、声優陣の起用の仕方も、声を演じるということではなくて、むしろ「その場の音響を作る」という意味で選んでいる。「このキャラにはこの声」という発想ではなくて、「この声とこの声とこの声が集まったときに、この人はどう立つか」という音響設計がなされているんです。これは日本語では、非常に難しい表現です。たとえば『シン・ゴジラ』でも、たくさんの人が同時に喋ったときに、そのひとつひとつが非常に意味を持って伝わってきますが、日本語は英語やフランス語と違い、その言葉が否定か肯定かということが文末に宿る言語です。ですから、日本人は基本的に「誰かが話しているときは、それを聞く」文化がありますし、多くの会話が飛び交って文末に他の人の言葉が重なる表現は、とても難しい。けれども、庵野監督はそれを日本語で実現していて、なおかつ、台詞だけではなく音楽、効果音も含めた「音響」として成立させています。これはすごいことだと思うんです。『カレカノ』の最終回も、そんな監督だからこそのものかもしれません。

――鷺巣さんご自身は、『彼氏彼女の事情』はどんな魅力がある作品だと感じていますか?

鷺巣 日本には「観れば観るほどいい/聴けば聴くほどいい」という、いわゆる「スルメ的」と言われる表現がありますが、『カレカノ』は20年を経て改めて観たときに、その「スルメ的」なものとしての継続性が、いい意味で少ない作品だと思うんです。けれども、青春の一里塚じゃないですが、ふとした時に振り返ると、ものすごく心に沁みる。いつでも触れて楽しむようなものではなく、ふとしたときになぜか深く心に刺さるような、そんな作品だと思います。

Interview & Text By 杉山 仁


●リリース情報
彼氏彼女の事情 Blu-rayBOX 【期間限定版】
3月27日発売

品番:KIXA-90850~90854
価格:¥14,000+税

Blu-ray全5枚組
※平松禎史描き下ろしイラスト使用外箱

<収録内容>
【Vol. 1】
ACT 1.0/ACT 2.0/ACT 3.0/ACT 4.0/ACT 5.0/ACT 5.5/ACT 6.0
【Vol. 2】
ACT 7.0/ACT 8.0/ACT 0.5/ACT 9.0/ACT 10.0/ACT 11.0/ACT 11.5/ACT 12.0
【Vol. 3】
ACT 13.0/ACT 14.0/ACT 14.3/ACT 14.6/ACT 15.0/ACT 16.0/ACT 17.0/ACT 18.0
【Vol. 4】
ACT 19.0/ACT 20.0/ACT 21.0/ACT 22.0/ACT 23.0/ACT 24.0/ACT 24.25/ACT 24.50/ACT 24.75
映像特典
・『彼氏彼女の事情 Blu-ray BOX』 PR映像(庵野秀明監督による新作映像)
・『彼氏彼女の事情 Blu-ray BOX』 TVスポット(庵野秀明監督による新作映像)
【Vol. 5】
ACT 25.0/ACT 26.0
映像特典
・犬
・TVスポット集
・ノンテロップOP
・TV放映版映像集
ACT14.0/ACT14.3/ACT14.6/ACT14.6 ACT15.0 エンディング/ACT18.0 一部抜粋/ACT19.0 エンディング
・ARフィルムV
ACT5.0/ACT5.5/ACT16.0/ACT19.0/ACT24.0/ACT25.0

封入特典
・100Pブックレット
庵野秀明(監督)、平松禎史(キャラクターデザイナー)、今石洋之(アニメーター)、鷺巣詩郎(音楽)、松倉友二(制作プロデューサー)、佐藤裕紀(制作プロデューサー)によるインタビュー
庵野監督によるMライン資料、使っていた台本表紙やオーディション資料、初期構成、OPコンテなど大量掲載。平松禎史による初期ラフ絵柄、また原画、作画監督修正集なども収録
・生フィルムコマ
当時に撮影されたアニメ本編フィルムそのものから一部の「コマ」を切り出したもので、資料用に保管された様々なカットからランダム封入

※映像、音声の一部において、修復困難な退色や傷、あるいは音声ノイズ等が発生する箇所がございますが、本商品に収録した素材の状態に起因するものです。

●作品情報
TVアニメ『彼氏彼女の事情』

【スタッフ】
原作:津田雅美(白泉社「月刊LaLa」掲載)
監督:庵野秀明
アニメーションキャラクターデザイン:平松禎史
美術監督:佐藤 勝
美術設定:平澤晃弘、服部由美子
色彩設定:高星晴美
特効:阿部 郷、水津友宏
撮影監督:黒澤 豊
編集:三木幸子
音響監督:庵野秀明
音響プロデューサー:中野 徹
音響制作:HALF H・P STUDIO
音楽:鷺巣詩郎

【キャスト】
宮沢雪野:榎本温子
有馬総一郎:鈴木千尋
井沢真秀:野田順子
浅葉秀明:私市 淳
芝姫つばさ:新谷真弓
宮沢洋之:草尾 毅
宮沢みやこ:小山裕香
宮沢月野:渡辺由紀
宮沢花野:山本麻里安

©津田雅美・白泉社/GAINAX・彼2団・テレビ東京・テレビ東京メディアネット

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