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2018.05.31

観客の目の前で楽曲をレコーディング!緒方恵美『EARLY OGATA BEST』録音イベント “real/recording・dummy/live”レポート

観客の目の前で楽曲をレコーディング!緒方恵美『EARLY OGATA BEST』録音イベント “real/recording・dummy/live”レポート

4月3日、東京・恵比寿の天窓.switchにて、緒方恵美の録音イベント”real/recording・dummy/live”が開催された。当日は最新アルバム『EARLY OGATA BEST』に収録される楽曲を生楽器の演奏とともにその場でレコーディング。緒方のレコーディングを間近で見ることができる貴重なイベントとなった。

『EARLY OGATA BEST』は、5月30日にリリースされた全曲新録のベスト・アルバム。デビュー・ミニアルバム『HALF MOON』から『666-rock.Lock.ROCK!-』までの楽曲の中から、緒方自身が選んだ全16曲を最新のサウンドでセルフカバーしている。2017年2月のオリジナル・アルバム『real/dummy』、10月のアニソン・カバーアルバム『アニメグ。25th』に続いてリリースされる今作は、彼女の音楽活動をあらたな視点で総括するといった趣もあり、様々な記念企画が催されてきた声優生活25周年を締めくくるにふさわしい作品といえよう。

『EARLY OGATA BEST』のDisc-2にはアコースティック演奏によるカバー・バージョンを5曲収録。今回の録音イベント”real/recording・dummy/live”では、これらの楽曲が観客の眼の前で「公開レコーディング」されるのだが、このイベントはほかの録音イベントに比べると大きく異なる点がある。それはイベントの様子をありのまま録音する「ライブ盤」のようなスタイルではなく、1曲ずつ最良のテイクが録れるまで録音をやり直すという、スタジオでのレコーディング方法をそのままライブハウスに持ち込んでいるところだ。さらに楽器演奏とボーカルとの「一発録り」による同時録音のため、演奏のミスや歌い間違いがあればやり直し。また非常に高感度なマイクで録音するため、観客の咳や物音も厳禁ということもあり、ステージだけでなく客席にも緊張感が漂うイベントとなった。

ステージは左からピアノ&ウッドベース、パーカッション、アコースティックギター、いちばん右端にはボーカルという変わった構成になっている。このようにボーカルが通常のライブと異なる位置にあるのは、緒方がステージ全体を見渡せて、メンバーと視線を交わせる位置にマイクがセッティングされているからだ。一発録りはプレイヤーとボーカリストとの阿吽の呼吸が不可欠。そのためステージの見栄えより、演奏や録音の精度が優先される。今回のイベントは「ライブ」ではなく、あくまで「レコーディング」なのだ。レコーディングは192kHz/32bitのハイレゾで録音。落ち着いた雰囲気をもつ会場の客席中央には、『real/dummy』で使用されたダミーヘッドマイクが設置され、ライブハウスの空気感も収める立体的なバイノーラル録音も併せて行われた。

開演前にはランティスの音楽プロデューサー・佐藤純之介氏が登壇し、イベントの趣旨と諸注意を説明する。佐藤氏はボーカルの臨場感やリアリティを追求するために、『real/dummy』ではダミーヘッドマイクによるバイノーラル録音を導入。高品質のハイレゾで録音したこれら楽曲の配信を積極的に進めている。このように「音」には並々ならぬこだわりをもつ人物だ。緒方恵美の歌声の魅力を最高の形で届けるために創意工夫してきた佐藤プロデューサーだが、何よりも音楽に対する緒方の真摯な態度に心を打たれ、その姿をリスナーに直に伝えるために、また「素晴らしい音楽が生まれる瞬間の感動を一緒に味わいたい」という想いでこのイベントを企画したと語る。レコーディングは佐藤氏がディレクションを務め、合間には氏による説明を交えながらイベントは進められていく。

佐藤氏のアナウンスに導かれ、ステージにレコーディング・メンバーが続々と現れる。ピアノ&ウッドベース:manzo、パーカッション:内田 稔、アコースティックギター:目木とーる&菊池達也marble)といった緒方のライブやアルバムではおなじみのミュージシャンに続いて緒方恵美が登場。それぞれの準備が整ったところで、出音や音の返しのチェックも兼ねて、まずワンコーラスをリハーサルとして演奏。この時点で早速、演奏と歌声の美しさに魅せられてしまう。そして、本格的にレコーディングが始まった。

佐藤氏の指示により、ミックス・エンジニアが録音を開始。会場に緊張が走る。1曲目はアルバム『666-rock.Lock.ROCK!-』(2008)に収録されている「awarding ceremony」。だが、始まった直後に演奏がストップ。パーカッションの内田から演奏開始のタイミングを告げる、“1・2・3・4”のカウントについて意見が上がる。「ライブではなくレコーディングなので、カウントは最後までしなくてもよいのでは?」と。たしかに最後のカウントとともに演奏が始まるので、内田の“4”の声が録音されるおそれがある。「じゃあ、声を出すのは“1・2”ぐらいまででいいんじゃないかな」とmanzoが答える。そして、再び始まった演奏ではカウント後半の内田の動きに合わせて、manzoがピアノを弾き始めた。こういったプロのミュージシャンによる録音現場のリアルな雰囲気を感じられるのはこのイベントならではだろう。緩やかな生楽器の演奏にのせて、緒方の伸びやかな歌声が会場に響き渡る。

「はい、OKでーす!」佐藤氏の声で録音が止まる。「一発目から素晴らしい出来栄えだったと思います」と感想を述べる佐藤氏。「最初のほう、みんなちょっと緊張しながら演奏してたでしょ?」とツッコミを入れる緒方。「あ、バレてる!」と緊張が解けたメンバーから笑い声がこぼれる。このテイク1を「保険」として、続いてテイク2をレコーディング。ところが、終わった途端にmanzoが絶叫。後半の演奏でミスしてしまったようだ。緒方も演奏のテンションが最後に進むにつれやや下がっていることを感じ、後半のパートから録り直しすることに。あらたに録音したパートが前の録音ときちんと繋がったかどうかを確認して、「awarding ceremony」のレコーディングは終わった。

続いて「believe me」(2006年のアルバム『ヨアケノジカン。』収録)のレコーディングへと進む。こちらも最初にワンコーラスのリハーサル演奏を入れて、レコーディングをスタート。ところが全体的に思うような仕上がりになかなかならない。緒方自身も普段とは違うレコーディング環境や、録音した楽曲を通して聴き返すことのできない状況に戸惑っている様子だ。ここで佐藤氏から休憩の提案が入り、10分後、別の曲からレコーディングを再開することになる。

3曲目はピアノとボーカルの叙情的なバラード「Dear, My Angel」(1996年のアルバム『多重人格 multipheno』収録)。自身の声や演奏を確認するモニター環境で悩んでいた緒方だが、テイク2を録ったあと、慣れてきたヘッドホンの環境にてもう1回チャレンジしたいと要望。「20秒だけ時間をください」。ピアノのmanzoが真剣な面持ちで立ち上がり、舞台袖に向かい歩き始める。一発録りはこちらの想像以上に演奏者の集中力を必要とするようだ。「あらたな気持ちに生まれ変わりました」と再び姿を見せたmanzoの顔に曇りはない。改めての演奏は、「よりエモーショナルな感じで弾けました」とmanzoが語るとおり会心の出来栄えで、緒方のボーカルも繊細なニュアンスがよりいっそう感じられるものだった。こうして「Dear, My Angel」のレコーディングは無事終了した。

やり遂げた雄叫びの声を上げてピアノをあとにするmanzoに代わり、ステージに現れたのはギタリストの目木とーる。アコースティックギターとボーカルによる「約束するよ」(2006年のアルバム『ヨアケノジカン。』収録)のレコーディングが始まる。この曲は最後のサビで半音上がる部分があるのだが、この転調をサポートする「カポ」(ギターのネックに取り付ける演奏補助器具)をスムーズに移動できるかが、曲の仕上がりを左右する。目木が観客にローラーの付いたカポの説明をしたのち、レコーディングがスタート。緒方はシンプルなサウンドの中に情感豊かな歌声をしみじみと聴かせる。目木も難しい転調を見事にこなし、その顔に笑みが浮かぶ。

目木「さっき、manzoさんとふたりで録ってたとき、どんな感じか観ようかと思ったんだけど、ちょっと中に入れなかったなあ」
緒方「ステージの緊張感のせいで?」
目木「いや、こういう雰囲気のときって、やっちゃいけないことをなぜかやりたくなるんだよ。非常ベルとか押したくなっちゃうんだよね」
緒方「絶対にやめて!!」

会場が爆笑に包まれる。気心の知れたメンバーとのライブMCのようなトークを交えつつ、録音はテイク3で終了。

10分ほどの休憩を挟み、最後の曲「タイム・リープ」(1998年のアルバム『MO[em:ou]』収録)のレコーディングが始まる。こちらはウッドベース、パーカッション、アコースティックギター、ボーカルの編成。しかしテイクを重ねるも、3時間近く歌い続けてきた喉の疲れが表れ始め、高域が続くサビの繊細さをキープすることができず、やむなく録音を断念。この曲のレコーディングは後日、スタジオに持ち越されることに。そこでステージ上でスマホを片手にメンバーやスタッフとスケジュールの確認を始める緒方たち。各々が大声で日程の確認を取り合う姿はレコーディング現場の風景そのもの。まさに「リアル・レコーディング」だ。ピアノとアコギの即興演奏をバックにスケジュールの調整が進められた。

最後に緒方から2曲目の「believe me」をもう一度、レコーディングしたいとのリクエスト。演奏に向けてメンバーが楽器やマイクを調整している最中に、佐藤プロデューサーから突然、「じゃあ、ここでメンバー紹介をしたいと思います!」と、さながらライブのアンコールのようなMCが飛び出す。この絶妙なタイミングにステージだけでなく会場全体が、「えー!?」と笑いとともにどよめく。この盛り上がりを受けたせいか、「believe me」は前の録音よりも歌声がますますエネルギッシュに、一体感がさらに増した演奏となった。そして、3時間を超えた”real/recording・dummy/live”は終わりを迎えた。

一発録りのレコーディングを観客の前で披露するという意欲的な試みを敢行したこの録音イベント。演奏や歌唱の素晴らしさはもちろんのこと、どんな状況でも決して妥協しない、緒方のひたむきな姿勢に深い感動を覚えるものだった。またメンバーへの気遣いや観客への配慮といった彼女の思いやりに触れることもできた。今回イベントに参加することが叶わなかった人たちも、CDやハイレゾ音源にてステージや会場の雰囲気をぜひ追体験してほしい。

Text By 水上 渉


●リリース情報
セルフカバー・ベスト・アルバム
『EARLY OGATA BEST』
5月30日発売

品番:LACA-9629-9630
価格:¥3,600+税

<Disc – 1>
1.silver rain -piano ver.-
2.can’t go back my mission -metal ver.-
3.ジェラシーの痕跡
4.カミング・アウト
5.青い宝石の君
6.-RA・SE・N-
7.鏡の国のアリス
8.”sunrise, sunset”
9.Byo-Doでいきましょう’18
10.hit man
11.ENDLESS LOVE

<Disc – 2>
1.”Dear, My Angel”
2.タイム・リープ
3.believe me
4.約束するよ
5.awarding ceremony

e-onkyo music / groovers / music.jp / mora / レコチョクなど、各音楽配信サイトにてハイレゾ音源も配信中。

●ライブ情報
“緒方恵美 Birthday Live 2018”
#ファーストオガタ
6月6日(水) SHIBUYA CLUB QUATTRO
開場 18:15 / 開演 19:00
オールスタンディング 5,500円(税込)

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